毒使-ポイズナー
彼女はすぐに考え直した。
元より、味方などという概念はとっくに、なくなりつつあったのだから。
今、目前で起きた出来事の理由を知りたがったが、今はそれ以上に敵をこの塔に近づけてはならないという目的を優先すべきだった。
すぐに次の得物を探す。
狙いを定める。
だが、その得物もまた、先程と同様に、唐突に地に伏してしまった。
正体のわからない、奇妙な不安の中、その現象はその後も続いた。
一人、また一人。
着実に数が減っていった。
敵は自分たちの戦っている相手の正体を掴めてはおらず、翻弄されるままに、ただ怖れることしかできないままに、最後の一人が、倒れた。
しかし彼女は知っていた。
今、塔の外には一人ともう一匹が潜んでいるはずだ。
おそらく気配秘匿スキルの一つ、擬態化を使っているのだろうと彼女は推測した。
最高レベルの気配秘匿スキル、無色化程ではないにしても、相応の熟練度のように見て取れた。
塔の周囲に確かに存在するはずの二つの正体不明の何者かは、互いにその存在を意識し、牽制しあっていた。
戦場は静けさに包まれていた。
張り詰めた緊張感の中、彼女はただその戦いを傍観することしかできなかった。
姿を現さない二つの影の均衡は唐突に破られた。
塔の周囲に無数の気配が生じた。
その数はゆうに十を越える。
魔眼を持つ彼女の眼には確かに写っていた。
戦場に唐突に現れた無数の力を。
困惑していたのは塔から戦いを見守る彼女だけではなかった。
毒使は困惑していた。
魔眼が使えない者でも、力を使役するものならばわかる。この無数の気配。
いつの間に囲まれていたのだ。
いや、そんなはずがない。
この数の敵に一人として自分が気がつかないわけがなかった。
何かの種があるに違いない。
毒使の戦士はゆっくりと力のある方へと進んでいく。
勿論、擬態化のスキルを使って、敵に自分の位置を知られないように近づいた。
そしてその《トリック》を理解すると、にやりと笑った。




