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廃棄物‐アルフヘイム

「すんなりは入れたな」

「当たり前だ。俺はエルフ一の剣士だぞ。どこにだって入れてもらえるさ」

「どうだかな」

(こいつのおかげで随分手間が省けたな)

  エレベータから街を見下ろす。街はどこか騒がしく、重装備の兵士や魔導機械ゴーレムが街中を行き交う。まるで戦いの準備をしているようだった。

 デルバートの表情が一瞬にして曇る。

「どうした」

「何故だ。何故あいつらがいる。何と戦うつもりだ。あれを見ろ。あの大規模な部隊の先頭にいる異質な兵士を」

「あれがどうかしたのか」

神衛師団アルブ・ラスール神官直属の部隊だ。それが全員揃っている。それぞれが周辺諸国の調査に行っているはずだったが。全員招集するとはな」

「強いのか?」

「強い。一人一人が俺と同等か、場合によってはそれ以上」

「だったら好都合だろ。そんな物騒なやつらにはどっか行っててもらおう」

「神官は本当に人間との戦いを始めようとしているようだ……」

「おい。ここで止めてくれ」

「ここか?このフロアは何もないぞ」

「今このフロアだけエレベーターの通る感覚が一つ長かった。フロアを一つ分とばした可能性がある」

 廃棄物処理エリア、そう表示されている。

 エリアを降りると、血相を変えた研究者がやってくる。

「どうしたのですか?デルバート様。このような場所、ただのゴミ捨て場ですぞ。こんなところよりももっとよい場所がありますぞ。そうだ開発中の新しい兵器を御覧にいれましょう」

「よい。俺は剣以外に興味はない。それに俺はこのフロアに用があるのだ」

「困ります。ここから先へは、神官様の許可がなければ通すことはできません」

「なぜ廃棄物処理エリアに入るのに神官の許可がいるんだ」

 研究者はばつが悪そうに黙ったまま困っている。汗の量が異常だった。明らかに何かを隠していることは間違いないだろう。

 デルバートは研究者を押しのけて先を急ぐ。

 研究者は慌てて人を呼びに行こうしたので、シュライバはそれを首根っこをつかんで制止する。

 デルバートは言った。

「そんなやつどうするんだ?」

「ああ。つい反射的にな。まぁ弾避けくらいの働きはしてくれるだろう」

 それを聞くとデルバートは鼻で笑った。

 行く手は魔法陣の描かれた、分厚い金属製の壁に阻まれた。

 デルバートは言った。

「結界壁だ。正しい呪文を唱えなければ解除することはできない」

 デルバートは研究者の喉に剣を突き付けると言った。

「この結界を開けろ」

「それはできません」

「ならば、ここで死ね」

 デルバートの様子がおかしかった。この扉の厳重さといい、研究者の異常なまでの反応。

デルバートは自分の知らないところで、この街で何か、よからぬ事が起きている嫌な予感を感じ取った。曲がったことを嫌う彼はその正体を確かめるまでは帰らない覚悟をした。

 その覚悟と気迫に負け、研究者は結界壁に呪文告げる。

「全ては、アーブルの御心のままに、尽くしたまえ」

 結界壁は光を帯びて、魔法陣の刻まれた通りに、まるでパズルが解けていくように開閉していく。

 そこにひとつの扉が生じる。

 扉の先は闇が続いていた。



 ユミルはローレイラと少数の兵士とともに上層へ向かう支度を済ませると魔導床エレベーターの前に向かっていた。

 少数の兵に限定したのはこれが、あくまでも救出作戦であって、大規模な戦闘は想定していないという意味だった。これはフェアリスが譲らなかった。フェアリスは犠牲を最小限にとどめたかった。

 しかし魔導床エレベーターの前には予想を裏切る光景が広がっていた。

 武装蜂起したエルフの市民が既に集まっていた。

 反乱軍のローレイラが立ち上がったという情報は下層に瞬く間に広がり、それを聞きつけ、蜂起した市民が集っていた。

 フェアリスは頭を抱える。

「おい。話が違うぞ。なんだこれは」

 ローレイラも困惑していた。

「私も驚いています。こんなはずではないのですが」

 市民が口ぐちに言った。

「俺たちも戦わせてくれ。このままで終わってたまるかよ」

「子供たちを守りたいんだ」

「あなただけに全てを押しつけるわけにはいきませんよ」

 ローレイラは瞳に涙を溜めたが決してそれを流さなかった。

「皆、ありがとう」

 フェリスは呆れる。

「私の考えた作戦はパーなんだが」

 ユミルは励ますように言った。

「いいじゃないですか。こんなにたくさん、心強いです」

 フェアリスの表情は暗かった。

(何かひっかかる。情報はどっから漏れたんだ)

 武装したエルフの軍勢は魔導床エレベーターで上昇していく。

 その装備は急ごしらえで、大半は農具であり決して戦えるような代物ではなかった。それでも彼らの瞳には闘志が宿っていた。エルフは元来誇り高い種族であり、彼らはその誇りを取り戻すために今立ち上がった。

 ゆっくりと上層に上がった彼らを待っていたのは、美しい上層の景色を埋め尽くすほどのダークエルフの軍勢だった。

 フェアリスは俯いたまま、奥歯を強く噛み締めた。

「撤退だ」

 エルフ達は呆気にとられ、自分たちの置かれている現状を理解できていない。

 フェアリスはローレイラに向けて言った。

「すぐに撤退させろ」

「何故こんな」

「罠だったんだ。市民を集めたのも、ここにこさせたのも、全部予想されてる。お前らの中に、裏切り者が紛れ込んでるんだよ」

 ダークエルフの軍勢に包囲され、ローレイラの思考は停止した。指揮官を失ったエルフの市民軍は従うべき指揮官を失った。

 誰もが失意の中、たった一人、まだ諦めていない少女がいた。

 決して秀でて強くはない。それでも諦めたくない、ここで諦めれば、あの人に顔向けができない、そんな思いが彼女を強くする。

 ユミルは詠唱の体勢を整える。

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