死者、インゴルヌカにて (完)
作者さま:富士普楽
キーワード:死者 生者 人間ドラマ SF
あらすじ
死体に新たな魂が宿ってしまう「ゾンビ」と、科学技術によって発明された動く屍「ワイト」。そして死者たちの暮らす街「インゴルヌカ」。世界観が異彩を放つネクロ・パンク!
はたして少女は死んでしまった父親に再会できるのか? 事件の真相とは?
感想
とにかく世界観が珍しくインパクトがある。「死体にまったく別の人格が宿ってしまう」というゾンビの設定はすごい。
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――〝ゾンビ(偽生者)〟。
死んだはずの人間が、記憶も肉体もそのままに、「人格だけ異なるゾンビ」としてよみがえるようになって早百年。迫害され、時に虐殺され、逃れに逃れてたどり着いたのがこの地だ。インゴルヌカは初め、ゾンビたちの保護と研究のために生まれた。
魂というものがあるとするならば、対となる体を持たず、故人の使い古しを押し付けられた霊的弱者。彼らは多少の「変異」を別にすれば、常人とまったく変わらない。生きて、自我や記憶を持ち、子孫ももうけられ、老いもする。
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すべての人間は親から生まれるはず。しかし、ゾンビはいきなり他人の死体に宿ってしまう。親も兄弟もいない。魂としての天涯孤独。
初めは周囲も「あの人が蘇った!」と喜んでくれるが、徐々に別人だと理解し、化け物だと迫害し始める。
「ピアノと少年の場合」という話の描写は、想像するとつらすぎてやばい……
ゾンビの設定はなんとも悲哀があり、すばらしい発想です。
また、死者の町インゴルヌカの描写もとても良く作品世界に引き込まれていきます。
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市のメインストリートでは、多くの霊柩車が行き交っている。屋根に輝く神殿を乗せた宮型があれば、リムジン仕様やロールスロイスの高級型、胴体が棺桶と一体化したバイクや三輪型、クラシックカーもあれば派手なペイントのスーパーカーもあり、はては馬車型やドラッグレーサーまで。
そして……異邦人ならば気づくだろう、この街に染み付いたマカル・インセンスの匂いに。屍肉の生臭さ、血の鉄臭さ、薬物の芳香。それらが熱さ冷たさの交わり切らない、生煮えの心地で絡みあう、生と死を有耶無耶にするその香りに。
だが、死者の都という肩書きに反して、道行く人々は魚のように活発だ。淀んで腐った水槽から、美しい大海原に解き放たれた魚が、わき目もふらずに自由と生命をまっしぐらに生きている。
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脳内にイメージが浮かびます。他の人も言ってますが、映画にしても良い雰囲気でしょうねぇ。
ストーリーも中々に本格的な人間ドラマ。凄惨な事件、明らかになる過去の秘密、家族の絆……ずっしり重い。登場人物たちは過去と死にどう向き合っていくのか?
個性的な設定が光る、良質なSF作品です。
状態:完結
文字数:233,747文字
個人的高評価
◇ アイディアが良い!
作品URL
小説家になろう http://book1.adouzi.eu.org/n5383df/
カクヨム https://kakuyomu.jp/works/4852201425154988041




