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スキンシップ禁止令





衣替えの素晴らしさについて小一時間ほど語りたい。

単純に印象が変わる。春から夏にかけて薄着になるのももちろん素晴らしい。ブレザーから明るい色のシャツ一枚になる事で爽やかさが際立ち、何よりそれまで隠れていた腕がお目見えするのだ。これが眺めずにいられようか!女子は特にスカートまで短くなる子がいるよね。たまらんよね。


しかし、何も薄着になるだけが衣替えの魅力ではない。夏から秋に掛けての衣替えももちろん魅力的だ。特に、ベストやセーター、カーディガンで過ごすあの頃が一番好きだ。大きめのカーディガンをざっくり着てると可愛いよね。セーターの袖から指先しか出てない女の子とかたまらんよね。ベストを着たときのシャツやパンツ、スカートとのバランスって黄金比率!


「という訳でそろそろベストとか着ませんか、斎様」

「暑いから嫌」


未だ寝ぼけ眼で朝の身支度をする斎様を急かす為にお部屋にお邪魔した際、ついでとばかりにクローゼットから黒のベストを取り出してお勧めしたが、あっさりと断られた。最近半そでから長袖のシャツには移行したのだが、確かにベストを着るにはまだまだ暑い。くっ……九月になってもいつまでも真夏のようにギラギラと輝く太陽が憎い。ええ、心から!

やはり、冬服の間は夏服が恋しくなり、夏服の間は冬服が恋しくなるものである。


「紫緒だって着てない癖に」

「だって暑いですからね!」

「なら、人にも勧めるな」


もっともなツッコミを頂いたので、仕方ないともうしばらく根気よく待つ事にする。何より、斎様はどちらかと言うと暑さに弱いのでさすがに無理強いするつもりはない。真夏の斎様は冬場に比べ、五倍ぐらい体調と機嫌が悪いのである。それを通り越すと無の境地に陥るので、夏場は特に細心の注意を払って接する事をお勧めする。


斎様のご実家では常に快適な温度で保たれている事も原因の一つかな、と思う。広大な和風建築で、その見た目通りほとんどが和室なのだが、いつ伺ってもひんやりと心地いい。冷房ももちろん効いているのだろうが、おそらくそれ以外にも何か特殊な工夫がされているのだろう。我々庶民には想像もつかないような設備で。


母に厳しく管理されている我が家とは大違いである。宮下家の人間が暑さにくらい堪えられなくてどうするのです、というのが母の意見である。そう口にする母は実際にどのような場面でも汗一つ掻かないので、母は実はサイボーグなのではないかと疑っている。

実家を思い出すついでに、お盆に帰った際の母が私と斎様に向ける、してやったり顔を思い出し、ぶるりと震えていると斎様の身支度も整った。


「よし、ネクタイも曲がってませんね。では、私ももう一度だけ鏡を見て来るので、先に玄関に向かっていて下さい」

「大丈夫」


その場を離れようとした私の腕を掴み、斎様が引き止める。


「可愛い可愛い」


そして、少しだけ微笑んで、驚くくらい優しい手つきで私の頭を撫でた。

斎様は時々ひどくずるい。こんな風に優しくされると、自惚れてしまう。こんな風に大事にされると、それだけで幸せになってしまう。


「に、二回言うとこう、重みが……」

「ああうん、はいはい」

「一気に適当な感じです!」


悔し紛れに捻くれて返そうとしたが、斎様にはちっとも効いた様子がない。顔が熱くなる。ついでに脳の活動も熱気で緩慢になり、どうすれば良いのか分からなくなって色んなものを誤魔化す為に斎様に抱き付いてみた。斎様の細腰に腕を回してやるのである。ぐへへ。骨格はしっかりしているのに、余分なものが付いていない腰、たまらん。


と、思っていたらべりっと剥がされた。その勢いのままに両頬を結構な力で掴まれる。え、ちょ、これ割と真剣に普通にかなり痛いのですが!


「………っだから、そういう事をするなって言ってるのに…」

「そううう事って、どうひゅう事でふか!?」

「紫緒が馬鹿で非常に迷惑してるって事」


ぎりぎりぎり。そう言っている間にも頬を掴む力は勢いよく増していく。

先日、押し倒すのを止める、と宣言されてから斎様の反応が厳しい。以前までなら、突然抱き付いてもちょっと嬉しそうに微笑んで抱きしめてくれたのに。………まあ、お付き合いを始めてからはその後に押し倒される危険と隣合わせとなったが。


しかし、あの宣言以来、確かに押し倒される事はなくなった。それでも、斎様は変わらずお優しいし、いつだって私の事を気遣ってくれる。馬鹿だなって言いながら微笑んでくれる。ただし、私の方からじゃれ付けば、このように手酷い扱いをされるのだ。


最近ようやく手を繋ぐ事に抵抗のなくなった私の手を、変わらず躊躇いなく握ってくれる。しかし、その代わりに抱きつく事やちゅーさえ、一切してくれなくなったのだ。私からする事も許してくれない。これじゃあ、私は一体どこで斎様成分を補給すれば良いのか!

押し倒される心配はなくなったものの、ままならない現状に私は居心地の悪さを感じていた。









読んで頂きありがとうございます。

お兄ちゃんは基本的にいつも先に出勤しているので、二人が登校する時間に家にはいません。

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