補習開始
誤字脱字の可能性大です。
「ふぁ〜……」
早朝。眠い目を擦りながら、俺はベットから起き上がった。
「あ〜……今日は補習か………」
お陰でこんな早起きをする事になった。普段ならば、休日は九時ぐらいまで寝てるんだけどなぁ。
まあ、遅れる訳にもいかないか。とっとと準備をしておこう。
「服は……ギルドだし、何時もの方が良いか。もうトレードマークみたいな物だし。後はバックだな」
魔窟から必要な物を取り出し、手早く準備していく。
服装は黒のズボンと普通のシャツ、その上から白黒のパーカーを羽織っている。これは、俺が冒険者ギルドに行くときに良く着ていく格好だ。パーカーのフードが特徴的なデザインなので、俺のトレードマークみたいになっている。
因みにだが、バックは普通の物だ。一応、内部と魔窟が直結しているのだが、それ以外はただの鞄だ。最初は普通にアイテムバックを作ろうとしたのだが、荷物の移し替えがダルくて妥協した結果である。
「うし、準備完了」
着替えなどの準備が終了したので、部屋を出て食堂へと向かう。
食堂には、既に家族全員が居た。
「相変わらず早いねえ」
「お主が遅過ぎるんじゃよ。休日でもこの時間帯には起きんか。別に早起きが苦手という訳でもあるまい」
そらそうだ。こちとら不眠不休でも活動出来るしな。
だけど、それとこれとは別だろう。
「あのなぁ爺さん、休日は休む為に有るんだぞ?」
ならぐっすりと睡眠を取らないと。
「儂はお主と違って仕事が有るんじゃぞ。休んでなんかいられるか」
「そらご苦労なこって」
まあ、これでもれっきとした将軍だからな。そら仕事量も多いか。
俺は肩を竦めながら席に着き、運ばれてきた朝食を食べ始める。
その途中で、爺さんから呆れたような声が掛かった。
「にしてもお主、相変わらず奇抜な格好をしておるのな」
どうやら俺の服装に文句が有るらしい。
「別に良いだろ。コレ結構気にいってんだよ」
製作段階から、師天のメンバーが頭を突き合わせたんだぞ。
「いや、格好自体は個人の好みじゃが……戦闘込みの補習に着ていく服としてはどうなんじゃ?」
「アホか爺さん。俺が普通の服なんか作るかよ」
服の素材から厳選して、面白ギミックを幾つも搭載してんだぞ。
「そもそも俺の場合、防具なんて何だろうが大して変わんねえんだ。だったら、少しでも遊び心を持たせた方が良いだろ?」
だから装備はネタ装備に限る。
「う、うーん……だからって、その熊のフードは何とかした方が……」
「あ? 俺の『パンカー』に文句有んのか?」
『パンカー』と『パンつ』からなる俺のお気に入りネタ装備、その名も『パンダさん一式』。
両腕と背中の一部が黒くなっている白地の服に、パンダの鼻から上の部分が描かれているフードの付いたパーカー。その名も『パンカー』。因みに熊耳も付いている。
僅かにふわふわとした手触りの、真っ黒なズボン。『パンつ』。
尚、この装備に搭載されたギミックを発動すると、普通の服装からパンダの着ぐるみへとモードチェンジしたりする。
「いるのかその機能………」
「こうやって部分展開も出来るぞ」
呆れながら聞いてくる爺さんに、右腕のみを着ぐるみに変化させて見せる。パンダ特有のモフモフさも見事に再現されてるのがポイントだ。
「無駄機能を………」
「無駄とか言うな。遊び心と言え。それに装備としてはめっちゃ優秀なんだぞコレ」
見た目こそファンシーな服装だが、その性能は折り紙付きで、
「これ着て戦女神相手に殴り合った事もあるぐらいには頑丈だ」
その女神、最初は剣を使ってたんだけど、『パンダさん一式』に斬りかかって剣が折れたんだよな。ちょっと泣いてた。
「……神の武技を跳ね除けるのか、その格好は……」
「モフモフでモコモコなのは正義だろ?」
正義は勝つんだよ。
「訳が分からん……」
俺の主張を聞いて、爺さんは頭を抱えてしまった。
その様子を見ていたクラリスからフォローが入る。
「えっと、まあ似合ってますし……」
「お、嬉しい事言ってくれるね。我が愛しの義妹よ」
「い、愛しのなんてっ………」
顔を真っ赤にしてクラリスが照れる。この子は本当に良い子だなぁ。
「そんなクラリスには『動物さん一式』シリーズの一つ、『ウサギさん一式』をプレゼントしよう」
そう言って、魔窟から『ウサギさん一式』を取り出そうとしたら、爺さんにガッシリと腕を掴まれる。
「頼むから、孫にそんな珍妙な物を渡さないでくれっ……!!!」
正に必死と言った形相で、爺さんが頭を下げてきた。
「………うっす……」
あまりにも悲壮感が漂ってたので、俺は頷く事しか出来なかった。
その後は特に何も無く朝食は進んだ。
「んじゃ、俺はそろそろ行きますか
特にやる事も無いので、ギルドに向かう事にする。
「お兄様、お気をつけて」
「おう、ありがとな」
俺の実力を知っていて、それでも尚心配してくれるのは嬉しい事だ。
感謝の意味も込めて、クラリスの頭を優しく撫でる。クラリスは少しくすぐったそうにするが、嫌がられる事は無かった。
「行ってきます」
とっとと終わらせたいなと思いながら、俺は屋敷を出たのだった。
そしてギルド前。俺も結構早くきたつもりだったが、他のメンバーは既に全員が集合していた。
「随分と早いじゃないか」
「お前が遅いんだよ。実戦なんだからもっとシャンとしろシャンと」
「はいはい」
グレゴリウスが突っ掛かってくるが、面倒なので適当に流す。
「おい何だその対応は!」
「うっさい」
「何だと!?」
「まあまあ」
グレゴリウスが熱くなり掛けたところで、灰猫先輩が割って入ってくる。
「そんなに熱くなっちゃ駄目だよ、グレゴリウス君。私たちは一緒に行動する仲間なんだから」
「うっ……」
灰猫先輩に苦笑を浮かべられ、グレゴリウスが押し黙る。僅かに頬が赤くなっていたのは、もはや呆れるしかない。男と分かっていてもこの反応なのだ。本当に、彼?の容姿には恐れ入る。
「それにしても、犬っころは鬱陶しいぐらいにヒバリ先輩に絡むのだな」
グレゴリウスが抑えられたのを見て、ミカヅキが会話に参加してくる。
「お前な……! 俺も先輩なんだから、犬っころってのは止めろ!」
訂正。新たに油を注ぎに来たの間違いでした。
「だったら態度を、と言うか行動を改めろ。お前の行動の殆どが、アホの諸行と呼べる物だぞ」
「んな事言うならヒバリの方が馬鹿やってるだろ!!」
指差すな犬。肉球埋め込むぞ。
「前にも言ったが、先輩は半分ぐらいは自覚しての行動だぞ。お前みたいな愚か者と違って、ヒバリ先輩は何方かと言えば歌舞伎者だ」
歌舞伎者て。そんなに変な事してるかね?
「おい今首傾げたぞコイツ!? 絶対自覚して無いだろ!」
グレゴリウスが指摘してくるが、ミカヅキはそれを無視してジト目を向けてきた。
「……先輩、狙ってやったな?」
「なんのことやら」
勘が良いね本当。
「はぁ、全く……。まあ、それを差し引いても、先輩にはしっかりとした実力が有る。少なくとも犬っころ、お前よりは遥かに上だ」
「はぁ!? 俺がこんな格好してる奴に負けてるだと!?」
グレゴリウスの主張を聞いて、ミカヅキは思い切り嘆息する。
「格好など問題では無い。お前に仕置きとしてしばしば使われてる魔法を見れば、先輩の技術の高さが分かるだろう。普通は炎で焼かれたら死ぬからな」
「ぐっ………」
言葉に詰まるグレゴリウス。だけど、ちょっと待って欲しい。
「一応言っておくが、あんなの別に難しい技術でも無いからな。魔法を非殺傷に変えるのなんて込める魔力量を弄れば良いだけだし、無詠唱にすれば更に威力が落ちるんだから」
「……と、ヒバリ先輩は言ってるが、先生の意見を聞きたい」
俺の説明を聞いたミカヅキが、魔法職のタイソン先生に話題を振る。
話題を振られたタイソン先生は、暫し考える素振りを見せて、
「サクラギ、お前学生じゃなくて宮廷魔導師やってろ」
やけに極端な結論を出してきた。
その結論を聞いたミカヅキは、グレゴリウスに向き直る。
「だそうだが、お前は宮廷魔導師相手に勝てるのか?」
「……無理……」
「だろうな。理解したなら、突っ掛かるのは止めておけ。その内本当に焼かれるぞ」
「焼かないぞ」
変な誤解が産まれそうだったので、一言断りを入れておく。
が、ミカヅキはそれをスルーした。おい。
「まあ、格好に関しても特に問題は無いと私は思うぞ。確かに奇抜では有るが、私の知り合いには褌一丁で魔物の群れに突貫した奴も居る。それに比べれば、先輩のクマの服など上等な部類だ」
いや、なんか比較対象が可笑しい気がする。
「それに、防具の性能と言うのは、得てして見た目で判断出来ない物だ。お前が今着ている学園の制服だって、素材は布だが下手な鎧よりは頑丈だろ?」
グレゴリウスの格好は、制服の上に鉄製の胸当てを付け、肘当てと具足を付けている。防御と移動を両立させた、スタンダードなスタイルと言える。得物は大きめのバスタードソード。
ついでに、他のメンバーの格好も説明しておこう。
ミカヅキは制服を着ておらず、緋袴に白の胴着を着ていた。一応言っておくが巫女服では無い。明らかに戦闘を想定しているスリッドが幾つか走っていたからだ。得物は身の丈よりも大きなタワーシールド。重くないのかな?
レベッカちゃんは、制服に上に藍色のローブを着ていた。後衛なので防具は殆ど無い。得物は長めの杖だ。魔法の補助が目的だろう。
灰猫先輩は、グレゴリウスと似たスタイルで制服の上に革製の胸当て、具足と肘当てだ。後は茶色のマントを羽織っている。得物はカトラスのような形状の双剣だ。
最後にタイソン先生だが、パッと見は紺のローブを着ているだけだ。だが、ローブの膨らみから、中は結構着込んでいる筈だ。得物である魔法の杖も取り回しの良いサイズなので、杖術を想定していると思われる。近接も可能だと言うのは本当らしい。
「逆に、キミは本当に軽装ね」
「これでも魔法装備ですから、大丈夫ですよ」
装備としての質ならば、このメンバーの誰よりも重装備と言える。
取り敢えずは納得したようで、灰猫先輩は何も言ってこなかった。
「それじゃあ、ギルドに入ろうか」
話もひと段落ついたので、頃合いと言ったところだろう。
冒険者ギルドの扉を開けば、独特な騒がしさが飛び込んでくる。
中はありがちな内装で、酒場と一体化したタイプとなっている。分かり易く言えば、フェアリー○イルみたい。
何人もの冒険者たちが視線を向けてくるまでが、ギルドに入る時のお約束だ。
「ひうっ………」
レベッカちゃんは気圧されるが、他のメンバーは気にも留めない。
それが不遜に映ったのかは知らないが、何人かが眉を顰めた。まあ最も、俺と目が合った途端に頬を引き攣らせていたが。
「じゃあ、俺は今から手続きをしてくるから、ここで待ってろ。問題を起こさないように。メルト、しっかり見ておくんだぞ」
「分かってますよ」
灰猫先輩が頷いたのを確認して、タイソン先生は受付の方へと向かっていった。
手持ち無沙汰になった俺たちであるが、そこでふと灰猫先輩が尋ねてきた。
「そう言えば、皆はギルドに登録してるの?」
先程の俺たちの反応の差を見て、疑問に思ったのだろう。
「私はしてないです」
案の定と言うか、レベッカちゃんは未登録だった。それに続くように、他のメンバーも答え始める。
「俺は一年の時に。とは言っても、学園も有るのでEランクですけど」
「私は留学する前から登録していたな。ランクはDだ」
「あら、凄いのね」
ミカヅキのランクを聞いて、灰猫先輩は目を丸くした。
ありがちな設定であるが、冒険者にはランクがある。一番上のSSSランクから、Fランクまでの九段階。何故アルファベットなのかと言えば、やはりと言うか過去の異世界人の影響らしい。
ミカヅキのランクであるDは、冒険者の中で最も多いランクだ。それはつまり、大の大人が苦労して取得出来るランクと言う事であり、ミカヅキの年でDランクと言うのは相当に高い。
それこそ、皆が関心する程には。
「やっぱり強いのね、ミカヅキちゃんは」
「それ程でも無いさ。むしろ、私はヒバリ先輩の方が気になるよ」
矛先を此方に向けてくるミカヅキだったが、残念ながらその期待には答えられない。
「悪いな。俺はまだギルド登録してから一カ月程度だ。依頼も小遣い稼ぎぐらいの物しか受けてないから、ランクは一番したのFだ」
「なんと! それは意外だな」
驚愕を露にするミカヅキ。そんなに意外か?
「そんなに驚く事でも無いだろ。俺の故郷は村だぞ。普通に家の仕事を継ぐつもりだったんだよ」
忘れがちになっているが、設定上は元村人である。
「それこそ意外だ。ヒバリ先輩が村という小さなコミュニティーで、大人しくしているとは思えない」
そう言われると、確かに無理が有る気がするな。
「それに、もしそうならあの魔法の腕前はどうやって説明するのだ」
「趣味」
「そんな理由で如何にかなる物じゃ無いですよ!?」
「娯楽が少なかったからねー」
驚くレベッカちゃんに適当な理由を吹き込む。それで信じるとは思って無いが、話題を変えるのには十分なので、
「にしても、俺のランクを聞いて一番騒ぎそうな奴がーー」
「何だと!?」
いないな、と口にしようとしたのだが、離れた場所からその本人の怒声が聞こえてきた。
怒声の方へと視線を向ければ、下卑た笑みを浮かべる冒険者数名と、我らがグレゴリウスの姿があった。
「あの馬鹿犬……」
「マジでリード付けるか……?」
俺とミカヅキは頭を抱える。この短い時間で何をやってんだか。
「そんな事言ってる場合じゃないですよ!?」
レベッカちゃんに諭され、俺とミカヅキは同時に溜め息を吐いた。とは言え、問題を起こすなと言われたばかりだ。放置する訳にはいかないか。
灰猫先輩に視線で意見を仰げば、彼?は何も言わずに頷いた。
全員で駄犬の元へと急ぐ。
「テメエもう一回言ってみろ! ぶっとばーー」
「されるのはお前だこの馬鹿犬」
「うおわっ!?」
男たちに飛び掛かろうとしたグレゴリウスを、背後から思い切り蹴り飛ばした。
「何しやがるヒバリ!?」
「それはこっちの台詞だ。何してんだよ馬鹿犬」
早々に問題起こしてんじゃねえよ。
「うっせえ! コイツらが馬鹿にしてきたんだよ!!」
「そんなんに乗るな。酔っ払いの戯言として聞き流せ」
男たちからは酒の匂いがするからな。大方、酔ってるところに制服きたコイツを見かけたから、ちょっかい出してきたんだろう。
そう言ってグレゴリウスを引き摺っていこうとしたら、男たちの一人が道を塞いできた。
「オイオイ兄ちゃんヨォ、何勝手に決めてんだぁ? 今からそいつには授業をしてやるとこなんだぜぇ?」
「おうともよ! その生意気なガキには、上下関係と言う物をみっちり叩き込んでやらぁ!」
「なんならテメエも一緒に先生たちの授業を受けるかぁい?」
「………」
うっぜぇー。うわぁ、ちょ、何コイツら。久々に見たわこれ程までの三下。呆れる通り超して感動するな。
「オイオイオィ、ビビって声も出ねぇのかぁ?」
「「「「ギャハハハハ」」」」
俺が何も言わない事を都合良く勘違いしたらしく、汚らしい笑い声を上げる男たち。
本当に馬鹿だと思う。そもそも、このギルドで俺に喧嘩を売るとかアホの諸行だ。可能性が有るとすれば、この王都をホームにしてない奴等か。
「……なぁ、アンタらもしかして余所者か?」
「あぁ? それがどうしたよ?」
「いや、このギルドだと俺は結構有名だから、何も知らないのかなと」
「はぁ〜? テメエみたいなガキが有名? ランクは幾つだよ?」
「F」
俺のランクを告げると、男たちは呆気に取られた。そして、爆笑。
「ギャハハハ!!」
「お、おま、馬鹿じゃねえの!? え、Fってそりゃギャハハハ!」
「有名とか何勘違いしてんだよ! それは違えだろギャハハハ!」
腹を抱えて笑い転げる男たち。だが、それとは対照的に、周囲の冒険者たちは僅かに身体を強張らせている。
「ヨォシ! お前も授業に強制参加だぁ! みっちり叩き込んでやるから、しっかりと授業料は払って貰うぜぇ!」
そう言って、男の一人が俺へと手を伸ばしてくる。が、
「悪いけど、お引き取り願うわ」
その腕を灰猫先輩が払った。
「あぁん? どういうつもりだ嬢ちゃん?」
「私はこの子たちの先輩なの。後輩が絡まれてるを見過ごす訳にはいかないわ」
「あぁ?」
灰猫先輩を睨め付ける男たち。そして、その視線は次第に下卑た物へと変わっていく。
「オイオイオィ、こりゃトンデモねえ別嬪じゃねえか!」
「後ろの二人も上玉だぞぉ! こりゃ嬢ちゃんたちも授業に強制参加だなぁ!」
「おうともよ! 俺たちがじっくりと個人授業してやんよ! あ、寝技って奴をよぉ!」
嫌らしい笑みを浮かべたまま、女性陣(一人は男)に近づいていく男たち。
「ひうっ!?」
レベッカちゃんとミカヅキが身体を震わせる。最も、ミカヅキは怒りでだろうが。
「オイ貴様ら、これ以上先輩を怖がらせるなら容赦しないぞ」
「おうおうおう? 学園なんて物に通ってるガキが、プロの冒険者である俺たちに敵うと思ってんのかぁ?」
「で、でも! こんな場所で問題を起こして良いんですか!?」
この主張は、冒険者登録をしていないレベッカちゃんだからこその物だ。
「やっぱりガキだねぇ。ギルドは冒険者同士の争い事には関与しねえんだよ」
いや、流石に殺しや強姦とかなら出張ると思うぞ? まあ、喧嘩とかなら放置なのは正しいけどさ。
「それじゃあ、授業に行こうかぁ?」
男が再びレベッカちゃんに手を伸ばす。だが、
「させんと言った筈だ」
「あがぅぁ?!!」
ゴキリと言う音と共に、ミカヅキが男の腕を一瞬で捩じり上げた。関節イッたな今の。
更に、
「イッデェェェ!??」
「言ったでしょう? 見過ごす訳にはいかないって」
向こうでは灰猫先輩が、男の事を殴り倒していた。口から結構な量の出血が有るので、歯の何本かは折れてると思う。
「あーあ」
その光景を見て、俺は呆れるしかなかった。人が折角穏便に済ませようとしたのに、何で女性陣?が我慢しないかねぇ。
当然の事ながら、やられた男たちは黙っていない。
「テメエら、よくもやりやがったなぁ!?」
「ぶっ殺してやるクソガキがぁ!」
元々がチンピラ気質で、更に酔っているのだ。理性なんか残ってる訳も無く、全員が自分の得物に手を掛けた。
「はぁ……全く、しょうがないなぁ」
流石に女性陣?だけにやらせる訳にはいかんので、俺も参戦する事に。さっさと片付けようってのが本音だ。
「喧嘩売った相手が悪かったな、チンピラども」
「「「「!!?」」」」」
「生意気言ってんじゃねえぞFランクがぁ!」
片手剣を振り上げながら迫る男。俺はそれを眺めながら、パンカーのフードに手を掛けて
「「「「「止めろこの馬鹿どもがぁ!!!」」」」」
男たちは大量の冒険者に吹っ飛ばされた。
「「「「……へ?」」」」
予想外の事態に硬直するメンバー。
勿論、面食らったのは男たちも同様で、
「いっ、お前ら何しやがる!?」
「それはこっちの台詞だ馬鹿野郎!!」
「関係無えだろ、ってぇ、引っ込んでろよ!?」
「関係大アリよこのアホどもが!!」
「いっ、いてぇよ! 何でこんな事すんだよぉ!?」
「自業自得だ馬鹿!!」
十人以上の冒険者、それも半分近くがCランク以上の冒険者に囲まれ、男たちは瞬く間にボコボコになった。
「………え、えっと、これは一体?」
「……何が起こっているのだ?」
「………さあ?」
「………流石に可哀想だろ」
呆気に取られるメンバーを他所に、冒険者たちは気絶した男たちを引き摺っていく。
「一体何があった!?」
騒ぎを聞きつけたタイソン先生が俺たちの元へ駆け寄ってくるが、メンバーの全員が状況を理解出来ていないのだ。
「それがその……私にもさっぱり………」
「男たちが絡んできたんですけど……」
「対処しようとしたら、急に他の冒険者たちが突撃してきて……その……」
「何か、リンチにあってました」
当然だが、この説明を聞いて理解出来る奴など早々いない。
「………はぁ?」
タイソン先生の反応も、ある意味仕方の無い事だろう。
取り敢えず言えるのは、
(思い当たる節が無きにしも非ずなのは、まだ黙っておこう)
ちょっと面白そうだな、と思った。
実を言うと、三章は『パンダさん一式』のネタがやりたかっただけ。




