就職氷河期のララバイ (完)
作者さま:塩見義弘
キーワード:ブラック企業 格差社会 日本 人間のクズ
あらすじ
就職氷河期世代の主人公は、生きるために仕方なくブラック企業で働いていた。そこで出会うクズな上司たち。さらに再会した中学校の同級生も酷い人間になっており……現代日本の格差社会で生きる人々の歪みと苦労。
感想
作者さまの実体験も混ざっているとのことで、非常に現実的。いわゆる私小説? 出てくるのも「キャラ」じゃなくて「人間」。性格のひどさがリアルすぎて読んでてつらい。
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「任せたからな! 俺は忙しいんだ!」
そう怒鳴るように言うと、店長は机の上に置いた自筆のメモを見ながら、ガラケーでポチポチと長文を打ち続けた。
五十代と思われる店長は救いようのない女好きで、暇さえあれば出会い系サイトを利用している。
好みの女性を検索し、ちゃんと返事がくるように事前に長文をメモに書いて、それを見ながらポチポチとガラケーのボタンを押し続けるのだ。
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仕事中に出会い系サイト! これはなかなか……しかし、実際に似たような話は普通にあるから困る。他にもワンマン経営すぎる社長、ヤンキー上がりで短気な店長などブラック企業の内情がありありと伝わってきます。
そしてプレイべートで再開した同級生のクズっぷりも相当。
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「育ててやった恩もあるからな。早めに仕送りしてもらわないと」
「はあ? 仕送り?」
「子供たちが中学卒業と同時に就職して仕送りすれば、俺は五十前で働かなくてすむようになる。人生左団扇だな。あははっ、ビールお替り」
なるほど、それはいいアイデア……のわけないが、軽部だけは会心の人生設計だと思っているようだ。
正直なところ、私は軽部が同じ人間には見えなかった。
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高校にすら行かせる気もなく、むしろ子供から金を吸い上げるつもりとは。すまさじいクズっぷり。でも、ここまでじゃなくてもダメ親っているんですよねぇ。
しかし、この同級生を糾弾するだけでなく
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私は軽部が愚かだと思うが、その軽部の愚かさの中に本人以外の責任が微塵でもないとは思えず、それに私とてそこまで立派な人間ではない。
いつなにかが狂って、軽部のようになるかもしれないのだ。
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このように自己責任論だけじゃない広い視点を持っている。ここが本作の魅力でしょう。主人公の分析がいつも的確。それぞれのクズ人間に対する怒りというより、歪みを発生させている現代日本社会そのものに疑問を持ち絶望している。むしろ闇が深くなってますが……
みんなその人なりに良い人生を送ろうとしてるんですよねぇ。でも、上手くいかない。しみじみと悲しい。
進行はかなり淡々としているけど、それがかえって凄み・諦め・悲哀を増していて迫力があります。
強いリアリティのある描写に、冷静で読みやすい文章と納得の意見。胸を打たれる現代ドラマです。
状態:完結
文字数:98,542文字
作品URL
小説家になろう https://book1.adouzi.eu.org/n0197ez/




