黒幕の組織
長くなり過ぎたんで二つに分けました。……でもまだ誤差の範囲……!
続きは昼頃に投稿するかと。
誤字脱字の可能性大です。
コルネ村の宿屋の一室。そこで俺は、回収したタリスマンの解析を行っていた
『基本的な事は分かったから、今から報告するネ』
訳ではなく、謎の襲撃者にくっ付けといたリンリンの報告を聞いていた。
『まず、ヌシ様が監視を命じた者の名前はランシャン・レジーム。ダークエルフの男で、所属している組織は【混聖魔協会】と言うらしいアル』
どうやらあの狙撃手はダークエルフだったらしい。
ここで蛇足だが、ダークエルフは日本などではエルフの闇堕ちした姿だったり、エルフの敵対種族として描かれている。
だが、この世界ではそう言う訳では無く、ダークエルフは単に褐色なエルフである。スレンダーな体型が多いエルフと違い、豊満な肉体を持ってたりもするが、基本的にはエルフと同じだったりする。
(まあ、ランシャンって奴は個人的に闇堕ちしてるみたいだけど)
『何処の世界の何処の種族にも、悪に属する奴はいるものネ』
世知辛い世の中だ。
(で、その悪に属する奴らの数は分かるか?)
『取り敢えず、大まかな構成人員だけアル。【混聖魔協会】って組織はどうにも厄介な形態をしていて、はっきりとした人数は分からなかったネ』
厄介な形態。一番面倒臭くて、尚且つ構成人員が不明になる形態と言えば、
(やっぱり、宗教系?)
俺も散々煮え湯を飲まされた、カルト宗教の類だろうか。
『いや、近いけどそれよりもっと厄介アル。宗教+マッドな組織ネ』
(と言うと?)
『幹部陣、所謂マッドサイエンティストたちが自分たちに都合の良い教義を作って、末端の構成員は洗脳とかで教義を信じさせて操り人形にしてるネ。実働部隊は教義を疑わない狂信者、指示を出すのは思考の読めない傍迷惑なマッドな学者アル』
(………)
何か、今までで聞いた事の無いぐらい嫌な組織形態をしている気がするんだが。
『ついでに言うと、そんなマッドたちに技術提供をしている魔人?て呼ばれる者、魔王(笑)が複数いたアル』
おい何か表記可笑しいのがいたぞ。
「(笑)ってお前……」
『あの程度で魔王とか片腹痛いネ』
いや、確かにクラックの魔王たちとは実力が全然違うけども。
(クラックの魔王は世界のバグみたいな物で、こっちの魔王は魔物の二段階ほどの上位互換ってだけなんだぞ。見劣りするのは当然だ)
魔物なんて一つのカテゴリーの上位互換と、誤って産まれたとはいえ神と同じく世界の落し子と呼べる存在。どう比べても、存在としての格が違い過ぎるっての。
『ならクラックと同種の魔王が顕現したらどうするネ? あの程度を脅威とか抜かしてたら人類滅亡待った無しアル』
(いや、普通に神の出番じゃないか? てか、クラックにあそこまで魔王がいたのって、魔導師が原因だったろ確か)
魔導師が色々とやらかす所為で、世界に綻びが出易くなってたと言うか。……いや、その原因の一人である俺が言うのもアレなんだけどさ。
『つくづくヌシ様たちは傍迷惑ネ』
(否定はしない)
まあ兎も角、魔導師のいないこの世界では、クラックと同種の魔王は出てこないだろう。多分。
(にしても、魔王や魔人が人間と協力するとはな)
今まで会ったインセラートやガルマン、魔人たちの印象だと、どいつもこいつも人間を見下してる気がしたのだが。
『利益が絡めば魔物だろうとそんなものネ。魔王(笑)側は人間社会をより混乱させる為。学者側は自分たちの研究をより発展させる為。どっちにも利益が出て、尚且つ人間社会に受け入れられない者同士。交流を持ち始めるのもある意味当然アルよ』
(ウィンウィンな関係って訳か)
『まあ、どっちも人間を見下してるからって部分もあるアル』
お互いにシンパシーでも感じたのだろうか?……うん、どうでも良いや。
一瞬変な想像が頭をよぎったが、そこに関する興味は一切無いので即座に考えるのを止めた。
その後も、リンリンから幾つかの報告を聞いていく。
『取り敢えず、今報告出来るのはこれぐらいアル。組織と関係の深い権力者についてはまだ待って欲しいネ。全員調べ上げてから報告したいアル』
(了解。ご苦労様)
『ヌシ様からの労いの一言で報われるヨ』
嬉しい事を言ってくれるじゃないか。狂喜乱舞しそうだから直接は言わないけど。
(それにしても、本当にリンリンは仕事が早いな)
タリスマンの解析を即行で終わらせ、冗談半分で連絡したらご覧の通りと言うか。予想以上に調べてあって驚いた。
『ヌシ様と一緒に飲めるんなら頑張るに決まってるアル』
即答で断言されるのだから、主冥利に尽きると言うか。
(何がそんなに楽しいのかねぇ? 俺なんて心酔する程の男じゃないだろうに)
『そんな事言わないで欲しいヨ。私たちにとって、ヌシ様は偉大な御人ネ。弱くて虐げられてきた私たちを助け、広大な土地と力を与えてくれたアル。そんなヌシ様の為なら、私たちは粉骨爆砕の覚悟で働くネ』
(流石にそれは我が身を惜しまな過ぎだ)
せめて身を削るレベルにしてくれ。
『まあ、私たちの思いはそれ程強いって事アル。それでもヌシ様が申し訳無いと思うのなら、子種の一つでも貰れば私は満足アル』
(急にハードル上がったなオイ!?)
子種ってつまり寝ろって事だろ!?
(お前ゴブリンだって自覚有るか!?)
『そりゃ確かに種族はゴブリンネ。けど見た目は人間の雌アルよ?』
(そりゃそうだけど!)
確かに、リンリンの見た目はほぼ人間だ。と言うか、魔窟のゴブリンの長老組と古代組、後はギリで王族組の雌の姿は人間のそれである。
これには深い訳が有る。魔窟のゴブリンに限らず、魔物と言う種族は進化する。そして進化の際、見た目が自分が本能的に求める姿へと変わっていくのだ。そしてそれは、より魔物としてランクが高くなる程、知能が高くなればなる程、進化の際の変化の振り幅が大きくなる事を示している。知能が高くなれば、自分の望む姿がより鮮明となるのだから当然と言えよう。
そして魔窟のゴブリンたちの場合だが、雄と雌で進化の際の変化にパターンが有るのだ。雄は俺の役に立てるように、自分の特技を活かせる姿に。雌は俺に好かれようと、美しい女性の姿になっていく。勿論、この逆も有るが。それでも大抵はこのパターンだ。
『愛は種族の壁を超越するネ』
(いや、別に俺は異種族とかは気にしないけど……)
ただそれでも、雌の進化に対しては問題が有ると言うか……。
『何でアル? 私は控え目に言っても美少女アルよ?』
(お前のは美少女じゃなくて、美幼女な)
そうなのだ。元が異形に近いからか知らないが、ゴブリンが人間形態になるには幾つかの段階を踏まなければならないらしい。
流れとしては、通常組から貴族組までは普通のゴブリンと殆ど変わらない。だが王族組になると、肌の色が緑の人間の子供となる。そして長老組で十歳ぐらいの見た目の子供。古代でやっと十五〜二十五までの大人の姿になるのだ。
因みにリンリンの姿だが、チャイナドレスを着たツインテールの黒髪黒目の美幼女である。似非中国人みたいな口調は、リンリンという中国っぽい名前をイメージしているらしい。
(流石に幼女に手を出すのはなぁ……)
『大丈夫アルよ。私は合法ロリネ』
アウトだろ。
(無理。守備範囲外)
『いやイケるアル! なんだかんだで懐の広いヌシ様ならイケるアル!』
(どういう意味だオイ。俺はそこまで見境なしじゃ無えよ!)
そりゃ確かに魔物娘とかでも偏見とかは無いけど! それも人間形態ならの話だからな!?
『けど鬼梗様とカガチの姐御とは寝たアルよね? ゴブリンと一夜を共に出来るなら、合法ロリの私ぐらいイケるアル!』
(あいつら二人とも人間態だろが! ゴブリン形態の奴とは無理だぞ!? てかお前もゴブリンだよ!)
俺はそこまでアブノーマルじゃ無えよ! そもそもあの二人とだって本当は寝る気無かったんだぞ!?
(てか何で知ってるリンリン!?)
『そんなのお二人を見たら分かるネ。バレないと思って浮気しても直ぐバレるネ。女を甘く見ない方が良いよヌシ様』
嫌な忠告してくんじゃないよ! そもそも浮気しねえし相手もいねえよ!
『大丈夫ネ。ヌシ様は優しいし頼りになるから、相手なんて直ぐ出来るネ』
(リンリン……)
それ信じて良いの?
『けど基本的に変な事件や人間を惹きつけるから、性格じゃなくて性質が碌でも無い相手になるだろうけどネ』
(待てコラァ!)
咄嗟に三……二人程思い浮かんじまったじゃねえか! 思い当たる事言うなよこの野郎!
『ヌシ様は変人に好かれるお人ネ。諦めた方が楽ちんアル』
アドバイスが凄く虚しいんですけど……。
『まあ、子種云々は冗談ヨ。この程度の任務でヌシ様とベットインしたら、鬼梗様とカガチの姐御に嫉妬で殺されるアル』
(………お前な)
『そんな声出さないで欲しいヨ。これはある意味で私の決意表明みたいな物ネ。今は相手にされなくても、必ず古代種になってヌシ様と肌を重ねてみせるネ』
(………)
オイ、何だこの俺がダメ男みたいな感じは。
『そう感じるように仕向けたヨ』
(ぶん殴るぞオイ)
『殴られたくないので私はここで退散するヨ。次の報告待ってて欲しいヨ』
(あ、コラ! オイ!)
慌てて思念を飛ばすが、リンリンからの反応は無い。逃げやがった……。
「ったく、あの馬鹿娘は……」
少しばかり自由人な気質のある手下に頭痛を覚え、俺はガシガシと頭を掻いたのだった。
「さて、それじゃあ先輩呼ぶか」
やる事は一通り終了し、尚且つ丁度良い時間も経過している。これなら怪しまれないだろう。
部屋を出て、隣接している食堂へと向かう。確かこっちの方だったような。
「お、いたいた」
商隊がやってきた為か、中々な賑わいを見せる食堂であったが、幸いな事に目当ての人物は直ぐ見つかった。白髪という目立つ髪色をしているので、見つけるのは簡単だった。
「灰猫先輩、終わりましたよ」
「あら? 思ってたより早かったのね」
俺が声を掛けると、灰猫先輩が意外そうな声を上げる。
「何か分かったの?」
「何言ってんすかメルト先輩。分からなかったから早いんですよ」
グレゴリウスがケタケタ笑いながらそう言うので、俺もそれに同意する。
「確かに。やっぱり素人だと駄目ですね。分かった事なんて、あのタリスマンの持ち主がダークエルフの男性だったくらいです」
「「十分過ぎるけど!?」」
「そうすか?」
まあ、これも十分なのは認めるけど。けど、ギリ怪しまれない範囲までセーブしたからこそ、種族と性別しか分からなかったのだ。普通にやればもっと詳しく、それこそ持ち主の過去から未来までも見通せる。それが普通である以上、物足りなく感じるのも当然であろう。
「まあ、そんな事は置いといて」
「そんな事って!?」
「そんな事ですよ。例え分かったとしても、今の俺たちには関係無い。ここにはギルドも無く、騎士団の詰所がある訳でも無い。相手の居場所も分からないとなれば、俺たちにやれる事は無い」
無駄な事を考えても仕方ない。棚上げ、大事。
「それで、一応終わったんで呼びに来たんですけど、どうやらタイミングが悪かったようで」
見た感じだと、灰猫先輩は食事中のようだった。切り上げさせるのも悪いので、隣に腰を下ろす事に。
「お隣宜しいですか?」
「もう座ってるじゃない」
呆れた様子で苦笑する灰猫先輩。
「ヒバリ君も何か食べる?」
「では酒を」
「止めなさい」
ポカリと殴られた。
「スミマセーン。コーヒー下さい」
気を取り直して注文を済ませ、灰猫先輩とグレゴリウスに向き直る。
「コーヒーだけで良いの?」
「腹減って無いんで」
と言うより、何もしなければ一ケ月は飲まず食わずでいけると言うか。
「それで、先輩だけですか? タイソン先生とミカヅキと駄犬は?」
「俺はここにいるだろうが!」
あ、ゴメン。目に入ってたけど気にしなかったわ。
「タイソン先生はクリプトンさんとお話。レベッカちゃんとミカヅキちゃんは村の外れで自主練してるわ。ヒバリ君のお陰でね」
茶目っ気たっぷりにウィンクしてくる灰猫先輩を見て、ああそう言えばと思い出す。
あの時の戦闘の後、【覚醒時計】を掛けた四人は一層修練に励むようになった。それは未来の自分たちの実力をその身をもって体感したからであり、修練次第ではそれを超える事も劣る事もあると伝えたからだ。
結果、修練に励む今の四人の出来上がりである。補習とはまた別の方向で目標を与えられ、尚且つ監督生も混じってはいるが、概ね良い方向に転がった事だろう。
「で、お二人は成長を諦めたと」
「「いや違うから!!」」
え? 他の二人が自主練してる間に、呑気に食堂で飯食ってたのに?
「俺は単に休憩してただけだ! ミカヅキとレベッカは手持ちの飯を持ってたんだよ!」
「用意悪いのなお前」
「五月蝿えよ!」
じゃあ灰猫先輩は?
「私はヒバリ君に話があるから待ってたのよ。まあ、時間があったら私も自主練はするけど」
そう言って、灰猫先輩は腰に下げた双剣を叩く。準備はしてあると言う事だろう。まあ、どっちにしろ武器は持ち歩く訳だが。
暫くして、灰猫先輩は飯を終えた。
「ご馳走さまでした。さて、食べ終わったから行くわよ」
「ういっす」
言われた通り残ったコーヒーを全て飲み干し、勘定を済ませて席を立つ。
「じゃあなグレゴリウス」
「先行くわね」
「お疲れ様でした」
未だに食べているグレゴリウスに一言断った後、俺たちは部屋へと向かった。
(何か………息ぴったりと言うか………熟年夫婦?)
「違うぞ」
「うお!?」
グレゴリウスが見逃せない事を考えてたので、しっかりと釘は刺しておいたが。
ヒバリ、ゴブリンには好かれる。とは言え、相手の感情が信仰の域に達していて、尚且つゴブリンなので恋愛対象にはなってない。
それでも古代組の二人とは肌を重ねた訳ですが。とは言え、それも止むに止まれずの事情があったと言うか。具体的には、相当な無理難題を達成した報酬として望まれたから。相当な無理をさせた手前、無碍にする訳にもいかず仕方なく。
尚、ヒバリは実年齢は二十五歳なので、クラックで多少の女性経験はある。大抵は一夜の関係ですが。




