決起-Uprising
城下にあるヴァンドールの酒場で銀鎧の戦士と弓撃士は酒を飲み交わしていた。
弓撃士は果実酒を美味そうに飲みながら言う。
「行かせてよかったの?」
銀鎧の戦士は頼んだ酒には口をつけずに聞き返した。
「魔術王のことか。なにがだ。」
「信用できないじゃない」
「ならどうしたら信用できる?」
「……」
「信用したわけではない。こちらはこちらで動く」
「どうするつもり?」
「仲間を集める」
「正気なの?どこで集めるつもり」
「決まってるだろ。ここだ」
「はあ?」
弓撃士は周囲を見廻す。
KOG特設フィールドがオープンしてから王都グルセアの周囲は人の数が減った。
この店も例外なく閑散としており、彼ら以外の客はいない。
「誰もこないじゃない」
「そうだな」
「君どんな募集の仕方したの?」
「あれだ」
クエストボードを指した。
内容はこうあった。
パーティ募集
募集者
秘匿
標的
神官セオドルフ
戦闘対象
神官セオドルフに属する敵勢力全て
報酬
適宜
集合場所
ヴァンドールの酒場
「呆れた。あんな条件で人が来るわけないじゃない」
「いいんだ」
「どこがいいのよ。あんな条件で来るやつなんてどうかしてるわ」
「半端なやつに来られても足手まといになる。それに」
「あんたでいいのか?パーティ募集してんのは」
声を掛けてきたのは見上げるほどに屈強な戦士。
「うそ。本当にきた」
「現状をよく思っておらず、能力を持て余している者が一定数いるはずだ。そうだ、俺が募集をした」
屈強な戦士は笑いながら聞く。
「あんた本気なのか」
「ああ。本気だ」
あとからぞろぞろと募集を見たものが集まっていき、あっという間に酒場は人で埋まった。
「まさか。こんなに来るなんて」
銀鎧の戦士は至って冷静に言う。
「ここにいる奴が全員、仲間になるとは限らない」
銀鎧の戦士は集まった戦士に向かって言った。
「余計な挨拶は無しだ。説明をさせてもらう。俺達はこのまま、この足で敵地に向かう」
「これから?」
「そうだ。あの募集はプレイヤーであれば誰でも見ることができる。いまや、プレイヤーは大半がセオドルフの駒になっている。向こうもなんらかの備えを始めるはずだ。だが今できる備えはたかがしれている」
「だからって今すぐじゃなくてもいいだろう」
「ダメだ。今すぐ行くことに意味がある」
「時間を与えれば、敵は守りを固める。だが油断している今は守りが薄い。日を追う毎に守りは固くなる。だから今日、襲撃を行い、時を見計らって撤退を行う」
「撤退するのか?」
「そうだ。一度襲撃された敵は疑心暗鬼になる。またいつ敵が攻めてくるのか、自分がついている陣営が正しいのかを疑問に思うものが現れる。その間にゆっくりと準備を行う」
「なるほどな」
「だから今回はできるだけ派手に暴れて欲しい」
「気に入った。俺は乗るぜ」
「俺もだ。特に報酬が適宜というのがいい。存分に暴れさせてもらおう」
目的を見失い、力を持て余した戦士達は次から次へと参戦の名乗りを上げた。
一頻り祝杯を上げると、それぞれが想い想いに準備を始める。
弓撃士は関心したように言った。
「信じられないわ。全員をその気にさせるなんて。でも君にしては意外ね。すぐに撤退をするなんて」
「撤退はしない」
「え?」
「奴らが暴れている間に俺たちは一気に敵を攻め落とす」
「君らしい」
弓撃士は闘争の気配に高揚を覚えた。




