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ヤル時はヤル

遅くなってスミマセん。相当な難産でして。


この章ももう少しで終わるので、次回からはもう少し早く更新しようと思います。


誤字脱字の可能性大です。

粉砕された二台の馬車に、無残に引き千切られた馬。所々で見られる肉片は、恐らく人間の物。周囲なは血の流れた後があり、そこには砕かれた鉄剣が転がり、地面には矢が突き刺さっていた。


惨状。正しくそんな言葉が似合いそうな場面だ。


「うわぁ、こりゃ酷いな」


異常事態という事で、先頭の俺たちと合流した鞘のメンバーが、目の前に広がる惨状に眉を顰めている。後ろの方に顔を向ければ、杯のメンバーも似た表情をしていた。


ベテランの冒険者ですら苦い表情をしているのだから、当然素人に毛が生えた程度の学生組はもっと酷い。


レベッカちゃんはあまりの惨状に口元を押さえて馬車の影に駆けていき、グレゴリウスは顔が真っ青になっている。


灰猫先輩とミカヅキは比較的耐性があるらしく、気分は悪そうだがグレゴリウスたち程じゃない。


タイソン先生は、流石に大人だけあり、不快そうな顔をしているだけだった。あまり直視しようとはしてないが。


「………で、お前は何で平気そうなんだよ?」


ザックがそう聞いてきたので、俺は端的に


「慣れ」


と答える。


「………こんな光景に慣れてる? お前どんな人生送ってきたんだよ……」


ザックが頬を引き攣らせているが、俺からすればこんなの大した事じゃない。もっと陰惨な現場に突撃した事も有るし、幾つもの戦争を経験した。そして何より、クイーンのお仕置き(拷問)方がよっぽど堪える。………知ってるか? 毛虫の海の中って暖かいんだぜ?


「……何だ、やっぱり痩せ我慢か」


俺が違う意味で消沈しているのを見て、ザックが胸を撫で下ろした。………サブイボ立ち過ぎて訂正する気も起きん。


「にしても、一体どんな戦闘があったんだ? まるで見当が付かないぞ」


周囲の調査をしていた杯のボリスの報告によると、馬車には護衛と思われる者が八名程いたのではとの事。馬車の持ち主は不明だ。金目の物が無いので、盗賊の仕業ではと言っている。


しかし、幾つか気になる事があるらしい。


「盗賊と思われる足跡の他に、魔物の足跡も有るんだ」


「盗賊の中にテイマーがいるって事か?」


「それにしては数が多すぎる。足跡からして、盗賊の数は十三人。それ以外に、ゴブリンと思われる足跡が約三十、ボブゴブリンが十、サイズからしてオーガと思われるのが六」


ちと違うな。正確には、盗賊が十三。ゴブリンが五十。ボブゴブリンが十。オーガが三。オーガウォーリアーが二。オーガメイジが一だな。後は傍観者らしき存在が一。


まあ、多いのには変わりない。


「何だよその数は!? 本当に盗賊か!?」


「知らねえよ! 更にヤバいのは、戦闘があってからまだそんなに経ってないって事だ! 血も乾いてないし……恐らく、一時間前だ」


「おいおい! そんなのと鉢合わせたりしたら堪んねえぞ!?」


一時間しか経過していないと言う事は、まだ敵がこの付近にいるかもしれないと言う事だ。もし敵が報告通りの戦力なら、こちらの戦力(俺を除いた)では心許ない。数が多すぎるのだ。特にオーガは不味い。通常のオーガはCランク、派生種はBランクの魔物なので、六体以上となると鞘と杯でも手一杯だ。そこにゴブリンとボブゴブリン、盗賊が控えているとなると、全滅しても可笑しくない。


盗賊の戦力としては異常だ。


「盗賊如きが一体どんな手を使ったのやら」


盗賊が手に入れられる戦力じゃないんだよなぁ。一応予想は出来てるけどさ。


「ふむ………」


「考察は後にしろヒバリ!」


考え込んでたらザックに怒鳴られた。


「えー」


「えーじゃねえよ!今は急いでこの場を離れるんだよ! 俺たちと学生組は持ち場を交替! また、スピードを優先させるから全員馬車に乗り込め! 各馬車の御者席には俺、ヒバリ、ベンが待機して警戒する!」


「「「「了解!」」」」


「反対!」


「ああっ!?」


反対したら睨まれた。解せぬ。


「何が不満だヒバリ! くだらない事なら流石にぶっ飛ばすぞ!?」


おーおー。ヤバい状況だけにピリピリしちゃって。


「まあまあ落ち着けって。何で学生の俺が警戒担当に入ってんだよとか色々言いたい事は有るけど、主だった理由は違うから。結構ちゃんとした理由だよ」


「回りくどい事言ってないでさっさと言え!」


怒鳴るザック。おいおい、もっと余裕を持った方が良いぞ? これから忙しくなるんだから。


「今の編成で行くなら、即行で壊滅するぞ」


「………は?」


意味が分からず硬直するザック。俺は肩を竦めて、分かりやすいように街道近くの森を指差す。


「狙われてる。奴さんは既に臨戦態勢だ」


「「「「っ!!?」」」」


冒険者組が武器を構えると同時に、森の中から七本の矢が飛来する。


咄嗟にザックたちが前に出て、七本の内の四本を叩き落とした。残りは明後日の方向に飛んでいった。具体的に言うと、馬車の後方と左右。


そして感じる違和感。


(ん? 矢から魔力? ………ああ、結構巧いな)


中々に巧妙な作戦だと、敵の狙いに密かに関心してしまう。効果的かつ厄介な作戦だ。やられる側としては堪った物じゃない。


しかも、ザックたちは続けざまに飛んでくる矢の対処に夢中で気付いてない。


(……誰も気付いてないみたいだし、しょうがな、っと)


殺気を感じると共に、飛来してきた矢を掴む。額を正確に狙った、とても鋭い一矢だ。


(完全に俺狙い。仕掛けに気付いたのがバレたか。こりゃ牽制かね)


今の一撃。ザックたちを襲う矢とは明らかに違う。盗賊とは別口の手練れ。恐らく傍観している奴の攻撃だろう。


(ただでさえ鋭い一撃に、射程拡大、貫通強化、認識阻害の魔法が掛かってやがる。何で異世界まできてスナイパー紛いの奴相手せにゃならんのか)


仕掛けの破壊に動いた瞬間、俺以外の全員・・の額に矢が生えるなんて事も有りそうだ。


(何時でも手を出せると考えると、こっちの方を警戒しといた方が良いな)


両方同時に対処する事も可能だが、片方に絞った方が手間が掛からない。仕掛けの方はタネも見えているし、天秤に掛けたら傍観者の方に傾く。


(つうか、イレギュラー多過ぎ。これサポートなんて言ってる場合ちゃうかも)


とっと終わらせた方が良い気がする。


俺がそんな風に考えていると、ザックたちの方に動きがあった。どうやら盗賊たちが姿を見せたようだ。


人相が悪く、粗悪な装備を手にした十三人の男たち。如何にも盗賊って感じだな。


「っち。隠れた俺たちを見つけたり、奇襲を難なく防いだり、随分と強え奴らじゃねえか。こっちとしては楽したいのによ」


「けど上玉が沢山居ますぜ? 特にあの白髪の猫族。ありゃヤバい。他にもちっせいガキや、盾持った女も良い感じだ」


「おいおいおい!? じゃあつまり? 今日は朝までお楽しってあがっぁ!??!」


「喧しいんじゃいボケども」


色々と不快な言葉を発していたので、五月蝿かった盗賊の頭を魔法で射抜く。


俺の突然の凶行に一瞬空気が凍る。


「ちょっ!? ヒバリ君何してるの!?」


「むしゃくしゃしてやった。けど反省も後悔もしていない」


むしろザマアだ。


「あれ生きてるの!?」


「見ての通り」


灰猫先輩の指差す先には、頭に穴を開けて血を流してる男二人。死んでますね、はい。


こちらの生死確認が済んだところで、盗賊たちも動き出した。


「テメエ何しやがる!?」


「野郎! よくもやりやがったな!?」


あ? 何言ってんだコイツら。


「そりゃ殺るよ。だって敵じゃんお前ら」


敵を殺して何が悪い。


「それに自業自得だろ。変な事言わなければ、そいつらももう少し長生き出来たのに」


まあ、結果的に死ぬんだけどさ。


「ああ? 変な事だと?」


「人の先輩後輩同級生で不快な皮算用たてんなって言ってんだよ」


キレるって程じゃないが、それでも知り合いを慰み者にするなんて言われたらイラッとする。


「ヒバリ君……」


何やら灰猫先輩が嬉しそうにしてるけど、アンタに関しては勘違いだ。ホモォな展開は望んでない。


「つーかさ、何でお前らみたいな奴って毎回毎回前口上で下品な事言う訳? 黙って出来ないの? 言わないと死ぬの? 変な義務感でも芽生えてんの? そうじゃなかったら止めろや! こちとらもう下品な前口上は聞き飽きとんじゃい! ワンパターンなんだよ少しは捻れ三下ァ!」


「………ヒバリ君? 何か愚痴になってない?」


「おっと失敬」


長年の疑問的な物が溢れて出てしまったようだ。いや、『お約束』が原因ってのは分かってんだけどね? それでも言わずにはいられないと言うか。


まあ、それはさておき。


「聞いたら不快になる台詞を何で全部聞かないといけないの? ただでさえ聞き飽きてんだよ? 邪魔するのが普通でしょ。とまあそんな理由で、テンプレートな悪役台詞を吐いたお馬鹿さんには死んで貰った訳ですが。何か文句有る?」


盗賊たちがプルプルしてる。文句有るのね。


「………んだとガキ舐めてんのかぁ!? アアッ!?」


「あ、ゴメン。文句聞く気は無いの。黙れ」


勿論、聞く耳持ちませんけど?


「………おい、クソ餓鬼。あんま調子乗るなよ? 俺たちの気分次第でテメエらの運命が決まるんだぜ」


「既に仲間殺されてる癖に吠えるな吠えるな。現実見ような? 実力劣って装備劣って人数劣ってたら絶対勝てないから」


盗賊の実力は精々Dランク。装備は錆びや刃こぼれなどの破損が目立ち、人数は既に二人死んで十一人。


これで勝てると?


「………ああそうかい。なら地獄を見せてやるっ!!」


頭目と思われる男がそう叫び、懐から棒状のタリスマンのような物を取り出した。


「実力? 装備? そんなの関係無えんだよ! お前ら! このクソ餓鬼たちに数の暴力を教えてやれ!!!」


「「「「オウッ!!!」」」」


他の盗賊の返事と共に、頭目がタリスマンを地面に叩きつけようと振りかぶる。


「死にさらせやァァァ


ーードスッ。


「ーーあ?」


頭目の汚らしい雄叫びが、間抜けな声へと変わる。他の盗賊たちも、一転して静かになった。


そりゃそうか。


「……だからぁ、長ったらしい口上なんて聞く気無いって言ってるだろ」


十一人の盗賊全員が、片目から頭を穿たれたのだから。


「……な……何を……」


「ゴメン。俺冥土の土産とかあげないタイプなんだ。どうせ死ぬんだ気にすんな」


教えたとしても、説明の途中でどうせ死ぬしな。


「………この……や…ろ……」


ほら死んだ。


頭目の怨嗟の声を最後に、盗賊たちは全滅した。


さて、残るは傍観者なんだが。手足もいで捕らえるか。


「【砲閃ーー」


「ヒバリ君!」


「ーーんにゃ?」


魔法を発動しようとしたら、灰猫先輩に止められた。何ぞ?


「幾ら盗賊でも死体に鞭打つのはダメよ!」


「………ん?」


ちょっと良く分からなかったので、暫し黙考。


……ああ、そゆことか。傍観者の存在は俺以外気付いてないから、側から見たら死体を攻撃しようとしてるように見えたのね。


「………誤解ですけど、まあ了解です」


説明したところで余計な心配を増やすだけだし、何より俺以外にあの傍観者は対処出来ないだろう。言わない方が無難か。


「にしてもヒバリ。お前あれ何やったんだ? 俺やサラキには見当がつかないんだが」


聞いてきたのは鞘のドルドル。鞘の魔法職である。サラキも同じく。


「ん? 下級魔法【エア・バレット】だよ」


【エア・バレット】とは、小指の先程度のサイズの空気の弾を打ち出す魔法だ。下級だけあって威力は低く、人体に当たっても致命傷になる事は殆ど無い。


「それでも、眼球から脳を穿てばこれこの通り。殺傷魔法に早変わりって訳」


簡単に説明してやると、サラキとドルドルは関心したように唸る。


「なるほどなぁ………って、凄えのは分かったけど、そんなの出来るのお前ぐらいだろ」


「普通相手の眼球狙い撃つとか無理だ。少しでもズレたら倒せない」


「そこは腕の見せ所だな。けど確実に仕留められたら凄く便利だ」


どんなに強い相手でも、脳を穿たれたら大抵は死ぬ。


「……どっちにしろ俺らにゃ無理だ。一人ですら難しいのに、十一人全員なんて不可能だな」


「と言うか、俺は学生のお前がそんな技術持ってる事が恐ろしんだが………」


サラキの一言に、あーと頷く一同。


「本当に容赦無く殺しにいってたよな」


「しかもガッツリ煽ってから」


「正に悪魔」


喧しいわ冒険者組。


「えっと、お疲れ様?」


「見事な手際だったな先輩」


「鬼かお前は。……凄かったけど」


「あの、私たちの為に怒ってくれてありがとうございます」


口々に労ってくる学生組。後レベッカちゃんマジ天使。


「ああそうだったな。それに関しても礼を言わねば。ありがとう先輩。とても嬉しかったよ」


「そうねぇ。私も柄にも無くキュンとしちゃった」


素直に頭を下げるミカヅキと、語尾に星が付きそうな調子の灰猫先輩。イラッときた。


「灰猫先輩だけ差し出しとけば良かったかな?」


「酷くないそれ!? 冗談よ冗談。折角気を使ったのに」


「え、何に?」


気を使われる事した記憶無いんだけど。


俺が首を傾げてるのを見て、灰猫先輩は気不味そうに頬を掻く。


「………いや、そんな不思議そうにされても……。キミに人殺しさせちゃったの、結構後悔してるんだよ?」


「何で?」


「………だって私の方が先輩なのに、後輩のキミに汚れ役みたいな事させちゃって」


「そんな気にするような事っすか?」


「気にするわよ! キミはまだ子供なのよ!?」


「殺しに年齢は関係無いでしょ」


てか、実年齢二十五歳だし。


「だからってキミが手を汚す必要無いじゃない! タイソン先生やザックさんたち、私がいるのは、こういう時の為なんだよ?」


「襲われたらそんな事言ってられないと思うんですけどねぇ」


殺る必要が有るなら殺らなきゃ。


「いや、学園側からの契約で、盗賊の相手は俺たち冒険者がする事になってんだ」


「え、マジなのそれ?」


初耳なんすけど。


「マジだよ。学生に人殺しは早いって判断だな。だから護衛に俺たちのパーティーが付いてんだ」


まあ、確かに王都近くの街道を通る馬車の護衛としては、過剰戦力な気がするけど。そう言う意図が有ったのか。


「え? なら俺殺ったの不味かった? 契約違反になんない?」


冒険者は信用第一よ?


「この場合は問題無い。彼らが動く前に、サクラギが勝手・・に動いたからな。むしろこっちが謝りたいぐらいだ」


良かった。クライアント側からお墨付き貰ったわ。………勝手の部分が嫌に強調されてたけど。


「……怒っちゃやーよ?」


殴られた。


「ぶん殴るぞサクラギ」


「もう殴ってますよー」


痛くないけどさ。


「てか、そんなにピリピリする事かねえ?」


何か過保護な気がしないでもない。


「いや、冒険者でも殺しは基本的にCランクからだし、当然っちゃ当然だろ。お前は例外っぽいが」


ああ、そういやCランクから護衛や盗賊退治の依頼が出てくるんだよな。


「Bランクの昇格条件の一つに盗賊退治も有ったっけ」


「おう。Cランク昇格依頼で護衛をこなして、慣れてきたら盗賊退治の依頼が回されてくるんだ」


へえ……って、ちょっと待て。


「なら、灰猫先輩も人殺った事無いんじゃ……」


あ、今ビクッとした。図星か。


「自分も未経験なのに良く吠えましたね」


「うっ……」


半眼で睨むと、灰猫先輩が小さく唸る。


「……確かに私も人を殺した事は無いわよ。それでもっ!! 後輩のキミにやらせるよりも、私がやった方が何倍もマシだった!」


「いや、大事に思ってくれてるのは分かりますけど。そう言う灰猫先輩も学生で子供ですからね?」


年齢もカテゴリーも大して変わらないよ?


俺がそう伝えると、灰猫先輩は違うと首を振った。


「私はCランク冒険者よ。上を目指すならいずれ人を殺すし、その覚悟も有った。だからこそ後輩に、ヒバリ君に手を汚させた事を凄く後悔してる」


良くもまぁ、この前会ったばっかの奴の事でこんなに傷つけるものだ。それ程心優しい人なのか、それとも俺がそれだけ気に入られているのか。……この場合は両方かな?


「灰猫先輩がそう言うなら、俺は全く後悔してません。むしろやり遂げたと思ってます」


だから、胸を張ってこう答えよう。


「………どう言う意味よ?」


眉を顰める灰猫先輩。言葉の真意を探る先輩に、俺は笑って


「灰猫先輩が手を汚さずに済んだんです。後悔なんてする訳が無い」


そう言った。


「……へ?」


ポカンとする灰猫先輩に、俺は更に続ける。


「灰猫先輩はああ言いましたけど、それは俺にも言えるんですよ。人殺しなんて汚れ役、手が綺麗な子供にやらせようなんて思えない」


そりゃ確かに、灰猫先輩が冒険者として上を目指すなら、殺人も何時かは通る道だろうけど。


「けどそれは今じゃない。先輩が人を殺すのは、殺意を持つのはまだ早い」


「なっ!? 私は何時だって覚悟はしてる!」


「それが学園の後輩の前でも?」


「え?」


ああ、やっぱり気付いて無かったか。


「初めて人を殺す場面を、先輩は人に見られても良いんですか? 明確な殺意を持った姿を、先輩は後輩たちに見られても良いんですか?」


「それはっ………」


言い返そうとして、言葉に詰まる灰猫先輩。そりゃそうだ。自分の手が汚れるところなんて、誰かに見られたいなんて人間は少ない。ましてや自分を慕う人間や、汚れていない人間なんかに見られたくはないだろう。


「だから、あの場面で殺すのは俺で良い。先輩が手を汚す必要はまだ無い」


何時かは殺すのだろうけれど、それはまだ先で良いじゃないか。


「けど、だからってヒバリ君に……」


「俺はもう何人も殺ってますから。今更増えたところで変わりませんよ」


俺の所為で流れた血なんて、魔物も合わせると琵琶湖が出来るぞ。


「それにあの時動いたのは、タイソン先生の言った通り俺の独断です。あのままならザックたちだけで対処出来ました。なのに俺が勝手に殺したんだから、先輩が後悔する必要は無い」


と言うか、マジレスすると灰猫先輩が手を汚す事もまず無い。いや、後輩の俺が殺るんだったら私がやる、と言う意味なのは分かってるけど。ダチ○ウ倶楽部みたいな意味なのは分かってるけど。


どっちにしろ、灰猫先輩が気負うような事じゃない訳で。


「けど……」


「まだ言うか………」


後悔すんなって言ってるのに、それでも灰猫先輩は納得出来てないみたい。大概この人も頑固だな。


良し。ならここは俺の爽やかな口説き文句で。


「俺は、灰猫先輩には綺麗な白猫のままでいて欲しいんです」


「………」


あ、そっぽ向きやがった。


「………似合ってなくて気持ち悪い」


「ですよねー」


うん、キャラじゃないのは分かってた。


「なので耳の先が少し赤いのは勘違いと言う事」


「っ!!! この馬鹿っ!」


お? また少し赤みが増したか?


「……んんっ」


タイソン先生がわざとらしい咳払いをする。何ぞ?


「イチャつくなら他所でやれ」


「「ちょっ!? 違う!!」」


「わー! 息ぴったりですねお二人共」


ちょっとレベッカちゃん黙ろうか?


「………まあ、後にサクラギには独断先行の罰を与えるとして」


「ちょっ!? 何で!? 折角良い感じに纏まりそうだったのに!?」


酷くね!?


「喧しいわ。途中までは納得出来たから見逃してやろうと思ったのに、最後の最後でイチャつきやがって。甘ったるくて見てらんねえんだよ」


イチャついて無えよてかそれ私怨じゃねーか!!


「おいザック! ちょっと弁明してくれ!」


「いや、俺もイチャつくのは良くねーと思うぞ?」


「それは良いんだよっ! ……いや良くはないけども! そうじゃなくて独断先行の方だ!」


ニヤニヤすんな分かっててやってんだろ!


「ハッハッハ。まあまあ先生さん。独断は許してくれよ。あの怠け者が自分から動いたんだ。喜ばしい事じゃねーか」


「オイ待てや」


それフォローされてるように聞こえないんだが。


俺が半眼で睨むと、ザックはヤレヤレと言った感じで肩を竦める。


そして、一転して真剣な顔となる。


「真面目な話、あの怠け者で隠し癖のあるヒバリが動いたんだ。明確な理由が、動かなざる得なかった何かが有った。そうだろヒバリ?」


そうそう。やっぱり分かってんじゃねーか。流石は場数を踏んだ冒険者。


「俺が思うに、あの頭目の持った棒に何かあんだろ?」


「ああ。あのままなら、割と本気で危なかった」


俺がいなきゃ全滅は確定するぐらいにな。


「そんなにか?」


「そんなにだ」


俺が頷くと、ザックも険しい顔となる。王都の冒険者だけあって、俺のヤバいって言葉の重さを知っているのだ。


「………本当にヤバいんだな?」


「本当にヤバい」


「………マジでヤバいんだな?」


「マジでヤバい」


「………なのに、お前はそれを放置してたんだな」


「…………」


周囲を静寂が包む。


「…………」


「…………」


「…………ゴメン忘れてた」


「「「「馬鹿かお前は!!」」」」


一斉に怒鳴られました、はい。


「お前何でそんなヤバいの忘れてんだよ!?」


ぶっちゃけ灰猫先輩の件と、傍観者の警戒で頭が一杯だったと言うか。


「普通に忘れてたんだよね。うん」


「「「「開き直るな!!」」」」


冒険者組、及びタイソン先生から殴られました。


「ったく! そんなにヤバいなら早く回収してこい! 俺らじゃ何がヤバいのか分かんねえから!」


あはは。だよねー。


「いやー、メンゴメンっ!!」


タリスマンの回収に向かおうとした瞬間、それを感じた。


(殺気! ……けど俺じゃない?…っ、標的は先輩か!?)


「ッチィ!」


傍観者の意識の向き、放たれた矢の気配によって、誰が狙わたのかを看破。即座に灰猫先輩の前へと移動する。


「キャッ!?」


突然俺が近いた事で灰猫先輩が悲鳴を上げるが、それを無視して飛来した矢を拳で叩き落とす。


「敵襲!? まだ残党が居たのか!?」


矢を確認した冒険者組が直ぐさま武器を構える。俺も同じように拳を構えようとして、それを見た。


「………あ、ミスったこれ」


そこに有ったのは、矢によって砕かれたタリスマン。


そして、俺たちを囲むように盗賊が放った矢が、光輝く瞬間だった。

ヒバリの抱えるトラウマ


権力者関係二割


クイーン関係七割


その他一割


尚、症状に関しては上の方が重いです。


その理由も後々書いていきたいなぁ、と。

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