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絶対者の孤独-solitary king

魔術王ウォーロック魔眼イヴィル・アイは優れていた。

優れていたが故に、その行動予測が正確過ぎた。

結果としてその行動予測は繰り返せば、繰り返すほど、規則性を読み取ることができる。

それを銀鎧の剣士は頭で理解したわけではなかった。

繰り返す斬撃の中で、経験として、次に相手が生じる場所を予測することは剣士かれ程の者であれば難しくはなかった。

魔術王ウォーロックは何故、攻撃が自分に到達したのか、その明確な理由は理解できなかった。

もはや、魔術王かれにとってすれば、既にそんなことはどうでもよく、目の前に現れたこの退屈しのぎの相手が、どれほど自分を楽しませてくれるだろうかという、一点の興味に尽きた。

魔術王かれは言った。

「いいね。いい感じだ。ならこれはどうだい?」

銀鎧の剣士は自分に対して向けられた、触ることのできそうなほどの濃い殺気を覚えた。

その刹那、後方に飛び退いた。

そして先程まで自分のいた位置に青い落雷が生じるのを確認した。

その後も幾度と無く、落雷が剣士かれを目掛けて放たれる。

それを寸前で剣士はかわし続ける。

かわし続けながらも、魔術王ウォーロックの位置を確認する。

そして落雷が落ちるよりも速く剣撃を放つ。

しかし、剣撃が届く前に、まるでそれを狙いすましたかのように青い火柱が上がる。

かろうじて、剣士はそれを転がるように回避するも、攻撃の手が休まることはない。

上空に生じた柱程もあろうかという氷の槍が剣士を目掛けて放たれ続ける。

剣士はただそれをかわし続ける以外に選択肢は与えられない。

剣士がこれほどまでに、攻撃をかわし続けることができるのには理由がある。

剣士かれは剣士であるが故に適正が低いため魔眼を持たない。

魔眼はないが、強化ストレングスの応用でそれに近い能力を発揮することができる。

強化ストレングスの配分を両目に集中することで、1秒毎に0.3秒程度、事象の体感速度を調節することができる。

 よって、時間の流れが0.3秒だけ止まって見える。その後1秒間のクールダウンを必要として連続使用が可能。しかし使う度に0.1秒ずつ減っていく。よって連続使用の限界は3回まで。その後は使用した頻度の二乗分のクールダウンが得られるまで、0.1秒以下の劣化し続ける能力の発現しか得られない。

 能力スキルの名を真眼シンガンという。

 これはあくまでも銀鎧の剣士の現在の状態であり、その形態は使用者の適正によって異なる。

 つまり、真眼シンガンによる回避予測は、魔眼イヴィル・アイには遠く及ばず、銀鎧の剣士が酷使した真眼シンガンは劣化により、もはや認識が困難な程に陥っていた。

 しかし、その程度であっても、この魔術の連撃を回避し続けるには必要不可欠な要素となっていた。

 魔術王ウォーロックは無慈悲な微笑を浮かべたまま、執拗に魔術の発動を続ける。

 魔術王ウォーロック魔術王ウォーロックたらしめる理由がここにある。

 通常、魔術士が魔術を発動させるには、詠唱が必要となる。

 詠唱はいわば、キーの入力に値する。

 基本はデフォルトの文章をシステムに認識させることで発動する。

 そのため、唱文の変更や、黙ったまま唱文を思考しても、システムが認識すれば発動に至る。

 ただし、それを、どんなに早口で唱えたとしても、システムの認識には必要な時間が定められているために、一定の時間がかかる。

 その点において、魔術王ウォーロックは魔術の発動には詠唱を必要としない。

 思考するだけで、魔術が発動する。

 さらに、職位クラス賞与ボーナスにより、ありえないほどの絶大な量の魔力アウラ貯蔵プールできる。

 これら二つの要因から、異常なまでの魔術の連撃を可能とする。

 これは言うまでもないが、魔術王ウォーロックにだけ許された、力だ。


 銀鎧の剣士は紙一重で怒涛のような魔術を回避し続けてきたが、やがて限界がきた。

 並の魔術師が相手であれば、魔力アウラ切れを待つ戦術もあっただろう。

 しかし今は、自分のアウラが尽きかけていた。

 力なく、足がもつれ、体がとまる。

 それは同時に「死」を意味していた。

 このゲームはただのゲームではない。


 そしてついに、青い火柱が剣士の体を包み込む。


 魔術王ウォーロックの表情はどこか浮かばなかった。

 ついに訪れた、興味の対象は、まもなくして、目前でただ虚しく灰となり砕け散るのを待つだけの存在となってしまった。

 所詮、格が違ったのだ。

 固有職位オリジナルクラスにありふれた職位クラスでよくも、ここまでやったと賞賛してやるべきなのかもしれない。

 それでも、魔術王かれはどこか期待していた。心のそこから自分を楽しませてくれるような戦士プレイヤーがいずれ訪れることを。

 だから、魔術王かれの感じた感情は「悲しみ」だった。

 ただそれも、つかの間の感情ですぐに消え去るのだろう。

 それだけの些細な出来事に過ぎない。

 明日から、また当然のように退屈な世界が始まる。

 圧倒的な強者として世界に生まれ落ちた者だけが感じることができる、贅沢な悲壮感だった。しかしそこに最早、優越感はなく、それを理解する者はおらず、あるのは底知れぬ孤独だった。

 その瞬間ときだった。

 魔術王ウォーロックの魔眼が反応した。攻撃予測を示していた。

 それはありえないことであり、魔術王かれの反応を一瞬遅らせた。

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