弓撃士-アーチャー
情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。
持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士たちは集う。
ある女がいた。彼女は射場にいた。
朝起きると、彼女は弓を射る。
食事をとり終えるとまた弓を射る。
来る日も、またその明くる日も、ただ、ただ弓を射続ける。
目が覚めて、また眠るまで、必要最低限の生きるための行為を除いて彼女は弓を射続ける。それが彼女の人生だった。
彼女は先進国に生まれた。ごく普通の環境、家庭に生まれた。ただ、彼女の血縁を辿ると、確かに狩猟民族にたどり着く。そして彼女の父がたまたま、銃ではなく、弓での狩りを趣味にしていたことが影響している。
その二つの偶然が、たまたま、彼女に作用し、彼女の興味の大半がそこに注がれた。
彼女は5歳から、弓をとり、いつの日か、某国を代表するアーチェリーの選手となった。
そして全世界のスポーツの祭典オリンピックにおいてゴールドの称号を持つ者となった。
彼女にはこれまでに、何一つ疑問はなかった。
それは唐突だった。何がきっかけになったのかもわからない。だが、あるときに、彼女に芽生えた疑問は彼女の人生に重大で、明白な問いかけとなった。
「私はなんのために弓を射るのか」
平静で、波一つ漂っていない、水面に落ちた、一滴の水滴は、瞬く間に彼女の思考に、心に、響き渡り、浸透し、答えを求めた。
彼女は答えを求めるために、弓を射るようになった。
前にも増して、弓を射る。的を射る。
彼女はこの答えが見つからなければ、次の大会にはでないつもりでいる。
そんな彼女の中で、一つの可能性が芽生えた。
ある日彼女は弓の手入れをするために、街に来ていた。
しばらくぶりに見た街の景色。
開発が進み、建造物は大きく、前に来た時よりも、街は無機質に感じられた。
そんな中で、唯一彼女の心をとらえて、放さないモノがあった。
それは巨大な建造物に設置された大型スクリーンに映し出される、一つの映像だった。
ナイツオブワンダーランド。情報の海に生じた楽園にして戦場。
それは些細な広告だった。
でもそれは、運命だったのかもしれない。何種類も存在する職業の中でその時、その一瞬において、たまたま弓士の映像が流れていた。
明確で、明白な理由は分からないが、情報の海、幻想の世界で戦う弓撃士の姿を見たその瞬間から、彼女はそれが自分の問いの、答えの一端に思えてならなかった。
その日から、彼女は新たな「世界」において、弓を引き始める。




