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猛者-プレイヤー

 神官はその様子を見て笑った。

「見よ。下層の民は魔物モンスター共の進行を受けておる。良い様だ」

「しかし、神官様。いずれはあの化け物どもは上層にも来るのでは?」

「ぬう。そのときには我が軍がなんとかするわい」

「ですが、いまだ魔妨炉マジックジャマーは復旧の目途が立ちません」

「はよう、せんか!」

  上層、都市戦闘地区。

 フェアリスは下層の異変に気がついた。

「下層の様子がおかしい……まずい!魔物モンスターが街に侵入を始めている」

 怪我人の救護にあたっていたユミルの顔が青ざめていく。

「そんな。早く下層に行きましょう」

「ダメだ。魔導床エレベーターが動かない……」

「でもどうして魔物モンスターがこの街に」

妖精樹ユグドラシルから溢れ出る魔力におびき寄せられているのかもしれない。夏の火による虫のようにな」

「そんな、私たちはどうすれば……」

 下層。

 エルフの母親は我が子に恐怖を与えんと、子守唄を歌った。最後の瞬間はせめて、安らかにあって欲しい、そう願った故の、多くは求めない素朴な願いだった。

 エルフの子供は母の不安を感じ取り優しく言った。

「お母さん。悲しまないで。こんな時は勇者がやってきて、悪い魔物は皆やっつけてくれるってお父さんが言ってたよ」

 上層の戦場では敵味方違わず多くの血が流れ、仲間の骸の傍らで、涙が流れる。

 デルバートとシュライバーは互いに背を合わせ周囲の敵を一瞥した。

 魔妨炉マジックジャマー奪還のために魔術塔に旧装備のダークエルフの兵が押し寄せていた。

 その一人一人は決して強くはない。しかしその数が問題だった。

 襲い来る兵をただ斬り伏せていく。途方もつかない程に敵は迫っていた。

 下層。

 腹を空かせた魔物が民のすぐそこまで迫っていた。最早魔物の息遣いが聞こえ、その口から漂う吐き気を催すほどの腐臭を感じ取れる程に。

 母は瞼を閉じて、きつく我が子を抱きしめた。

 刹那。

 一筋の閃光が流れた。また一筋。そしてまた一筋。あたり一面で色とりどりの閃光が走る。その度に街に侵入していた魔物モンスターの肉体が崩壊し、消えていく。

 また一人、そしてまた一人と、絶え間なく、それはやってきた。

 ある者は重厚にして荘厳で、またある者は壮麗にして鋭利で、まるで統一制の無い、その一人一人が一騎当千の戦士。

 力に飢えた荒くれ者ども、戦士プレイヤーだった。

 閃光の正体は戦士プレイヤーの放つアーツから溢れるアウラ、命の本流だった。

 エルフの子供は笑った。

「見て!母さん。来たよ、勇者がやってきたよ」

 母親の表情は決して穏やかではなかった。彼女は知っていた。この者達が決して味方だとは限らない事を。この者達がただ本能の赴くままに戦う悪鬼のような存在であることを。

 礼拝堂チャペル

「報告します。下層に進行中だった魔物の反応が急激に消えていきます」

「一体なにが起きている?」

「これは……」

「何だ!早く言わんか」

「……無数の戦士プレイヤーを確認。人間です。凄まじい勢いで周囲の魔物を討伐していきます」

「なんたることだッ!」

 神官は歯を食いしばり、握った拳を机に叩きつけた。

 上層。

 フェアリスは言った。

「なんだ、これ」

 ユミルが問う。

「どうしたんですか」

戦士プレイヤーが来た。それもたくさん」

「どういうことですか」

「わからない」

 下層。

 ある戦士プレイヤー魔物モンスターを斬り伏せながら言った。

「大量、大量。すっげぇ魔物の数。こいつは狩り放題だな」

「いやっはー!!!爽快だな!」

「腕が鳴るぜ」

「で、一体どこだ。ボーナスステージってのは。まさかこれで終わりってわけはないよな」

「もたもたしているやつはおいてくぜ」

 ユミルは思考画面ウインドウを操作すると、驚きつつも言った。

「これを見てください」

 フェアリスは戦況を上手く把握できずに苛立っていた。

「なんだこれ」

「誰かが、このアルブヘイムの座標を公開して、ここでボーナスゲームが行われているというメッセージをKOG参加中の戦士プレイヤー全員に流したんです」

 無数のダークエルフを斬り伏せ、下層が賑やかになってきたことに気がつくとシュライバは言った。

「そろそろか。騎兵隊のおでましだ。デルバート引き上げよう」

「何?もういいのか」

「ああ。いいんだ」

 シュライバはそう言うと、懐から怪しげな紫の球体を取り出し、それを床に叩きつけた。するとみるみる内にあたり、紫の煙が上がって行く。

 デルバートは困惑する。

「なんだ、これは」

「青サソリの尻尾とクサリヘビの頭だよ」

 シュライバとデルバートはその煙に紛れて姿をくらました。

 荒れた下層の街を戦士プレイヤー達が疾走していく。その表情はまるで新しい玩具を与えられた無邪気な子供のようだった。

 戦士プレイヤーたちが、こちらに敵意がないことが次第にわかり始め、警戒していたエルフの女たちも立ち上がり、手を振り、声援を送り始めた。

 その全てを魔導鏡スクリーンで見届け、神官セオドルフは言った。

「撤退させよ」

「よろしいのですか」

「……よい。考えがある。人間どもめ。思い知らせてやるわ」

 エルフの造り出した理想郷、妖精街アルフヘイムはたった一夜にして、戦場に変わった。

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