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 7月24日 俺様 失業した(2.3k)

 【食材流通組合】と東ヴァルハラ貨物駅の雑用係を兼務していたけど、エヴァ嬢の村の復旧工事のために無断欠勤をしてしまい、東ヴァルハラ貨物駅をクビになってしまった俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 クビになった主な原因は無断欠勤じゃなくて警備強化のための人員整理らしい。

 日雇いで働いていたけど人一倍仕事量が多かったということで、特別に【退職金】も頂いた。


 ソンライン組合長の【食材流通組合】は今のところ収益が無いので給料は無い。

 だから実質【失業】だ。


 資金は残っているから当面の家賃や食費は大丈夫だけど、早く再就職したいから久しぶりにバイク屋のおっちゃんの所に来た。


「おっちゃん。俺、東ヴァルハラ貨物駅クビになっちゃったんだけど、いい仕事無いかなぁ」

「ヨー坊か。久しぶりだなぁ。仕事探しなら【職業安定所】行ったらどうだ?」


「俺あんまり目立ちたくないんだ。だから今回もやめておいた方がいい仕事についておっちゃんのアドバイスが欲しいんだ」

「そうだなぁ、いまヨー坊が避けたほうがいい仕事かぁ。駅周辺が物騒になってきてるから、今は駅とか、食品の運搬とかは避けたほうがいいかもなぁ」

「駅と食品が物騒なのか?」


「あー、この前の火災事件で、エスタンシア帝国から輸入した【標準小麦粉】が全焼しただろう」

「そうだな。俺も消火がんばったけど、結局全部燃えちゃったな」

「あの時から変な噂が流れて、駅周辺に怪しい団体が集まりだしたから軍が警備を強化してるんだ」

「変な噂?」


「エスタンシア帝国は食糧難で、【標準小麦粉】製造の口実でユグドラシル王国から小麦を盗ろうとしているとか」

「たしか【紙の砲弾】にそんなようなこと書いてあったな。でもあれは笑うためのでたらめだと思ってたけど」


「あの事件以来、小麦粉の価格が高騰して皆生活が苦しくなってるからなぁ、そういう時って変なデマが広がりやすいんだよ」

「確かに小麦粉高くなったな。事件前の6倍ぐらいになっちゃって、もう買う気になれないから俺達最近【昆虫食】ばっかり食べてるよ」

「ヨー坊、アレ食べてるのか!」


「おっちゃん食べないのか? 安いけど結構美味いぞ」

「うーん、安いのは知ってたけど、どうにも食べる気になれなくてなぁ」

「でも、小麦粉の値上がり続いてるから、アレ食べないとそのうち飢えるんじゃないかな」

「そうだなー。ヨー坊が食べて美味いって言うなら、思い切って食べてみようかな」


 駅周辺と、食品運搬は避ける。

 おっちゃんのアドバイスを聞いた俺は、ついでにバイクを引き取って【職業安定所】に向かった。

 バイクは担がずに、ちゃんと乗って行った。

 

…………


 倉庫火災事件の関係者ということで、【職業安定所】で仕事の紹介を断られてしまったので、やむなく【食品流通組合】に帰ってきた。


「ただいまー」

「……おかえりヨライセン……」


 ダイニングでソンライン組合長がぐったりしていた。

 いつも元気、たまにぶっ飛びな組合長なのに珍しい。


「どうしたんです組合長?」

「疲れた……。話の通じない連中の相手がこんなに疲れるとは思わんかった」


「何してたんですか?」

「東ヴァルハラ貨物駅の入口近くにえらく大勢の市民団体が集まってたから、【食品流通組合】に協賛してもらおうと話しかけたんだよ」


「それって、怪しい団体じゃないんですか?」

 おっちゃんが駅周辺に怪しい団体が集まってるとか言ってた。


「あぁ、怪しい通り越してとんでもねぇ連中だった。国産小麦の流通の話をしたんだけど、いきなり取り囲まれて、火災事件の時の話を根掘り葉掘り聞かれた」

「うわぁ。なんかとんでもないですね」


「命懸けで持ち出した小麦袋の中身が小麦粉じゃなかった話をしたら大騒ぎしだして、なんか周辺から仲間が集まってきて、もう収拾つかなくなったから逃げてきた」

「えっ。あの袋の事を話したらまずかったんじゃ」


 あの事件の時、ソンライン組合長が燃える倉庫から運び出した小麦袋。

 中身が小麦以外の何かの粉だったけど、その件は取り調べの時に、絶対口外するなと固く口止めされた。

 理由は教えてくれなかったけど、俺は誰にも喋ってない。


「まずかったかなぁ。でもすごい剣幕で取り囲まれて恐かったし」

「どうでしょうか。ちなみにその人達何なんですか?」


「目指している所は私と同じで、国産小麦粉を自由に買えるようにしたいらしいんだが、何と言うかとにかく過激で、列車から小麦を強奪したいとか言い出して、ちょっとついていけない」

「組合長も強奪とか言ってませんでした?」


「確かに言ったことあったけど、反省してる。私はあんな風になりたくない」


 無茶苦茶しようとしている人達を実際に見て反省したんだ。

 自分の言動がどう見られているか客観視するのは大事だな。

 俺も気を付けよう。


「そんな人たちに固く口止めされてること話しちゃって、大丈夫でしょうか?」

「まぁ、大丈夫だろう。そろそろ夕食の準備をするか」


 コンコン


 玄関ドアからノックの音。

 来客なんて珍しい。


「どちらさまですかー?」


「ユグドラシル王国軍の者だ。ソンラインは居るか?」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 全然大丈夫じゃなかった。


…………


 俺とソンライン組合長は二人揃って軍の施設に連行されてしまった。

 ソンライン組合長は【機密漏洩】の容疑で数人の軍人と共に【取調室】に。

 

 俺は何の容疑も無かったので釈放されたが、求職中であることを告げたら軍の【伝令使】の仕事を紹介された。


 バイクで秘密の手紙を運ぶ仕事らしい。

 駅にも食品にも該当しないから、俺はこの仕事をがんばることにした。

●オマケ解説●

 仲間が欲しいと思っていても、危ない人達には近づかないのが一番です。

 本当にヤバい人の姿を見ると、ああはなるまいと自分の言動も引き締まる(笑)


 緊張が高まっている状況下では、僅かな【機密漏洩】が破局的な事態を招くこともあり、まさに口は災いの元。


 そして、タナボタ的に職を得たビッグマッチョ青年。

 身長195cmの巨漢が、スーパーカブ的なスクーターで秘密の手紙を運びます(笑)。

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― 新着の感想 ―
この前の小麦火災に小麦変色現象、そして、エンスタンシアがユグドラシルから小麦を奪おうとしている点。 なるほど!点が線になりますね!! 誰かが小麦を奪って、他のものを入れて燃やしちゃったんでしょうか。。…
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