勇者出立
やっと終わった……。
リフレインをプレイしてガチ泣きしてた所為で、こんな時間になってしまいました。
テヘペロ。
誤字脱字の可能性大です。
コメントでの指摘を受けて、最後の部分を付け加えました。
勇者達の出立を祝し、ルーデウス王が民衆の前で演説をしている時。俺達は王城の最上階、本当の意味での最上階である屋根の上に居た。
眼下には多くの民衆が居る。出立する勇者達を一目見ようと、王城の広場へと集まっているのだ。今日は学園も休みなので、ちらほらと見覚えのある生徒達も見てとれた。
「……今更だけどさ、何で屋根?」
下を眺めていると、翔吾から疑問の声が掛かった。
「人混み嫌い」
「都会生まれが何言うか……とツッコミたいところだが、俺も今回は同感だ」
武道館ライブもよろしくな人数が広場には居る。流石にあの中に混ざる勇気と気力は無い。
「それにしても、結構集まったな。流石は勇者。人気者だ」
「そりゃ、話題性で言えば抜群だしね。物珍しさで来てる人も少なくないんじゃない?」
「アイドルみたいなもんか」
確かに物珍しさと言う面で言えば、異世界からの勇者なんて格好の的だろう。
「……おいおい。もう既に目がハートマークな人が多数居るんだが…」
「勇者パーティ全員が美男美女だからな」
因みに人間体のインセラートも含まれる。死ねば良いのに。
「本当、イケメンは得だねぇ」
まあ、一人は魔王な訳だが。
「誰も魔王が勇者パーティに居るとは思わないだろうなー」
「押し付けた癖に良く言うよ」
「押し付けたなんて人聞き悪いな」
ちゃんと勇者パーティの事を考えての行動だぞ。
「京介達には斥候役が居なかっただろ。今までは団長がなんとかしてたみたいだけど、それでも本職って訳じゃない。その点、インセラートは虫を操れるし、虫と意思疎通が出来るらしい。情報収集には持ってこいな能力だろ?」
情報は大切だ。戦闘だと敵の情報をどれ位知っているかで勝率は上がる。旅なら何処が危険かを知っていれば安全性が高まる。商売なら需要と供給を知っていれば収入が上がる。
「まだ京介達は裏の世界を知らない。謀には滅法弱いんだ。一応、大人である団長やセリアさんも居るが、あの二人の本質は戦士と研究者だし。権謀術数に長けた相手には絶対に負ける。だからこそ、情報収集に長けた冷酷な仲間が必要だったんだ」
真正面から向かってくる奴等は良い。力が有れば倒せるから。真に警戒しなくてはならないのは、搦め手を使って裏から手を引く奴等だ。そんな奴等を倒すのに必要なのは力では無い。先を見通す知恵と、敵と同じ視点に立てる悪意だ。
勇者として召喚された京介達にはそれが無い。
「京介達には知恵は有っても、悪意を知らない。京介達は平和大国の日本、その表の世界という温室育ちだ。畑違いの保護者が二人が付いたぐらいで守り切れる程、人間ってのは甘くない」
敵である魔物よりも、守るべき人間の方が警戒しなくてはならないなんて、皮肉が効き過ぎているがな。
「だからこそのインセラートだ。類稀なる情報収集能力、魔王クラスの戦闘能力、先を見通す知恵、人間を破滅させるのに一切の躊躇を覚えない冷酷さ。敵に回すと厄介な事この上ないが、味方ならば頼もしい奴だ。保険としての旅のお伴には最適だろう」
まあ、他にも保険として魔法の込められたアクセサリーも渡してあるのだが。
種類としてはフィアに渡したのと同じ種類だ。俺への連絡、蘇生、蘇生と同時に半径1メートルのバリアを三十秒だけ展開、など言った危険回避系を幾つか仕込んである。因みに、連絡以降の効果は説明していない。コンテニューが可能と知れば、油断とか甘えが生まれるからな。
「過保護」
「うっさい。京介達はダチだ。ダチを何もしないで危険に晒す程、俺は落ちぶれちゃいない」
そうでなければ何の為の力だ。悪ふざけをする為だけに有る訳じゃないんだぞ。
敵は苛烈に、他人は人並みに、友人知人は甘く、身内は激甘に。コレが俺のスタンスだ。
そして京介達は友人。何回かは助けてやるつもりだ。まあ、蘇生とかしたら記憶は消すつもりだが。理由はさっきと同じ。何度も生き返らせてくれるなんて思われて、依存されても困るからな。
「……すっごい恩着せがましい事言ってるけどさ、魔王もアクセサリーも押し付けただけだよね」
「……」
「いや、アクセサリーは善意だろうが、インセラートは完全に厄介払いだろ」
「……」
二人にじーっと見つめられたので、俺はゆっくりと視線を逸らす。ああ、空が蒼いなぁ。
「「ギルティ」」
「うっせー! あんなド変態の魔王なんて近くに置いておきたいなんて思わねえだろ!!」
ドMの蟲なんてキショイだけだろうがっ!!
「自分で性格捻じ曲げという良く言うよ」
「確かに性格の根幹部分をぶっ壊すつもりだったけども! 流石にあんな風になるなんて想像出来ねえよ!! 未だに俺は何が起きてああなったのか分かんねえんだぞ!?」
魔王がMに目覚めるなんて、一体誰が予想出来るんだよ。
「いや、ちょっと考えれば分かるだろ。何度も訪れる致死の苦痛。決して死ぬ事は出来ず、狂う事も許されない。それが永遠に続くかもとなれば、痛みを快楽と錯覚と認識するようになっても可笑しくない」
雄一に指摘された可能性を考えてみる。………有りだな。
「………つまり、一種の防衛本能って事?」
「そう言う事だ」
どうやら精神崩壊をプロテクトとする魔法が裏目に出たようだ。うーん、廃人一歩手前までは許しておくべきだったか。隻眼の百足さんはむしろ逞しくなってたんだけどなぁ。
ん? じゃあ、あの使用人風なのは?
「多分だが、マゾヒズムに目覚めたばかりで精神が不安定になってる時点で、お前が隷属の魔法を掛けたからじゃないのか?」
「なる」
元々インセラートを覚醒させたのは俺だし、その状態で隷属させれば、そりゃ『ご主人様』扱いされるか。
うん、あまりにも迂闊だった。舌打ちが隠せない程に。
「……クソッ、何でこんな簡単な事を思い至らなかった俺!? 雄一の言った通り、少し考えたら分かるだろうに……」
「まあ、魔王が変態に覚醒するなんてイメージ無いし……」
しょうがないと肩を叩いてくる翔吾に対して、俺は違うと首を振る。
「違うんだよ翔吾……俺は既に知ってたんだ。知っていた筈だったんだ。魔王だろう魔神だろうが、調教次第ではロリ・ショタ・M・露出狂・ゲイ・レズと言った、特殊な性癖に覚醒する事は知っていた筈なんだよ……!」
「何でそれを知ってるんだよお前は」
翔吾と雄一がドン引きしている。
いや、別に俺が実際にやった訳じゃないから。クイーン様がド変態な超越者を大量生産してただけだから。
『呼んだかしら?』
呼んでねえよ。
『あらそ』
………師天の奴等、絶対に覗いてるよな。
「ん? どうしたの雲雀?」
「何でもない」
「ふうん?」
首を捻る翔吾はスルーだスルー。世の中には知らなくて良い事も有る。
「………にしても、マジでやらかしたなぁ…。ドMじゃ何しても喜ぶだろうし……」
頭を抱えながら唸る。折角インセラートの内面とかを良い感じに壊したのに、これじゃあそれ以上が出来無い。
「………とか言いながら、実際はもうどうでも良くなってるでしょ?」
「……」
「同族殺しさせる為にとか、どう考えても建前だろ」
「……」
ツーと視線を横に逸らす。あ、小さな青い鳥が飛ん…カラスっぽい鳥に持ってかれた……。
「諸行無常か……」
「「話を逸らすな」」
いや、別に逸らした分かるじゃないんだが。
「まあ、ぶっちゃけ既にどうでも良いってのは有る」
確かにクラリスの事とかでムカついたし、あの時は本気で壊しにいった。今でも許していないし、インセラートは嫌いだ。
「だけど、あんだけ殴ったらな。何と言うか、飽きた」
元が怒りとかストレスを発散する為にやり始めた処刑だ。原動力となっていたそれ等が薄れてくれば、処刑もただの作業に成り下がる訳で。いや、途中からインセラートの反応が怪しくなってきたって理由も有るのだが。
「それでも、帰ってきた時は初志貫徹しようしたのよ。けどその気力も、気絶から覚めたインセラートの第一声で萎えた」
思い起こされるのは、昨夜のやり取りだ。
『おい、起きろ羽虫』
『グハッ………ハッ!? 申し訳ございません、偉大なる我がロードよ!』
『……ほわっつ?』
『天上にも等しき我がロード、魔導の深淵に御座す魔導の王よ! 貴方様の前で無様に寝ていたこの私めに、どうか苛烈なる裁きをお与えください』
『………』
『おお、そこに居られるのは我が主のご友人! ささ、どうかお二人にも私を虐げて頂きたい!』
『『………』』
『さあ! さあ!』
嫌な事を思い出してしまった。あまりの気持ち悪さに吐きそう。
「……おえ………」
「気持ちは分かるけどえづくかない」
「あなたが私にくれた物、言葉に出来ない不快感」
「ノ○スタイルじゃねーか」
いや、実際に不快感が凄いのよ。
「そんな訳で、アレを近くに置いておきたくなかったんだわ」
あんなドMな蟲が引っ付いてきて、事ある毎に暴力を要求されるなど、ノイローゼになる自信が有る。それに、クラリスだって怯えてしまう。
かと言って、魔王クラスを態々殺すのは勿体無い。同じ理由で放置するのもアレだ。だったら、京介達の役に立って貰った方が良い。アイツ等は安全な旅を送れ、俺は不快な存在を厄介払い出来る。幸いな事に、インセラートは俺の命令には絶対服従だ。魔法的な意味でも、精神的な意味でも。命令として京介達のお伴にすれば、裏切る事も絶対に無い。
「雄一が言った通り、同族殺し云々は建前だな。元々カオスインセクトって魔物は何でも食べる悪食らしいし。同じ魔物や魔王を殺したところで、特に感慨も何も無いだろ」
流石に、厄介払いって理由を素直に放す訳にはいかないからな。京介達も不満だろうし。だから、色々と建前を並べて丸め込ませて貰った。
「普通に最低だね」
「相変わらずの屑野郎だな」
「五月蝿いよ。別に京介達にデメリットが有る訳でも無いんだから良いんだよ」
むしろ、メリットしかない。
「ちゃんとwinーwinな関係だ」
「片方のメリットが大き過ぎる気がするが」
「まあ、確かに京介達が貰い過ぎではあるな。けどよ、そもそも俺は自分の利益なんて幾らでもどうにかなるんだ。だったら、まだ未熟な友人達に贈り物をする方が建設的だろ?」
「いや、雲雀の方が貰い過ぎって意味だと思うよ?」
あれー?
「何故にそう思うん?」
「雲雀は変態を厄介払い出来た。京介達は頼もしい変態な護衛が出来た。変態と旅する事になった時点で不快だろが」
あらら、それを言われると弱いですね。
「ったく、しょうがない。じゃあ、コレも特別にサービスとしようかっ!」
俺からの門出の祝いとして、空に向けて魔法を放つ。
不当な取り引きで友人を騙したなんて、流石に思われたくないからな。
「何をしたの雲雀?」
「まあ見てろって」
首を傾げる二人を尻目に、俺は京介達へ送ったアクセサリーの通話機能を使った。
「京介、外見とけよ!」
『はっ? ちょ、いきなり何だ!?』
「それは三秒後に分かる!」
『今度は何する気よアンタ!?』
「三!」
『ねえ、変な事するんじゃないでしょうね!?』
「二!」
『カウントダウンしてないで答えください雲雀さん!』
「一!」
ドォォォン!
零と言う掛け声は、大音量の爆音によって掻き消された。
何も知らない民衆から悲鳴が上がるが、それも直ぐに息を呑む音へと変化した。
大輪の花火が、青い空を彩っていた。
『おいおい、マジかよ……』
『わぁ……』
『凄い……』
『綺麗です……』
アクセサリーを通して、京介達の感嘆の声が聞こえてくる。
「コレが俺流の見送りだ」
京介達が見惚れてる姿が目に浮かぶ。だからこそ、そんな彼等を邪魔しないように、俺は静かに呟いた。
「行ってこい。友よ」
大空には大輪の花々が、何時までも咲き乱れていた。
「……さて、じゃあ俺達も逃げるか」
「……は?」
「……え、何で?」
いや、だって
「王城の真上でどデカい花火を無許可で上げたんだ。早くしないと騎士団が飛んでくるぞ」
後でルーデウス王に一言伝えとくけど、それでも今は無理っぽいし。
「という訳で、早よ早よ」
「「ちょっとは後先考えろこの馬鹿がっ!!!」」
ちょっ、こんな場所で何を振りかぶって!?
「ごめんなさい!!」
アァー!?
長かった……。本当に長かった……。
最後の方はいい感じ『風』に纏めてみたんですけど、変じゃないですよね? と言うか、内容は変じゃないですよね?
えー、次の章?から、やっと放置されてたヒロインであるフィアさんが登場しします。まあ、それでも中盤ぐらいからなんですが。
緩めに期待してください。




