学生会の愉快な仲間たち その4
リアルで忙しかったり、他の話を書いてたら終わらなかったりと、色々あって遅れてしまいました。
ゴメンなさい。
次からは今までのペースに戻ると思います。
誤字脱字の可能性大です。
「良いの!?」
「良いの」
だって面白そうだし。
「いや、面白そうって! ヒバリ君、その条件だと生徒イベント一任されるのよ? 面倒事増えるの嫌って言ってなかった?」
いやいやいや。何を言っているのやら。
「面倒事じゃないですよ。だって一任されるって事は、俺の好きに出来るって事でしょう?」
そう言ってニヤリと笑顔を浮かべると、灰猫先輩は勢いよくサラさんに向き直り、
「サラ! これマズイ! ヒバリ君絶対ヤバイ事考えてる!」
「盛り上がるんなら良いんじゃない?」
灰猫先輩の訴えを、サラさんはなんて事なさそうに答える。
「サラはヒバリ君の事知らないからそんな事言えるのよ! あの笑顔の時のヒバリ君、本当に碌でもない事仕出かすから!」
必死の表情で叫ぶ灰猫先輩だが、サラさんは肩を竦めるだけだ。
「碌でもない事でも、ちゃんと規則さえ守ってくれるなら問題無いわよ。犯罪行為に手を染めるような人物でもないでしょう?」
「それは大丈夫だろうけど……」
いや、そこは大丈夫だった断言して欲しいんですが。
「……ヒバリ君の場合、規則は守っても、常識って奴を斜め上にぶっちぎるのよ? 仲間のピンチを助ける為に、その仲間ごと攻撃する人間なのよ?」
それはグレゴリウスの件だろうか?
「あれは良かれと思ってやったんですけどねー」
「嘘でしょ。確実に狙ってたでしょ」
「否定はしない」
「「否定しろ!」」
アクアマリンたちからツッコミが入る。別にええやないかい。結果として助かったんだから。
「……なんか、私も不安になってきたんだけど」
「奇遇だな。俺もだ。サラさん、これ早まったんじゃないすか?」
「かもしれないわね。まあ、だから何って話なのだけど」
同意の姿勢を見せるサラさんではあるが、撤回するつもりは無いらしい。
「しょうがないじゃない。ヒバリ君には是が非でも役員になって貰わないといけないのだから」
「けど、もう少しこう……」
何かあるのではないかと言うアクアマリンに、サラさんは溜息を吐く。
「なら、貴女たちがヒバリ君が食い付きそうな条件を考えなさい。私は他に思いつかなかったから、イベント一任を提案したの。良さそうな代案があるならそっちで構わないわ。ヒバリ君もそれで良いかしら?」
「良いっすよ」
気に入った条件が出てくるのなら、俺としては一向に構わない。
「……コイツが食い付きそうな事……」
「……うわぁ、駄目だ全く思い付かない…」
アクアマリンたちは一頻り唸った後、結局匙を投げたのだった。
「おいおーい、そんな簡単に諦めんなよー」
「「「無理。お前分かり辛い」」」
声を揃えて言われちゃった。そうかね?
「俺って結構シンプルに生きてると思うんだけどなぁ」
楽しいかメリットがある事なら、大抵喰い付いてる気がするんだけど。
「むしろ単純過ぎるのよ。その癖、殆どの事は自分でなんとか出来るんだもん。それじゃあ逆に難しいわよ」
「ハイスペックでゴメン」
「「「ムカつく」」」
声を揃えて言われちゃったヤダー。
まあ、それはそれとして。
「取り敢えず、代案は無いって事でオケ?」
「……むう」
「……そう、かしら」
「仕方ない」
渋々ながらも、全員から了承が返ってきた。
「はぁ……これから厄介事が増えそうな気がするわ」
「別に構わないんじゃない? それ以上に、ヒバリ君に仕事して貰えば良いんだし」
既に俺の社畜化は決定しているらしい。いや、別に良いんだけどさ。
「それじゃあ、改めて自己紹介といきましょうか。私はサラ。役職は副会長。書類チェックと、バ会長の手綱を握るのか主な仕事ね」
それは仕事と言えるのだろうか? ……仕事を捗らせると言う意味では、仕事と言えなくもない、かな?
「どちらにしろ、お疲れ様です」
「ありがとう。同情してくれるなら、ヒバリ君もバ会長の手綱を握ってくれると助かるわね。圧勝したキミなら、あの馬鹿も調子に乗らないと思うから」
「……うーん、その仕事は出来れば遠慮したいですね。アレの相手は疲れそう、てか疲れるだろうし」
「次はメルトね」
「スルーですか」
俺のセリフなどまるで無かったかのように、サラさんは話を進めていった。ヒドイ。
「諦めなさいヒバリ君。会長の所為で、サラのスルースキルが高くなってるの」
「なるへそ」
灰猫先輩の説明は、とても納得出来る物だった。うん、アレの相手してりゃ、そらスルースキルも高くなるか。
「納得してくれたみたいね。さて、気を取り直して。会計のメルトよ。キミも既に知ってるだろうけど、予算関係が主な仕事ね。学園で掛かるお金の半分近くは、私が何処かで関わってるわ」
学園の予算の半分て……。改めて聞くと凄いな。この学園、敷地だけでも小さな街ぐらいだぞ? それを運営する為の金の半分+αが舞い込んでくるんだから、役員が死屍累々になるのも頷ける。
「学園の影の支配者とか呼ばれる訳だよ」
「そんな大それたモノじゃないけどね。単に関わってるだけで、自由に出来るって訳じゃないし」
「まあ、灰猫先輩の場合は、役職よりも本人の資質の方が厄介でしょうしね」
傾国級の美貌、自分に対する理解力、僅かな享楽性、万人を惹きつける魅力。
これらを兼ね備える灰猫先輩は、相手の懐にするりと入り込み、近い立ち位置で相手に自分を魅せる事が出来る。
理想的な人誑し。
お金という、デリケートでトラブルの絶えない物を扱うには、うってつけの人材と言えるだろう。
「偶に間抜けだけどね」
「ちょっとサラ! どういう意味よ?」
何やら二人が言い合ってるが、まだ次もあるので放置しておこう。
「次は私。もう知ってると思うけど、自己紹介自体は初めてだからちゃんとしておくわよ。本科一年一組に在籍する、アクア・ラス・マリンよ。役職は書記。主な仕事は、書類や議事録の作成」
ツンとした態度のまま行われた自己紹介。何と言うか、中々懐かない野良猫みたいな印象だな。
「チッチッチッ」
「私は猫か!」
不満かね? ならしょうがない。
「チッチッチッ」
「だからってメルトさんにやるなバカ!!」
いやだって猫じゃん。
「人を猫扱いするな! 私にもメルトさんにも失礼でしょうが!」
「ニャー」
「アンタが猫の真似してどうすんのよ!!」
アクアマリンを一頻り揶揄ったので、次行こうか。
「こら進めるんじゃないわよ!」
次行こうか。
「俺は本科一年三組のラト・ホテップだ。役職はアクアと同じ書記だ。仕事内容も同じと思ってくれ。よろしく頼むぞ、ヒバリ」
ラトと名乗った少年は、そう言ってニカっと笑顔を浮かべる。爽やか系イケメンだな。
「何か、これだけ一緒にいて初めて名前知った気がする」
「……あー、そう言えば確かに。俺も名乗った覚え無えわ」
俺の呟きに、ラトも今気付いたと苦笑いを浮かべだ。
良く考えればサラさん、灰猫先輩、アクアマリン以外は名前すら知らなかったんだよなぁ。何か一緒に仕事してる内になあなあになってたと言うか。あ、バ会長は論外の方向で。
「いやー、悪かったな。名乗りもしないで仕事手伝って貰って」
「別に構わんですよ。支障が有った訳でも無いんで」
「サッパリしてんな。まあ、細かい奴よりは全然良いけど。あ、言葉遣いはさっきと同じで良いぞ」
「あらそ」
先輩だったから一応敬語にしといたけど、余計な気遣いだったみたいだな。この人も十分サッパリしてると思う。爽やか系の好青年って認識で良いだろう。
そんじゃ次の人。
「予科三年三組在籍、ルラ・ホテップ。役職は庶務。主な仕事は……色々ある。雑用と思ってくれれば間違いない。分かると思うけど、ラトとは兄妹」
そう端的な自己紹介を行なったのは、眠たげな表情の少女である。
無造作に伸ばされたグレイの髪と言い、ジトッとしたデフォルトな瞳と言い、全体的にくたびれた印象だ。爽やか系なラトとは似ても似つかない。一応、顔立ちはラトと同じで整ってはいるけれど。
「一応訊くけど、仕事明けだからそんな感じになってるの? それともデフォ?」
「仕事明けなのは確かだけど、これが普通。良く暗いと言われる」
それは表情を変えずに言うセリフじゃないと思うんだけど……。
取り敢えず、弁明はしておこう。
「気を悪くしたのなら謝る。別にそう言う意味で言ったんじゃない」
「気にしてない。それに変わってる自覚はある」
変わり者の自覚はあるのか。
「それで、さっきの質問の意図は?」
無表情で訊いてくるルラさん。やっぱり気にしてるよね?
「気にしてない。質問の意図が気になるだけ」
気にしてるやないかい。
「単に疲れてるなら大人しくしておこうと思っただけだ。疲労困憊な奴の近くて騒がしくしたらマズイだろ」
「普段から大人しくして欲しいんだけど」
灰猫先輩の呟きは聞こえない。
「とまあ、こんな理由な訳だけど、納得してくれたかな?」
俺がそう訊いてみると、ルラは暫くこちらを眺めた後、ゆっくりと頷いた。
「納得した。そして印象を改める。貴方は気遣いが出来る人だ」
どうやら気遣いすら出来ない人だと思われてたらしい。
「俺そんなに駄目かね?」
「駄目では無い。けど普通じゃない」
「変わり者って事ね。あ、疲労回復効果のある栄養剤いる?」
あげようと思って魔窟からこっそり出しておいたんだよね。
「訂正。貴方は良い人」
気遣いの出来る人から、良い人へとクラスアップした。現金だな。
まあ、嬉しそうなニュアンスは伝わってきたから良いんだけど。
「気が合うか分からなかったけど、大丈夫そうで安心。貴方となら仲良くやっていけそう」
どうやら打ち解ける事が出来たらしい。栄養剤一つでこれって単純過ぎない?
「意外だ。あのルラがこうも早く打ち解けるなんて」
兄であるラトが驚いている事から、結構レアな光景らしい。
「レアなんて物じゃないぞ。コイツはあまり喋らないタイプで、人付き合いも面倒って思ってるから、交友関係があんまり広く無いんだ。そこに変わり者って評価も合わさってるから、周囲から浮いてんだよ。ぶっちゃけボッチ」
「黙れラト」
おおう。ルラのラトを見る目が冷たい。生ゴミを見る目だアレ。そしてルラってボッチなのね……。
「別にボッチじゃない。気を使うような友人が沢山いるより、気を使う必要のない親友が数人いれば良いと思ってるだけ」
うん。その考えにはとても共感出来るけど、口数が急に多くなってるから説得力ゼロよ?
「口数は説明したから多くなった。そして説得力なんて求めてない」
唇を尖らせ、そっぽを向くルラさん。あらら。
「ったく、コイツは……。悪いなヒバリ。変わり者で可愛くない妹だが、こんなんでも仲良くやってくれ」
「変わり者で可愛くなくて悪かったな」
「な? 面倒な奴だろ?」
ラトのセリフに、ルラはムッとした顔をする。初めて違う表情を見たけど、それが不機嫌そうな顔とか。
ったく……。フォローしたつもりなんだろうけど、それで不機嫌にさせてどうするよ。
「……貴方も、私の事を面倒だと思う?」
「まさか。むしろ可愛いと思うぞ」
「……口説いてる?」
「違う。思った事を言ったまでだ」
「やっぱり口説いてる」
そうじゃないって。
「ルラの性格は好感が持てるって事だよ。全然面倒じゃない」
「……そんな事、初めて言われた」
「いや、俺の友人(主に師天メンバー)に比べれば、マジで可愛い方だぞ? ルラと似たタイプのドロップって知り合いがいるんだが、そいつは喋るの面倒臭がって一文字しか喋らないし。しかも、それで意味を汲み取れなかったら、逆ギレして殺しに掛ってくるからな」
一文字で会話を成立させろとか無理あるっちゅうのに。それで失敗したら、無言でクレーターの出来る威力の魔法を飛ばしてくるし。向こうからしたら軽く小突く程度なんだろうが、魔導師じゃなきゃ普通に死んでる。
「……縁を切る事をお勧めする。全力で」
おもくそ忠告されちゃったわ。他のメンバーもドン引きしてるし。
「まあまあ。俺の交友関係は置いとこうじゃないか」
「置いておける問題じゃない」
「良いんだよ。俺の知り合いなんて大体こんな物だから」
「貴方は一度交友関係を見直した方が良い」
いやー、似た者同士だからどうこう言えないんだよね。
「兎も角。俺の知り合いたちに比べれば、ルラは全然面倒じゃないって事だ」
「そんな人たちと比べて欲しくない」
とは言いながらも、ルラからは嬉しそうな雰囲気が漂ってくる。珍しく性格を肯定されたからだろうか。
「まあ、友好関係は広げた方が良いと思うぞ」
一応、そこだけはツッコんでおく。
「……上げて落とす、最低。それに友好関係については貴方の方が酷い」
一気に不機嫌そうになったな。もしかして拗ねた?
「おいおい、正論言われたからって拗ねんなよ。ボッチを指摘されただけだろうが」
「拗ねてない! それに元はと言えばラトの所為!」
ルラが珍しく声を荒らげ、そのまま口論へと発展していったを……何やら兄妹喧嘩が始まったけど、これどうすんの?
「何時もの事だから放っておいて構わないわよ」
どうやらこの兄妹喧嘩は頻繁に起きているようだ。他のメンバーも慣れてるらしく、全く気にしていない。
「ふむ……。雰囲気からして、元から仲が悪い、って訳じゃなさそうか」
「そうそう。兄妹仲自体は良いのよ。ただ、ラト君も会話とは違う意味で馬鹿なのよねー」
あー、何か納得。ラトは明るいけど、デリカシーは無い感じだ。空気が微妙に読めなさそうと言うか。
「そうなのよ。私やマッドも、余計な事言う癖治せって言ってんだけど」
アクアも溜め息混じりで会話に入ってきた。この様子だと、ラトは結構な問題児っぽいな。てかマッドって誰?
「学生会の役員の一人よ。マッド・テスター。ラトと同じクラスで、役職は広報。ほら、さっき仕事で出てったでしょ」
あー、そういや居たね。闘技場から戻って来て、直ぐにどっか行ったけど。
「広報は役職上、外回りが多いのよ。今は広報部の子たちと闘技大会の打ち合わせだっけ?」
なるほどなるほど。また知らん単語出てきたな。
「広報部って何すか?」
「へ? 広報部は広報部だけど……ああ、そう言えばまだ説明してなかったっけ」
質問したら意外そうな顔をされたが、直ぐに納得して説明してくれた。
どうやら学生会には下部組織があるらしい。その下部組織はそれぞれの役職(会長と副会長を除く)毎に存在しておるそうで、結構色々やってくれてるそうだ。
「そんなのあるんすね」
「そりゃそうよ。この学園どんだけ大きいと思ってんの。流石に七人…ヒバリ君が入って八人か。どちらにせよ、その程度の人数じゃ回せてらんないわ」
まあ確かに。四桁規模の人数を一桁で捌くとか、流石に過労死するか。
「その下部組織って何人いるんすか?」
「それぞれの部で十人いるかいないか、かな。下部組織って説明したけど、実際のところそんな大層な物じゃないわよ。分かり易さ優先しただけ」
いやいや、それでも五十人近い大組織ですやん。
「それでも絶望的なまで人手が足りてなかったのよ……」
「うん。それは知ってる」
あの量はヤバイ。俺みたいな廃スペックじゃなきゃ、絶対やってらんないと思うもん。
「ええ。だからこそ、ヒバリ君には馬車馬の如く働いて貰うわ」
サラさんはそう言って、俺に庶務と書かれた腕章を渡してきた。
「その腕章は学生会の役員である事を証明する物だから、役員として働く時は付けといてね。ここで仕事する時は外してても構わないけど。役職は見ての通り庶務。ルラは雑用って言ってたけど、キミの場合は他の役員の手伝いが主な仕事よ」
それ雑用って言わね?
「雑用と言うより、全役職の兼任って言った方が正しいわね」
それ仕事量ヤバイ事になりそうなんですけど……。
「そこはちゃんと配慮するわよ。基本的には、今回みたいに首が回らなくなってきたら手伝って貰うわ。その時以外は普通の庶務の仕事を回すから」
「あ、そうなんすか?」
「毎回毎回ヒバリ君に仕事回してたら、他のメンバーの能力が下がるでしょ? キミが卒業とかでいなくなったりした時、役員全員がキミに依存してましたじゃ目も当てられないじゃない」
無能集団になるのを防ぐって訳ね。
「皆もそれで良いわね? 反論は受け付けないけど」
それ訊く意味なくない? いや、皆納得してはいるけれど。
「それじゃあ、ヒバリ君。これからよろしくね」
「うっす」
こうして、俺は学生会の一員となった。
「………」
サラさん、灰猫先輩、アクア、マッド、バ会長、ルラとラトのホテップ兄弟。
……この学生会は邪神でも召喚するつもりなんだろうか?
名前の小ネタ、勘の良い人は気付いてたでしようか?




