決戦‐アルフヘイム
情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。
持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士たちが、集い、覇を競い合う。
聖砦の森最東端。
戦士達はエリアの端まで到達していた。しかしエリアの端部は何らかの結界により守られ、先には進むことができなかった。
「おいおいどうなってんだ」
「これじゃぁ先に進めないぞ」
「やはり、さっきの霞を抜けなければいけなかったのか」
「おそらく条件解除が必要なんだろうな」
「マジかよ。なら俺たちの出る幕はないな。だったら、俺はその辺で眠って結界が消えるのを待つよ」
「誰かが上手くやればな」
「なんだよ。悲観的だな」
「この人数を見ろ。どいつもこいつも霞を抜けずにきてしまった。一体何人の戦士が霞の先にたどりつけたのか。もし辿りつけた者もそこで消滅したとしたら」
「永遠に結界は開かないってわけか。だったら今更戻るのか?」
「どうしたものかな」
アーブル神像の見守る中、礼拝堂の中は一色即発の状態に陥っていた。
祈りを捧げに来ていた無数のダークエルフがその手に魔術を発動させ、シュライバーたちを取り囲んでいた。
シュライバは剣を構え、周囲を見回す。
フェアリスが笑いながら言う。
「絶対絶命だな」
「ああ。なんとかしてくれ」
ユミルがシュライバの背後に隠れながら言う。
「ど、どうするんですか?」
シュライバは格納を操作しながら言った。
「合図したら目を瞑れ」
シュライバの掌の上に機械仕掛けの橙色の球体が生じる。
ダークエルフ魔法陣を展開させながら、じりじりと歩み寄ってくる。
シュライバは言う。
「いいのか?神様の前でこんな物騒なことして」
神官は言う。
「アーブル神は軍神なのだよ」
「なるほどな。どうりで好戦的なわけだ」
シュライバは機械仕掛けの球体を礼拝堂の中心に向けて放り投げると言った。
「今だッ!」
機械仕掛けの球体は空中で炸裂すると周囲に眩い閃光が広がる。
ダークエルフ達は爆弾だと誤認し、一斉に伏せる。
シュライバはユミルの手を取って走り出す。建物内を一心不乱に走り出す。
フェアリスは言う。
「お前も芸がないねぇ。閃光弾投げてばっかだな」
「お前から教わった戦い方の中で一番役に立ってるよ。フェアリス。自動マッピング機能を展開」
「ああ?しょうがねぇな。どこに向かう」
「格納庫まで全速力で案内しろ」
後方からは次々にダークエルフが追ってきていた。
次々に火球が飛び交い、閃光が放たれる。
「やってくれるよ。ユミル!なんか反撃してくれ」
「え!?すいません私は補助職業なので攻撃はちょっと……」
「マジかよッ!」
(こういうときにリリィがいればな)
(こういうときにリリィさんがいてくれたら)
「見えてきたぞ!この先だ」
シュライバ達の行く手を阻むように現れたのはダークエルフの剣士だった。
一瞬で空気が張り詰める。
シュライバは未熟ながらに相手が、ただ者ではない事を悟った。
シュライバは剣を抜くと言った。
「先に行け。後から行く」
「そんな。シュライバーさんを残して先には行けません」
「いいから行け!」
フェアリスは言う。
「行こう!あいつは大丈夫だ」
(あれッ!?お前も行くの!?)
ダークエルフの剣士は言う。
「勇ましいな。人間の戦士よ」
「まぁな。ゲームの中でくらい、いい格好させてもらわないとな」
「俺の名はデルバート。アルフヘイムで最強の剣士だ」
そう言ってデルバートは剣を抜く。鞘から黄金の装飾剣、妖聖剣の刀身が現れる。
「この剣はドワーフの名工テルハンによって鍛えられた剣。代々エルフ最強の剣士のみが持つことを許された名誉ある剣だ。この剣で斬られることを光栄に思うがいい」
(うわぁ。とんでもないのが相手じゃねぇか。ここはなんとしても、こいつを出し抜かねば)
「俺の名はシュライバ。人間界最強の男だ」
「ほお。言うではないか。その力。存分に奮うがいい」
シュライバは格納を操作する。
機械仕掛けの橙色の球体を取り出し、デルバートに投げつける。
(こういう馬鹿真面目なやつは絶対ひっかかる!)
デルバートは一瞬不敵な笑みを浮かべた。
デルバートは橙色の球体が炸裂する前にきり伏せてしまった。
地面に両断された二つの球体が転がる。
「芸がないな。人間。貴様の戦い方はもう報告を受けている」
「へぇ。やるじゃん」
(やっべええええええ!)
ユミルは魔導二輪に跨ると。ミラー越しに剣を撃ち交わすシュライバとデルバートの戦いを心配そうに見つめる。
フェアリスもまた、それを心配そうに見ている。
ユミルは手を握り合わせ詠唱をする。
「大地を撫でる疾風の如く。戦士に風の加護を」
唱え終えると、ユミルは魔導二輪のアクセルを全開に回した。
テールブースタから青い魔導波が放射され、魔導二輪が発進する。
美しいアルフヘイムの上層都市の空を疾走する。
ユミルは問う。
「シュライバさんって強いんですね」
「ああ。あいつか。めっちゃ弱いぞ」
「え!?だってあんなに強そうなこと言ってたじゃないですか」
「あれはな。私が教えた戦い方だ。あいつは自分に自信がないからな。それをごまかしながら、さらに相手の動揺も誘おうとしているんだ」
「そうなんですね。でもすごいです。自分よりも強い相手に立ち向かうなんて」
「そうかもしれないな」
後方から数代の魔導二輪が追従する。
騎手が魔術を使い色とりどりの閃光を放つ。
ユミルはアクセルを全開にしたまま全速力で加速する。
「これッどうやって運転すんんですか」
「ハア!?乗り方しらないのか?」
「はい!知りません!」
「マジかよ!私も知らないぞ!」
「え!?」
魔導二輪は不安な操縦のまま、爆走を続ける。
シュライバを取り囲むように次第にエルフの兵が集まって行く。
デルバートは言う。
「待て。これは私の戦いだ。お前たちの手出しは無用だ」
シュライバーは剣を撃ち交わす度に、力量の差を感じていた。
(この強さ、尋常じゃない。普通に戦ったら、まず勝ち目はない)
「どうした人間。この程度が貴様の力か。手加減などせず最初から本気で来ればよかろう」
(もうすでに全力だっつの!)
その刹那、シュライバの体を移動特化の力が包む。
「ほう。この光、風の魔法か」
(ユミルか?これならいけるか)
移動特化の力に包まれたシュライバーが床を蹴る。
シュライバはまるで自分の体が羽根になったかのような錯覚を覚えた。
シュライバの動きは残像を残すほど速く、自分でもその速度を把握しきれなかった。
慣れないながらも、加速し、デルバートの死角、後方へ回り、斬撃を加える。
斬撃は鎧により遮られるが、確かにダメージを蓄積していく。
すかさずデルバートが、剣を振るうが既にその場所にシュライバの姿はない。デルバートがシュライバの姿を探そうとしたその矢先、デルバートはその背中に斬撃が加わる。
「こいつ、背中ばかり狙いおって、卑怯だぞ」
「死角からの攻撃は戦闘における基本だろ」
軽口を叩きながらシュライバは斬撃を加え続ける。
やがて、デルバートは膝をつき剣で体勢を保とうとする。
(よし。このタイミングだ)
シュライバはデルバートの背を蹴って加速すると、魔導二輪へ向けて駆け出す。
魔導二輪まであと一歩だった。
シュライバは体に重い衝撃を覚える。咄嗟に体勢を整える。
(この衝撃は、間違いなく斬撃。なぜだ!?)
「魔法であれば我らダークエルフの得意分野だが」
詠唱を終えたデルバートの体を移動特化の力が包みこみ、高速移動をするシュライバの動きに追従する。
シュライバは歯を食いしばると一心不乱に剣撃を放つ。
デルバートはそれを冷静に受け流す。
傍からは人知の及ばぬ、高速の剣撃が撃ち交わされる様が見て取れた。
やがて、シュライバを包んでいた移動特化の力が失われる。
後から魔法を発動させたデルバートは未だに移動特化の力に包まれている。
シュライバは持っていた紅剣を撃ち払われる。
デルバートは言った。
「ここまでだな。悪くなかったぞ。人間」
デルバートは妖聖剣をシュライバの腹に突き立てた。
シュライバは力無く、膝から崩れ落ちていく。彼は遠のいていく意識の中で、必至に紅剣に手を伸ばすが、その手は届かなかった。
KOG予選開始から2時間が経過。
犠牲者は750人。
ゲームは膠着状態に陥った。




