ヒバリ包囲網
今回はリザイアのお話。
これによって、今後のフィアさんが話に絡むようになります。
誤字脱字の可能性大です。
〈sideリザイア〉
「ふむ………空間魔法を使えると聞いていたが、実際に目の当たりにすると凄まじいな」
ヒバリが謁見の間から転移した後、ラーバールは転移の魔法の効果に唸る。
「消えるのは一瞬、現れるのも恐らく一瞬。対策の立てようも無い奇襲など、恐ろしいにも程がある」
「しかし父上、この王城には魔法対策や侵入者対策が張り巡らされている筈ですが……」
ラーバールの呟きに、デルタが疑問を浮かべる。
デルタの疑問も最もだろう。ここは国の長たる王の住まう城。警備は当然のことながら最高レベルである。それをいとも容易く破られたのだから、首を捻りたくなるのは当然である。
「既に目の前で起こっているのだ。実例がある以上、可能かどうかなど議論する余地は無い」
問題は、それが可能であるということだ。………まあ、実際はヒバリだから可能なのだが。
「魔法対策を強化するにしても、既に最新式を施してある訳だが……さて、どうした物か?」
当然のことながら、王城の防御策は常に更新されている。そして現在の防御策は、現状での最新式なのだ。
「………まあ、今のところ空間魔法を使えるのは彼だけのようだし、後回しで問題無いか。幸い、彼と敵対関係という訳でも無い」
国の予算は限られているのだ。脅威の度合いが低い案件を後回しにするのも、為政者の仕事である。
そして、為政者の仕事はもう一つあった。
「して、フィアを襲ったという魔人は?」
「はっ! 魔人はフィリア様の寝室にて発見。………信じられないことですが、戦闘の後は無く、喉を潰され絶命しておりました」
「………それは誠か?」
ガールの報告が信じられず、つい聞き返してしまったラーバール。だが、返ってきたのは先程と同じ報告だった。
「はい。事実です。あの者は、魔人を一方的に屠っています」
最初の報告では、ヒバリは魔人を不意打ちで倒したと聞いていた。故に、ラーバールは誤解していたのだ。魔人を不意打ちだろうと倒したのは偉業であるが、正面から戦えば結果は違っていたのでは無いのか?倒すことは出来ても、多少は苦戦するのでは無いのか?と。
だが、今の報告を聞き、その考えを改めた。
「一応聞いておくが、ガールは魔人の喉を潰せるか?」
「………不可能です。触れてみた感触から言えば、あの魔人の身体強度は金属に匹敵します。こちらの存在に全く気付いていない、魔人からの反撃無し。この条件が揃っていても、あそこまで戦闘痕を残さずに喉を潰すのは難しいでしょう」
リザイア王国随一の練武を誇るガールの見解を聞き、ラーバールは暫く考え込んだ。
「では、やはり魔法か? 爺はどう考える?」
リザイア王国でも生き字引と名高い老魔導師、宮廷魔導師長クラウスにラーバールは意見を求める。
「不明ですな。俄かに信じられないことですが、あの御仁の魔法行使には、一切の魔力の残滓が確認されておりませぬ故」
「それはどう言うことだ?」
「無駄が無いのですよ。魔法というのは、魔力を事象に変換する技術。魔力の残滓は、言わば事象に変換し損ねた魔力。それが彼の魔法行使には一切無い。即ち、魔力を完全に操作しているということです。儂も長い時を生きておりますが、あれ程の腕は見たことが無い」
「爺にそこまで言わせるか……」
感嘆と僅かな畏怖を滲ませるラーバール。
「儂も全盛期の頃には魔人を討伐したことはあります。だが、それは死に物狂いで何とか勝てただけ。痕跡を一切残さずというのは、例え奇襲でも不可能でしょう」
かつては英傑の一人として数えられたクラウス。そんな人間が不可能と言うのだ。ラーバールの驚きは大きい。
「………もし、爺と彼が戦ったら、どうなる?」
「確実に負けますの。先程の威圧を考えれば、この城の全兵力を持ってしても、あの御仁にはまず勝てますまい」
宮廷魔導師長という肩書きを持つクラウスには、ヒバリの威圧から実力の一端を見抜いていた。
「何と……っ!!」
「驚くことでもないでしょう。能力が一切不明で対策の立てようが無いのです。分かっているのは『強い』ということだけ。少なくとも、初見で勝つことは出来無いかと」
もしヒバリが敵に回ったら、対策をしていなければ勝機は無い。クラウスはそう言っているのだ。
普段であれば、こんな事を言えば血の気の多い将軍がクラウスに喰って掛かった筈だ。それをしなかったのは、この場にいる武官全員が本能的にそれを認めていたから。
ラーバールはそれを見抜き、ヒバリに対する関心が跳ね上っていくのを感じた。
「………一応、フィアにも聞いておくか」
ヒバリの情報、特に戦闘関係の能力は集めておくべき。そう判断したラーバールは、ヒバリとの約束に浮かれているフィアの方を向く。
「……はぅぅ…私何てことをしてんたのでしょう…………でも、これでヒバリ様と何時でも話が………」
(フィアよ……あの熊の何処にそんなに入れ込んでいるのだ……)
娘の浮かれように、何とも言えない気分になるラーバール。
確かにヒバリの能力は魅力的だし、フィリアの為なら魔王と戦うことも厭わないと断言した侠気の持ち主だ。また、上に立つ者特有の覇者の気を纏ってもいた。息子たちにもかくあれと言いたいぐらいには、ラーバールはヒバリのことを買っていた。
だが、それ以上に謎過ぎるのだ。熊の格好もそうだし、何処に所属しているのかも一切不明。無駄に高い戦闘能力に、異様に高い権力者への警戒度。王やそれに連なる身分の者を前にして一切萎縮せず、むしろ自分も同様の立場にいるかの如き振る舞いをした。なのに、ただの平民のような雰囲気も纏うのだ。
王として何人もの人物を見てきたラーバールだが、その眼力を持ってしてもヒバリの実態が見えてこなかった。
だからこそ、情報収集は重要と言える。王としても、父親としても。
「フィアよ。浮かれているところ悪いのだが、少し良いか?」
「ふえっ!? お、お父様私は別に浮かれてなんて!!」
「浮かれてたでしょう?」
「………はい」
ヒルダにツッコまれて、頬を染めながらも認めるフィリア。幼少の頃から、フィリアは母親であるヒルダには頭が上がらないのだ。
「………それで、一体何でしょうかお父様?」
「いや、先程襲われた時の状況、特に彼が一体どうやって魔人を倒したのかは分かるか?」
「え? 魔人を倒した方法ですか……?」
ヒバリの事を教えて良いのか僅かに悩むフィリアだったが、倒し方が倒し方だった為に問題無いかと判断する。
「えっと、こうやって両腕で首と頭を抑えて、クイってやって倒してました」
言葉にするのが難しかったので、ジェスチャーで説明するフィリア。無論、チョークスリーパーのである。
「は? え、締め技?」
予想外の手段に、つい素が出るラーバール。
そして、フィリアのジェスチャーにもう一人反応する者がいた。
「………チョークスリーパー?」
異世界の勇者、大谷蛍である。
「何か知ってるのかホタル?」
「知ってるも何も、私の世界のプロレス技よ?」
「プロレス?」
全員が疑問符を浮かべるので、簡単にプロレスについての説明を行う。
そして一通り説明が終わった後、ルードルフが首を傾げた。
「プロレスについては分かったが、何故ヒバリ殿はそれを知っていたのだ?」
「異世界人だからじゃない?」
「何だと!?」
ホタルの予想に、ルードルフが驚きの声を上げる。
「いや、そんなに驚かれてもね……。ネットやらパンダとか意味通じてたし、普通に考えれば分かりそうなものだけど」
呆れるホタルだが、ルードルフは首を振って否定する。
「いやいやいや! そんな訳無いだろう! 異世界から召喚された勇者は総じてレベルが低いんだ! それはホタル、君だって分かってる筈だ!」
「まあ、そうなんだけどね。確かに彼の能力は異質だけど、異世界系に有りがちなチートだと思えばそこまで不自然じゃないわよ」
「チート?」
色々と地球の、と言うより日本の文化が浸透しているシーラだが、流石にチートの意味までは浸透していなかったらしい。
「チートって言うのは、常識外の能力とかの事よ」
常識外の能力と聞いて一瞬納得しかけるルードルフだったが、ある事に気付いて直ぐに考えを改めた。
「それでもあり得ない! 勇者召喚の魔法陣は我が国を含めた四ヶ国だけ。そして既に三ヶ国の勇者は御披露目がされ、帝国はまだ召喚の儀を行っていないのだぞ」
ルードルフの言ってる事は最もだ。異世界人は勇者召喚の魔法陣によって現れる。これがこの場にいる者たちの認識である為、ヒバリが異世界人だとは考えていなかった。
だが、異世界人であるホタルの認識は違った。干物女である為に家にいる事が多く、相当な量のサブカルチャーに触れてきたホタルには、この世界とは異なる常識が有った。
「別に異世界って勇者召喚だけじゃないからね? 偶然で異世界に迷い込むトリップ。勇者召喚とかに巻き込まれる巻き込まれ。前世を何故か覚えている転生。精神が実際の人物に宿る憑依。後は自力で、ってのも有るわね。パターンで言えば、意外と異世界関係って多いのよ?」
最近のサブカルチャーの流行であった異世界モノ。その多くを暇つぶし程度に楽しんでいたホタルとしては、ヒバリが何らかの方法でこの世界にやってきたのだと推測していた。
そして、その推測を聞いたラーバールが、ふと思い出したような顔をした。
「………ルーデウス王国の召喚の儀の際に、何やら事故が有ったという噂があったな」
「……ああ、そう言えばそんな報告もありましたな。無事に勇者も召喚されていますし、重大なイレギュラーと言う訳ではないという結論でしたが」
「そのイレギュラーの内容は?」
「………いえ、そこまでは。申し訳ありません」
ラーバールに頭を下げながら、トマスは内心で首を捻った。何故自分は、こんな穴だらけの報告で満足したのだろうか?
勿論、原因はヒバリである。ヒバリは王城でのほほんと暮らしていながらも、他国の密偵の存在にはバッチリ気付いていたのだ。そして、自分たちに不都合が起きないよう、全ての密偵に『自分たちの件は重用度が低い』と言う暗示を掛けたのだ。
因みにこの暗示、数人までは伝播する為、又聞きになればなる程存在を忘れていき、最終的には報告される事が無くなると言う、とても嫌な暗示だったりする。
トマスはがっつりヒバリの術中に嵌った訳である。
「らしくない失態だが、まあ良い。次回からは気を付けろ」
「ハッ!」
叱責一つで済ませ、ラーバールは話題を変える。こうもあっさり済んだのは、やはりヒバリの暗示の影響である。後は、五月蝿い外野がいなかったのも有るだろう。
普段ならば、トマスの失態を待ってましたと言わんばかりに貴族たちが責め立てるのだが、この場は第三王女であるフィリアの婚約者になるかもしれない者について話し合う場。利に貪欲な者は弾かれているのである。
………まあ、その分厄介な者たちが多く、面倒な手札を与えてしまった事は確かなのだが。
「さて、ホタルの話を聞く限りだと、彼は異世界人、またはそれに縁のある者という事になる」
「つまり、彼を逃すのは惜しいと言う事です」
ラーバールの言葉を引き継ぐように、ヒルダが続ける。尚、あくまで引き継ぐようになので、実際は違う。
「………のう、ヒルダよ。別にそう言う訳じゃーー」
「あら、違うのかしら?」
「いえ、違いません」
にこやかな瞳に見つめられ、即座に意見を引っ込めるラーバール。夫婦間の上下関係が一発で分かる瞬間である。
「話を戻しましょう。もし彼が異世界人、又はそれに縁のある者だとしたら、逃すには惜しい人材です。いえ、そうでなくても、あの魔法力は是非とも欲しい」
これに関しては、否定する者は誰一人いなかった。異世界人と言うのはそれ程希少であり、稀有な才能を持っている。例えそうでなくても、魔人を難なく討伐出来る戦力は魅力的だ。
「幸い、此方にはフィアがいます。見ての通り彼にぞっこんですし、彼の方も嫌ってはいないでしょう」
「ちょっ、お母様!?」
自分の内面を突然暴露されて、慌てふためくフィリア。
「何を今更慌てているのかしら? 貴女の想いは既に此処にいる全員が知ってますよ。更に言うなら、貴女さっき私たちの目の前でフラれましたよ?」
「………………へ?」
ヒルダの言ってる意味が分からず、思考停止に陥るフィリア。
娘のその様子に、やはり気付いていませんでしたかとヒルダは溜め息を吐く。
「あの浮かれようからもしやとは思ってましたが、やっぱりですか……」
「え、え? あ、へ、え? ふ、フラれ、私が、ヒバリ様に? え?」
「少し落ち着きなさいフィア」
面白いぐらい狼狽するフィリアに、ヒルダは頭を抱える。我が娘ながら、良くこんな純情に育ったモノだ。
「良いかしら? 私が何度も貴女の婚約者にと勧めても、彼は首を縦に振らなっかった。貴女が告白紛いの言動を聞いた後でも、です」
「………それは……やっぱり……」
考えたくないと現実逃避をするフィリアに、ヒルダは笑顔で現実を突きつける。
「普通に考えれば、失恋かしら?」
「……っ!!」
ヒルダの容赦の無い言葉に、フィリアはじわりと涙を浮かべた。
「ちょ、フィアちゃん!?」
慌ててフィアの元へと駆け寄るホタル。
「ヒルダさん! もう少し言い方って物か有るでしょ!?」
「なっ!? おいホタル!」
ルードルフが制止するが、ホタルはそれを無視して睨みつける。まだ出会って間も無いが、心優しいフィリアをホタルは実の妹のように可愛がっているのだ。そんな娘の淡い恋心を踏み躙るなら、例えそれがその娘の母親だろうと許す気は無い。
「私は事実を言ったまでです。フィアには自分の立場を良く理解して貰わないといけませんから」
「立場ですって……!!」
まるで娘を道具のようにしか思っていない物言い。それがホタルには許せなかった。
「ヒルダさん! 貴女さっきまでフィアの恋を応援するみたいな事言ってたじゃないですか!」
「応援してますよ?」
「だったら何でっ!!」
「だからこそよ。例え残酷な事であろうと、今のフィアが彼からしたらどんな立ち位置にいるのかを自覚する必要が有るの。じゃないと、彼の事は落とせない」
「………………ん?」
「………………ふぇ?」
ヒルダの予想外の言葉に、疑問符を浮かべて硬直する二人。
「………え? あの、王女だから諦めろって事じゃなく?」
「そんな訳ないじゃない。私はむしろ、王女だろうが自由に恋愛して欲しいと思ってるわよ?」
キョトンとするホタルと、良く分かっていないヒルダ。
その様子を見て、大きな溜め息を吐く一同。
「だから止めろと言ったんだホタル。母上が恋愛関係で理不尽な事なんてする訳が無い」
「うっ……」
ルードルフに窘められ、身を縮こませるホタル。
「ヒルダもヒルダだ。大事な場面でその笑顔は止めろと言うとろうに」
「……しょうがないじゃない。もう癖になってるのだから」
ラーバールに呆れられ、むくれるヒルダ。
だがそれも一瞬で、直ぐにヒルダは立ち直った。
「さて、話の続きね。少しばかり誤解があったみたいだけれど、母親として私はフィアの恋愛を全力で応援している。いえ、国としての利益になるのだから、王妃としてもね」
だから、と続く言葉に、ラーバールだけが顔を青くする。昔の事を思い出したらしい。
「私の培ったノウハウを貴女に叩き込んで、最大限サポートさせて貰うわ」
その言葉に謁見の間がどよめいた。かつては身分を物ともせずに、王子であったラーバールを籠絡したヒルダである。一部の令嬢からは恋愛の化身と呼ばれる人物が最大限サポートすると言ったのだ。どよめかない方が可笑しい。
「お、お母様……!」
「頑張りましょうねフィア」
感激して顔を輝かせるフィリアと、にこやかに笑うヒルダ。その様子は、まるで理想の家族のようであった。
「その割にはさっき凄い辛辣だったような……」
何となく納得いかないホタルだけは、一人首を傾げていたが。
「それは当然です。さっきも言いましたが、フィアには自分の立ち位置という物をしっかり把握して貰わないと。それによって、今後の行動が変わるのだから」
「………でも、さっきヒルダさん自身がフィアはフラれたって」
「そんなの関係無いわ。恋愛なんて殆ど片想いから始まるんだもの。最初から相思相愛なんてほんの一握り。恋愛は相手を好きになる物じゃなくて、自分を好きにさせる物なのよ?」
「えー……」
何とも微妙な言葉であるが、ある意味真理なのだろう。言葉に無駄な重みが有るのだ。
「一度フラれたぐらいで諦めがつくほど、フィアの想いも軽くないでしょう?」
「……はい! 私はヒバリ様が好きです! 初めてこんなに好きになったのに、こんな簡単に諦められません!」
「良く言ったわ! 流石は我が娘」
どうやらヒルダの恋愛遺伝子はフィリアにもしっかり受け継がれているようで、干物のホタルには少しばかり近寄り難かった。
「それに、彼の場合は普通と少し違うのよ」
「違う? 一体何がです?」
「フィアをフった理由。普通なら既に意中の相手がいるとか、フィアの事が単に嫌いとか、そういうのがフる理由の大半なの。けど、彼の場合は単に面倒くさがってるだけなのよね」
「へ? 面倒?」
「そう。彼の場合、恋愛が面倒…違うわね。権力者との恋愛が嫌なんでしょうね。多分だけど、相当な辛酸を舐めた経験が有るんでしょうね」
さらりとヒバリの過去を当てるヒルダ。流石はヒバリが要注意人物に加えるだけは有る。
「それって……詰んでません?」
権力者との恋愛が駄目というのなら、権力者の代名詞と呼べる王族なんて無理な筈。
「そうでも無いわ。彼はこうも言ってたじゃない? 自分にも立場が有り、貴人との婚約は自分の一存では決められないって」
確かに、ヒバリは似たような事を言っていた。
「つまり、彼自体が権力を持ってる可能性が高いって事。そして一存では決められないって事は、逆に言えば外堀を埋められたら反対しないって事でしょ?」
「えー……」
相当に黒い考えをするヒルダに、ドン引きするホタル。
「……それって大丈夫なんですか? 本人の意思を無視した婚約は嫌とか言ってませんでしたっけ? 彼」
「言ってはいたけど、完全に言い訳でしょうね。それにフィアは彼にぞっこんだし、彼も親愛の情は抱いてるって言ったじゃない」
「いや、親愛の情と恋愛感情は別じゃ………」
「ええ。だから彼に聞いたんじゃない。結婚してから育む愛も有るんじゃないかって。彼、否定はしてなかったでしょ?」
「うわぁ………」
あの何て事ない会話の裏にそんな意図があったとは……。呆れを通り越して怖くなってくるホタルであった。
そして、どんどんヒルダがヒバリの断る為の言い分の穴を突き、着々とヒバリを包囲する為の計画が立てられていく。
その余りの手際の良さに、ホタルと男性陣はヒルダに対する戦慄と、ヒバリに向けて憐憫の情を抱き始めた。
「面倒なんて適当な理由で逃げようとするから、こんな風に追い詰められるのよ。恋する乙女を彼は甘く見過ぎね」
策略を立てた本人は、そう言ってバッサリと切り捨てていたが。
「さて、大体こんな物かしら? これで、外堀は埋める事が出来る筈よ。後はフィアの頑張り次第ね」
「はい! 頑張ります!」
「そう気負わなくて良いわ。ちゃんと私が、恋愛のノウハウを教えてあげるから」
やる気に満ち溢れる娘に微笑んでから、ヒルダはラーバール達に向き直る。
「折角立てた計画も、前提条件をクリアしてないと意味が無いわ。早急に、彼の所属を探し出しなさい」
「「「はっ!」」」
「取り敢えず、召喚を行った三ヶ国を重点的に調べなさい。後は冒険者ギルドね。彼の格好は目立つし、探そうとすれば探せる筈よ。そうよね?」
「「「はい!」」」
「じゃあお願い。出来るだけ早くね?」
ヒルダのお願いという名目の命令に、トマスを筆頭とした重鎮たちは慌ただしく動き始めた。………もうお分りだと思うが、リザイアで一番恐れられているのはヒルダである。権力という意味ではラーバールの方が遥かに上だが、彼とはまた違った意味でヒルダは恐れられていた。
「ふふ。うちの娘の初恋を奪った罪は重いわよ? ヒバリ君」
ちゃくちゃくと、ヒバリ包囲網が形成されつつあった。
一方その頃。
「へっくしょんっ!!!」
「何だ? 風邪かヒバリ?」
「いや、俺体質的に病気とかにはならないんだが……………何だろう? 途轍もなく嫌な予感がする………」
「んだそりゃ?……つーか、便利な身体してんなお前。やっぱりナントカは風邪ひかないってか?」
「張っ倒すぞザック」
本人の不注意+ヒルダの巧みな駆け引きにより、己を囲む柵が増えようとしているとは考えもしない、いや考えたくないヒバリであった。
次回からは、補習に戻ります。
当分はリザイア組(フィアを除く)は出てきません。
えー、コメントでヒロインいらないんじゃね? と言われたのですが………一応はいるんですよ。いや、確かに今のところヒロイン勢ほぼ放置ですけども。
今でこそヒロインと呼べるのは二人ですが、彼女たちにもちゃんと役割があるのです。
そして、現段階でもう二人のヒロインが登場する予定です。この二人は暴れます。
四人……いや、三人揃ってから、ヒロイン勢も動き出します。
尚、単純なラブコメになる訳では無い。




