異教徒-ドワーフ
ダークエルフによる支配に耐えかね革命を起こしたエルフたちと、ステージ攻略を目論む戦士達という三者は、それぞれの思惑のため、現在は膠着していた。
妖精街上層第4区。
撤退中の逃げ遅れたダークエルフの部隊を追従する戦士がいた。
戦士は逃げまどうダークエルフを斬り伏せながら笑みを交えて言った。
「なんだこいつら。たいして強くもない割に経験値がすげぇな。こいつは間違いなくボーナスステージだわ」
いまだ魔妨炉は反転したままでダークエルフ達は無力だった。
いまだかつて追われ、狩られる身となったことのない彼らは感じたことのない感情に支配されていた。絶望的な恐怖、それが押し寄せてくる。彼らは切に願った。助けを、救済を。しかしエルフの戦士も、人間の戦士も大概はその慈悲を持ち合わせてはいなかった。エルフは理解できた。当たり前だった。これまで自分たちが迫害してきた過程があったからだ。しかし人間はどうなのだ。これまで関わりを持たず、今日顔をあわせたばかりではないか。それでこのような残忍な行為を行えるのか。神官が言っていたことは正しい。自分たち以外の民族は全て蛮族だ。特にこと人間に関しては他に秀でた蛮族だ。彼らはそう思った。
追い詰められたダークエルフは言った。
「呪われろ。貴様ら全員、呪われろ」
「見ろよ。なんか言ってるぜ。生意気だな」
人間は笑っていた。ダークエルフにはその感情が理解できなかった。ダークエルフは願った。アーブルに、助けの慈悲を。
そしてそれはやってきた。
一瞬の出来事だった。
それは例えるなら、獣の如き猛進だった。いやそれでも足りない。この壮絶な力は他に見たことがある。そう、まさにこれは災害だ。人智を超えた、どうすることもできない破壊力。
そこに現れたのは神衛師団の一人。ザウム・イスカリオテ。ダークエルフの軍に所属しながらその種族はドワーフ。エルフの持ちえない物を持つ者。強靭な肉体。そして圧倒的な力。この者は何の信仰も持ちえない。ただ純粋な力を認められ、選ばれた生粋の傭兵だった。
戦士にはその時、自分の目の前で何が起きたのかわからずにいた。自分の理解を越えていた。
気がついた時には、周囲にいた五人の戦士が一瞬にして青い塵と化し、あたりに美しく舞っていたということだけだった。
そして今、生き残っているのは自分だけで、いや生き残っているという表現は誤りだ。自分はもう既に消滅の過程にある。今は残留する意識の中にあるだけだ。自分は最早、いましがた現れた厄災の拳に握られている頭部だけの存在だった。
ザウム・イスカリオテは持っていた人間の男の頭部を握り潰し粉砕した。まるでゴミでも握りつぶしたような自然な振る舞いに見えた。そして無様に地面にはいつくばる弱きものを見据えていた。別にこのダークエルフを助けようと思ってしたことではなかった。そこに唯、敵がいたから殲滅した。それだけのことだった。その過程でたまたま生き残っただけの存在。とるにとらない存在。
ダークエルフはそのドワーフの背に神の姿を重ねていた。その対象が異教徒でありその行為は神の侮蔑にあたることは知っていた。それでも、そうせざるにはいれなかった。彼は思い出した。最も蛮族である民族は人間ではなく、ドワーフであったということを。彼は気がつくとそのドワーフに祈りを捧げていた。




