Orbit -戦いの軌道- (完)
作者さま:SF製造機
キーワード:ハードSF 軌道 宇宙船 シリアス 戦争
あらすじ
月の運動エネルギー弾で家族を殺された地球の少年は、復讐のため宇宙軍に入った。同期との軌道兵器の訓練を終えて正式配備。そして、いよいよ本格的な月面制圧作戦が始まる。
感想
設定と物理学の計算が丁寧に行われている本格ハードSF中編。特に惑星周辺での軌道航行をメインテーマにしているのが個性的。
~~~
「じゃあ、減速かけるよ」
クイケンは驚いた。
「敵は前方だぞ」
「この距離だと、減速をかけて軌道を変えなきゃ前に進めないんだ。まあ、口で説明するより見た方が早いよ。えーと、まず反転させてっと」
ルイスは操縦桿を傾け、船を百八十度回転させた。軌道の進行方向に噴射口が向くと回転を止め、熱核ロケットを始動する。
船は徐々にその速度を失い始めた。船に働いていた遠心力が減り、重力とのバランスが崩れる。船は重力に引かれて軌道を下げていった。
仮想スクリーン上で近地点と周期を確認した後、ルイスは噴射を止めた。
「近地点が予定より少し下になったけど、高度二百キロは確保してるし大丈夫でしょ。三時間ほどで射程圏何に入るはずだから、今のうちに計算で確認しといて」
光点との距離は徐々に縮まっていった。真円だった軌道は今や元の軌道に一点で内接する楕円に変化していた。
その動きを見て、クイケンは船の挙動とルイスの意図を理解した。
「ああそうか、なるほど」
重力に引かれて落下する間に、機体は位置エネルギーを運動エネルギーに変え、元よりスピードを得ていた。
~~~
宇宙空間での戦闘と言っても作品によっていろいろとあるわけですが、この作品では「星の軌道上をグルグル回っている」のが基本的な状況。複雑かつ地味! ハードSFだからこその設定ですよねぇ(笑)
読んでみるとしみじみ感じますが、めちゃめちゃ不自由。お互いに追いかけ合うドッグファイト! 空中宙返り! エンジン全開にして急接近! ……なんてのはすべて不可能。
しかし、だからこそのリアリティがあります。じわじわと時を待ち、好機が来た一瞬で成否が決まる。良い緊張感。
また基本的に慣性で動いているため進行方向とは無関係に機体を回転させることが可能。弱点を隠す、レーダーに映らないようにする。ここら辺の描写が実に細かく説得力があり見事です。読んでると「なるほどなぁ~」ってなりますね。
文章は全体的に淡白な雰囲気だけど、ユーモアのセンスもあり。
~~~
「機密のためネット接続不可はまだ分かる。しかし、だったら軍のデータベース内にアダルト・データも入れておいてほしいよな。資格や教養本じゃなく」
「各国の税金で、アダルト動画や画像を収集するわけには行かないでしょ」
「いやいや、大事なことだよ、これは」
くだらない話をしていると、部屋のドアがノックされた。
ルイスが返事をすると、ドアが開き、いつになく真剣な顔をしたスズキが入ってきた。
「少し、用があるんだがいいかな」
ルイスは頷いた。スズキは相変わらず真面目な顔で言った。
「アダルト・データをコピーさせてほしいんだが」
ルイスは全身の力が抜けていくのを感じた。
「そういう話題を真面目な顔でするのはやめてもらえませんか?」
スズキは答えた。
「何を言ってるんだ。大事なことだよ。これは」
~~~
いやまぁ、男にとって長旅のお供としては重要ですけど(笑)
やや読みにくい文章に、キャラ描写は非常に薄味。万人向けとは言えませんが作者さまのSF愛・科学愛を感じる作品。
状態:完結
文字数:56,601文字
作品URL
小説家になろう https://book1.adouzi.eu.org/n1275cc/




