表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/123

灰色の猫 その2

旧タイですが、一カ月ぐらいしたら消す予定です。


キリが良いところで切ったので、少し短めです。


誤字脱字の可能性大です。

「いやー、助かっちゃうなー」


「……」


朗らかに笑いながら歩く灰猫先輩。無言で横を歩く俺。とても対照的な二人だと感じるだろうが、これもしょうがないと思うんだ。


「もうねー、先生も酷いと思わない? 幾ら私が冒険者科に在籍してて、一般的な生徒よりもステータスが上だからってさ、こんな重い木箱七個を一人で運べなんて信じらんないよね」


「………」


「そりゃ、私の筋力値は結構高いけどさ、物には限度ってもんが有るでしょ? 七個よ七個。ただでさえ持つのも辛いのに、それを一人で運ぶなんて危なっかしくて出来ないわよ」


「………」


「さっき階段から落ちちゃったのだって、重ねて運んだ所為で前が見えなかったから……ねえ、聞いてる?」


無言を決め込んでいると、灰猫先輩が俺の顔を覗き込んできた。額に青筋が浮かんだ気がしたのは、錯覚じゃない筈だ。


「……取り敢えず、聞いてはいますよ。だから言わせて下さい。今のセリフ、ブーメランだって自覚は有りますか?」


顔は決して灰猫先輩の方へと向けず、目の前の木箱を見つめながら俺は尋ねた。そうしないと、頭の血管が切れそうだったから。


「有るわよ?」


持っている木箱を軽く上に放り、高速で灰猫先輩の頭を叩く。


「にぎゃっ!?」


「殴って良いですかね?」


「…ッ、もう殴ってるわよね!?」


「失敬。イラついたので言葉よりも先に手が」


灰猫先輩に謝罪しながら、片手で落ちてきた木箱をキャッチ。


それを見て、目を丸くする灰猫先輩。


「……わお」


「何か言いたい事が?」


「……取り敢えず、怒る気が失せるレベルの大道芸はヤメテ」


「大した事はしてませんよ」


こんなもの、ステータスが高ければ出来るだろ。


「大体ですね、文句が言いたいのはこっちの方なんですよ。何で木箱の数が6:1なんすか」


灰猫先輩が持っている木箱の数は一つ。残りの六つは全部俺の手の中だ。うず高く積まれた木箱のお陰で、前が全く見えん。


「ヒバリ君が持ってくれるからでしょ?」


「ほざくな灰猫」


「……遠慮が無くなってきたなぁとは思ってたけど、とうとう先輩が消えたわね……」


「敬われたいなら行動で示せ」


この人、俺が渋々木箱を持とうとした途端、木箱を一つだけ持って走り出したんだよ。普通に殺意が湧いたわ。


「だってしょうがないでしょー。この箱一つでも相当重いんだもの」


「俺はそれを六個持ってるんですけど」


因みにこの木箱だが、一つ辺りの重量は十キロぐらいだ。中身は大量の紙らしい。


「良いじゃないの。ヒバリ君、割と軽々持ってるんだから。それともキミは、私みたいなひ弱な子に六十キロ近い荷物を持てって言うの?」


「そういう問題じゃないんすけど。そして、木箱全部をさっきまで持ってた人が言っても、ひ弱とか説得力が無いです」


普通に強いだろアンタ。


「細かい事気にしてたらモテないわよ?」


「余計なお世話です。と言うか、そう言う事を言いたいんじゃないんですよ」


「じゃあ何よ?」


「あんな風におちょくらなくても、普通に言ってくれれば持つって事です」


流石の俺でも、そこまで無神経では無い。


そう伝えると、灰猫先輩は目を丸くしていた。


「……へえ、意外に優しいところも有るのね。ヒバリ君の事だから、てっきり挑発して立ち去るのかと思ってたわ」


「何でそんなイメージが定着してんすか…。俺とアンタ、出会ってまだ十分も経ってないからな」


そんな外道みたい行為、知り合いにしかやらんわ!


「知り合いにはやるんだ」


「だって面白いでしょ?」


「キミも中々良い性格してるわねー」


クスクスと笑う灰猫先輩。十中八九、この人も俺と同類だと思う。


「まあ、それならもう一度お願いするわ。ヒバリ君、荷物持ってくれる?」


上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる灰猫先輩。普通に可愛いのだが、笑顔の裏には打算が有るのは確定だ。


「普通に頼んでください。んな一々あざとくせんでいい」


「むー、大体の人はこれで喜んでくれるのに」


「嫌な事を思い出すんですよねそれ…。打算とかが有ると効果が半減します」


基本的にドロップの尻拭いの所為である。アイツの上目遣いで何回奮闘した事か。【願望の聖杯】なんて良く分からない発明品の為に、魔神の異空間にカチコミを掛けたのはいい思い出だ。因みに同じ事を七回はやった。


俺が遠い目をしていると、灰猫先輩が意外そうな声を挙げる。


「あら、キミが振り回される姿なんて想像つかないわ。どちらかと言うと振り回す側でしょ?」


「んー、否定はしませんが、世の中って広いんですよ。昔の仲間に比べたら、俺なんてかなり常識が有った方です」


俺も大概変人だけど、師天の奴らは全員がヤバい。唯一の常識人であるニャーさんですら、人に飽きたという理由で猫になったのだ。普通に頭が可笑しいと思う。


「……ちょっと想像出来ないかなぁ………」


灰猫先輩の顔が引き攣ってる。


「想像出来ない方が良いですよ。世の中、知らない方良い事も有ります。あの手の奴等は、マジで会わない方が良いです。心労で寿命が減ります」


まあ、そうそう出会わないとは思うが。と言うか、あんなのがゴロゴロ居てたまるか。そうなったら一度世界を壊すぞ俺は。


そんな事を考えていたら、資料室が見えてきた。


「そう言う訳なんで、俺にはあんまり関わらないようにしましょう。灰猫先輩の寿命を縮める事になるのは、俺も心苦しいですし」


「あら? それだとヒバリ君も、その傍迷惑な人種と同じって言ってるように聞こえるわよ?」


「実際にそうですからね」


ついでに言うと、アンタもな。


俺も灰猫先輩も、他人を振り回す類の人間だ。俺は引き寄せられる厄ネタで。灰猫先輩は傾国クラスの美貌で。


ベクトルは違えど、俺と灰猫先輩は非常識側に身を置いている。


「むー、そんな風に思われるなんて心外だわ。まだ出会って十分も経ってないのよ?」


「それはそっちも同じでしょうに。と言うか、アンタは印象付けるに十分な行動をやっとるわ」


出会いから別れまでの終始が悪女だよアンタは。


「兎も角! お互いに程々の距離感を持って、程々に付き合っていきましょう。それが俺達の為です」


俺がそう宣言すると、灰猫先輩は不満そうな声を上げた。


「えー、私はヒバリ君の事気に入ってるのにー。キミは私の事嫌いなの?」


「いえ、別に。灰猫先輩の性格は俺好みですし、見た目も眼福だとは思いますよ。ただ、近くに居ると碌な事にならなそうだなと。後は、役者よりも観客に回った方が面白そうです」


正直な感想を漏らすと、灰猫先輩は愉快愉快とばかりに笑った。


「あははは! キミのそう言う正直なところ、私結構好きだよ。美麗字句は何度も聞いてるけど、こんな事を言われたのは初めて」


「さいで」


灰猫先輩の容姿だ。歯の浮くようなセリフは聞き飽きているのかもしれない。


「うんうん。そう言う事なら、今はヒバリ君の言う通りにしておきましょうか。私的には残念だけど、言ってる事も一理有るしね」


「そりゃ良かったです」


いや、マジで。だってこの人、下手したらドロップやクイーンの後釜に収まりそうなんだもん。俺を振り回す的な意味で。相当に失礼な事を言ったが、それも嫌な未来を回避する為。一応、心の中では頭を下げておこう。


ごめんなさい。


「……どうしたの? いきなり頭なんか下げて」


「おっと、これは失敬」


間違って本当に頭を下げしまった。


灰猫先輩は俺の行動を不思議そうにしていたが、軽く肩を竦めるだけでスルーしてくれた。


「取り敢えず、荷物はそこに置いといて。もう大丈夫だから。手伝ってくれてありがとね」


指示された場所に荷物を下ろして、灰猫先輩の方を向く。


「一応言っておくけど、学習室はこっちの階段で三階、そこを右に行けば直ぐだよ」


「あ、ども」


「いいのいいの。ヒバリ君には手伝ってもらったし、今後は程々の距離でヨロシクやってくんだもの。困ってたら助けるわよ」


そう言いながら、灰猫先輩は資料室の中へと入っていく。


そして、扉から半分だけ顔を覗かせ、


「それじゃあ、またね。ヒバリ君」


ウィンクをしながらそう言ってきた。


「はい、さよならです。灰猫先輩」


俺は別れの挨拶を交わして、階段を上った。


その途中で気付く。さっきのセリフの違和感に。


「………ん? 今後?」


なんとなくだが、猛烈に面倒そうな予感がした。

灰猫先輩ですが、世界が違ったら師天の仲間入りをしてたかも。そんな人物。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ