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劣勢の戦場ーバトルフィールド

どいつもこいつも、暴れてやがる。

よほど退屈だったのか。それとも性分なのか。

いずれにせよ、都合・・がよかった。

気配遮断効果のある盗賊のローブを被ると、派手に咲き荒れる地上の花火に夢中なグールの背後に忍び寄ると、鋭利に磨き上げたエルフの短刀を深く首に突き立てると最小限のアウラを込め、一気に掻き切る。

頭と体が分断されたグールは、あまりに手際が良すぎたようで、しばらくの間は体だけで歩いていたが、やがて頭が無いことを思い出したかのように地面に倒れ伏した。

まるで庭の芝でも刈るような、雑務をこなす感覚で次々にグールの首を狩り続ける。

ずっとこのままなら、思いの他、簡単に魔術塔に辿り着けそうだ。そんなことを考えていた矢先のことだった。

目前の背の高いグールの首に飛びつこうとした瞬間、怪しく光る魔導蟲バグズが視界に入った。

このとき、それが何なのかまでは認識してはいなかったが、それが異質である感覚を覚えた。

首を狩り終え、虚脱したグールの体の影に隠れ、咄嗟に魔力防御性能の高い小楯で身構える。

そして辺りは、閃光と衝撃に包まれた。

一瞬体が宙に浮いた後、地面に叩きつけられる。

なにかが爆ぜたのだと嫌でも認識させられる。

グールの亡骸と咄嗟に構えた小楯のおかげで致命傷は避けられたが、小楯は微塵に吹き飛んだ。どうやらまだ両足で大地を踏みしめる権利があるそうだ。盗賊のローブが焼け落ち、露わになった銀の鎧が月光で輝いた。

気配遮断性能が失われ、辺り一帯をグールに囲まれた状態で存在が認識された。

うまくいかないものだな。

両手に近接戦闘に特化した小楯・・を展開させる。勘違いするかもしないが、何も気が狂って戦うことを放棄した理由ではない。

小楯が展開完了する頃には、爆風で広がった敵との間合いもなくなり、グールの腐臭混じりの吐息が頭にかかるくらいには近かった。

頭を丸呑みしてやろうと、大きく裂けた不揃いの牙がならぶグールの口蓋が目の前で開かれる。

ちょうどよい、と左の盾を口の中に突っ込んでやると、上顎から上、頭であった部位がそのまま宙に吹き飛ぶ。すかさず、身を屈めながら右の盾を隣のグールの太腿にぶち当てる。盾が貫通する。

バランスを失った二体のグールが大地にむかって崩れ落ちる。

前進する。

姿勢を低くしたまま、体を旋回させその勢いで、両手の盾を使い両脇でアホみたいに突っ立っているグールの足を分断・・してやる。

前進する。

もう一回転しながらグールの足を、腕を、体をぶった切ってやる。

前進する。

時折、こちらに気がついたグールが組み付き、噛み付こうとするが、それを盾でいなすと空いたほうの盾で体を貫く。

そして、前進する。

近接戦闘に特化した盾「バトルシールド」。盾の先端に鍛え抜かれたブレードが装着された、攻守を両立させ一体にさせたスグレモノ。

さらにこのブレードは枚数限定で刃を射出することまで可能な代物で一家に一台はあってもいいだろう。今なら両手につけられるように一台購入した奴にはもう一台サービスしてやってもいい。

そう言ってる間にもう一匹、切断完了。

グールは完全に破壊するか頭を破壊しなければ再生し活動を停止させられない。

それなら完全破壊・・・・は諦める。

適度・・に破壊し、一時でもその場に留めさせる。

もう一歩、前進する。

俺は前進しなければならない。

前進する以外、ないんだ。

前進し続ければ、あの塔にたどり着けば、答えが見つかる。

この脳に霞がかかったような、はっきりとしない永遠に覚めることのない、夢の続きを見続けているかのような症状も消えるだろう。

俺は、何か、大事な何かを忘れている。

名前や、住む場所はどうだっていい。

そんなことよりも、もっと、なにか、ダイジな、なにかをオモいダさなければ、いけないんだ。

だから俺は前進する。

たとえ、腕がもげ、足がもげても、俺は前進しなければならないんだ。

眼の前の敵を破壊する。

右の盾で敵の腕ヲ。

左の盾で敵の足ヲ。

バランスを崩した敵を持ち上げ、目の前の敵にぶん投げる。

アウラを開放し、両手の「バトルシールド」で敵ヲ貫通サセル。

敵ヲ、破壊スル。

瞬間、俺は確かに判断が遅れた。

目的地を目の前に、思考にノイズがかかっていた。

かすかなアウラの揺らぎでグールの牙がもう既に、自分の真後ろに迫っているのは間違いなかった。

しかしもう既に、振り向くのは間に合わない。どうすればいい?頭を使え。体を動かせ。


零コンマ数秒の世界で思考を加速させる――答えなど、出ない。



俺は選択を、誤った?



刹那、グールの頭がアウラを纏った矢で貫かれ吹き飛ぶ。

グールの群れを貫通力をアウラで最大強化された矢がぶち抜いた。

アーチャーは言った。

「先行しすぎ。考えがあるなら説明しなさい!」

そうか。


助けられたのか、俺は、仲間に。


仲間……?


思考を覆う霞はこの瞬間まるで、はっきりとした壁にぶち当たったかのように、明確なノイズで遮断された。

この違和感はなんだ?

俺には、かつて、仲間がいた?

そのとき、思考はおろか肉体も停止し、俺は戦場の真ん中で無防備に立ち尽くしていた。


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