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破滅の宣告

はい、と言う訳で、これから新章突入です。


因みに章についてですが、王城生活終了までが一章。前回までが二章って感じです。つまり、今回からが三章ですね。


章の付け方があまり分からないので、これを参考にしていただければ。



なお、破滅の宣告とか言ってますが、特にシリアスと言う訳ではありません。サブタイトルはスルーして下さい。基本的に適当なので。


誤字脱字の可能性大です。

京介達が旅に出てから約一ヶ月が経った。


あの時は魔王襲来やらで何かと騒がしかったのだが、京介達が旅立ってからは特に何も起きていない。平穏だ。


今も昼休みの時間を利用して、教室で昼寝に入ろうとしていたところだ。とても平穏だ。


「ヒバリ君、君補習ね」


平穏……だった。


「………は?」


ふらりと教室に入ってきたエクレ先生の宣告は、俺を平穏な学園生活をどん底へと叩き落した。


「……わんもあぷりーず」


「だ・か・ら! 補習よ補習」


聞き間違いかと思ったのだが、どうやら違うらしい。だが、補習を受けてるような事をして……ない、と思う。問題児の自覚は有るが、劣等生と言われるような覚えは無いのだ。


「何故ですか? 素行不良とかで処罰とかだったらまだ分かりますけど、成績不良って訳じゃないでしょう?」


「この前やった実力テストが問題大アリだったの! と言うか、素行不良な自覚が有るなら直しなさい!」


ああ、五日前に終わったアレか。


実力テストと言うのは、文字通り学生の能力を測るテストである。クラス分けの指標になるテストなので、期末考査の次に大切とされているらしい。


その分、座学から実技までと科目は多岐に渡り、全学年が一斉に行う為に、この学園の中でも壮大なイベントとされている。


「えー、俺そんなに点数悪かったですか?」


色々と悪ノリはしたが、それでも平均近くは取れてる筈だ。


「良い悪いの問題じゃないのよ!! 君の筆記テストは結構問題になってるからね!?」


「ほうほう」


徐々に熱くなっていくエクレ先生。宥めようかと思ったけど、面白そうだからこのままで。


因みに、怒鳴り声を聞いたクラスメートが、密かに聞き耳を立て始めているが、ヒートアップしているエクレ先生は気付いていないようだ。


「例えば歴史! 偉人の人名を挙げよって問題で、何で回答を全部肖像画で描くのよ!?」


「ああ、アレですか。顔は分かったんですけど、どうも名前が思い出せなくて」


良く有るよね。


「絶対嘘よね!? あんなクオリティの高い肖像画とか描いといて、本人の名前が分からないとか絶対に嘘よね!? 採点した先生が思わず丸を付けそうになったとか言ってたのよ!?」


「まあ、時間の殆どをそこに使いましたし」


「「「馬鹿だろお前!?」」」


何言ってるんだ。


「悪ふざけは全力でやるから面白いんだよ」


「テストでふざけるなって言ってんのよ!!」


いや、だって時間が余ったんだもん。


「次に冒険者学! 次の魔物の弱点を答えなさいって問題なのに、答えが『防御出来ない火力をぶつける』って馬鹿なの君は!? それが出来たら苦労しないのよ!!!」


いや、だって出来るし。


「真理ですよ?」


「真理だけど大間違いよ! それが正解なら問題にならないでしょ!」


まあ、それもそうか。


「次に魔法学! 魔法の発動手順を説明しなさいって問題。『魔力にイメージを伝えれば、後は全部がやってくれる』ってその方法を聞いてんのよ! そんなザックリとした感じで魔法使えたら世の中の皆が魔法使いよ!」


何言ってるんですか。三十過ぎても童貞なら、その人はもう魔法使いですよ。


「と言うか、無詠唱だと正解ですよねコレ?」


「端折り過ぎだって言ってるの! 無詠唱=魔法全般って訳じゃないから! そんなの問題に出さないから!」


やはり世の中は多数決の世界なのか。マイノリティーはどうしても迫害されるのだな。


俺が遠い目をしていると、エクレ先生が疲れ果てたように手をついた。


「他にも挙げればキリが無いわよ…。戦術学で最適な戦術を求めろって訊かれたら『敵を大魔法で一掃する』とか答えてるし、薬学でポーションの材料を訊かれたら『龍の血、宿木、反魂樹の根、ロイヤルゼリー、蒸留水』とか答えるし。……何が出来るのよこの材料で」


エリクサーです。


「先生達も唖然としてたわよ。一部の先生は激怒よ激怒…」


「でしょうね」


「でしょうねって君ね……」


まあ、普通に考えておちょくってるからな。処分しようと動き出す教師が居ても不思議じゃない。


勿論、ちゃんと手は打ってあるが。


「別に良いじゃないですか。ふざけた回答以外は全部正解してた筈ですし」


「ぐっ」


俺がそう指摘したら、エクレ先生が言葉に詰まった。


「詳しい配点は知りませんが、筆記テストは八割ぐらい取れてる筈ですよ?」


「……うん、筆記テストの総合は、学年の上位一割には入ってた…」


「「「はぁっ!?」」」


野次馬が何やら叫んでいるがスルーさせて貰おう。大体、保険も無しにあんな悪ふざけをする訳が無いじゃないか。


「やる事をちゃんとやった上でふざけてんだよ。自由な事には相応の責任が発生するの」


何もしないでふざけたのなら、それはただの傍迷惑な馬鹿だ。すべき義務をしっかり果たしてこそ、自由にする権利が生まれる。俺の学園生活の場合なら、ちゃんと点数を取った上での行動じゃないと駄目だ。じゃなければ普通に処分される。


逆を言えば、点数さえ取って居ればどうにでもなる。まあ、別に校則を犯してる訳では無いのだが。……ほら、髪の色がオレンジの死神代行様も、一巻か二巻で言ってたじゃないか。素行不良でも点数が良ければ教員達は何も言えないって。


「点数取った上でふざけられた方がタチ悪いわよ!」


「文句もそんなに言えませんもんね」


「分かってたならやらないでっ!!」


「分かってるからこそですよ」


ガンと机に突っ伏すエクレ先生。シクシクと涙声で『私何も悪くないのに……』と言っている。どうやら担任の方に文句が入っているらしい。


南無。


「可哀想にエクレ先生……」


「こんな馬鹿に振り回されて……」


「廃スペックな馬鹿程に厄介な奴はいないな……」


「有能な無能だよなヒバリは」


「言いたい放題だなオイ」


何だよ有能な無能って。


「って言うか、上位に入ってるなら何で補習なんすか?」


クラスメートの悪口の所為で忘れそうになったが、本題は俺の補習の件だ。


「……えっとね、筆記テストは良かっ……た訳じゃないけど、それでも見過ごせる範囲だったわ。問題は実技テストよ」


「へ?」


思わず間の抜けた声が出てしまったのは、仕方の無い事だと思う。大してふざけていない実技テストで補習なんて、一体誰が思うのだろうか。


「実技テストって、戦闘実技と魔法実技のアレですよね?」


戦闘実技は教師との一対一で、武器は用意された中から一つを選択、魔法などは一切無しの五分間の耐久試合。どれぐらいの時間戦えていたか、どういう試合運びだったのかなどが評価されるテストだった。


「……先生気絶させたの、やっぱりマズかったですか?」


「……あー、まあね」


俺が尋ねると、エクレ先生は気まずそうに頷いた。


あの時は確か、始まりと同時に選んだ剣を先生に向かってぶん投げて、怯んだ隙に延髄切りを叩き込んだんだ。


引退した高ランク冒険者であった先生は気絶。殆どの生徒が軽くあしらわれて敗北していた中の瞬殺だったので、その場の空気が凍りついたのは記憶に新しい。お陰でテストは一時中断となった。


思い当たる落ち度と言えばこれぐらいだ。だが、それでも腑に落ちない。試合なのだから、別に勝ってはいけないなんて事も無い筈なのだ。と言うか、雄一と翔吾も他の先生に圧勝してる。


「あー、勝っちゃったのは別に良いのよ。担当した先生方が『何で学生なんてやってるんだ……』とか言って落ち込んでたけど、学園としては生徒が優秀なのは良い事だし」


ならば何故だ。


「問題はやり方なのよね。あのテストは選んだ武器の技量も評価の一つなのよ。憶えてると思うけど、あの時は先生が何人か居たでしょ? あれって、生徒が選んだ武器を専門に扱う先生が担当する為なの。それで、ヒバリ君が選んだ武器は剣。それを君はどう使った?」


「……ぶん投げましたね」


「そう。それで技量点がゼロ。それさえ無ければ、何時もの三人でベスト3を独占出来たんだけどね」


話によると、教師側でも賛否両論だったそうだ。対人戦としては有効な一手だと主張した先生も居れば、後の事を考えて無い悪手だと主張した人も。最終的には剣本来の使い方をしていないと言う理由で、得点は中の上辺りに落ち着いたらしい。


「まあ、それでも十分凄いんだけどね。技量点は0点だったけど、戦闘能力と試合運びは満点だったみたいだし」


「むしろ、それで何で補習なんすか?」


今の話を聞いた限りだと、やっぱり補習になる要素は見当たらない。


俺が首を傾げていると、エクレ先生が歯切れが悪そうに口を開いた。


「……実を言うとね、魔法実技が評価不明。つまり0点なのよ」


「はぁ!?」


エクレ先生の口から、信じられない点数が飛び出してきた。


「ちょっと待って下さいよ! 魔法実技では俺ふざけてませんよ!? なのに何でそんな点数なんすか!?」


魔法実技のテストは的当てで、五十メートル離れた位置から的目掛けて魔法を放つと言う物だった。的はダーツのようになっていて、魔法の当たった地点で命中精度を、的の損傷具合で威力を測るらしい。


当然の事ながら、俺は余裕でクリアした。放った魔法はド真ん中に的中したし、威力も的が消し飛んだので申し分が無い筈だ。


「うん、それが原因なのよ」


「は?」


「ヒバリ君が的を吹き飛ばしちゃったから、点数を確認する事が出来なかったの」


「えー!?」


何それ酷くね!?


「何で的消しちゃ駄目なんですか!?」


「……あのテストの判断基準は的なのよ。以前は目で見て判断してたらしいんだけど、公平性に欠ける事が何回か有ったの。ほら、人の主観って様々じゃない?」


エクレ先生は言葉を濁したが、俺はなんとなく直感した。恐らくだが、貴族の子弟を贔屓した教師が過去に居たのだろう。その為に、的を使って公平に判断してするようになった、と言う事か。


「そういう訳で、判断基準である的が無いから、ヒバリ君のテストは評価不明って事に……」


「んなご無体な! そもそも生徒の魔法に耐えられないぐらい的が脆いのが原因っすよね!?」


「………一応、あの的って魔法耐性の高い素材で出来てるんだけど…」


俺にしてみれば紙と変わらん。


「大体、的が粉砕してるんだから威力点ぐらいくれても良いと思うんですが」


「そもそも的が消し飛ぶって事自体が初めてだから……」


前例が無いから出来無いとか、何処のお役所仕事だよ。


俺が白けた目で見つめていると、エクレ先生が慌てて付け加えてきた。


「先生達も悩んだのよ? 成績自体は優秀だし、魔法実技も半ば事故みたいな物だし……」


「じゃあーー」


何故?と口にしようとしたのだが、流石に次の言葉には閉口するしかなかった。


「ただ、普段の素行不良を訴える先生が居てね。それに今回の筆記テストの件も有るし……」


「………」


……。


「それで話し合いの結果、ヒバリ君は補習を受け……って、聞いてる?」


「ええ、まあ……」


エクレ先生が不思議そうに顔を覗き込んできたので、俺は平静を装って返信をする。まあ、その内心では、思い切り頭を抱えていたのだが。


いや、本当。こんな場所に落とし穴が有るなんて、全く思ってなかったから。


(まさか、此処でさっき言ったブーメランが飛んでくるなんて……! ああ、クソっ、……と言いたいが、これは流石に自業自得か……)


さっきも言ったが、自由な行動には相応の義務が生じる。勿論、全ての行動に義務が生じると言う訳では無いが、少なくとも規則の中で生きる場合にはそうなる。


俺は今回、その義務を果たせなかった。学園側の落ち度も有るとは思うが、それでも自業自得と言う面も大きい。苦い経験として割り切るべきだろう。学生レベルの補習なら、どうとでもなるという点も有るが。


「……はぁ、分かりました。補習を受けます」


「……うん、ゴメンね。ヒバリ君も言いたい事とか有ると思うけど、今回は引いてね」


「別に良いですよ。擁護してくれた先生も居るみたいですし」


全員一致で処分ってなってたら泣いてたと思う。


「それに、次からはもっと上手くやります」


「……出来ればやらないで欲しいんだけど…」


「それは無理です」


またもやエクレ先生が机に突っ伏した。


南無。


「……はぁ…。それじゃあ、今日の放課後に学習室に来て。そこで補習の詳しい説明をするから。場所は分かるでしょ?」


「ええ」


「それじゃあお願いね。……出来れば、今後はこれに懲りて大人しくして欲しいんだけど」


「だから無理ですって」


「……言ってみただけよ。午後の授業、頑張ってね。くれぐれも寝ないように」


「頭の隅に留めておきます」


「せめて善処しますって言いなさい!!」


そう言った後、エクレ先生は教室を出て行った。


「さて、どんな補習が待ってるのやら……」


流れが急な気もしないでも無い。違和感を感じたらご報告を。


それにしても、雲雀がとても嫌な生徒になってます。有能な問題児って厄介ですよね。

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