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冗談は間に受けましょう

誤字脱字の可能性大です。

「「君たち(ヒバリ君)、武闘大会に興味ない?」」


………。


「「………あれ?」」


うん、やっぱりカッコ多いよね?


「狙ってんすか灰猫先輩?」


一人分のカッコの主、もとい扉を開けた体勢で固まってる灰猫先輩に、故意かどうかを聞いてみると、


「……もしかして、何か取り込み中だった?」


コテンと首を傾げられた。タイミングを見計らってたのでは、と疑うぐらいにタイムリーな登場をしたのだが、どうやら偶然らしい。


「あ、兄さん。また来たの?」


「メルトさんこんにちは」


「どもっす」


上級生の突然の来訪に、驚く事も無く挨拶を交わす親友たち。更に、教室の各所からも普通にこんにちはーと聞こえてくる。


「うん、皆こんにちは。エクレ先生、お取り込み中のところお邪魔してすみません」


「あ、良いの良いの。取り込み中って訳じゃなかったし」


担任であるエクレ先生とも、灰猫先輩は親しそうだ。


「すっかり顔馴染みになっちゃってまあ」


「キミがツレないからでしょ」


そう。補習が終わってからというもの、この人は俺の勧誘の為に度々この教室へとやって来るのだ。最初は『白姫』なんて呼ばれる有名人の来訪に騒然とし、更に俺が学生会に勧誘されたと知り怒声を上げたクラスメートたちも、今では日常として受け入れている。


「そんで何用……って聞くまでも無いか」


この人が来る理由なんて、勧誘以外に思い当たらない。


「んで、今度は一体何を条件に?」


「そうね……って言いたいんだけど、エクレ先生が先みたいだから、そっちが済んだら話すね」


それもそうか。と言うか、そこは弁えてるんだな。


「当たり前よ。キミは私を何だと思ってるの?」


「猫」


身も心も、ね。


それは兎も角、話を戻しましょうか。


「それでエクレ先生、武闘大会って何すか?」


「武闘大会は学園の行事の一つよ。各クラスから代表を選出して、各学年の最強、学園最強を決める一大イベントなの」


へー。流石は異世界。物騒なイベントもあるもんだ。


「補足すると、運営は学生会が行ってて、年によってはエキシビジョンとかもやったりするの」


「何故そんな曖昧な……」


毎年恒例のイベント事で何で曖昧な部分があんだよ。


「私たちが仕事量に圧殺されてるからよ?」


死んだ瞳で告げられた真実に、取り敢えず合掌しておく。


「つまり、俺たちは選手候補? 立候補とか無しで?」


「選手はクラスの実力者を選ぶ事になってるの。それでこのクラスだと、君たち三人が断トツだから」


なるほどね。それなら他の奴らから文句は出ないか。クラスメート全員が俺たちの実力は認めてる訳だし。


まあ、


「すみません遠慮します」


どっちにしろ断るんだけど。


「ええ!? 何でヒバリ断っちゃうの!?」


「なんとなく断るかなぁとは思ってたけど、悩む素振りすら見せなかったわね……」


「……えっと、理由を聞かせてくれる?」


いやだって、


「弱い者イジメなんていくないでしょ?」


「「「「…………」」」」


クラス中が沈黙した。何でだろ?


「弱い者イジメって……すっごい自信ね」


「じゃあ灰猫先輩。先輩の知り合いの仲で、俺と互角に戦える人っています?」


「いる訳無いじゃない。学園最強なんて二つ名が付いてる会長でさえ、冒険者ランクAなのよ?」


あ、意外と凄い人がいた。


「その人とならーー」


「絶対戦うなんてしないでね? 会長が怪我して仕事出来ないなんてなったら、問答無用で引き摺り込むからね?」


「う、うす……」


瞳からハイライトの消えた灰猫先輩を見て悟る。あ、これアカン奴や。


「……まあ、色々と言いたい事はありますけど。それは置いといて。灰猫先輩、その会長さんは上級魔法を叩っ斬る事出来ますか?」


「無理に決まってるじゃない。そんな事出来る人なんてーー」


「ショウゴやってたよ?」


「………ごめんアルト、もう一回言って?」


「決闘でショウゴは、剣に氷属性のオリジナルの魔法を纏わせて、上級魔法を斬ったんだ。凄かった」


決闘の時の事を思い出しているのか、僅かに興奮した様子でアルトは説明する。


「………流石はヒバリ君の親友ね。いや本当、これっきゃ言いようが無いんだけど……」


眉間を揉み解す灰猫先輩。


「あの、ヒバリと同列視しないください!」


「こんなのと同類に思われるとか心外です」


抗議する二人……て待てやコラ。


「滅茶苦茶加減では同じじゃないの?」


「全然違う。俺や翔吾は武器に魔法を纏わせない上級魔法クラスは破壊出来ない。コイツは素手でもそれをやる」


雄一の言葉に一同は暫し沈黙し、


「………上級魔法って、個人が撃てるレベルだと最高クラスの威力でしたよね?」


「……ええ。英雄などと呼ばれる一部の人間を除いたら、上級以上の魔法を個人が放つのはほぼ不可能よ。と言うか、威力が威力だから上級以上を放つ必要があんまりないのよね……」


「先生が攻城戦とかに使われる事もあるって言ってたよね」


はいそれじゃあ想像してみましょう。城門などを吹き飛ばす威力の魔法を、剣一本、または矢一本で掻き消す個人の姿を。


「「「化け物クラス……」」」


「「失礼な」」


「……一人で真正面から対処出来る時点で似たような物なんだけど……」


「「全然違う」」


まあ、二人の場合はそれ以上の魔法をぶつけてるような物だから、俺とは確かに違うわな。


けど、それは一定以上の実力を持たない者からすれば大して違わない。蟻の視点から人間を見比べても、違いはあるがどっちもデカイで済むのと同じだ。


「兎も角、コレで分かったでしょう? 今の話題みたいな事を平然とやるのが俺たちです。武闘大会なんて出たらワンサイドゲーム確定ですよ?」


幼児の喧嘩に達人が乱入してくるようなもんだ。


「………うん、それは確かに」


「そう言えば会長も似たような事してたなー……。圧倒し過ぎちゃって逆に白けたっけ」


どうやら前例があるらしく、なんとなく苦い顔をする灰猫先輩とエクレ先生。


「その会長さんがどれ位の強さなのかは知りませんけど、俺たちの誰かが出ても似たような事になりますよ? その会長さん自身が出てくれば別ですけど」


どっちにしろ負けるだろうけどな。勝敗がつくのが多少遅くなるだけで。


「それが会長は出ないのよねー。大会を白けさせちゃったのが余程堪えたらしくて。同じレベルの生徒が現れるまで出場しないって宣言したのよ」


「それ、普通なら批判殺到しそうですけど」


遠回しにレベルが低いって言ってるよな?


「それがそうでもなかったのよね。会長、当時から本当に圧倒的でさ。プライドの高い人たちですら、何も言わずに納得したぐらいだもん」


へー。馬鹿貴族すらも黙らせる実力って訳か。


「そりゃそうよ。会長は本科一年でAランク冒険者になった天才よ? 学生でAランクなんて前代未聞って騒がれたんだから」


「灰猫先輩も騒がれてませんでした?」


「あのねぇ、私はCランク。そりゃ同年代の中じゃ抜きん出てるとは思うけど、会長には全然敵わないわ。Aランクは伊達じゃないの」


「俺たちからすれば、Aランクの何が凄いのかよく分からないんですどね」


「うん」


「それは確かに」


「……それ本気で言ってんの?」


いや、意味的には分からない訳じゃないんですよ? 単に知り合いのAランク冒険者が、アレな奴ばっかってだけで。


「昼行灯、女好き、脳筋、根暗、酔っ払い、大食漢。王都の冒険者ギルドってマシなのいないんですわ」


「あー……うん。今の人たちは、王都のAランク冒険者の中でも変わり者って言われてるから。普通な人もちゃんといるのよ?」


それでも王都をホームにしてるといわれるAランク冒険者十三人の内、六人が変わり者という。………良く考えれば、その会長さんとやらもその一人か。


「普通な奴に早く会ってみたいですね。脳筋や酔っ払いには毎回絡まれるから、あしらうのが面倒なんですよ」


「何度も気絶させるのも申し訳無いからねー」


「……ショウゴ君ってちょっと過激?」


「「はい」」


隠れSですし。


「あ、けど俺たちが出場するなら、会長さんも出てくるんじゃ?」


「私が縛り上げてでも止めるけど?」


どんだけ切羽詰まってんだ。


「学園に泊まり込みなんてザラ、ぐらいかしら。じゃなきゃ一人を勧誘するのにこんなに足繁く通わないわよ」


「学生にして社畜並みか……」


十人に届かない人数で四桁の人間を纏め上げてるのだから、ある当然の仕事量なんだろうけど。そう考えると、学生会のメンバーが如何に優秀かが分かろうと言う物だ。


レベルなんて概念があるからギリで回ってるみたいだけど、地球でコレやったら過労死間違い無しだろ……。


「良く平気ですね」


「気合いと慣れね。後は気分がハイになるお薬を」


「お巡りさんコッチです!」


それアカン類の薬じゃないよね!?


「先生何かダークな面が見えたんですけど!? これ大丈夫なの!?」


「……あはは。私も学生会の人員不足はちょっとマズイとな思ってるんだけどね……。出来れば人数をもっと増やしたいんだけど、これがそうもいかないのよ」


学生会は人材に対する要求レベルが高く、そしてそれは役職上下げる訳にはいかないそうだ。優秀なのは勿論の事、利益などに貪欲では無い生徒でなければならないらしい。


「私個人としても、お眼鏡に叶ったヒバリ君には役員になってあげて欲しいのよね。あ、私の話はひと段落したから、メルトさんどーぞ」


そう言ってエクレ先生は一歩下がり、灰猫先輩とバトンタッチした。


「それで、今回はどんな条件を出してきたんですか?」


「やっぱり無条件って訳じゃ駄目?」


「駄目です」


「ちぇー」


ちぇー、じゃないよ。こっちだって結構譲歩してんだから。


「じゃあユウイチ君たちは?」


あ、今度は矛先変えてきた。


「え? 僕たちですか?」


「そそ。弟の話を聞く限りだと、二人も十分優秀なようだし」


「優秀なだけじゃ入れないんじゃ?」


「ヒバリ君の親友なんでしょ? だったら問題無いわよ」


「何その信頼」


俺学生会からすれば部外者だからね? なのにその親友ってだけでOKとか駄目だろ。


「だって、キミと付き合えるって事は面倒見が良いって事でしょ? そして利益よりも愉しさを優先する人間の友人が、利益に貪欲なんて事はあり得ないわよ」


「逆にハイエナの可能性もありますよ?」


俺が捨てた利権を横から拾うとか。……この世界でハイエナって通じるのかね?


「ハイエナは良く分からないけど、それって寄生って事でしょ? ヒバリ君がそんなの許す訳無いじゃない。そういう奴は嬉々として嵌めにいくでしょキミ」


「そりゃ勿論」


そこは否定しないかな。


「だから大丈夫って判断した訳。まあ、他のメンバーを納得させる為のテストみたいのはやるでしょうけど、余裕で合格出来るでしょ?」


「それは、まあ……」


「恐らくは」


と言うか、確実に合格するだろう。二人は学生の範疇を超えた、人類最高峰と言える力の持ち主なのだから。


「それで、どう?」


灰猫先輩の期待の眼差しに、雄一と翔吾は苦笑する。


「僕はちょっとやりたい事があるので、その話はお断りします」


「やりたい事?」


「ええ。物作りのスキルがあるんで、それを伸ばしたいんです」


そう言えば、翔吾は最近武具の製作に手を伸ばし始めたんだよな。教師役として魔窟のゴブリンをちょくちょく派遣してんだ。


「ユウイチ君は?」


「俺も遠慮します。俺、書類仕事とかチマチマしたの苦手なんで」


「へえ、ちょっと意外ね」


「良く言われますそれ。けど、書類仕事とかは雲雀の方が、というか雲雀が俺たちの中だと断トツですよ」


「……本当に意外ね……」


頬をヒクつかせる灰猫先輩。うん、大体皆こんな反応するんだよな。失礼しちゃうよな。俺も同感なんだけどさ。


「どうも俺って文字書くのが苦手なんですよね。出来なくは無いんですけど、書いてると直ぐ飽きるし、字も汚いし」


「コイツのノート、殴り書き過ぎて本人以外には基本的に解読不能です」


雄一は情報処理とかの能力は特級なのだが、長文などを書くのは苦手としている。頭の中で膨大な量の情報を処理している所為で、腕がそれに追いつかないんだとか。


「じゃあショウゴ君は? キミは何でヒバリ君より下なの?」


「何故そんなの聞くんすか?」


「デスクワークでキミが一番とか、信じられないからに決まってるじゃない」


はっきり言うなこの野郎。


「僕も出来なくは無いんですけど、どうも一つの事に熱中し過ぎちゃうんですよ。後、字を書くのもちょっと遅いですし」


「翔吾はプリントとかの字は綺麗だし、内容も文句の付けようが無いんですけど、仕上げるのに時間メッチャ掛かります」


翔吾は職人気質な部分があるので、作業効率とかを無視しがちなのだ。一つの仕事を完璧にしようとしてしまい、色々とこだわって書いては消し書いては消しを繰り返すタイプだ。


「逆に、雲雀はながらの作業が上手いんです。他の事やりながら別の仕事をやって、こだわり過ぎずそこそこのクオリティで仕上げるから、作業効率が半端無いんですよね」


昔からかなり危ない目に遭っていたので、意識を分散させるのが本能レベルで染み付いてんだよな。そこから色々な経験を経て、マルチタスクなんて離れ業も出来るようになったりしたのだ。宿題とかが複数出ると、何時も最初に終わらしてたのは俺だったりするし。


尚、クラックに渡ってからマルチタスクに更に磨きが掛かり、あり得ない数の思考分割が出来るようになった。


「本を片手に戦闘訓練とか出来ますよ」


「それ身になってなくない?」


そうでもない。


「けど、そうなると余計にヒバリ君は欲しいわね」


「なら俺を納得させるだけのメリットを提示してくださいね」


「同情で折れてくれても良いのよ?」


「分かったから早よ早よ。さっきの口ぶりからして武闘大会関係でしょ?」


「そうだけど、もっとノッてくれても良いじゃないの」


つれないわねぇ、と溜め息を吐いた後、灰猫先輩は俺を勧誘する為のメリットを話しは始める。


「ヒバリ君、武闘大会に興味ある? 参加するとかじゃなくて」


「観客とかとしてって事ですか?」


「そうよ」


それはまあ、お祭りみたいな物は基本的に大好きだけど。


「学生会に入ってくれるなら、この手のイベント事は特等席で観戦出来るわよ?」


なるほど。今回は実利ではなく、そっち方面で攻めてくる訳か。けど、


「それじゃあ弱いですね。観戦するなら席が良いに越したことは無いですけど、実際のところ観れさえすればどうとでもなる」


残念ながら俺自身のスペックが違う。やろうとすれば自分の視界と選手の視界を同調させる事も出来るのだ。それではあまりメリットとは言えない。


「なら出店してみるのはどう?」


「出店?」


「そう。武闘大会はお祭りみたいな面もあるからね。研究会やクラスで簡単なお店を出したりするの」


話を聞く限りだと、なんか学園祭みたいだな。外部の人達もくるみたいだし。選手以外の人間も楽しめる処置なんだろけど。


「どう? キミこういうの好きでしょ? 場所とか色々と優遇してあげるわよ」


「うーん……確かにそれは面白そうだけど、もう一押し」


と言うか、コレって武闘大会の時だけじゃんメリットあんの。


「武闘大会の日に私と一日デート」


「自惚れんな」


「……即答とか失礼ね。毎年引く手数多なのよ私?」


それは別に否定してねえよ。むしろ納得すらしてるよ。


「なら光栄に思ってくれても良いじゃない」


「男とデートなんて何が楽しいんだよ。生憎とそっちの趣味は無い」


男の娘ってジャンルは否定しないけど、現実なら眺めて楽しむだけで良い。


「勘弁とは言わないのね」


「だって面白そうなのは事実ですし」


「ヒバリ君のそういうところ、本当好きよ私」


ウィンクしながら灰猫先輩がそう告げると、周囲から殺意の視線が飛んできた。男女問わずなのは凄いと思う。


(メルト先輩に好きって言われるとか、羨ましい……!)


(あんな馬鹿なんて爆ぜてしまえ!!)


(つーか何でアイツ愛称なんかで呼んでんだよ! 死ね!)


(私もメルト先輩に好きって言われたいのにっ!)


(ウィンクとか羨まし過ぎんでしょ!?)


(あれ? けどどっちも男なのよね? ……アリかも)


おい待て。最後の一人ちょっと待て。


「ササラ殴るぞ」


「何で!?」


腐臭がしたんだよ。


「大体、何で皆そんなに羨ましがるかね? 確かに見た目は可愛いけど、コレ男だぞ」


「イヤん。可愛いなんて」


「コレだぞ?」


「兄さん……」


見ろ。アルトも恥ずかしそうに頭抱えてんじゃねーか。


「そんなの関係無えんだよ! スッゲー可愛いじゃねーかメルト先輩!」


「そうよ! 本当ならアンタみたいな馬鹿がお近づきになって良い人じゃないのよ!?」


「つーか何で学生会入り蹴ってんだよ! 学生会だぞ!? メルト先輩が直々に勧誘してんだぞ! 即決すんのが普通だぞ!?」


「……皆………」


一気に不満を捲し立ててくるクラスメートたち。見ろ。アルト凄く微妙そうな顔してんぞ。


「っは!? まさかお前、メルト先輩に来て欲しくて態と毎回学生会入りを断ってんじゃないだろうな!?」


「何だと!? お前そんな魂胆があったのか!?」


「サイテーよこの変態!」


「お前ら少し落ち着け」


落ち着かないなら一旦気絶させんぞ。


「そうだったのヒバリ君? 学生会に入ってくれればもっと会えるのに」


「アンタも間に受けんじゃねえよ」


しなを作るな擦り寄ってくんな。


「あ、そうだ。もし学生会に入ってくれたら、私の事好きにして良いわよ?」


妙案とばかりに手を叩く灰猫先輩。ニマニマ笑いながら何言ってんだこの人。


「ちょっ!? 兄さん何言ってんの!? 冗談にしてもヤメて色んな意味で!」


兄?の暴挙に慌てるアルト。実の兄が男相手に身体を売るような発言、それも男相手にしたのだから、冗談と分かっていても当然の反応だろう。


俺としても、これはちょっと見過ごせないな。


「灰猫先輩。人を揶揄うのは良いですけど、アルトの気持ちも考えてやってください」


「ヒバリ……!」


「えー」


アルトは感激した様子で、良く言ったとキラキラした瞳で伝えてくる。逆に、灰猫先輩は不満気だ。反省してねえなコレ。


「あのですね、そんな事言ってると後悔しますよ?」


「あら? 何を後悔するのかしら。別に冗談で言った訳じゃないのよ?」


「兄さん!!」


人が忠告してやってんのに、灰猫先輩はクスクス笑ってすっと惚ける。なら身をもって後悔させてやろう。


「灰猫先輩」


「何?」


灰猫先輩が意識をこっちに向けた瞬間、気配を最大限薄くさせ、意識の隙間をつき一瞬で背後に移動する。


「ーーえ?」


唐突に目の前から俺が消えた事により、灰猫先輩は間抜け声を出す。俺はそれを無視して、先輩の華奢な身体を優しく抱え込み、


「アンタ、この手の事だと結構初心なんだから、慣れない事はしない方が良いぜ?」


耳元で囁く。まるで恋人に愛を囁くように、静かに睦言を交わすように。声の性質を、舞台俳優の如き耽美な物へと変化させて、


「そんなんじゃ、何時か喰われちまうぞ?」


猫耳にフーと息を吹き掛けてフィニッシュだ。気分は俺様系乙女ゲーキャラだな。


「………」


暫く硬直していた灰猫先輩。


「………」


右見て。


「………」


左見て。


「………」


後ろの俺見て。


「……………!!???!!?」


やっと思考が追いついたらしく、瞬間湯沸かし器みたいに顔を真っ赤にさせた。


「な、ななな、なななな何すんのヒバリ君!?」


「後悔させてあげようと思っただけですよ?」


「ここ、こここ後悔って!?」


「してるでしょ?」


「しし、してるけど!!」


わたわたと慌てふためく灰猫先輩だが、混乱し過ぎて腕の中から抜け出せてない。と言うか、抜け出そうとする事すら出来てない。


「………フー」


「フニャアァァァ!!?」


もう一度猫耳に息を吹き掛けたところで、やっと灰猫先輩は俺の腕の中から脱出した。思いっきり飛び跳ねた所為で吹っ飛んだだけだが。


「きき、ききキミは、キミは馬鹿なの!? ええ、ええ遠慮って物を、ししし、知らないの!?」


「好きにして良いんでしょ?」


「そ、そんな、そんなの冗談に、きき、決まってるじゃない!」


「言質は取ったつもりですけど」


本当は学生会に入ったら好きにして良い、と言ってたので、これ逆に言質を取られたようなもんなんだけどね。動揺し過ぎて気付いてないけど。


「本当、先輩は可愛い反応をしますね」


「っ!? か、可愛いっ!?」


「ええ。それで学生会に入ったら、そんな可愛い先輩を好きに出来るんですよね?」


「い、いやだからそれは冗談……!!」


「冗談じゃないって言いましたよね?」


「うっ」


先程までの自分の発言を省みて、言葉を詰まらせる灰猫先輩。


その隙にまた近づいて、そっとアゴを持ち上げる。


「なりますか? 俺のモノに」


「〜〜!?!!?」


プシューと頭から煙が出そうな程顔を真っ赤にした灰猫先輩は、あちこちにぶつかりながら俺から距離を取った。


「き、きき、キミねぇ!!」


涙目で睨み付けてくる灰猫先輩に、俺は笑顔を浮かべて一言。


「口は災いの元ですよ」


「〜〜っ、この馬鹿ーーー!!!」


そう思いっきり叫びながら、灰猫先輩は教室を出て行った。


その白い後ろ姿を見送った後、


「さて、と……」


俺はゆっくりと、周囲の刺すような冷たい視線について考えるのだった。

姫様系ヒロインのフィアでも無く、義妹系ヒロインのクラリスでも無く、男の先輩であるメルトにしかセクハラをかまさない主人公(笑)。 まあ、同性だからってのが理由なんですけど。

一応言っておきますが、ヒバリはホモじゃないです。


後、ちょっと蛇足。


学生の平均的冒険者ランク。


予科生、または非戦闘学科に進んだ生徒はEランク。


本科の冒険者科などに進んだ人はDランク。


学年など関係無く、相当に優秀な戦闘能力を持った人がCランク。


学生レベルを逸脱し始めた奴がBランク。


Aランク以上は前代未聞扱い。

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