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 5月14日 俺様 組み立てた(2.2k)

 魔力熱源の基礎理論を確立した【錬金術研究会】にて、入荷した部品を使って小型実証プラントを組み立てる俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 ロクリッジ技師長がトラックに荷物を乗せて帰ってきたのが3日前。木箱梱包された荷物の中身は、新開発の【魔力蒸気発生試験機】の部品一式。

 魔力熱源素子による蒸気発生装置の縮小プラントだ。


 大家さんに許可をもらって、【魔力蒸気発生試験機】を実験室内に組み立てている。

 俺の身長ぐらいある縦長の筒状の装置で、下から水を入れて上から蒸気が出てくるそうだ。


「缶体が組み上がったから、次は【魔力熱源素子】を装填するよー」

「おおっ。ついに新開発の部品が出るのか」


 ロクリッジ技師長は楽しそうだ。俺も楽しい。


「使う素子は3種類あるんだー。装填前に説明しておくよー。極秘情報を公開だよー」


 そう言いながら、ロクリッジ技師長は箱から部品を取り出した。

 手のひらサイズの金属の円柱が2種類と、十字断面の棒状の部品。


 フロギストンから熱を作り出す【魔力熱源素子】は俺も使っているから知っているけど、これを発熱させるにはフロギストンの【流れ】が必要。

 魔法を使う以外にフロギストンの流れを作る方法は俺も知らなかったので、すごく気になる。


「一つ目は、コレ。ヨライセンのパイプにも入れた【魔力熱源素子】。フロギストンの【流れ】に反応して発熱する。素材は特殊な金属なんだけど、純度を上げることで出力も上がってる」


 ロクリッジ技師長が持っている金属光沢のある円柱。

 まぁ、俺も使っているからコレは分かる。


「二つ目はこっち。フロギストンの【流れ】を起こすために試行錯誤の結果作り出した【フロギストン吸蔵合金】。3種類の金属の合金を単結晶の形で吊り上げることで、吸蔵量を試作品の300倍まで引き上げることができたよ」


 ロクリッジ技師長が持ち替えた黒光りする円柱。

 確かにそこからフロギストンの揺らぎのようなものを感じる。


「その吸蔵したフロギストンで発熱させるのか?」

「違うよー。吸蔵したフロギストンは使わないんだ。吸蔵したことにより発生するフロギストンの揺らぎを【魔力熱源素子】に浴びせることで発熱させるんだ」


「なるほど。じゃぁ、その二つの材料をくっつけると発熱するんだな」

「そういうこと。だけどそれだけじゃ火加減の調整ができないから、材料がもう1個あるんだ」


 そう言って、ロクリッジ技師長は十字断面の棒を持ち上げた。


「これは、【フロギストン遮蔽材料】で作った棒。【制御棒】って呼んでるけど、これを【魔力熱源素子】と【フロギストン吸蔵合金】の間に入れることで、火加減の調整ができる」

「そうか。すごくよくできてるな。もしかしてこの縦長の装置を沢山束ねて使うのか?」


「そうだよ、ヨライセンよくわかるね。この一式を【チャンネル管】と呼んで、これをびっしり束ねて発電所のタービンを回せるぐらいの蒸気量を確保するんだ」


 本で読んだ発電所の仕組みから予測してみたけど、当たっていたみたいだ。技術って面白い。

 完成形がイメージできるとやる気も出てくる。組み立てがんばるか。


…………


 昼休みになり、ソンライン副会長の待つ食堂で昼食を頂く。

 ラッシュ会長は泊りがけで出資者巡りをしているようで帰ってきていない。


 食後の休憩時間に、俺は気になる本について二人に聞いてみることにした。


「【紙の砲弾】っていう本があるけど、アレは一体何なんでしょうか」


 エヴァ嬢の村で獣脚男達が笑い転げていたしていた変な本。街に帰ってから俺も本屋で買ってみた。

 不定期刊行の雑誌らしくて、置いている本屋が少ない変な本。


「あー。ヨライセン変な物見つけたねー。アレはダメだよ。持ってると変な人と思われる【トンデモ本】だよ」

 言動がたまにぶっ飛んでるロクリッジ技師長はあの本を酷評するようだ。


「まぁ、確かに【トンデモ本】ではあるけど、たまにそれらしいことも書いてあるな。でも、内容が嘘か本当か分からないから、まぁ、アレは笑うために読む本と考えたほうがいい」

 ソンライン副会長もあんまり良い印象無いんだな。

 でも、笑うために読む本ではあるんだ。そう割り切れば面白い本だしな。


…………


 午後からは組み上がった【魔力蒸気発生試験機】の運転試験を行った。

 給水は俺の水魔法で生成。発生した蒸気は窓の外にパイプを伸ばして捨てる。燃料無しで大量の蒸気を発生できるすごい装置だ。


 装置の中でフロギストンが波打ちながら熱に変わっているのを感じる。魔法が使える体質だからか、近くに居ると眩暈めまいがするので、俺はちょっと離れた場所から水を送る。


 ロクリッジ技師長は制御棒を操作しながら温度や熱出力を測定している。この縮小プラントで安全に制御できる技術を確立して、段階的に大型化させていくらしい。


 実験結果と、そこから導き出される結論。そして大型化に向けての必要なプロセスと課題点についてロクリッジ技師長は報告書をまとめていく。


 報告書の下書きを見せてもらったら、俺にも分かるぐらい簡潔丁寧にまとまっていた。


「あれだけ大量の実験結果をこんなに分かりやすくまとめられるなんて、技師長すごいじゃないか」


「物分かりの悪い会長にも分かるように書かなきゃいけないからね」


 技師長。その言い方はひどいと思うぞ。

●オマケ解説●

 燃焼反応に寄らない熱源。燃料の要らないエネルギー源。夢がありますね。

 でも、【魔力熱源素子】と【フロギストン吸蔵合金】の組み合わせによる魔法アイテム。この構成どこかで聞いたことがあるような……。


 そして、分かりやすい報告書を作成できるのは技術者の必須スキル。

 駆け出しの頃には上司の厳しい添削で心が折れそうにもなるけれど、いつの日かその上司に感謝する日が来るものさ。

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