表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/72

誇‐アルフヘイム

 決して数は多くない。それでも彼らには戦う理由があった。逃げられない理由があった。守るべき家族のために。失った祖国のために。失った誇りのために。

 男たちは、おう、と相槌をうった。そして武器を構えた。

 エルフの市民兵は無謀にも一斉に取り囲んでいるダークエルフの軍勢に向かって突撃を開始した。

 ダークエルフもまた攻撃を開始する。無情なる無数の色とりどりの魔弾が虚空を穿うがつ。エルフは雄叫びをあげながら幾百もの魔弾をその身で受ける。ユミルの詠唱で耐久力が上がっているとはいえ、一方的な攻撃をいつまでも食い止められるほどの効力はない。

 ランド兵長は言った。

「御逃げください。ローレイラ様。ここは我々がくいとめます。あなただけは絶対に守らねばならない。あなたがいればエルフはまた何度でも立ち上がれる。あなたこそが希望なんです」

「ランドさん!」

 ユミルはエレベーターを反転させようとするが、ダークエルフの魔力介入により固定され、下降ができない。

「そんな……このままじゃ、皆……どうすれば」

 防御力を強化されたエルフの兵士は必至に攻撃に耐えた。

 ダークエルフ達は、その屈強さに手をこまねいていた。

 そんな様子を遠くから退屈そうに横になって眺めているダークエルフの兵士が一人。彼は欠伸をした。

 そんな彼に部下である兵は言った。

「何故、戦陣に加わらないのですか?武勲をあげる絶好のチャンスではないですか」

「武勲ねぇ。男の価値はさァ。勲章の数で決まるのかい?」

「それは……どうでしょうか」

「彼らを見ろよ。あれは紛れもない真の男の姿だろ。アーブルだって賞讚するさ」

「そのような戯れごと、他の者に聞かれでもしたら、事ですよ」

「かまわないよ。俺は酔狂だから。こんないい場面シーンで、俺のような者が手を加えたら、せっかくの舞台が台無しじゃないか。俺にはそんな無粋なことできないね。そんなことよりも、この舞台がより一層面白くなるような、興のある奴か、綺麗なおネェさんがきたら教えてよ」

「全く。神衛師団アルブ・ラスールが一人、魔弓のルノー・バルトロマイの名が泣いていますよ」

「泣くのは女神であって、俺じゃァないさ」

 兵士は溜息をついた。

 戦況を覗いている者は彼らの他にもいた。

「何をやっている。引きなさい。私が出る」

 神衛師団アルブ・ラスールの一人。シモーネ・アルファイ。ダークエルフ側の兵士でありながら彼女の肌は白かった。彼女はエルフの少女だった。体は華奢で、軍服がまるで冗談のようだった。

 シモーネは他の兵の合間を縫って戦況のど真ん中に現れた。そして屈みこむと、大地に手を添え、目をつぶる。

 地面が揺れ始める。ただならぬ揺れに誰もが異変に気が付く。

 シモーネ・アルファイの姿に気が付いたダークエルフの兵士達は表情から血の気が引いていく。そして、慌てふためき、その場所から走り去って行く。

 揺れは大きさを増していく。立っているのがやっとといった程の大きさだった。

 やがてコンクリートで舗装された路面にひびが入った。

 コンクリートが砕け、そこから緑色のうねる触手のような物が無数に現れる。

 それが急成長する植物であると気が付いた者は少ない。それは多くの者にとって、対象を捕食する触手の化物でしかなかったからだ。

 触手の先端には円形に牙の並んだ口のような物が備わっていた。

 戦場フィールドでダークエルフの攻撃を耐えていたエルフ達を端から容赦なく、触手の化物が襲っていく。

 巻き取られ、払われ、叩き潰される。

 触手は敵味方、見境なく襲った。

 戦場を断末魔の叫びと、残悔の念が渦巻いていた。

 エルフの兵士は目に見えてに数を減らしていった。

 ただ護ることしかできない彼らになすすべはなかった。

 ユミルは目の前で、仲間たちが倒されていく中で、自分にはどうすることもできず、ただただもどかしさで胸が苦しかった。

 最早これは戦闘ではなく一方的な虐殺に近かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ