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抵抗‐バッドモーニング

 瞼を照らす陽光で目が覚める。

 当たり前のように朝は来る。

 誰に向けて言うでもなく、ただ自然に、また朝が来た、と嘆く。

 朝食がすでに用意されていた。

 スクランブルエッグと、ベーコンと目玉焼きの乗ったトースト。

 空腹ではあったが食欲が湧かなかった。

 トーストを口に運び、咀嚼する。触感以外の物は感じない。いつからか、食べ物の味がしなくなった。

 叔母さんから映像メッセージが届いていた。

 愛想良く、造り笑いの返事をかえす。

 薄紫の空。雲が陽光を受け金色に光っていた。

 乾いた空気。

 あえて早く家を出た。

 そうすれば、より人とすれ違わなくて済む。

 外はまだ人がいなくて、鳥のさえずりだけが聞こえていた。

 誰もいない教室。

 机に突っ伏して足りない分の睡眠をとる。

 やがて、クラスメイトが登校を始める。

 上辺だけの友人と、上辺だけの会話をする。

 教室の中は、気圧が低い。

 みんなが楽しそうに笑う。

 みんなが笑っているから、真似をして笑う。

 自分と皆では気圧が違う。

 次第に呼吸が苦しくなる。

 授業が終わると、トイレの個室に駆け込む。吸入器で薬を吸う。しばらくあいて呼吸が整った。

 今日一日のカリキュラムを終える。

 クラスメイトが挨拶を交わして帰って行く。

「じゃ、また明日ね」

 そう言われて、咄嗟に笑顔を作って手を振った。

 笑顔を返した相手が誰なのか、自分では理解ができていなかった。

 いつからか人の顔を認識できなくなっていた。だから声と話し口調で、相手を判断している。

 そのことが苦痛の原因ではない。

 ただ、自分が、この空間で置き去りにされている事実が、とんでもなく苦痛だった。きっと自分は、社会に馴染むことのできない人間なんだろうといことを認めたくなかった。

 だから、食べ物から味が消えるほどの、人間の顔を認識できなくなるほどの呼吸が困難なほどの、極度のストレスを感じても、学校に来ることを選ぶ。自分が社会で必要のない人間だということに抵抗したかった。

 それでもどうしようもなく苦しい時には、ヘッドホンで音楽を流す。その瞬間は、自分と教室が切り離される。そんな気がした。

 ただ過ぎていく時間。ただ、ぼんやりと時が断つのを待っている。

 淡く緩い単調な日常。

 淡く緩い単調な地獄。

 この瞬間も、時間は流れ、ゆっくりと死んでいく。

 いつもとかわりない生活。

 あたり前の生活。

 つまらない生活。

 家に帰る。

 紫の夕暮れ。

 無機質なメタリックのゲーミングチェアに体を預ける。

 幻想の世界が始まる。

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