挑戦者-チャレンジャー
情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。
持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士たちが、集う。
あるところに、野心に溢れた少女がいた。
彼女の一挙手一投足にメディアの関心が集まる。
彼女あてに何万ものコメントが押し寄せられる。それは、テレビ番組であったり、雑誌の記事であったり、ファンのものであったり、その全ては把握できない。それにアシスタント達が代わりに答えていく。
彼女の家には専用の部屋がある。
彼女の支援者であり雇主でもあるSANTENDOからの支援だった。
支援者は彼女のためであればなんだって支援する。家であろうと車であろうと船であろうと飛行機であろうと。
それだけの資金を講じるだけの価値が彼女にはあった。
彼女が一つの試合を行うと、それで得られる莫大な賞金など、実際には比較にならないほどの経済効果が働く。
支援者は対価を得る。
彼女をよく知る者は言う。
「彼女が出る大会には出ません。だって彼女がでる大会に出てもタイトルは取れませんから」
「彼女より強いプレイヤーを知りません」
「だって彼女は、あの全盛期のドラッグキングを無名の時期に倒したんですよ」
「私は心配していましたが彼女はまるで危惧していませんでした。彼女は笑いながら言いいきりましたよ。あれがチャンピオンだというのなら、このゲームは高が知れている。自分にはなんで君が負けたのかわからない。チャンピオンの戦い方はただのボタン連打だってね。彼女は言った通りにチャンピオンを倒してしまった。その時、私もまた引退を決意しましたよ。今は彼女のファンの一人です。彼女こそが、真のプロゲーマーですよ」
彼女には、目標がある。彼女にはやらなければならない事がある。彼女には倒さなければならない男がいる。
彼女はおもむろに訓練用のプログラムを作動させる。
彼女のために作られた、彼のための調律されたプログラム。名を「ナイトヘッド」という。
「ナイトヘッド」は脳に干渉し、意図的に精神の極限状態を作りだす。
「ナイトヘッド」の中で設けた設定に達しなければ、脳が死を錯覚するようプログラムされている。
「ナイトヘッド」を使用すると、極限状態における自己の限界を引き出す訓練が行える。
短時間で、より多くの成果、経験値を引き出すことができる。その代償として、精神が摩耗し消耗する。
常人であれば、一度の使用で、48時間程度の昏睡状態に陥る。
彼女もまた、「ナイトヘッド」による、死を錯覚すれば48時間もの昏睡状態に陥ることとなる。失敗をすれば、その分だけ、訓練を行えず、他に後れをとる。
それが「ナイトヘッド」だった。
ただ彼女はまだ、昏睡状態に陥ったことがない。
決して目標を低く定めているわけではない。
彼女は使うたびに目標を更新している。
彼女は使うたびに成長し、目標を更新し続けている。
彼女はまだ、満足のいく戦いをしたことがない。
彼女は渇望している。
自分が熱くなれる戦いを。自分がどこまでいけるのかを知りがっている。
自分にはどこまで可能性が残されているのかを知りたがっている。
彼女にとってこれは、自分への挑戦だった。




