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 5月 4日 俺様 滑り込んだ(2.3k)

 【錬金術研究会】の仕事に見通しが立ったことで、給料も出て時間とお金に余裕ができた毎日をウキウキ楽しんでいる俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 今日はエヴァ嬢との約束のため、仕事を休んで彼女の村に来た。

 村の入口まで来たら、彼女の住んでいる【神社】まで一気に走る。


 ドドドドドドドド


 エヴァ嬢に捕まる前に建屋内に入ってしまえば俺の勝ちだ!

 ナニをドウしてるか知らないが、【屋外】だけは勘弁だ!


 ドドドドド ズザー


「ごめんくださーい」

「はーい」


 全速力で駆け込み、【神社】の扉手前でスライディングストップ。そこから流れるような動作で着衣を整えて常識的に挨拶。

 俺は常識人なのだ。


「待ってたよ。早速だけどベッドに横になってくれるかな」

「本当に早速だな」


 【神社】から出てきたエヴァ嬢に部屋の奥に案内されて、2カ月前にスプラッターにされたベットに再度横になる俺。

 釈然としない思いを感じていたら、エヴァ嬢が横になった俺の胸元に手を当てる。

 そして脳内に騒音が響く。


 ザァァァァァァァァァ…………


…………


 目が覚めたらベッドの上。やっぱり身体がだるい。

 隣にはぐったりしたエヴァ嬢が仰向けで転がっている。


 得意のスルースキルで思考を整理して、現状把握。

 外は明るいからそんなに時間は経っていない。


「エヴァ嬢? 俺、集会所に行ってもいいかな」

「……いいよ。皆アナタが来るの楽しみにしてる……」


 ぐったりしていたエヴァ嬢は一言残してそのまま寝てしまった。

 疲れたのか? そんなに疲れるのか?

 いや、スルーだ俺。


…………


 お土産の【ヴァルハラせんべい】を持って集会所に来たら、やたら散らかった部屋の真ん中で獣脚男6人がテーブルを囲んで騒いでいた。


「ごめんくださーい」


「あっ! ヨー坊! 来たのか!」

「待ってたぞヨー坊!」

「ヨー坊! せんべいあるのか。ヴァルハラせんべいか!」


「せんべいどうぞ」


「やったー!」


 大喜びするハイテンションな獣脚男達。

 見てると俺まで楽しくなる。ここはいい場所だ。でも、今日は一体何で盛り上がっているんだろう。あと、部屋の中がやたら散らかっているのも気になる。


「先月より何か物が増えてますが、何があったんですか?」


「俺達、発電所で働いた」

「ヨー坊の言った通り、たくさんお金貰えた」


 本当に行ったんだ。そして発電できたんだ。


「発電所の人、石油が節約できるって喜んだ」

「でも長時間続けると疲れるから、交代でがんばった」


 確かに疲れると思う。俺だって水魔法を長時間続けると疲れる。


「発電所って止められないから、交代でも大変じゃないかな。どうやったんだ?」


「みんなでいろいろ考えた。いろいろ試した。燃やす石油を減らして、その分を魔法の火で補う形に落ち着いた」

「発電所の人は石油無しで動かしたいって言うから方法考えたけど、それすると3人組を4組ぐらいで交代しないと難しい」


 そうだろうなぁ。夜勤とかも必要になるから、魔法だけで発電所を動かすのは難しいだろうなぁ。


「魔法じゃなくて、道具でそう言うことできる物欲しいって発電所の人が言ってた」


 それは俺達の仕事だ。ちゃんと需要あったんだ。なんか嬉しい。


「そういう物ありますよ。東ヴァルハラ市の【錬金術研究会】でそういう物を作ろうとしてます。俺もそこで働いてるんです」


「ヨー坊すごい!」

「発電所の人に教える。きっと喜ぶ」


 発電所の人がそれを知ったら、ラッシュ会長の資金繰りもしやすくなるかもしれない。そしたらさらに研究が進む。

 楽しみだ。


「貰ったお金で面白そうなものたくさん買った」


 それで部屋が散らかってるのか。

 新品のタイヤとか、毛布とか、ロープとか、気に入ったものを片っ端から買った感じ。

 そして、彼等の囲んでいるテーブルには本が積んである。


「この本おもしろい。古本屋の店長が貴重で面白い本だって紹介してくれた」

「創作物か何かかな。俺も読んでいいですか?」

「いいぞ。皆で読もう」


 俺も一緒になってテーブルを囲む。

 本のタイトルが見えた。


 【紙の砲弾】


「なんだこれ。砲弾? 武器の本か? 物騒だなぁ。どこが面白んですか?」

「わけがわからないところがオモシロイ」


 なんじゃそりゃ。


「読むぞ。読むぞー」


 本を持った獣脚男がページを開く。

 皆でそのページをのぞき込む。


「【今年もエスタンシア帝国の小麦は不作。収穫は絶望的】だってよ!」


 ギャハハハハハハハハハ


 笑い転げる獣脚男達。

 どこが笑いのツボなのか良く分からない。


 シャキーン スタッ


 一通り笑った後で、またテーブルに集まり別の獣脚男がページをめくる。

 読み手は交代制なんだ。


「えーと、次はー。【お姫様の耳はキツネ耳】だってさ!」


 ギャハハハハハハハハハハハハ


 また笑い転げる獣脚男達。


 確かにこれはちょっと面白い。

 獣脚の獣人が居るぐらいだから、キツネ耳のお姫様が居たっておかしくないな。一度会ってみたいものだ。

 尻尾もあったりして。


…………


 ハイテンションな獣脚男達は、本の見出しだけ読んで笑い転げるということを繰り返し続けた。俺も一緒になって笑った。

 結局本文は読まなかったけど、俺にもあの本が何なのか分かった。


 アレは【デタラメ本】だ。


 デタラメを笑うための本なんだな。

 ここの獣脚男達みたいに、そういうのがツボな人たちが居るんだな。


 皆で集会所で騒いでいたら夕方になったので、神社に寄ってエヴァ嬢と次の予定を決めて俺は帰った。


 次は6月4日。今度はエヴァ嬢ともゆっくり話がしたいな。

●オマケ解説●

 この村に獣脚男は沢山居ます。集会所に集まっているのはごく一部。

 結構自由に過ごしていて、山の中でドングリ拾ったり、川で魚を獲って食べたりしています。そして、今は発電所で働くために十数人ぐらい町に出ていたり。


 そして、作中の【紙の砲弾】という本の元ネタは【紙の爆弾】。あれがデタラメ本かどうかは読み手次第です(笑)。

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― 新着の感想 ―
獣脚男たちの笑いのツボが分からなさすぎて逆に面白いです。(笑) 魔法での発電も大変そうですね。 3交代制やろうとすると、だいたい人のやりくりでリーダーが苦労しますよね。この日は休み取りたいとか、急に休…
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