地下闘技場‐アレーナ・ディ・ヴェローナ
ブレイダーは男からの指令で地下闘技場に来ていた。ターゲットであるランサー抹殺の指令が下った。
ブレイダーは受付で誓約書にサインを求められた。
誓約書にはこう書かれている。
このゲームは大きな危険(死亡や重大な障害を含む)を内包する競技であることを認識します。ここでの事故は(自信の怪我、他者への事故)私自信の責任において処理することを誓約します。
ブレイダーは一瞬目を通すとすぐにサインする。
つまらないことを気にするやつらだ、とブレイダーは思った。戦場で命を落とすのは当たり前だからだ。
ブレイダーは目隠をされ、奥の部屋に通される。ここで試合の時間までまたなければならないらいし。
けたたましい、ブザーが鳴り響く。目隠が自動で外れる。
彼らには、互いの条件は知らされていない。
暗い殺風景な部屋だった。
部屋の中には、おもむろに石像が何体も設置されている。オブジェクトの中には戦いを有利に進めるための、アイテムが隠されていることがある。また攻撃を防ぐための壁に利用することもできる。
ぼろきれを羽織ったランサーはゲーム開始と同時に、雄叫びをあげる。その姿からは、野性と狂喜が感じられた。長らく味わっていない、この感覚。殺し合いの饗宴の感覚。フィールドで反響する、自らの声が、相手に畏怖を与え、自ら奮い立たせ、結果観衆に興奮を与える。
ランサーは槍を構えた。馬上の槍試合で用いられる、手元に大きな鍔がついている円錐状のランスだ。
狂ったように周囲のオブジェクトを破壊する。その姿はまさに獣のそれだった。口からは獲物を求めて、絶えずよだれが垂れている。
今の彼には限られた自我しか残っていない。
今彼の命は、彼の所有物ではなかった。
そのまどろむような、自我の中で男は過去を振り返っていた。




