WELCOME★断頭台
こんばんは、みづどりです。
現在、友人に頼まれて新作を書いております。お陰で少し更新頻度が落ちてしまったのは申し訳ありません。
尚、新作に関しては『相当な問題作、それもかなりの物議を醸す』であろう内容となっていますので、連載し始めたら是非読んでください。まあ、何時になるかは分かりませんが。
誤字脱字の可能性大です。
さて、満を持して護身アクセの持ち主、つーかフィアの元へと転移してきた訳なんだが、
「(ッ、何なのだこの頑丈な結界は!?)」
「………ん、……ヒバリ…様……だ、ダメです……そこは………ふふふ……」
必死に、でも静かに護身アクセによって張られた結界を破壊しようとする梟っぽい奴と、スッゲー幸せそうに寝ているフィアの図が。
「……」
何よコレ?
(ありゃ梟の魔人か? てか、俺の事気付いてないなっぽいな)
まあ、気付けないのも無理は無いのだが。魔人は静かに破壊するという難解な作業に没頭中だし、この『パンダさん一式』は衣擦れなどの音が一切しない仕様なのだ。転移した場所も部屋の隅っこだったしな。
(フィアに至っては、魔人の存在すら気付いてないっぽいし)
数十話ぶりの登場での初ゼリフが寝言なのは良いのかとか、そもそもどんな夢見てるんだよとか、色々と言いたいことは有るのだが、取り敢えず平和そうで何よりである。
恐らくだが、魔人がフィアを攫うか襲おうとしたところで、アクセが危険と判断して結界を張ったのだと思う。触れたりする前に護られたものだから、今も気付かずスヤスヤ眠っているのだろう。
(うーん、やっぱり通信用って偽って護身アクセ渡しといて良かったな。ガルマンの封印の鍵みたいな感じだったし、また魔人どもに狙われるんじゃないかと思ったら案の定だわ)
流石は異世界。悉く期待を裏切らないと言うか、この手の予想は外れろよコンニャローと思う次第。
そして、此処まで予想通りなのだから、せめて最後までやり通せやとも思う訳で。
普通こう言うのってさ、ヒロイン襲われ絶対絶命⇒助けて○○とヒロインが思ったと同時に主人公登場⇒見事ヒロイン救出でチョロイン誕生でハッピーエンドだと思うんだ。
(いや、確かに今も絶対絶命なのは変わりないし、そもそもそれは前回のガルマンの件でやったし、見事にチョロイン誕生しちゃったし。それに厄介事になるから御免では有るんだ。それでも言わせて)
何故寝てるしフィアよ。
「……だって……ヒバリ様………ずっと私のこと……放っていたじゃないです…か……」
寝言で答えるの止めなさい。
(………まあ、良いや。アレだ。このまま鳥だけ処理して、何事も無かったかのようにフェードアウトしていこう。うん、それが良い。建ったフラグも、このまま会ったりしなければ折れる筈だ)
むしろ、ピンチに駆け付けるなんてフラグを補強してるような物だ。そう考えれば、今の状況の方が良かったじゃないか。王女様系ヒロインなんて、物語の中だから可愛いのだ。いや、現実でもフィアは可愛いけどさ、それでもご遠慮したいぐらいの厄介事が付いてくる訳で。
結論、鳥殺ってさっさと帰ろう。
そうと決まれば早速行動開始。必死に結界を破壊しようとしている鳥の背後に回り、速攻でチョークスリーパー。
「ガッ!? い、一体なーー」
「おっと」
鳥が苦悶の叫びを上げそうになったので、直ぐさま声帯を震わせられないレベルまで喉に腕を食い込ませる。危ない危ない。これで叫び声を上げられでもしたら、こっそりフェードアウトが出来なくなるところだった。まあ、少し声が漏れてしまったけれど、このぐらいなら大丈夫
「……ん、今のは一体…………………」
じゃなかったです。
(寝起き良すぎねてか熟睡してた割には直ぐ起きたな!?)
メーデメーデ。現在予想外の事態が発生中です。
「………」
「………」
「?!!!!?!………」
無言で見つめ合う俺とフィア。徐々に力が抜けていく鳥。
さあ、まずは状況を整理しようじゃないか。俺が今いるのは王女様の私室である。OK。部屋の主はさっきまで寝ており、今しがた覚醒したばかりである。OK。俺の姿は『パンダさん一式』によって割とリアルな二足歩行のパンダとなっており、良く見ると結構グロい梟的な鳥人間を後ろから抱きしめているような体勢である。OK。………いや、OKだけどOKじゃねえよ。
WELCOME★断頭台
燦然と、そんな言葉が脳裏をよぎった。
状況を理解している俺でさえヤバいと思うのだ。当然、何も知らないフィアはと言うと
「………き」
恐怖で顔を真っ青にして、声帯破裂まで一秒切った状態です。
流石に王女であるフィアに悲鳴を上げられたらマズイ、ってかこれはガチで事案発生ものである。もし駆け付けた誰かにでも見られりしたら、例え俺の正体を知られなかったとしても、俺の中で何かが終わる。
「キャむぐっ!?」
そう判断した俺は、即座に鳥の首をゴキリと潰し、フィアを押さえ付けて口を塞いだのだった。
「むむー!? むぐゥゥっ!!!」
謎の熊にベッド上に押さえ付けられたフィアは、必死で暴れて抵抗しようとする。うん、これは俺でも怖いと思う。
取り敢えず、正体を晒して落ち着いて貰おう。
「フィア、俺だ。ヒバリだ」
「むぐぐぐぅ…………むぐ?」
俺の名前を出した途端、フィアが抵抗を止めて首を傾げた。凄いね俺の名前の力。
「むぐ……むぐぐぐぅむ、むぐぐぐ?」
口を塞いでいる所為で良く分からんが、『あの……本当にヒバリ様ですか?』とでも聞いているのだろう。
そう仮定して、話を進める。
「ああ。本当だから叫ばないでくれ。じゃないと口から手を退かせない」
そう頼んだところ、コックリと頷いてくれたので、ゆっくりと口から手を離す。
「ぷは……本当に、ヒバリ様なんですね?」
「うん。こんな格好だけど、正真正銘ヒバリです。ほら」
パンダの口から頭の中身を見せる事が出来るので、口を開けてマスク越しのご対面。
すると、フィアは満面の笑みを浮かべ、
「ヒバリ様!」
「ちょ、おわ!?」
思いっきり抱きついてきた。
その勢いたるや相当な物で、押し倒していた筈なのに逆に押し倒されてしまった。
美少女に押し倒される熊の絵面て………。
そんな俺の内心など気にせず、離さないとばかりにギューと抱き付いてくるフィアさん。
「ちょ、コラ! 年頃の王女が何抱き付いてんの!?」
慌てて引き剥がそうとするのだが、フィアは更に力を込めて抱きしめてきた。元々押さえ付けてたから発作は起きなかったけれど、心臓は破裂するんじゃないかってくらいバクバクです。
「はしたないから離れなさい!」
「嫌です! 絶対に離しません!」
「ふぁ!?」
何で!?
「だって、ヒバリ様ずっと私のこと放ってたじゃないですか! 会いにきてもくれないし、連絡もくれないなんてあんまりです! 私、ずっと待ってたんですよ!?」
それは日数的な意味で? それと現実的な意味で?
「散々期待させておいて何もしないなんて、ヒバリ様は酷い人です!」
「いや、んな倦怠期の恋人みたいなこと言われてもね!?」
反応に困るんですよ!?
「そんな……恋人だなんて……っ!」
はいそこピンポイントで照れない!
「てか、連絡しなかったも何も、フィアに連絡機能の付いた指輪渡したよね? 連絡なんて好きな時に出来たでしょ?」
「うっ…何の理由も無しに連絡なんて、恥ずかしくて出来ません! その程度の女心は察してください!」
抱き付いといて何言ってんだこの王女。
「だって、もし離したら、ヒバリ様はまた何処かに行ってしまうじゃないですか……」
「うん。普通に帰るよ」
「そう言う意味じゃないです!」
ぷんすか怒るフィアさん。ゴメン、分かった上で言ってるんだ。言ったら殺される気がするから言わないけど。
「ヒバリ様は空間魔法が使えます。恐らく、ヒバリ様を捕まえることは誰も出来ません。それってつまり、私からはどうやっても会えないってことじゃないですか! そんなの……寂しいです………」
まるで置いてかれた子供のように、フィアはシュンと俯いた。取り敢えず、罪悪感が凄い。俺そこまで悪くない筈なのに。
「だから離しません。もし私を引き離したいのなら、ヒバリ様の住んでる場所を教えてください」
おい、何さらっと住居特定しようとしとんじゃこの王女。
「何も知らずに待つのは、とても辛いんですよ? そんなのもう嫌です。だから、お願いします」
「うっ……」
涙目+上目遣いでお願いされて、一瞬ぐらっとしてしまいました。俺この王女苦手だ……。
「……前にも言ったけど、俺は結構厄介な立場なの。それにほら、王女の寝室に忍び込んだなんてバレたら問題じゃん? だから、俺は詳細不明のままの方が……」
てか、俺一応他国の公爵子息だし。隣国の王女の寝室に忍び込んだとかバレたら国際問題になる。
「問題ありません。私がお父様にお願いすれば、簡単に解決してくれますから」
「……」
親バカなのか、リザイアの王は。
俺が着ぐるみの中で何とも言えない表情を浮かべていると、フィアはふと顔を上げて聞いてきた。
「そう言えば、ヒバリ様はこんな夜更けに何のご用ですか? ………まさか、夜這い?」
「うん、そろそろ黙ろうか脳内ピンク」
「酷い!?」
愕然とするフィア。いや、自分の言動考えてみ?
「んなこと言うならマジでしてやろうか? 夜這い」
勿論冗談だけど。
「………ひ、ヒバリ様が…望むなら………ポッ………」
「やっぱりピンクじゃねーか!」
「あうっ!?」
フィアが寝ぼけたこと抜かすので、バチコンと結構な威力でデコピンしてやった。
「ったく………俺がここに来たのは、フィアが危険だったからだ」
「へ……私が危険?」
ポカンとした表情を浮かべるフィア。やがて、その視線は事切れている梟の魔人を捉え、フィアは顔を蒼白にさせた。
「あ、あの…ひ、ヒバリ様、あれってもしかして……!」
「うん、魔人」
「ひぃぃ!?」
先程とは違う意味で抱き付いてくるフィア。流石にこれを引き離そうとする程俺も鬼では無いので、そのまま抱き締め返してあげた。安心させようとしていることなので、特に他意は無い。
「安心しな。さっきその鳥は始末したから。もう大丈夫だ」
「……本当ですか?」
「ああ」
真っ直ぐフィアの目を覗いて頷く。はたから見たらパンダだけど。
それでもちゃんと効果はあったようで、強張っていたフィアの身体が段々力が抜けていく。
「怖がる必要は無いよ。何かあっても、しっかり守ってやるからさ」
「ヒバリ様……!」
目をキラキラさせて見つめてくるフィア。
「…………」
ん? 何か急に固まった?
「…………!!!!」
「ちょ、ええ!?」
いきなりフィアが真っ赤になって、つい驚きの声を上げてしまった。
「……一応聞いとくが、どった?」
いや、漫画とかでよくある演出だし、大体の予想は出来るけれども。……実際にナマで見たらビビるなコレ。羞恥とかより致死的な体調不良を真っ先に疑う。
「………い、いえ、すすす、すみません。わ、私ったら、なな、なんてことを……!!!」
頭から湯気が出てるのではないかと疑う程に、フィアは動揺していた。ゆっくりと身を引いていってるので、今更になって羞恥心、それも特大の物が芽生えたようだ。
「……手は離さないのね」
「……あうあうあう………だって……」
結果的には、俺の手先をちょんと握る程度に落ち着いたらしい。
「てかさ、今更恥ずかしがるってどうなの?」
「いえその何と言うかやっと目が覚めてきたと言うか再開した拍子に今まで溜め込んできた感情が溢れ出したと言うかあのその………」
「落ち着け」
すっごい早口で捲し立てられても良く分からないのだが。
「……えっと、要約してもう一度」
「………その、さっきまで寝ぼけていたんです。だからその、感情がそのまま出ちゃったと言いますか……」
寝ぼけてたって……。
「がっつり意識あったよね?」
「いえ、その……私、あまり寝起きが良くないんです。幼少の頃からの躾で、側から見ればちゃんと起きているようには見えるんですけど……実際はまだ寝ぼけてて、かなり直情的になると言いますか、幼児退行すると良いますか……」
指でのの字を描きながら説明するフィア。説明するのもかなり恥ずかしいらしく、マトモにこっちを見ようとしない。それでも手は離さないので、最早執念すら感じます。
「けど、その割には目覚めるの早かったような?」
鳥の僅かな悲鳴で目覚ましてたよな?
「王女という立場上、似たような事案が結構あったので。襲撃を警戒している内に、少しの物音でも目覚めるよわうになったんです。……まあ、それでも寝ぼけ気味なんですけど……」
割とブラックな内容だった。王女の立場も楽じゃないと言うことか。多分だけど、寝ぼけていてもある程度動けるのも、その経験が原因なのではないかと。
まあ、簡単にまとめるとだ。
「さっきまでの行動は、全部意識がマトモじゃなかったからと」
「………はい」
コクリと頷くフィア。それを見て思ったことを一言。
「無理ない?」
「うぅーっ! そこは流すのが大人の対応ですヒバリ様! 私だって無理の有る理由だとは思いますけど、実際そうなんだからしょうがないじゃないですか!」
フィアは顔を真っ赤にさせて詰め寄ってきた。
「大体、ヒバリ様が悪いんですよ!? 本当に、もう会えないかもって思ってたんです! ヒバリ様の印象で、面倒だとか思ったら段々距離を取りそうだなって感じてたんですから!」
ギクリ。
「実際、連絡も何もくれないし、もう忘れられてるんじゃいかって!」
見つめてくるフィアの瞳から、ポロポロと涙が溢れ落ち始める。
「ヒバリ様と分かれて、時間が経って、どんどん寂しさが大きくなっていって! それでもヒバリ様に面倒な奴だとか思われたくないから、連絡したいのを我慢して!」
「いや、その……」
ヒートアップしていくフィアに押されて、たじたじになってしまう俺。自分のことなから弱いなオイ……。
「久しぶりに会うことが出来て、その理由も私を助けにきてくれたなんて、つい抱き付いちゃってもしょうがないじゃないですか! 離れたくないって思っちゃうのもしょうがないじゃないですか!」
ちょ、何か遠回しな告白みたいになってんすけど!?
「何でそんなに好感度高いの!? 俺たち会ってまだ二回目だからね!?」
いや、フィアから好意を抱かれてんのは知ってるけども! 気付いてるけども! あれは吊り橋効果的なのが大半なんだから、時間が経った今なら冷めてきても可笑しくない筈だぞ!?
「会った回数なんて関係無いんです! 会話した時間なんて関係無いんです!」
まるで俺の内心を見透かしたかのように、フィアは断言した。
「自分の命も、家族の命も、国民の命も、全てが奪われても可笑しくない状況で、絶望の淵に立たされていた状況で、私を颯爽と助けてくれた人を、当然の行為みたいに助け出してくれた人を!」
「ちょ、その先はマジでマズイ!」
フィアの口から続く言葉を察した俺は、慌てて口を塞ごうとするのだが、フィアはその手を押し退けて叫ぶ
「すーー」
「姫様!? 何やら騒がしいですが、一体何が!?」
すんでのところで、第三者の介入が入った。
「ヤベ!? 見回りの騎士か!? ちょ、悪いフィアこれは本気で帰らんとマズイ!」
王女の寝室にいるパンダの着ぐるみ男なんて、バレたら完全に事件である。
バレたらマズイという焦りが三割、助かったという感情が七割を占めるが、それをおくびにも出さずに俺は慌てたように立ち上がった。
「ヒバリ様!? 私はまだ貴方に伝えなきゃいけないことが!」
咄嗟に、本当に無意識の行動で、フィアが立ち上がった瞬間の腕を掴んで引っ張った。
………さて、ここで状況を整理しよう。俺たちが今いるのは、フィアのベッドの上です。流石は王族の使うベッドであり、サイズはキングで俺とフィアの二人がのっていてもまだ十分に広い。また、身体が沈み込むのではと言える程にフカフカである。
では問題です。そんな足場がフカフカの広いベッドの上で、立ち上がった瞬間に手を引っ張られたらどうなるでしょう?
「ちょ、えっ!?」
「きゃあ!?」
答え、普通にバランス崩して倒れます。
俺とフィアは折り重なるようにベッドに倒れ込み、その拍子にフィアがそこそこの悲鳴を上げた。
「姫様!? 今の悲鳴は一体!? 失礼ですが入らせて頂きます!」
勿論、外にいる騎士?か使用人かは知らんが、どっちにしろ王女の悲鳴を聞き付けて、見過ごすなんてことがある筈も無く。
「………」
「………」
「………」
突入してきた壮年の男性が、部屋の中の光景を見て硬直する。
さて、更に状況を整理しようか。今、俺とフィアはベッドの上で折り重なっております。アウト。また、俺の格好はパンダです。アウト。少し離れたところには、既に事切れている梟の魔人が倒れています。これもアウト。
はい、スリーアウトチェンジ。いや、この場合だとゲームセットだろうか?
取り敢えず、
WELCOME★断頭台
と言う訳で、フィアさん久々に登場。
少し情緒不安定みたいに思えるかもしれませんが、それは勘弁してください。
だって彼女、二十数万文字ぶりの登場なので。ここでアピールしとかないと、ヒロイン的にヤバいのですよ。
まあ、寝起きのテンションって事で納得してくださいな。




