サムヒア・ノーヒア (完)
作者さま:ちょろんぞ/小野崎まち
キーワード:絵 生きにくさ 人生 書籍化作品
あらすじ
天より並外れた絵を描く才能を与えられた少女「上木田零子」。
その代償なのか、彼女の心は弱く生きにくさに苦しんでいた。幼馴染の「沖澄栄一郎」は、零子のそばに居続けるのだが……絵は作者を救うのか?
感想
絵を通して生きにくさ・人生を書く。とても文章が上手くて表現力があり、物語の中にガッチリ引き込まれてしまいますね。絵を言葉で表現する、これは中々に難しいことなんだけど見事。
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――黒い背景。微妙に異なる色合いの黒ブラックが何層にも渡って塗りたくられたそれは、絵の上部を中心にして波紋のようにグラデーションを為している。その黒の中心――即ち上部には、一本の右手が描かれている。透き通るような白い肌を持った美しい腕。その腕をオーラのように淡く優しい光の色が包んでいる。
真っ暗闇の世界に天から差し伸ばされた救いの手。
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絵の天才にして精神的弱者、零子のキャラクター造詣もすごく良い。「天才」とか「奇人」みたいなキャラって色んな作品に登場するけど、分かりやすく特殊なキャラクターだからこそ存在感を出すのは意外と難しい。表面的な派手さだけの薄っぺらいキャラになりがというか。
その点、零子は思考・行動が丁寧に書かれていて「1人の人間」としてのリアリティがあります。
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「だ、だって、何も変わって、ない。苦しい、まま、なんだよ。辛いまま、なんだよ」
「…………」
「そんなはず、ないんだ。本当に……本当に、ちゃんとした絵を描ければ、きっとそんなものから、解放されるはず、なんだよ」
ぐらり、と目眩がする。紫から橙色に変わりつつある空が、歪む。
こいつは、まだ、そんなことを。
「――絵が、私を救ってくれるはずなんだ」
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読んでてゾクゾクするというか、ほんと印象に残る名言が多い。私の場合は大したものじゃありませんが、何かしらの生きにくさを抱えて創作活動に打ち込んでる人には刺さる物語じゃないかと。はたして自分の創作物は自分を救ってくれるのか?
メイン2人の関係性もすごい緊張感。ある場面で零子が感じた衝撃というか絶望というか、少し分かる気がします。ここもすごく印象に残るシーンでした。
本当に文章力がありますね。書籍化も納得のハイレベル。web版の時点で、完全に商業レベルの品質です。
状態:完結
文字数:94,681文字
個人的高評価ポイント
◎ 高い完成度!
作品URL
https://book1.adouzi.eu.org/n8676bo/




