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戦闘狂は一攫千金の夢を見るかーバトル・ドッグ・ミリオネア

アーチャーは舌打ち混じりに、弓を構える。

「千里を駆け、鎧を穿ついかずちとなれ、多頭の紫竜」

スキル・クイックドロウ。

複数の矢を加速のアウラを加え射出させる。矢が青いアウラで覆われる。

同時発動ペネトレイト。

射出の瞬間に貫通させるだけの威力を増幅のアウラを加える。青いアウラに赤いアウラが加わり、紫のアウラとなり矢を覆う。

重なりあったアウラは凄まじい力の集合体となり、溢れた力が稲妻となり矢の軌跡に残存する。

グールに着弾すると、その肉体が稲妻に貫かれたように激しく損壊する。

銀鎧に迫っていた複数のグールを一度で見事に破壊した。


しかし、すぐにまたグールは当然・・のように湧いて出る。


倒しても、倒しても、倒しても……、奴らはまるで無限に存在するのではないかと絶望するほどに、存在・・した。

半端に破壊されたグールは、分裂を繰り返し、破片そのものが新たなグールになってしまう。

一体一体、確実に破壊するか、一度に葬り去らなければ事実、無限に増殖を続けることが出来た。

最早、兵士というよりも単一の兵器に近く、敵としては充分過ぎる程の脅威だった。


戦場のはるか先も見通せる彼女アーチャーの魔眼には銀鎧の姿が捉えられていた。

彼女はまたアイツが、勝手に策を立てて自分本位に先行しているのだと思っていた。

こうして彼女が事前の説明無しでカバーするのも計算ずくで行動している――そう思っていた。……しかし何かがおかしい。

これではあまりに、ただの、自殺ではないか?

早く、何か行動をおこさないと、グールはもう銀鎧に迫っていた。

クイックドロウとペネトレイトの同時発動はアウラの消耗が激しいため、連続発動はで

きない。


銀鎧は再びグールの群れに覆われていた。


未だ銀鎧は行動を起こさない。


アーチャーは咄嗟に弓を構えるが、アウラが生じない。



このままでは間に合わない。




アーチャーは魔眼を閉じようとした。見ていられない。




そのときだった。



風が吹いた。

立ち尽くす銀鎧を覆っていた全てのグールはおろか、風が吹いた軌跡にいたグールもろとも塵となって虚空に漂い消えていく。

風が止み、銀鎧の前には少女がいた。鼻歌まじりにスキップをしている。

魔眼を持つアーチャーにだけは、見えていた。

ベネディクターが銀鎧の周囲のグールをナイフで撫でるように一瞬で3週したのを。

天使のように微笑みながら、所業は悪魔のそれだった。

だとしても、悪魔だろうと、何だろうと今は心強い。

アーチャーは助かったと、溜息をつくが、まだ危機は去っていない。

周囲のグールは無限の如く存在する。またたく間に銀鎧の周囲をグールが囲っていく。

銀鎧は未だに動きがない。

ベネディクターが銀鎧の顔を覗き込むと笑った。

「お兄さん起きたまま寝てるの?」

銀鎧は沈黙で返すばかりだ。


しかし何故ベネディクターは銀鎧の味方をしたのか?

その疑問をアーチャーは拭えなかった。

ただの戯れか、気まぐれなのだろうか。答えは出ない。


アーチャーは銀鎧のもとへ走り出そうとしたが、同時に躊躇とまどいが生じる。

狙撃手が敵陣の中に入り込むのは、それこそ自殺行為だ。しかし、いま銀鎧には危機が迫っている。

戸惑うアーチャーの眼の前に瞬時にして、吹き抜ける風と共にベネディクターが現れた。そしてアーチャーの手をとると微笑んだ。

そして次の瞬間にはアーチャーとベネディクターは銀鎧のもとに来ていた。

それは同時に彼女もまた戦場のど真ん中にきたということだった。

アーチャーは突然の出来事に驚きをかくせなかった。しかし戦士としての本能ですぐに弓を構え、周囲のグールに向ける。そして銀鎧に言う。

「何やってんの?さっさと次の行動に移りなさい!」

銀鎧は目の前に現れた二人を見て、何かと重ねていた。以前、俺は仲間と一緒に戦っていた?


……わからない。だが今、俺は塔にたどり着かなければならない。


銀鎧の瞳に輝きが戻る。


そして目前に迫る絶望的な数のグールと相対し、武器を構えた瞬間、信じられないことが起きた。


それまで、として、グールと共に戦っていた、セオドルフ側についていたプレイヤー達がグールとの戦闘を始めたからだ。


この勝機チャンスを逃す術はない。


銀鎧は両手の盾で同時にグールの頭部を目掛けて打ちつけ粉砕する。


アーチャーは無数の弓を放ち、一度に無数のグールを射抜く。


ベネディクターは踊るようにグールを切り刻んでいく。


そして、次々にセオドルフ側についたプレイヤー達が銀鎧の元へ駆けつけ、グールを破壊し始めた。


またたく間に100人を超えるプレイヤーが集まった。

今も増え続けている。

あらゆる戦端でプレイヤーの召喚が確認され始める。


アーチャーは疑問に思いコントロールパネルを確認する。

「これって……どういうこと?」

クエストボードに無数の依頼が掲載されていた。


○支払条件 グール×100体の討伐

 報酬    100,000万円

 依頼者   ウォーロック

 支払者   銀鎧の剣士


○支払条件 アルブラスール幹部×1体の討伐

 報酬    10,000,000万円

 依頼者   ウォーロック

 支払者   銀鎧の剣士


○支払条件 セオドルフ×1体の討伐

 報酬    100,000,000万円

 依頼者   ウォーロック

 支払者   銀鎧の剣士


アーチャーは驚愕し、言った。

「君、こんなお金いったいどうやって……一億って。KOGの報酬が子供騙しみたいになってるじゃない」

アーチャーにとってこの状況はまるで白昼夢のようだった。ただ現状を見る限りこれが真実なのだと思うほかなかった。

これでベネディクターの行動の意味も合点がいった。

銀鎧自身も現状を理解し始めた。

ウォーロックとの交渉の条件。

それはウォーロックの地下闘技場アレーナ・ディ・ベローナへの参加と賞金の譲渡・・だった。

クエスト自体はすでに発注済みで、報酬の用意が完了次第、ボードへの掲載がされる手はずとなっていた。


つまりウォーロックはついにやり遂げたということだ。


これまでセオドルフの提示したクエストの案件は「エルフの殲滅」という漠然とした条件な上、いまだ賞金を手にした者はおらず、信憑性がないまま、クエスト受注者たちは疑心暗鬼に陥っていた。

しかし銀鎧の案件はグール百体の討伐という比較的実現可能な内容を含むため試す価値がある。

さらにウォーロックが地下闘技場アレーナ・ディ・ベローナで賞金を獲得したという事実があれば、依頼者がウォーロックになっていれば信憑性が高まる。

その上、支払者が「銀鎧の剣士」になっていればクエストを受注したもの達は「銀鎧の剣士」を必然的・・・に守るのは絶対条件になる。


結局のところ地獄の沙汰も金次第というわけだ。


銀鎧は言う。

「準備が整ったな。一気に攻め落とすぞ」

銀鎧は右手で魔術塔を指し示した。

戦士プレイヤー達はときの声を発し、指揮を高揚させた。そして意思を持った土石流のように駆け出した。

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