表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/123

いりますか?

誤字脱字の可能性大です。


指摘が多かったので、幾つか加筆修正を。


謁見の間にいた人間に、近衛騎士数名、公爵数名、宮廷魔導師長を追加しました。


ヒバリに喰って掛かった人物を、近衛騎士団長から宰相に変更しました。


冒頭に、武官とヒバリのやり取りを付け加えました。

リザイア王国の謁見の間。そこには現在、リザイア王国の中でも最上位に位置する者たちが集結していた。


リザイア王国国王、ラーバール・ゼス・リザイア。


リザイア王国王妃、ヒルダ・キル・リザイア。


リザイア王国第一王子、デルタ・スル・リザイア。


リザイア王国第二王子、ルードルフ・クル・リザイア。


リザイア王国第三王女、フィリア・マキ・リザイア。


リザイア王国宰相、トマス・セル・グレース。


リザイア王国近衛騎士団長、ガール・ラビット・アラート。


リザイア王国将軍、デスター・グラブ・トルソー。


リザイア王国宮廷魔導師長、クラウス・トモ・グスターブ。


異世界の勇者、大谷蛍。


後は、リザイア王国公爵四名に、近衛騎士が数名。


彼らは国を動かす重鎮、または象徴となる人物だ。


そして、そんな彼らが見下ろすのは、彼らに向けて膝を着くパンダ、即ち俺である。


さて、何故こんな状況になっているのかと言うとだが、それは前回にまで遡……らなくても分かるか。


部屋に突入してきた男性(執事長)をフィアが必死に説得し、その間にとんずらしようとしたがフィアに阻まれ、そのまま謁見の間に連行されたのである。


「面を上げよ。今回の謁見は非公式の物故、そこまで畏る必要は無い」


「では、お言葉に甘えて」


取り敢えず、彼らにも執事長とフィアを通して伝わっているようなので、そこまで肩肘張る必要も無さそうだ。


よっこらせと立ち上がり、リザイアの重鎮たちと向き直る。俄かに騒ついたが気にしない。


だって、今の俺は魔導師モード。権力に屈することの無い、純粋な力の体現者なのだから。


「まず先に、リザイアの王。この被り物を着たままであることの非礼を詫びさせて頂く。とは言え、私は素性を知られては困る立場なので、見逃して頂きたい。ああ、油断させて襲撃、なんてことはしないから安心してくれ」


「………その言葉が信じられるとでも?」


将軍が疑わし気に聞いてくるが、俺は肩を竦める。


「そうだな、言い方を変えよう。その程度の戦力では、私が襲撃したら全滅は確実。備えるだけ無駄だ」


やるだけ無駄だから関係無いと言うことだ。


突然の挑発。それを聞いた武官たちから怒気が発せられる。


「……それは、我が国の戦力を侮辱しているのか?」


だが、


「ほう? 逆に聞くが、やれるのか?」


ーーぞぞぞぞ。


「「「「っ!??」」」」


魔力を載せた僅かな敵意に、武官全員が硬直する。なお、威圧の対象は武官のみに絞っているので、他の面々は不思議そうな顔をしていた。


「さて、もう一度聞くが、私の襲撃を防げるか?」


「…………」


言葉を発さない将軍。それは言外に、無理だと言うことを物語っていた。


それを一瞥した俺は、もう一度リザイア王に向き直る。


「突然の挑発、申し訳無い。重ねて非礼を言わせて頂く」


「ふむ、構わない」


俺の謝罪に、リザイア王はすんなりと頷いた。話の分かる方で助かる。では、更にもう一つ言っておこうか。


「また、私も立場ある者であるが、今回は私個人として今この場に立っていることを了承して欲しい。最低限の礼儀は尽くすが、それだけに留まらせて貰う」


まあ簡単に言うと、普段ならちゃんとするけど、今回は私的な用だからざっくばらんにさせて貰うよ、ってことだ。


まあ、そんなこと言えば当然


「ふざけるな! そんなことが認められるとでも思っているのか!?」


反発してくる奴もいる。今回だと宰相が。武官たちは、先程の威圧の所為で動けないでいる。


「先程のリザイアの王の言葉から、許可を頂いたと判断したのだが?」


「物には限度がある! 貴様の言動は、陛下に向けて良い物では無い!」


だろうな。俺自身、こんな見た目の奴が組織のトップに偉そうな口利いてたら、一体何様かと思うし。


とは言え、ここで下手に出る訳にはいかないんだわ。話の主導権を握られたら困るから。


「非礼は承知。だが、私はあまり権力者を信用していないんだ。下手に出ていて、無理難題を押し付けられぬとも限らないからな。勿論、貴方たちはフィリア王女のーー」


「フィアです」


「………フィアの身内だ。そんなことはしないと思うが、それとこれとは話が別。私の持つ力の関係上、無闇に下手に出る訳にはいかない」


ただの会話の中から言質を取るのは権力者の十八番だ。勿論、口約束ぐらいなら反故にしても問題無いだろうし、そもそも無かったことにも出来る。


しかし、だからと言って警戒しないのは問題だ。相手が普通なら兎も角、同じ魔導師や神だった場合、ただの口約束が誓約に変わることもある。


それを回避する為に、普段から経験を積まなければならないのだ。


「私が求めるのは、貴方たちとの対等な謁見だ。互いの立場を一度脇に置き、政治とは無縁の話し合いを望む」


「そんなことが許されるとでもーー」


「許可しよう」


「陛下!?」


宰相の言葉を遮り、リザイア王は表情を崩した。


「私も、お主とは腹を割って話たいと考えていた。何より彼はフィアの命の恩人。恩人の願い、それもこの程度頼みを叶えられぬとなれば、それこそ恥だ」


「………畏まりました」


リザイア王直々の決定により、宰相は引き下がった。


さて、話が纏まったことだし、魔導師モード解除。


「……はぁ〜。疲っかれた。やっぱり堅苦しいのは苦手だ」


ボリボリと頭を掻いて、大きく伸びをする。やっぱり、こういうのは肩凝っていけないね。


俺の態度が豹変したことにより、リザイア王たちが呆気に取られているが気にしない。唯一、フィアだけが笑っていた。


「ふふ。やっぱり、ヒバリ様はそっちの方がお似合いです。勿論、畏まった方も素敵でしたが」


「もう言質は取ったし、普段通りにいかせて貰うさ。俺だって、あんな偉そうな口調は苦手なんだから」


「その割には、とても様になってましたよ?」


「そりゃどうも」


まあ、クラックで散々やったからな。やり慣れてはいるのだ。


そんな風に俺とフィアが話していると、硬直していた他の面々も動き出した。


「………それがお主の本来の性格なのか?」


恐る恐る聞いてくるリザイア王に、俺は頷く。


「さっきとは違うからって、今更撤回なんて無しだぜ? リザイア王、アンタも俺と腹割って話たいんだろ?」


「いや、単に変わり身の早さに驚いてるだけだ。別に撤回などしない」


「それは重畳」


やはりこのおっさん、フィアの親父だけあって話が分かるな。


「さて、それじゃあ話し合いを始めましょうか。とは言っても、聞きたいことがあるのはそちらさんだろうけど」


俺の立場からすれば、面倒な舞台からはさっさと降りたいところである。それを許してくれないのが、フィアを筆頭としたこの人たちな訳で。


「まあ、それはそうだが。それよりもまず、礼を言わせてくれないか? 愛娘の命を二度も救ってくれたことは、私ら一同本当に感謝しているのだ。………まあ、その過程で色々とあったようだが、今は置いておこう」


ベッドで押し倒していたりしたことですね? ワカリマス。分かりたくないけど。


良く考えてみれば、今の状況は猛アプローチを掛けてくる娘の家族とご対面、なんていう風にも取れる訳で。若干、いえかなり気まずいです。


そんな俺の内心を知る由もないリザイア王は、深々と頭を下げて感謝の意を表した。


「フィアを救ってくれて、本当にありがとう。一同を、この国を代表して、お礼を言わせて貰う」


言葉こそ発さない物の、他の面々、特にフィアの家族は本当に感謝しているようだった。


シリアスな場面なので、再び魔導師モード。


「貴方たちの感謝、しかと受け取った」


頭は下げず、しかし最大限の敬意を持って接する。王族とかが必要そうな対応だが、魔導師だった俺もかなり頻繁に使っていたので、この手の対応はお手の物だ。


故に、重厚な雰囲気が謁見の間に蔓延した。


立場を脇に置くとは言ったが、携えた威厳が消える訳では無いのだ。片や一国を纏める王、片や埒外の力によって君臨した魔導師。お互いの背負う背景は違うが、上に立つ者という意味ではそこまで違いは無い。


国を動かす重鎮である彼らも、それに気付いたようだ。目の前にいるパンダが、王とはまた別種の君臨者であることに。だからこそ、呑まれていた。剣呑な雰囲気では無いが、この空気の中声を発する勇気を、彼らは持ち合わせていなかった。


「………ねえ、そろそろ聞いて良いかしら?」


だからこそ、この沈黙を破れるのは、この手の場に不慣れな人間に限られる。例えば、


「何かな? 勇者ホタル」


異世界から召喚されたばかりの勇者のような。


「ホタルで良いわ。勇者なんて付けないで。私はそんな上等な存在じゃないから」


「了解した」


外見から判断して、大学生か新人OLぐらいだろうか。あの物々しい空気に割って入ってきたのだから、外見と違って肝が座っているようだ。やはり、勇気ある者の名は伊達では無い。


「それで、貴方は私に何を聞きたい?」


「………いや、何かすっごい物々しい雰囲気出してるところ悪いんだけど、その格好でシリアスやるの止めてくれない? シュール過ぎて反応に困るのよ」


どうやら、ホタルだけこの空気に馴染めてないらしい。まあ、パンダを知ってる人間からすれば当然の反応か。


取り敢えず、すっとぼけてみよう。


「何か変か? この防具はとても気に入っているんだが」


「それは防具って言わないわ。それは着ぐるみ」


知ってる。


「と言うか、何処で手に入れたのそれ?」


「知り合いたちが面白半分で作った。見た目と違って動き易いし、相当な耐久性を誇るぞ」


嘘は言ってないよ。


「………パンダ、この世界にいるの?」


「知らん。熊の亜種だからいるんじゃないか?」


大抵の生物なんて、探せば何処かにはいるものだ。


「……そんなものかしら? ルードルフ、貴方は知ってる?」


俺の答えに納得出来なかったようで、勇者ホタルは第二王子に尋ねる。


「さあ? 私もあんな珍妙な熊が存在するとは知らなかった。パンダと言うのか? アレは」


「ええ。私の世界の熊の仲間なんだけど……」


「ふむ………やはり、なんとも言えんな。だが、あんな珍獣染みた獣だろ? 発見されていれば、多少は話題になるとは思うが……」


だろうね。さっきはああ言ったが、パンダなんてこの世界にはいないだろうし。そもそもパンダは、種として繁殖力が弱い。それに加え、この世界には魔物なんて危険生物もいるのだ。進化の過程から考えても、パンダなんて珍獣にはならんだろう。似た奴がいないとも言い切れないが。


「それにしても、ヒバリ殿は博識なのだな。私たちとて相応の教育を受けた王族。知識は中々の物だと自負していたが、貴方はそれ以上だ」


「第一王子、それは誤解だ。単に人より雑学を知ってるだけだよ。王族以上なんて言われる程、俺は優秀じゃない」


「謙遜は美徳と言う文化も有るが、度が過ぎればただの嫌味だ。魔人を屠る英傑が、自負を卑下する物じゃない」


「それこそ止めてくれ。俺は英雄や勇者みたいに持ち上げられるのは嫌なんだ」


勇者がいる場で悪いが、そこは全否定させて貰う。


「ふむ? 名誉ある称号ではないのか?」


「そっちはそう思っていても、こっちからすれば違うんだ。進んでなろうとも思わんし、なれと言われても絶対にならない」


俺がそう断言すると、第一王子は苦笑した。


「ホタルと似たようなことを言うのだな」


「へえ、そうなのか」


俺がホタルに視線を向けると、彼女は肩を竦めた。


「私の場合、敬われるような人間じゃないからね。誰かの為に動くよりも、ベッドの上で動かないでいたいわ」


どうやらこの女性、干物女と呼ばれる類らしい。


「………一応聞いておくが、それはどうなんだ? 人としても、女性としても」


「人の為に尽くすなんて、やりたい訳無いでしょう?私、布団とマンガとテレビとネットが恋人だった人間よ?」


「恋人多いな……」


あまりの枯れっぷりに俺が呆れていると、第二王子が頭を抱えていた。


「頼むから、人目の有る場所でそんなことは言わないでくれ。ホタル、君の評価が悪くなるのは私としても困るのだ」


「あら、ルードは私の外聞を気にするの? やっぱり、私の価値が傷付くのは困るのかしら?」


「そういう意味ではない。ホタルが悪く見られるのが我慢出来ないんだ」


おや?


「全く……そういう部分をもっと見せれば、ちゃんと貴方を愛してくれる人も現れるでしょうに」


「………君は本当に意地が悪いな。私がこうもアピールしていると言うのに」


「アピールだけで女は靡かないわよ。気持ちを素直に伝えてれば良いなんて、勘違いしない方が身の為よ」


おやおや?


ちょっと気になったので、フィアに思念を飛ばす。


『もしもし、フィアさんや』


「ふえ!?」


「む? どうしたフィアよ?」


急に飛び上がったフィアに、リザイア王が首を傾げる。


『おっと、悪い。驚かせたな。ちょっと聞きたいことが有るだけだ』


「な、何でもありません」


「そうか?」


不思議そうにするリザイア王だが、すぐに第二王子とホタルのやり取りに意識を戻した。


その間に、俺は思念を飛ばし続ける。


『聞きたいのは、あの二人のことなんだが……ああ、別に声に出さなくても、頭で考えるだけで会話出来るぞ。聞かれたくない思考はカットされるし』


『えっと、こうですか?』


『そそ』


フィアが念話の使い方を学んだところで、聞きたかったことを聞いてみた。


勿論、第二王子とホタルのことだ。


『単刀直入に聞くけど、あの二人ってどんな関係?』


『………えっと、何て言いましょうか……』


暫し考えてから、フィアは言葉を紡ぐ。


『対外的には恋仲未満、と言ったところでしょうか?』


『対外的?』


『はい。ルード兄様が積極的にアピールを掛けているので、恋仲になるのは時間の問題だろうって言われてるんです』


『ふうん……けど、実態は違うと』


対外的とか付いてるしな。


『はい。実質的には、ルード兄様の片想いでしょうか。ホタル様は、ルード兄様を弟のようにしか思ってないみたいで……』


『まあ、第二王子のアピールに駄目出ししてたしな』


不器用な弟に恋愛指南してる気分なのだろう。


『今のところ、望み薄なんですよね。いえ、家族としてはルード兄様には幸せになって欲しいんですけど、ホタル様は恋愛に興味無いって断言されてますし……』


『まあ、ホタルも第二王子のことは嫌いでは無いんだろうけどな。恋愛対象に入ってないってだけで』


さっきも、第二王子のアピールを苦笑で済ましてたし。


『少しばかり頭が痛いです。ルード兄様、最初に告白してあっさり振られてるんですよ。けど、それで逆に燃え上がっちゃたらしくて……』


『………難儀だね』


キミも家族からすれば、頭痛の種になってると思うよ。


恋愛方面で二重に苦労しているリザイア王に、合掌。


「………おい、その手は何だ?」


「見ての通り」


「………止めてくれ。改めて自覚するのは結構堪えるのだ」


コメカミを抑えるリザイア王に、王妃も第一王子も苦笑していた。


「ほら、ルードルフ。今は客人の前です。その話は後になさい」


「………申し訳ありません」


王妃に窘められた第二王子は、恥ずかしそうに口を閉じた。この反応、俺の存在を忘れてたっぽいな。


「ごめんなさいね。ルードルフも普段は分別を弁えてるのだけど、ホタルさんのことになるとちょっとお馬鹿になってしまうの」


……この婦人、おっとりした口調で結構辛辣だな。


「ふふふ。それはそうよ。これでも王妃をやってるんですもの。駆け引きぐらいは心得てるわ」


………またもや心を読む人種が現れたな。いや、この人の場合だと、大抵の人の心は読みそうだけど。


俺が王妃を要注意人物のリストに加えているのを知ってか知らずか、王妃は笑顔を浮かべている。怖いわこの人。


「さて、話が大分ズレてしまったけれど、貴方には娘を救ってくれたお礼をしなければいけないわね」


本題に入りましょうと手を合わせる王妃。何故だろう? そこはかとなく嫌な予感を感じる。


「御伽噺で言えば、攫われた姫を救った騎士とは婚約するのが常ですが……フィリアのこと、貰ってくれますか?」


「お母様!?」


母親の突然の暴挙にフィアが驚愕の声を上げ、


「遠慮します」


「ヒバリ様っ!?」


即答で拒否した俺に愕然とする。


「えっ!? あ、あの! ちょっと!?」


話がどんどん進んで狼狽えるフィアだが、王妃はそれを見て見ぬ振り。


「あら? ヒバリ様はフィリアのことがお嫌いなの? 贔屓目無しで、娘の器量は良いと思うのだけれど」


「いや、確かにフィアは可愛い娘だと思いますし、今のところはとても良く出来た娘だと思いますよ? けど、まだ出会ってから二日ぐらいしか経ってないんで。結婚とかはちょっと」


「そんな直ぐに結婚しろとは言わないわ。今はまだ、婚約の段階で構わないから」


まだ、なんて付いてる時点で安易に頷けないんだよ。


「あの! 私を無視して話を進めないでください!」


ようやく動揺から復活したフィアが、俺と王妃の会話に割って入ってくる。


「あら? フィアは彼との婚約は嫌なの?」


「そんなことないですけど! それでも心の準備がいるんです!」


「そんな悠長なこと言ってると、彼は多分逃げるわよ。私の娘なのだから、気になる男性ぐらい仕留めてみなさいな」


はい、王妃のセリフが『射止める』じゃなくて『仕留める』の件。


「………リザイア王や。貴方の妻は見た目と違って肉食系かい?」


「………うむ。普段は穏やかな良き妻なのだが、この手の話となるとちょっとな……」


後に聞いた話だが、王妃は恋愛方面で貴族の令嬢たちから崇められているそうだ。当時は堅物で通っていた若かりし頃のリザイア王を、化け物染みた駆け引きによって籠絡した出来事は今でも語り継がれる伝説なのだとか。


そして、現在はその手練手管が娘を言いくるめるのに使用されている模様。既にフィアは陥落寸前に見える。


「………あのー、こう言うのはそんな洗脳染みた説得とか無しで、普通にお互いの気持ちを尊重して、ね?」


いや、俺は別に政略結婚を否定するタイプでも無いんだけど。やはり臨機応変は大切だよね。


「フィリアの様子を見る限りだと、満更でも無さそうですよ?」


「………いや、まあそうなんですけど」


それを言われると弱いんだよなぁ。


「と言うか、よくこんな身元不詳の熊に娘を嫁がせようとしますね………」


自分で言うのもアレだが、今の俺の格好は相当怪しいぞ。


「娘を思う親心ですよ。娘は貴方のことを憎からず思っているようですし、娘の安全を考えると」


「安全、ですか?」


そういや、確かに何かと襲われてるな。


「ええ。ただでさえ、第三王女という政治的に不安定な立場ですし、どうやら魔人にも目を付けられてしまったようで」


「まあ、襲われてましたし」


現在の状況の原因が、そもそも魔人の襲撃な訳だし。………なんか、そう考えると腹たってきたな。


「一応聞いときますけど、心当たりは?」


予想は出来ているのだが、当事者たちの意見も聞きたい。


「うむ。恐らくだが、この国の建国の理由が原因だろうな」


「やっぱりアレ? 魔王を討った英雄の血筋とか?」


「そうだ。この国の祖は、何体もの魔王を封印した勇者。魔人たちがフィリアを狙うのも、それが原因だろう」


やっぱり、そう考えるのが妥当か。兄弟姉妹がいる中で何故フィアなのかは、封印を解くためにフィアの生き血がいるのだろう。恐らくだが、フィアは建国の祖の隔世遺伝か何かなのかと。………そう言えば、リザイアって日本のゲームの呪文になかった? まさか………。いや、別に良いか。


「つまり、フィアの安全の為にも、魔人を討伐した俺の側に置いておきたいと」


「そう言うことになりますね」


何と言うか、無駄な心配をしているな。


「だったら別に婚約とかしなくても良いでしょう。もう既にフィアのことは助けてるし、これから先も何かあったら助けますよ。例えそれが魔王だろうと神だろうと、フィアに危害を与えるなら万難を排して挑みましょう」


二度も命の面倒を見たのだ。ここで放り出す程俺は薄情じゃない。


「ヒバリ様……!」


……とは言え、この言い草はマズったかもしれない。フィアの好感度がまた上がった。


「そこまで言えるのなら、婚約しても良いんじゃないかしら? 断言出来るということは、少なからずフィアのことは思っているのでしょう?」


「それに関しては、親愛の情ぐらいならと答えておきます」


言外に、恋愛感情は抱いていないと伝える。


だが、王妃はなおも食い下がる。


「婚約してから育む愛もあると思うわよ?」


「まあ、その意見は否定しませんが。けれど、それとこれとは話が別です。個人の感情を抜きにしても、俺は頷くことは出来ない」


「あら? 既に将来を誓った相手でもいるのかしら?」


そんな相手いねえよ。


「婚約者や恋人は存在しません。けれど、俺には立場ってモノが存在します。他国の王族なんて貴人との婚約を、俺の一存で決める訳にはいかない」


実際問題、俺は養子とは言え公爵子息なのだ。他国の王族と最高位貴族の婚約なんて、個人の感情が入り込む余地など皆無と言える。例え、アール家と俺個人のパワーバランスが俺の方に傾いているとしても、あの人たちに迷惑を掛ける気など俺にはサラサラ無いのだから。


「そう言う訳で、王妃さんの申し出は辞退させて貰います。そもそも俺がフィアを救ったのは、褒美が欲しかったからじゃないんで。単に見過ごすことが出来なかっただけなんですよ。褒美云々なんてはっきり言っていりません」


金も地位も狙えばすぐ手に入るだろうし、借り物で良ければ既に持っている。特殊な魔道具なんて選択肢も有るが、ぶっちゃけ自分で作った方が早い。


そう伝えると、リザイア王が困った顔をした。


「いや、そう言う訳にはいかん。王族を助けた相手に何も恩賞を与えないとなると、我が国の品位が問われる」


「品位が問われるも何も、この場は非公式なんだから問題無いでしょう。俺のことは、未だに見つかってないとでも言えば良い」


「とは言ってもな、この手の話はどうやっても広まるモノだ。恩賞を受け取ってくれないと、こちらが困る」


………まあ、面子の問題と言われれば仕方ないか。


こちらが折れることになり、リザイア王から白金貨五百枚を受け取った。日本円で約五億。こんなに貰っても使い道が無いんだが……。俺別に内政とかする気無えし。


「………多い」


「一国の王女の命を二度も救ったのだ。遠慮する必要は無い」


「いや、単に使い道が無い」


「それでも受け取っておくが良い。金は無くて困ることは有れど、持ってて困ることなど無い」


………魔窟の肥やしになる未来しか見えんのだが。


まあ良いか。リザイア王の言ってた通り、持ってて困る物では無いのだ。肥やしにするのが嫌なら、寄付なり何なりすれば良いし。


そう思い直して、有り難く受け取っておくことにした。


さて、話もひと段落ついたし、そろそろ帰るか。


「さて、そろそろお暇するとしよう。無闇に貴人を夜更かしさせるのはよろしくない」


「あら、私たちは構わないわよ?」


「……ただの方便だと分かった上で、そんな風に返すのは止めて頂きたいんですが……」


ニコニコと笑顔を浮かべる王妃に、俺は呆れて頭を抱える。


「……まあ、俺にも用事が有りますし、あまり持ち場を離れる訳にもいかんのですよ」


幾ら隠蔽工作などは済ましていても、見張りが長時間いないのは問題だろう。


「と言う訳で、これにて失礼させて貰います」


このまま王妃と対面してたら、面倒事が増える可能性も高いし。


と、最後に言い忘れてたことが。


「フィア」


「へ? は、はい!」


「これからは定期的に連絡入れるようにするわ。寂しいって泣かれるのは困るし」


「ひ、ヒバリ様っ!?」


先程の痴態を思い出したのか、羞恥で顔を真っ赤にするフィア。


その姿に笑いそうになるのを堪えながら、俺へリザイアの王城から転移したのだった。

次回はヒバリ視点では無く、フィアたち側のお話です。

本当ならこの話に入れるつもりだったのですが、長くなり過ぎまして分ける形になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ