4月15日 俺様 成功した(1.6k)
【錬金術研究会】で、魔術師として実験支援の仕事をしつつ、東ヴァルハラ貨物駅で洗車係として働く俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
聞くところによると、魔法が使えるのは純血の原住民と混血だけらしいので、俺が混血であることはバレていると思う。
だけど、怪力体質がバレるとドン引きされるから、シーオークとの混血であることは黙ってる。
誰にも聞かれないし。
今日も朝からヴァルハラ貨物駅で貨車を洗う。
ロクリッジ技師長が作ってくれた【魔力熱源素子】内蔵の金属パイプはすごく役立つアイテムだ。
最初はぬるま湯しか噴射できなかったけど、水魔法の発現方法の工夫で蒸気噴射もできるようになった。
熱出力を上げると制御が難しくて、過熱蒸気を噴射してしまい貨車の塗装を吹き飛ばしたこともあるけど、今は上達して狙いの温度で噴射できるようになった。
「おーい、ヨライセン。貨車終わったら、補修作業所の方に来てくれ!」
「はーい。今終わるからすぐ行きまーす」
今日の分の最後の穀物貨車を洗う。
東ヴァルハラ貨物駅は、国境線であるヴァルハラ川の唯一の橋であるヴァルハラ大橋の近くにあり、ユグドラシル王国とエスタンシア帝国の間の物流拠点になっている。
だから、貨物ターミナルはすごく広い。
その広い貨物ターミナルと操車場に多数の穀物貨車がある。今ある貨車は全部俺が洗ったけど、明日以降もさらに貨車が到着するそうだ。
仕事があるのはいいことだ。明日も頑張るぞ。
洗い終わったので補修作業所に行ったら、錆だらけの貨車が3両。
「ヨライセン。この前蒸気噴射で塗装剥がしてただろ。それと同じ要領でこの貨車の錆と塗装を剥がしてくれ」
「えっ? 塗装剥がすんですか?」
この前塗装を剥がしてしまった時には怒られたから、つい確認してしまう。
「そうだ。錆で劣化した塗装を剥がして再塗装する。まぁ、下地処理ってやつだ」
俺に出来る仕事が増えた。
…………
午前中に駅での仕事を終えて、【錬金術研究会】に帰る。
昼食までちょっと時間があるので研究室に行ったら、ロクリッジ技師長がデスクの前で変な踊りをしていた。
あんまりな光景に、つい脱力。
「……技師長?」
「のあっ!」 ピョイーン
俺が声をかけたら、技師長が飛びあがった。
「ヨライセンか! いい所に来てくれた。ちょっとコレを見てくれ!」
すぐ立ち直った技師長が実験デスクの上を示している。
近づいて示された先を見ると、デスクの上に置いてある鍋の中でお湯が静かに沸騰していた。
「これは、もしかして、熱源開発に成功したのか?」
「そうだよ! ついに【魔術士】なしで【火魔法】を発現させることに成功したんだ!」
「スゴイじゃないか技師長!」
「これもヨライセンのおかげだよー!」
研究室内で喜ぶ俺達。
いつの間にか、部屋の入口にソンライン副会長が来ていた。
「副会長! ついにやりましたよ! 魔力熱源の実証に成功です!」
大喜びで成果を報告するロクリッジ技師長。
だけど、彼を見るソンライン副会長の目線は冷たい。
「……誰が、その鍋を使っていいと言った」
ロクリッジ技師長! まさか副会長の調理器具を無断で持ち出したのか?
その後、俺と技師長で誠心誠意謝った。
研究班の連帯責任ということで、昼食のおかずを半分にされた。
昼食時にラッシュ会長に成果を報告したら大喜びした。
食事中にガッツポーズを取った会長がテーブルから皿を落として割ってしまい、ソンライン副会長に怒られた。
午後からは、技師長はその発熱現象の熱出力の測定や発熱条件を探るための実験。
俺は、技師長が調理場に侵入しないように監視。
ラッシュ会長は、出資者への成果報告のための資料作成。
ソンライン副会長は、夕食時に祝賀会をするための食材の確保。
街での生活は毎日が楽しい。
そのうち給料も出るといいな。
バイクの整備代も払いたいし。
●オマケ解説●
なんかこう、実験とか工作とかしていると、調理器具を転用したくなることってあるよね。
でも、管理者に無断で持ち出すと、後で大変な事になるから気を付けよう。
既婚者の方は、特にね。




