感染‐ナイトメア
地下闘技場はナイツ・オブ・ワンダーランドの中に存在する。
表向きには、地下闘技場の担当部門だけはその管理をシンガポールの子会社に委託している。
日本の法律の外、治外法権が適応される。
そこでは日々、饗宴の宴が開かれている。
プレイヤーとプレイヤーが互いの命をかけて殺し合う。
敗者には死が訪れる。
勝者には大金が転がり込む。
観衆は金を賭ける。
ゲームであるはずのこの空間では、プレイヤーの死が現実の死となる。
厳密には脳死状態に陥る。
俗に言う「永久落」と同じ症状が見られる。
この「永久落」を引き起こすメカニズムの正体は人間に感染する「情報感染」にある。
情報端末と人間の脳をつなぐことで操作をするこのゲームシステムは、情報端末による人間の脳へ機械的な干渉すら可能とする。
このコンピュータウイルスの名は「ナイトメア」と呼ばれた。「ナイトメア」は感染者の脳に侵入し、ゲームでプレイヤーがロストした瞬間に特定禁止電子医薬品である「パラノイア」が致死量分泌される。
脳が許容不可能な刺激を受け、脳の命令が肉体と分断され脳死状態に陥る。
地下闘技場に参加するプレイヤーにはこの「ナイトメア」が強制インストールされることとなる。
その瞬間からプレイヤーはゲームの中での死が現実の死となる。
そしてこのウイルスは今、変異をはじめている。
元々「ナイトメア」には感染能力はない。
それがやがて、偶然かそれとも人為的か、その詳細は不明だが変異を起こした。
結果、「ナイトメア」に感染したプレイヤーが外の世界に出ることで、しだいに「ナイトメア」は拡散をはじめている。
これがコズミックフロント社の内部にいる仲間が手に入れた情報。
ダリアからもらった。手紙にはそう書いてあった。
シュライバーは麻布でできた茶色のローブを目深にかぶると、真相を確かめるために、地下闘技場の観衆に紛れていた。




