ナマケモノも動くは動く
気付けば四十万文字超えていた。このままブックマーク1万の目標も突破したものです。
………おや? そこのあなた、ちょっと上にあるオレンジのボタンをクリックしてくれません? 大丈夫ですよ。別に変なサイトに飛んだりしませんから。ほらほら。早く。……(悪徳商人の如く)
誤字脱字の可能性大です。
疑問に思った人はいないだろうか? 先程俺は敵勢力の正確な数を把握していた。なのに出てきたのは盗賊が十三人だけ。
では残りの魔物たちは何処に?
その正解が今の周囲の状況です。
馬車から見て前方にオーガウォーリアー、オーガメイジ、ボブゴブリン三体。
後方にオーガ、オーガウォーリアー。ボブゴブリン三体。
そして左右ではゴブリン二十五体に、ボブゴブリン二体、オーガ一体。
以上。バッチリ囲まれてます。まあ、召喚されただけあって、直ぐさま攻撃してこないだけマシか。
とは言え、命令権はタリスマンを破壊した傍観者が持っている。何時攻撃してきても可笑しくないのが笑えない。
「………これ死ぬんじゃね?」
ザックが頬をヒクつかせながら呟くが、殆どのメンバーは答えない。否、答えられない。目の前の絶望的な光景に、思考が停止しているのだ。
なので、唯一平然としている俺が答える事に。
「まあ、これ+謎の狙撃手だしな。楽ではないと思うぞ」
「嫌な事追加すんじゃねえ! てか何で平然としてんだお前は!?」
「そりゃ、元々あのタリスマンがどんなのかは予想出来てたし」
「だったら何で忘れてた!? こんなヤバい事態になるなら回収は最優先の筈だ!」
「そこに関してはマジで済まんかった。まあ、結果は変わんなかったと思うけどさ」
回収しにいこうとしたら、どっちにしろあの傍観者、いやもう狙撃手で良いか。狙撃手が同じ事をしてきただろうし。
「アレだ。レベル上げには持ってこいとても思っとけば、案外楽しめるんじゃないか?」
「どう考えてもデスマーチにしかなんねえだろがっ!!」
「はは、確かに」
見事なダブルミーニング。これには苦笑が隠せないな。
「しゃーない。俺が間引きしてやるよ」
「偉そうに言ってるけど、お前が原因だからな!?」
まあそうなんだけど。
「取り敢えず、側面は俺たち学生組が。片方は俺が片付ける。後方は杯が担当して、ウォーリアーは間引く。前方は鞘な。お前らは間引かなくて良いだろ?」
「無茶言うな! Bランク二体にボブゴブ三体なんてやってられるか!」
「んだよだらしない。ならボブゴブは間引いてやる」
しょうがないなもう。
「お前本当に覚えとけよ!?」
「いやそれより俺らも結構ギリなんだけど!?」
「気張れベン」
「無茶!! お前も討伐ランクのレートぐらい知ってるだろ!?」
ああ、魔物についてるランクだろ? 同ランクの冒険者がソロで討伐出来る確率とかが載ってるやつだ。
Cランクのオーガ単体を例に挙げると、同ランクパーティーで確実に討伐確実。ソロと一つ下のランク帯のパーティーで五割。Dランクのソロで一割ぐらいか?
勿論、これはあくまで目安なので、絶対という訳では無い。俺みたいな奴もいるしな。
それでも、これまでの経験に基づく目安なので、信憑性は結構高い。
「確かにウォーリアーは杯よりランクは上だし、更にオーガもいる。それでも数で勝ってんだ。やれるやれる」
ほら、さっきの頭目も言ってたじゃないか。数の暴力は強いって。
「圧倒的な個の力に蹂躙されてたぞ!?」
「………」
「そこで黙らないでくれるか!?」
ベンたちが文句を言ってくるが、聞こえない聞こえない。
「さて、揶揄うのはこれくらいにして。そろそろ奴らも動き出すぞ」
俺がそう言うと同時に、魔物たちは徐々に興奮し始める。タイミングがピッタリ過ぎる気もするだろうが、何て事はない。単に俺が奴らに出される命令を妨害していただけだ。
「ってオイ! お前何もしてないぞ!? 間引きするとか言ってなかったっけ!?」
「だから今やるって」
慌てるザックを軽くあしらいながら、頭上に大量の【エア・バレット】を展開する。
そして雄叫びを上げ始めた魔物たちに照準を合わせ、
「バン」
盗賊たちと同じように、眼球を貫き脳を穿つ。
ゴブリン二十五体、ボブゴブリン五体、オーガ一体、オーガウォーリアー一体、討伐完了。
「「「「んな!?」」」」
大量の魔物が即死した事に唖然とする一同。因みに魔物の硬直してる。気持ちは分かるが、それどころじゃねーぞ?
「ほれ、驚いてないでさっさと動け。間引きしたんだからお前らでも出来るだろ。馬車とクリプトンさんも俺が見ておく。心配しないで暴れてこい」
「っ、この出鱈目野郎が!」
「やれるなら最初からやれ怠け者!」
「高みの見物決め込もうとしてんじゃねーぞこの野郎!」
「もうそこまで来るとキモいんだよお前!」
「実力隠すつもりなら貫き通しな半端野郎!」
「やるんだったら最後までやりなさいよこの馬鹿!」
「私たちに押し付けて師匠面してんじゃないわよ!」
「新人の癖に生意気なのよチビ!」
「偉そうにしてるけど原因アンタなの忘れてないでしょうねこのマヌケ!」
「お前ら本当に覚えとけよ!?」
何で全員罵倒してくんだよ終いにゃ泣くぞオイ!?
「……えっと、凄かったですよ?」
「レベッカちゃん見習えお前ら!」
折角手助けしてやったのに何で揃いも揃って罵倒してるんだよ!
「恨み言を言っているところ悪いが、ちょっと良いか先輩?」
俺が薄情者たちに向けて呪詛を送っていると、ぽんぽんとミカヅキが背中を叩いてきた。何ぞ?
「ん? 何かね後輩?」
「いや、先程の魔法は素晴らしかった。並び立つ者など殆どいないような絶技だと思う」
「あ、ありがと」
おおう。急に褒められると照れるやないかい。
「ところで、私たちの方は一切減ってないのだが?」
おっと、上げて落としてきやがったよこの後輩。
「………」
「何か言え」
「いや、レベル上げには丁度良いじゃん?」
「先輩は技術にしろ思考にしろ常識を知った方が良い」
怒鳴るでも無く呆れるでも無く、淡々と諭してきやがりました。こっちの方が堪えたりする。
「確かにヒバリ先輩が見ていてくれるなら心強い。それにタイソン先生やメルト先輩もいる。私も高々ゴブリンに遅れを取る気は無い。例え何匹いようとな。だが、駄犬やレベッカ先輩は違うだろう?」
「んだとコラ!」
「黙っていろ。今は大事な話をしてるんだ。お前はゴブリンどもを見張っていろ」
遠回しに未熟と言われたグレゴリウスが怒鳴るが、ミカヅキはバッサリ切り捨てた。因みにゴブリン軍団は未だに硬直中。と言うか、虐殺した俺がいる所為で動くに動けない模様。
「駄犬はまだユニークスキルを使いこなせてない。それであの数相手に戦ってみろ。直ぐに理性が飛ぶぞ」
「あー」
そういやそうだな。グレゴリウスの【闘争本能】は、敵対者の数だけ身体能力が上昇する効果があるが、その代わりに感情が昂ぶるんだった。
グレイウルフ七体で半分理性が飛んでたので、魔物二十五体以上だとスパ○ボのエヴ○初号機みたいになりかねない。
「んー、経験積ませるのに最適かと思ってたんだけどなぁ……」
「お前この状況で何言ってんだ。てか何で受けさせる側みたいになってんだよ。お前は補習受ける側だろ」
タイソン先生が呆れているが、ぶっちゃけ何を今更である。
「俺もう補習受ける意味ないでしょ」
確実に実力が割れた。この一行の中で俺が一番の実力者なのは、既に周知の事実だろう。
「………」
沈黙は是と受け止めておく。
「さて、それじゃあグレゴリウス……いやタイソン先生以外ちょっとこい。先生はゴブ共見張ってて。どうせこないだろうけど」
「お前……」
いや、さっきからゴブリンと目が合う度にビクつかれてんるんだよ……。ホブゴブもオーガも同じく。当然と言えば当然なんだけど。
魔物は野生で生きてるので、相対している相手との実力差を測るのが上手い。それが出来なきゃ死ぬからだ。勿論、知能の低い魔物などは、実力差を把握出来ず格上に挑んで死ぬ事も多い。ゴブリンなどはその典型だ。
が、如何に馬鹿なゴブリンと言えども、ドラゴン相手に喧嘩を売ったりはしない。襲われたりしたら兎も角、好き好んで特攻する事はまず無い。
そして俺は、この魔物たちからドラゴン認定を受けたようだ。本来ならその時点で逃げ出すのだろうが、ゴブ共にはそれが出来ない。召喚された事からも予想出来たが、杜撰ではあるが従僕の魔法が掛かっている。敵前逃亡は許されてないようだ。
ドラゴン(俺)に挑むなんて命知らずな事は出来ず、かと言って逃げ出す事も出来ない。マジで同情に値する。
(理不尽な上司を持つと不憫だねぇ)
まあ、そのお陰で安全に集合を掛ける事が出来るのだが。
「………何だ? すっごい嫌な予感するんだが……」
「ヒバリ君? 変な事はしないでよ?」
「あの、大丈夫ですよね?」
「常識の範囲で頼むぞ」
「君らが俺の事をどう思ってるのかが痛い程分かったよ」
酷いじゃないか。
「ったく……。人が君最大限の援助をしてやろうと思ったのに」
おいその意外そうな顔止めろ。
「は? お前が?」
「変なの食べたヒバリ君?」
「先輩の怠け癖が消えただと……!?」
「もしかして、さっきの魔法無理が有ったんですか!?」
君ら本当に俺の事どう思ってんの?
「そりゃ、今までのを見る限りねぇ?」
「良くて昼行灯」
「悪く言えば怠け者」
「えっと……普段はダメな感じですけど、いざという時は頼りになる人、ですかね?」
「お前らマジでレベッカちゃん見習え!」
それでも普段ダメとは言われてるけれども!
「まあ良いや。援助はレベッカちゃんだけ増やす事にするし」
「ふえ!? 私別にそんなつもりじゃ!?」
慌てなくて良いよ。それは当然の権利だから。
「差別反対!」
「お前レベッカにだけ優し過ぎね!?」
「何か過保護な兄か父親みたいだぞ?」
「文句言うな自業自得だ!」
人の事こき下ろしといて甘えんな!
「んじゃ、手っ取り早く始めるか。タイソン先生も冷や汗かいてるし」
幾ら襲ってこないとは言え、それが断言出来るのは俺だからだ。何も知らない奴からすれば、ゴブ共が何故か動かないだけ。それなのに、大量の魔物を前にして一人で対峙しないといけないのだ。冷や汗を掻くのも分かろうものだろう。特にタイソン先生は後衛職なので余計に。
「と言う訳で、全員そこ並んで」
「えっと、何をするんですか?」
「そうだねぇ……一時的に成長させる、かな?」
「え? それってどう言う……?」
「それは後のお楽しみだよ」
レベッカちゃんの疑問は軽く流す。自重という言葉を20センチ程棚上げするつもりなので、説明したところで理解出来無いと思ったのだ。
「取り敢えず、五年分。レベッカちゃんは特別に十年分かな。反動を考えると、制限時間は……五分で十分か。レベッカちゃんの分は、俺が肩代わりするようにして」
大まかな時間を決めた後、レベッカちゃんに身代わりの魔法を掛ける。その後、本命の魔法を発動する。
「[目覚めよ、現代は眠りし可能性。時計の針が巻き戻り、されど未来の枝葉は茂る。伸びし枝葉よ、かつての幹に宿るべし。仮初めの成長を与え、時の流れの指針とならん]」
詠唱と共に、四人の胸元に小さな魔法陣が出現する。それはまるで時計のようで、文字盤と針が描かれていた。
「【覚醒時計】」
そして魔法名を唱えると、魔法陣の針が高速で回転し始める。
「えっ!? ちょ、何コレ!?」
「オイ本当に大丈夫なのかコレ!?」
「五月蝿い少し待て」
狼狽える四人を黙らせる。もう少しだから落ち着け。
ーーカチカチカチカチ………カチッ。
やがて小気味好い音と共に針が止まる。これで魔法は完了だ。
「ほれ。終わったから行って良いぞ」
「いやお前俺たちに何したんだよ!?」
「そりゃ実感してからのお楽しみだ」
口で説明するより、そっちの方が早い。
「いや駄目でしょそれ! 何か起きたらマズイじゃない!」
「大丈夫ですよ。四人とも確実に強くなってますから。何か起きるなんて事ありません」
と言うか、俺がいるのに何かなんて起こさせる訳が無いだろう。
「………本当に大丈夫なのか先輩?」
「ああ。ついでに言うと、将来的にも役に立つとも断言しておく」
【覚醒時計】はそういう魔法だ。
ミカヅキはジッと俺を見つめ、その後頷いた。
「良いだろう。先輩の言葉、信じるぞ」
「そか。聞き分けの良い娘は好きだよ」
「先輩の実力は信頼出来るからな。では行ってくる。タイソン先生だけに任しとく訳にもいかないしな」
「そうか。魔法の制限時間は五分だぞ」
「それは少ないのか?」
「むしろ多過ぎる」
「なら良い」
ミカヅキはフッと笑みを浮かべた後、大盾を構えて走って行った。カッコイイなオイ。
「あ! こら待て!」
そしてミカヅキを追い掛けるように、てか追追い掛けてグレゴリウスも駆け出した。
「ちょっ、 ミカヅキちゃん!? グレゴリウス君!?」
「ほらほら先輩も早よ行く。レベッカちゃんもね」
「えっと、はい」
「レベッカちゃんまで!?」
タタタッとレベッカちゃんが素直に駆けていく光景に愕然とする灰猫先輩。……うん、実際俺もビックリした。女性陣からは何だかんだで信用されてるっぽい。
「〜っ! 何か有ったら怒るからね!?」
魔物の群れに後輩たちだけで向かわせる訳にはいかないようで、灰猫先輩は俺に釘を刺した後走り出した。
「さて、それじゃあ俺も」
クライアントの警護に回るとしますか。
馬車に向かうと、そこには顔を青くしたクリプトンさんが隠れていた。こっち見て一瞬ビクついたぞこの人。
「お、おお、サクラギ君か。ついにゴブリンたちが馬車に辿り着いたのかと」
「大丈夫ですよ。そんな事は起きません」
僅かに震えるクリプトンさんに苦笑しながら、どっこいしょと腰を下ろす。
まあ、幾らナイスミドルと言っても、荒事は専門外の商人だ。カッコ悪いとは思うまい。
「鞘も杯もベテランですし、いざとなったら俺が全部射殺しますよ」
先程の虐殺劇はクリプトンさんも見ていたようで、身体の震えが収まっていた。
「……そうですね。護衛を信頼出来なければ、行商なんて出来ません。済みません。情けない姿を。あまりの数だったもので、少し取り乱しました」
「いえいえ」
直ぐに立ち直ったのだから、十分に凄いと思います。
「それにしても、サクラギ君はまだ学生なのに凄いですね。長年冒険者の方々を見てきましたが、あの魔法は見事でした」
「そりゃまあ。これでも下手な奴らよりは修羅場を潜ってますから」
神話レベルの戦闘ばっかやってますから。
「一体どんな人生を過ごしてきたのか気になりますね。まあ、人の過去を詮索する気はありませんが」
「それが賢明でしょうね」
流石は商人。冒険者などの人種との付き合い方は分かっている。
「それにしても良いのですか? ザックさんたちは兎も角、お友達を魔物の群れに向かわせて」
少しばかり冷たい瞳を俺に向け、クリプトンさんはそう聞いてきた。まるで値踏みするような視線だが、その真意は俺の善に属する部分を見定めているのだろう。ならば、特に不快には思わない。友達が心配じゃないのかと聞いているのだから。
「それも問題無いでしょう。今のアイツらは、ザックたちより強い」
俺が灰猫先輩たちの方を指差すと、クリプトンさんも同じ方向を向いた。
「な、なんと……!?」
そこには、予想以上の光景が広がっていた。
「ハァッ!!!」
グレゴリウスが剣を振り抜くと、周りにいたホブゴブリンとゴブリン共を纏めて切り裂く。
「【トルネード】!!!」
レベッカちゃんの詠唱破棄によって放たれた竜巻が、何体ものゴブリンを空へと巻き上げる。
「ほう! 流石は先輩だな!」
ミカヅキはレベッカちゃんの前に立ち、向かってくるゴブリン共の攻撃を全て受け止め、流し、シールドバッシュで吹き飛ばす。
「【フィジカル・サンダー】」
灰猫先輩は雷属性の補助魔法によって敏捷を上げ、稲妻を迸らせてゴブリン共の合間を縫うように駆け抜け、双剣を巧みに使い舞うように剣戟を繰り出している。
そして、
「タイソン先生! 台!」
「お、おう!」
灰猫先輩の指示により、タイソン先生が土魔法で踏み台を作る。それを踏みしめ、灰猫先輩は一気にオーガへと距離を詰める。
「ゴアァァァ!!!」
「遅いわよ!」
咄嗟に腕を振るったオーガだったが、灰猫先輩はそれを見事に躱し、
「フッ!!」
一閃。
オーガの首が宙を飛ぶ。
程なくして、学生組の担当した魔物は全滅した。
学生組が担当した魔物たちが全滅するのに掛かった時間、二分十三秒。
この章も後、三話ぐらいで終わります。
【覚醒時計】の詳しい説明は次回。




