戦場に咲く華ーFIRE WORKS
何故戦うのか。
誰もがそう問われて回答できるだろうか。
生活のため。
金のため。
名誉のため。
それらは勝ち続ける強者の理由だった。
もっと明確に意味がある。
生きるため?
それも違う。
死なないため?
それも違う。
彼女にとって、いずれも明確な答えにはならなかった。
戦わなければならないから、戦っていた。
彼女は戦うために造られ、戦うためだけに存在していた。
彼女は戦うこと以外を知らなかった。
魑魅魍魎と化した、かつての支配者が破壊の限りを尽くすこの戦場の中で彼女はこれまで、神官セオドルフが下したクエスト通りエルフを狩る名目に従い、プレイヤーを狩ることを目的としてきた。それはある命令によるものだ。
戦術データの収集。
この世界が造られ、自分が存在してからは唯一つ、この命令に従い続けてきた。
プレイヤーを発見すれば、問答無用で勝負を仕掛け続けた。
無論そのような戦い方をすれば、圧倒的強者に出逢えば、当然の如く破壊された。
破壊される度に、復元され前回の戦闘を反省し、装備を拡充し、最適化された戦術を用意した、新型がまた戦場に送り込まれる。
彼女 達は世界に生まれると同時に破壊されることが宿命づけられている。
つまり破壊されるために存在している。
この世界が変質して、人々が死の恐怖を認識するはるかに前から彼女達はその理を認識していた。
繰り返される創造と破壊の末、到達したのが、現在の型だった。
両手の魔導ライフルは100%の精度で、それぞれが異なる標的を狙うことができる。
さらに彼女の背に浮かぶ三門の可変式魔導砲筒もまた、同様に100%の精度でそれぞれが異なる標的を狙うことができる。
さらに自動生成される魔導蟲は敵を自動追尾し有効範囲に入ると自爆する。
外敵からの攻撃には可変式魔導砲筒が盾に可変し装甲の役割すら果たす。三門全てが可変した際には全身を覆い囲むことができる。
文字通り360度死角は存在しない。それが666番目の彼女に与えられた装備一式だった。かつて人間に勝利したディープブルーを元に造られた電子頭脳アオイ三六式。またの名を「タイプサタン」と呼ばれる。
そんな彼女に新たな命令が下された。
戦術データの有効利用。
彼女にとって命令は絶対であり、唯一であり、天啓だった。
その瞬間、周囲の魑魅魍魎は戦闘を行うためにあたって、任務遂行の弊害となる遮蔽物として認識された。
彼女は五門全てを同時に炸裂させ、魔導蟲を辺り一帯に放った。
戦場が艶やかに燃え上がる。
まるでそれはアサガオの蕾が陽光に反応し開花するような眩しさだった。
彼女に感情はない。
しかし何故だろう。
彼女の表情は少しばかり笑っているように見えた。
戦う理由?
そんなものは唯一つ。
楽しいからに決まっている。




