脱出-アルフヘイム
情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。
持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士たちが、集い、覇を競い合う。
ユミル達の乗った、魔導二輪は美しいアルフヘイムの都市の合間を縫って飛行していた。
中世の都市と現代の都市が絶妙に調和した都市。
建造物と建造物のに架けられた無数の橋をくぐり、魔導列車と並走し、浮遊施設を回避しながら飛行する。
後方から敵の魔導二輪が追ってくる。魔弾を放ち、追撃を続ける。
ユミルの乗った魔導二輪が激しく振動する。
つたない操縦でかろうじて逃げ続けてきたが、敵の放った魔弾を受けて魔導二輪は黒煙を上げる。
ユミルの乗る魔導二輪は煙をあげよろめきながら神殿の魔導床を通り墜落していく。
下層にきた途端、魔導二輪のエンジンが唐突に止まり、コントロールを失う。
墜落していくユミル達のバイクを見届けると、追撃することなく、敵の魔導二輪は引き返していく。
かろうじて下層、エルフの里に不時着をする。
「無事か?」
「なんとか生きてます」
不時着した魔導二輪を痩せたエルフの兵士が槍を持って取り囲んでいく。
ユミルは怯えながらも短剣を取り出し構えた。
兵をのけるとエルフの兵長ランドが現れ、彼は言った。
「ついてきなさい」
そして彼は背中を向け、歩いていく。
不思議そうにユミルはフェアリスと顔を見合わせる。
彼は振り返ると言った。
「何をしている。早くしなさい」
ユミル達は仕方がなくエルフの兵長の後について行くと、彼らの家屋のなかに案内された。
家屋の床を開けると隠し通路になっていた。
案内されるがままに地下に続く階段を下る。
その先には狭いながらも生活のできるだけの空間と物資の用意された部屋があった。
彼は言った。
「すまない。君たちは我々の子供たちを救ってくれたにも関わらず、このようなことになってしまって」
そう言って彼は鎧を外していく。彼は言う。
「一緒にいたあの少年は?」
ユミルは俯いたまま答えない。
「そうか。すまないことをした」
兵長ランドは涙を流しながら言った。
「改めて礼を言わせてくれ。子供たちを助けてくれてありがとう」
兵長ランドは「私がしっかりしていれば」と言ってそのまま泣き崩れてしまう。
奥の部屋から美しい風格のある女性のエルフが現れると兵長の肩に手を添えて言った。
「私はローレイラ。下層のエルフの反乱軍をまとめる者です。話の続きは私がします」
彼女は遠い目をしながら、辛酸を舐めるように話を始めた。
「あの子たちは人柱なのです。妖精樹の生贄に選ばれた子供たちだったんです」
「生贄?」
「そうです。妖精樹は我らの先祖達が造った装置で魔導炉が搭載されているのです。魔導炉は魔力を増幅させる力はありますが、その物に魔力を発生させる機構がないため、一定期間毎に生贄を出さなければ妖精樹は止まってしまうんです」
フェアリスは言う。
「だからって子供たちを生贄にだすのか」
「代われるものだったら代わっています。好きで子供たちを生贄にだしているわけではありません。ダークエルフは労働力である大人は生贄にはだすなと言っています。私たちは上層のエルフの隙を見て子供たちを逃がそうとしました。しかし霞は深く魔物で溢れています。到底無理な話でした。子供たちは、上層の儀礼室に幽閉されてしまいました。これはていのいい口減らしなのです。私たちが長命すぎるための。情けないことに私たちは彼らに逆らうすべがありません。もう100年もこの状態です」
「100年!?」
「いや、そういう設定だろ」
「100年前の大戦で我らは敗北し皇族はすべて処刑され、今の隷属状態になったのです。我らが使えるのはこの槍と弓ぐらいのものです。こんなものは所詮気休めにしかなりません 彼らには魔法がある。どうやっても歯が立ちません。」
「おかしいですよ。業を見る限り彼らエルフも、ダークエルフ同様魔術の特性をもっています」
「そんなわけがありません。現に我々は魔法が発動できた試しがありません」
フェアリスが言う。
「それは上階層にある魔術塔から魔導妨害が発せられているからだろう。だから、エアバイクは下層にきた途端動かなくなったんだ。敵が追ってこなかったのもそそれが原因だろう」
彼が目を覚ますとそこは意外にも豪華な装飾の施された、見知らぬ部屋の中だった。
聞いたことのある声がした。
「目が覚めたか人間よ」
シュライバは柔らかいベッドから起き上がるとデルバートに言った。
「なんなんだこの茶番は」
「恩人を殺すわけにもいくまい。あの場を治めるためには貴様を倒す必要があった。だから急所をはずし昏倒してもらうことにした。貴様は私の息子の恩人だからな」
「何言ってんだ。あの子供たちは全部、白かったぞ」
「つまり、そういうことだ」
「……いや、わからん」
「遥か昔、我々ダークエルフとエルフは互いに同じ立場で暮らしていたそうだ。私はそれを望んでいる。私は下階の民、ローレイラと共に人生を歩みたいのだ」
「ハァ?じゃぁあの子供たちの中にお前とエルフの隠し子がいたってことか?というか説明が下手だなお前」
「まぁそういうことだ……」
「どうするつもりなんだ?」
「これは我々の問題だ。貴様には関係はない。時が来ればお前は帰れる。お前はただそれを待っていればいい」
「そんな裕著なこといってられないんだよ。あんたはこの現状を変えたいのか」
「そうだ。俺はすべてのエルフが互いに幸せに暮らせる、そんな街を望んでいる。それには神官セオドルフをどんな手を使ってでも倒さなければならない。俺はそのためにこれまで剣の腕を磨き、最強の域に達した。しかしそれでも、まだ遥かに神官セオドルフの力にはおよばないだろう」
シュライバは言う。
「俺に考えがある」
聖砦の森東端部。
結界の解除を待つ戦士たちはただ過ぎる時間を持て余していた。
「おい。あいつの武器を見ろ」
「あの赤い長髪の野郎か?」
「それがどうかしたか?」
「おまえ、知らないのか【十三の極端・グングニル】を」
「あいつがそうなのか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「闘ってみばわかるか」
「おい。あんたその槍。十三の極端なのか」
「ん?誰。あんた」
「誰だろうと関係ない。俺の質問に答えろ」
「もしそうだったとしても、それこそあんたには関係ないだろ。あんたじゃ到底歯が立たなさそうだ」
「ほう。だったら是非とも手合わせねがいたいね」
紅い槍撃士は溜息をつく。
「俺は利益の無い戦いはしたくないんだよ」
「ごたごたうるせぇやつだ」
戦士の男は痺れを切らし剣を抜く。
剣を抜ききり、斬りかかろうとしたその時、彼の首が地面に転がった。残された体が遅れて倒れる。地面に横たわる体が細かい情報片となって散っていく。
紅い槍撃士は振った槍を地面に静かに立てると詰まらなさそうにその光景を見届ける。
戦士の骸を踏み抜くように次々に他の戦士が集まって行く。
「どうやらただものじゃァないようだな。あんたを倒せば拍が付く。是非とも俺とも手合わせねがいたいね」
紅い槍撃士は呆れたように深く溜息をつくと言った。
「面倒だから一度に来いよ」




