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戦場に架かる虹-Rainbow Six

 銀の剣士と金の剣士は剣を交えていた。

 しかし実際には銀の剣士は金の剣士の剣撃を一回たりとも撃ち合わせないように細心の注意を払っていた。

 スペンダーの剣撃は放たれる度にその斬撃の軌跡に沿って光のアウラを伴う魔力波が放たれる。そのため銀鎧は剣撃を撃ち交わすことはおろか、その魔力波をかわしながら、自分の放つ剣撃をスペンダーに当てるというような、職人芸をする必要があった。

 しかし、これまで十の剣撃を互いに放ち合って、銀鎧は悟った事がある。

 銀鎧は十の剣撃全てをスペンダーに当てることに成功した。

 何故ここまで複雑な作業を成功させることができたかといえば、答えは単純だった。

 スペンダーが素人丸出しの刀筋だったということだ。

 スペンダーの攻撃パターンは3つしかない。

 まずひとつ目が大ぶり。

 その次が早めの大ぶり。

 三つ目は全身全霊の大ぶり。

 そのため避けるのは簡単だった。

 しかし同時に問題が発生する。

 これまで十の剣撃を銀鎧はスペンダーに当てた。

 手応えも充分だった。

 しかし、まるでダメージを与えられていない。

 それどころか、防具に傷一つ、つけることが出来ない。

 コイツの装備は規格外のコワレ装備といったところか。

スペンダーは言う。

「もうわかっただろ。そろそろ終わりにしないか?貧乏人の君が少し頭を使って何を試しても、私と君の戦力差を埋めることはできないんだ。このゲームは装備こそが全てなんだよ」

「それもそうだな」

 銀鎧は、そろそろか、と剣を収めると一気に走り始めた。

 機動力の差でどんどんその差は広がっていく。

「なんだ。今度は鬼ごっこかい?ちなみに私はスピードにも自身があってね」

 スペンダーは体勢低くすると、スペンダーを覆っていた金色の鎧が可変を始める。

可変が終わると、鎧の背中から青いアウラが放出されブースターの役割を果たし高速移動を開始する。またたく間に開いていた差が縮まっていく。

銀鎧は呆れたように言った。

「――何でもありかよ」

 その瞬間銀鎧が合図をすると、銀鎧の姿が消える。

 規格外の加速、ベネディクターの協力によるものだった。





 アルケミストはタイムラグ無しで無限に表出させることのできる銀製のナイフや剣、槍を無尽蔵に飛ばす。

 アーチャーはそれを正確無比に撃ち落としていく。フィールドを巧みに使い、時には周囲のグールを盾にしながら移動をする。

 互いに一歩も譲ることはなく、銀製の武器と矢が激しくぶつかりあう。

 激しい戦闘の合間でもグールはまるで関係がないと襲いかかってくる。

 アーチャーは目前に迫っていたグールの首を鏃で吹き飛ばす。

 亡骸が足元に転がる。

 アーチャーは矢筒の矢を一束手に取ると、グールの亡骸に突き刺した。

 矢をとるタイムラグを少しでも減らすためだ。

 そしてまた、別のグールが寄ってくると、至近距離で頭を矢で吹き飛ばし、その体を盾に使った。

 アルケミストもまた自分に近寄ってくるグールに視線一つ合わせずに無数の銀製武器で八つ裂きにした。

 アーチャーとアルケミストは互いにゾーンに入りつつあった。

 互いに手加減なしでぶつかり会える敵を見つけ、その全力をぶつけ合う。

 言葉などいらず、互いの技が、言葉の代わりを果たす。

 零コンマ数秒の、アスリート同士の、目には見えない駆け引きがあった。

 タイミングをずらし、ブラフを交え、時に相手の全力に真っ向から全力で応える。

 アルケミストはじっくりと、その間合いを縮めつつあった。

 本来アルケミストの得意な間合いはゼロ距離での斬り合いでこそ真価を発揮する。

 後一歩で、刃が届くそのときだった。

 ふいに、アルケミストの目の前からアーチャーの姿が消えた。

 ベネディクターの加速によりアーチャーは連れ去られる形となった。

 アルケミストの突き出した最後の剣での一撃は、アーチャーが消えていなければ頸動脈を捉えていただろう。

 しかし同時に消える間際に放たれた矢はアルケミストの頬をかすめていた。

 消える瞬間にわずかに照準がずれたのだろう。

 ずれていなければ――どうだっただろうか。


 アオイはあまりに早すぎる、ベネディクター対策に手をこまねいていた。

 そこで立てた作戦は一つ。

 全方位射撃。

 さらに全方位爆撃。

 その中で、フレームレートで微かに捉えることのできるベネディクターの姿と動きを元に行動パターンを分析、出現する確率の高いポイントへの重点爆撃を行う。

 ベネディクターはこの無謀な一斉射撃かわすのを、一種の弾幕ゲームのように楽しんでいた。

 段々とレベルが上がり、それに応じて難易度の上がっていくのを感じていた。どこまでいけるか試していたところだったが、やがて爆撃の頻度が上がり交わしきれなくなった。

最後には結局爆撃を受け地面に転がり落ちた。

 しかし忘れがちだが、ベネディクターは全パラメータがMAX状態である。

 受けるダメージもまた最小限でとどまる。

 ただ、アオイもまた、正確無比で冷静沈着なプログラム。

 その一瞬の隙を逃さない。

 全砲門をベネディクターに向けると一斉射撃を開始する。

 粉塵で辺りが見えなくなるほどに射撃を見舞う。

 数種類の複合魔眼を切り替えながら状況を確認する。

 アウラの表出状況、変化状況、動態状況。

「生存ヲ確認」 

 かすかに残るアウラの軌跡を追う。割り出される位置は、背後。

 同時に違和感を覚えたアオイは射撃を控え。

「装備ノ点検ヲ開始」

 全砲門の放出口にナイフが突き立てられていた。

 気が付かずに射撃を行っていれば、間違いなく全身で暴発が起きていた。

 アオイは一度全装備を廃棄し、すぐさま新たな装備に換装を行い、周囲を複合魔眼で確認するがベネディクターの気配は発見できなかった。

「敵ノ撤退ヲ確認。捜索ヲ開始」






魔術塔のふもと

巻き付いた巨大なつたの中で身を隠しながら敵狙える位置から狙撃用の大型の弓、必弓フェイルノートでアーチャーは三体の目標を確認する。

銀鎧はアーチャーの前方で大人一人まるまる隠れることのできるほどの大鋼盾メタルウォールを構える。

到底持ち運びは不可能な使い勝手の悪い代物だったが、このときばかりは役に立った。

銀鎧はアウラを開放させる。

全身にアウラ巡らせ、強化する。

スキル・ストレングス。

片手を大鋼盾メタルウォールに添え、ストレングスを施す。

そしてもう一方の手を必弓フェイルノートに添える。ストレングスを施す。

アウラが流し込まれ、大鋼盾メタルウォール必弓フェイルノートが赤く鈍く光る。

アーチャーが3本の矢をつがえる。


銀鎧は言った。

「ずいぶん楽しんでいたな」

アーチャーは応える。

「そうでもないわ」




スペンダーは苛立っていた。

あてもなく黄金の剣を振るう。

如何に最強の防具であったとしても、こう鬱陶しく付きまとわれるとたまったものではない。

このときベネディクターは高速で周囲を移動しながらスペンダーに攻撃を続けていた。

どんなにパラメータがMAXであったとしても、装備が初期装備のナイフでは威力が乗らない。

勿論ダメージは全く入らない。それは、百回あたっても二百回あたっても結果は変わらない。

しかし、狙いはそこにはない。

連撃によるコンボボーナス。

さらにここではパーティを組むことで共有することのできる、パーティコンボボーナスが適応される。

ものの数分でコンボはカウントストップを迎える。


アーチャーが全身全霊のアウラを矢に込める。

大気が震え、エネルギーに変換され、赤い稲妻となり矢に帯電する。

そしてベネディクターの連撃によるコンボボーナス×999が乗ることで、爆発的な量のアウラが濁流の如く流れ込む。必弓フェイルノートに耐えかねて亀裂が入る。

銀鎧のストレングスでさらに必弓フェイルノートを補強し、ぎりぎりの状態で形を留めさせる。

あまりのアウラの放出量に彼らの存在を見失っていた絶対者三人も、この脅威に気がついた。


アオイは三つの砲門を合体、高速可変させ長距離魔術砲台に変化させレーザーのようにアウラを放出した。


銀鎧は大鋼盾メタルウォールアウラの放出を受ける。

大鋼盾メタルウォールが赤く熱を帯びる。

高温に到達する。

崩壊寸前。

ストレグスを施し補強する。


アオイは対象の破壊が困難と認識し攻撃を中止した。


すかさず三体はそれぞれの防御体勢を整える。


スペンダーは防具を可変させ防御体勢メタモルフォーゼスをとる。

アルケミストは全身を銀製の球体で覆うスキル絶対防御メタモルフォーゼスを発動させた。

アオイは三門の魔術砲門を可変させ、防御装甲メタモルフォーゼスに入った。


アーチャーは唱える。


「千里を翔け、鋼を穿つ、いかづちとなれ、地獄ノ番犬ケルベロス


大地をえぐりながら、三本の矢は大気を切り裂きながら射出された。


着弾。


閃光。


爆裂。


粉塵が情報片データダストとなり舞、逃げ場を失ったアウラが蒸気や小さな稲妻となって周囲に奔った。


しかし、絶対者は、当然の如く、生還。


三人の絶対者は、各々の感情で己の技の発動に移行する。


ある者は、単純な力の誇示のために。


ある者は、決闘に水をさされた感情の暴走の捌け口として。


ある者は、存在の証明のために。




アオイはさらに五門、全ての魔術砲台を合体可変。特大長距離魔術砲台に変化させる。


「砲台可変完了、アウラ高速重点開始――完了。発射」


狙いを定め、放つ。





アルケミストは天へ手をかかげる。


かすかな月明かりが失わる。


空を長い雲が覆う。


「穿け。雨撃レインエッジ


一直線上にえぐれた大地に沿って大量の銀の槍が降り注ぐ。





スペンダーは詠唱する。

「……天上は我を讃え、天下は我に尽くし、大地を揺らせ、存在を示し、全てを飲み込む竜神となれ。終わりだ。……光ノ一撃ライトニングイクス


王剣カリバーンの剣先を塔に向ける。


刹那、スペンダーの全、アウラが還元され王剣カリバーンから放たれる。


形容し難い程の眩い閃光が塔に向け放たれる。


3つの卓越された技が重なり合い壊滅的な崩壊がもたらされる。


残虐。


静寂。


虚空。


 放出された射線上は大地がえぐれ、何もかもが破壊され尽くした。塔に絡みついた根を破壊するどころか、塔の下部を完全に貫通していた。


大地に無数に突き立てられた槍は敵の進行を阻むバリケードの役目も果たす。



戦場を覆う漆黒、グールの群れに一筋の希望が描かれた。


魔術塔へと続く、一本道が戦場に引かれた。



銀鎧と、アーチャーはベネディクターの高速移動により攻撃を免れ、次の活路を見出した。



戦士プレイヤーたちは色とりどりのアウラを体に纏、我先にと希望に沿って戦場をかける。

それはまるで極彩色の虹のようだった。











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