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無垢な狂気-ベネディクター

「すごいねぇー。十三の極端が二人も集まるなんて。しかもどっちも超がつく有名人だよね。圧巻だなぁ」

弓撃士アーチャーとそのとなりの少女は先程から戦いに参加せずに状況を伺っていた。

「そうね。まるで化物じみてる」

弓撃士アーチャーはこの二人が味方についてくれたことを心強く思う以上に、もし敵に周ったらという畏怖のほうが強く感じていた。

弓撃士アーチャーは少女に言った。

「無理に戦う必要はないよ。この戦場は普通じゃないもの」

「潰しがいがありそうだよね」

「え?今何か言った?」

「いやぁ別に」

そのときだった。

少女に気をとられ弓撃士アーチャー亡者グールの放った魔矢に気がつくのが一瞬遅れた。

弓撃士アーチャーは魔眼で魔矢を視界に捉えるとスキル・クイックドロウにより高速化の魔術で瞬時に矢を放ち、魔矢を撃ち落とそうとした、そのとき、初めて気がついた。

周囲の時間がスローに捉えられ、全てがゆっくりと流れる時の中で、不自然に自由に駆け回る少女の姿があった。武器も持たず、はしゃぐ子供が大人をからかうように周囲の亡者グール突き飛ばし、蹴り飛ばし、その無邪気な少女が少し触れるだけで亡者グールの肉体が崩壊していく。亡者グールの頭の上をケンケンやスキップをしながら渡り歩いていく。踏まれた亡者グールの頭はワンテンポ遅れて、砕けて消える。

弓撃士アーチャーはまるで天使が悪魔に悪さをする白昼夢でも見ているような美しさと不気味さが混在する感覚に目眩を覚えた。

魔眼の時間制御が終わると、少女は弓撃士アーチャーの傍らでまた膝をついて座っていた。

そのときになってやっとこの少女が、戦いに参加していない、などというのは、自分の思い過ごしであったことに気がついた。

「あーぁ。気が付かれちゃったな。お姉さんが気がつくまでに何人殺せたと思う?」

弓撃士アーチャーは少女に異質さを覚え、言葉を紡ぐことができないでいると、少女のほうから言った。

「10かなぁ100かなぁいくつだろうね」

言うまでもなく、彼女もまた十三の極端の一人。祝祷士《ベネディクタ-》。

この世界ゲームに誕生した瞬間から全パラメータがMAXで生まれた存在。

確率でいうと65536分の1の確率と言われている。

虚構世界ゲームでのパラメータは思考をスキャンしその者の能力を反映することから、

現実世界のパラメータと虚構世界ゲームのパラメータは逆相関になると言われている。

この少女は現実世界では満足に歩くことも出来ず、目を見ることもできない。

そんな彼女に虚構世界ゲームから与えられた能力は神ノ贈物ハードラック

全ての行為に優遇確率がもたらされる。

行う攻撃は全てクリティカル扱いとなり、高いパラメータボーナスにより移動速度は転移魔法に次ぐ神速が可能。

この恵まれた境遇から、これまでに彼女は武器といえる武器は一番始めに手に入るハンディナイフしか使ったことがない、というよりも使う必要がない。

彼女はその力に溺れるように戦士狩プレイヤーハントを好む。強い者を見ると壊したくなる衝動を抑えられなくなる。

祝祷士《ベネディクタ-》は言った。

「お姉さんも強いんだね。今度遊んでもらおうかな」

弓撃士アーチャーは怯える自身をなんとか制し、作り笑いを浮かべ、言った。

「そうね。楽しみにしてる」

彼らがいつまで自分たちの側でいてくれるだろうか。そんな焦燥感が弓撃士アーチャー

は消せなかった。

弓撃士アーチャーはかすかなアウラの揺らぎを魔眼で感じ、弓を構えた。

そこには多すぎるほど無数の武器を背中に携えた、屈強な大男が両手に剣を把持して立っていた。

セオドルフについた戦士プレイヤーだった。

異様な闘気が溢れていた。

男は言った。

「俺は倒した敵に敬意を示すことにしていてね。背中のこれは全て、今までに倒してきた戦士プレイヤーのモノだ。もちろん女子供であっても例外はない。逃げるなり、命乞いをするなり好きにしろ。何をしても最後には殺すがな」

弓撃士アーチャーは呆れた様子で弓を構えるのをやめた。

「あなた見えてないの?逃げるなり、命乞いするなりしたほうがよさそうよ。間に合わなそうだけどね」

「口だけは達者だな。まずはその生意気な顔をズタズタに」

そこまで言ってやっと自分の体が、素人ルーキーが使う粗末なナイフでズタズタに引き裂かれ、既に致命傷を受けていることにやっと気がついた。

弓撃士アーチャーの魔眼には祝祷士《ベネディクタ-》が男の周囲を楽しそうに駆け回り、壁に落書きでもするような手軽さで男の体の肉を削ぎ落としていく様子が見えていた。そのあまりの速度と手際で、男は痛みは愚か、ダメージモーションを起こす隙すらあたえられなかった。男のライフは丁寧に1ドット残されていた。

男はそれに気がつくと、まるで亡霊でも見たかのように、みるみる内に青ざめ、怯えてその場から慌てて逃げてさった。

祝祷士《ベネディクタ-》はそれを見てけらけらと笑った。その様子はどこからどう見てもただの少女だった。しかしその手には確かに血で染まったハンディナイフが握られていた。

「あの人、きっとお姉さんが何か不思議な力を使ったと思ってるのかな」

「どうかな。とどめ、刺さなくていいの?」

「その価値も無いよ」

そう言って彼女は狂気の交じる笑みを浮かべた。

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