王都近郊:道のりはかくも遠けり
情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。
持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士たちが、集う。
あるところに、力を持たぬ男がいた。
俺はフェアリスに聞いた。
「最近全然アイリスと連絡とれないな。どうなってんだ?」
「さぁな。マスターのことだ。何か理由があるんだろ」
「理由って、どうせギャンブルだろ。まぁいいや。今日も頼むぞ。フェアリス。俺は強くなりたいんだ」
「強くなるって、お前、めちゃくちゃだからな。しょうがないな。あれやるか」
世間はKOG一色だった。
誰もがKOGに向けて、調整、準備を整えていた。メディアはこぞって出場者の情報をリークしていた。なんだかヤバそうなヤツらが続々、KOG出場を表明しているそうだ。
メディアはもう一つの大きな情報で賑わっていた。
俺はよく知らないんだけどsieluってアーティストの失踪だ。彼女が突然全ての予定をキャンセルし姿を晦ましているという情報でメディアはもちきりだ。
トップアーティストだったそうで、仕事は引っ張りだこだった。それが突然いなくなったものだから業界内は混乱しきっているらしい。
ただそれが、ある意味で宣伝効果になって今、彼女の曲は物凄い勢いでダウンロードされているそうだ。皮肉なものだ。
世間を賑わしている情報はもう一つある。
KOGの出場条件が、開催までロストしないことだと定められたことと、直接の原因がるのかわからないが、有力選手に対する、「辻斬り」行為が横行しているらしい。それを受けて、プレイヤーたちはKOGを前に互いに警戒しあうようになっていた。有力選手に限らず、今ここでロストをするわけにはいかないからだ。
王都周辺草原。
フェアリスは言う。
「よし。じゃあ、まずはだな。あれを拾え」
「は?なんで」
「いいから拾え」
大きな溜息をつきながら、草を引き抜く。
《三日月草を手に入れました》
「で?拾ったけど」
「よし。じゃぁ。そうだな、次はあれを拾え」
「は?」
「いいから。拾え」
溜息が洩れる。
《三日月草が手に入りました》
「三日月草どんだけとれんだよ」
「だから捨てんじゃねぇよ!拾え」
「なんなんだよ!さっきから草むしりさせやがって。何が悲しくて、こんな広大で壮大なフィールで草むしりしなきゃなんねんだ」
「あのなぁ。これはゲームでの基本中の基本だ。今何をしているかというとな、薬草を探している」
「薬草ってあの薬草か?」
「そうだ」
「体力が回復するあの薬草か?」
「そうだ」
「いや。そんなもん、こんな、その辺に生えているわけがないだろ」
「ハ?」
「いや、だって薬草だぞ。専門的な知識を持つ仙人的な何かが山の奥深くで探すもんじゃないのか?」
「なんなんだ、お前のその薬草に対する大それたイメージは。いいから黙って拾え」
「またまた。お前は俺をからかっているんだろう。そうはいかないぞ。こんなもん普通の草にきまってるだろ」
そう言って俺は草を引き抜く。
《薬草を手に入れました》
「薬草あったぁああ!?」
「な。あっただろ」
「いや、おかしいだろ。こんなもん。お前、医療革命じゃねぇか。世界中の人々が救われるだろうが」
「何言ってんだお前。だいたいそんなもんなんだよ。ゲームってのは」
「なんだよ、その辺に生えてるって。もっと夢のある設定にしろよ。わかったぞ。これアレだろ。ここは薬草畑的な何かなんだろ。それで一時間いくらで取り放題的なあれだろ」
「シュライバー。安心しろ。全部タダだ」
「そ、そんな、馬鹿な!こんなことがあっていいのか。待てよ。おい、じゃぁ街で売っている薬草は、アレあいつらがその辺で取ってきたヤツを売ってるってことか?」
「いや、私はその辺の店の商品の仕入れ関係の事情までは知らないぞ。ただ、中には自前の畑を持つプレイヤーもいるそうだ」
「な、なんてボロい商売なんだ。いや、そんなことより、だったら俺がいままで店で薬草買ってたのは全部無駄金だったってことじゃないか」
「いや、そこまで言うほどでもないだろ。第一、薬草なんて10本セットで壱$ぐらいで売ってんだろ。それに店で買えば、フィールドで薬草を探し、拾う手間も省けんだろ」
「何故だ。何故その程度の手間を惜しむ」
「この世界はな、一刻を争うんだよ。お前が薬草一本拾う間に、他の奴はな、モンスターを一匹倒しているかもしれないんだぞ」
「それもそうだな。やっぱりこんなことしてる場合じゃないじゃないか」
「いいから。とりあえず、まずは10本拾えって」
「なんだよ。拾えって言ったり、拾ってる場合じゃないって言ったり忙しい奴だな」
「いいからもう、黙って拾えよ面倒くさいやつだな」
溜息をつきながらその辺の物を手当たり次第に拾っていく。
こうしてみるとフィールドには様々なアイテムが落ちていることに気がついた。
俺は聞いた。
「なぁ。ここにある物、全部タダなのか?」
「当たり前だろ」
「そうだったんだな」
俺はその辺に転がっている石ころを拾った。
「なぁ。これは何だ?」
フェアリスはまじまじと見ると、それを捨てた。
「おい何すんだ。勝手に捨てんじゃねぇ」
「そんなもんタダの石ころに決まってんだろ。いらねぇだろ。そんなもん。さっさと薬草拾え」
「なぁ。これは何だ?」
「ああ。虫の死骸だ」
「気持ち悪っ」
「こっちに投げんじゃねぇ。殺すぞ」
「なんでそんなもんが落ちてんだよ。せめて生きてろよ」
「知らねえよ。だいたい拾った感じで気がつくだろ。あーこいつ死んでるなーって。いいから薬草拾えよ」
「ふー。やっと10本拾ったぞ。それでどうするんだ」
「よし。帰るぞ」
「は?まだ草むしりとゴミ拾いしかしてないんですけど」
「いんだよ。いいから黙ってついてこい」
王都、冒険者協会受付。
フェアリスは言う。
「渡してこい」
「え!やだよ。俺がせっかく拾ったんだから。自分で大切に使わせろよ」
「いいから!渡せアホ」
無理やりフェリスに薬草を渡される。
協会の受付のお姉さんは言った。
「お疲れさまでした。またのご利用をお待ちしております」
そう言うと彼女は参$を俺に手渡した。さらに微量ながら経験値まで手に入る。
「ええ!なんだこのシステム。壱$相当の物が参$で換金されるってどうなってんだ」
「これは協会の用意した基礎訓練プログラムの一環だ。ド素人向けの教育プログラムだよ。これを順々にこなしていけば、いくらお前のような雑魚でもまぁまぁな雑魚ぐらいにはなれるってことだ」
「結局雑魚じゃねか」
「今よりはマシだ」
溜息をつく。
フェアリスは言う。
「次はキノコ狩りに行くぞ」




