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夜の結末

無理でした。


あまりに長くなったので、次に終わりがズレました。


次回に三・四千文字ぐらい書いて、この一連の話は終わる予定です。


眠い目を擦りながら書いたので、色々と変な事になってるかも。


誤字脱字の可能性大です。

〈京介side〉


「ーーさあ、勇者達よ! 世界を歩け! 世界を観よ! 凡ゆる経験を糧として、厄災を斬り払う剣となれ! そして、この国に、この街に、何時か笑って帰ってこい! 君達の第二の故郷として、私達は君達の土産話を、首を長くして待っていよう!」


王城の中にある広場、一般開放されている広場を見下ろす位置にあるステージ。そこには、普段の人好きな雰囲気とは懸け離れ、勇ましく演説をする陛下の姿があった。


その演説の中心となっているのは、地球から召喚された勇者である俺達だ。


(今思い返しても、変な人生送ってるよなぁ)


旅立ちの時が近づくにつれて、今までの出来事が頭の中で蘇ってくる。


召喚された当初は、はっきり言って訳が分からなかった。高校に入ったばかりで、中学からの付き合いの梨花や、高校に入ってから知り合った詩織や花音と楽しく過ごしていた。それが突然、異世界で勇者となった。いや、本当に訳が分からない。


まあ、俺達はそれでも運が良い方だとは思った。勇者って事は、この世界でもある程度の力と地位が約束されているって事だから。むしろ可哀想に思ったのは、俺達に巻き込まれて召喚された雲雀、雄一、翔吾だった。……それは全くの思い違いだった訳だが。


と言うか、異世界で勇者って事実よりも、この三人の方が印象的だった。召喚に巻き込まれた筈なのに妙に落ち着いていたり、ステータスの天職が三人揃って凄そうだったり、極め付けは異常な強さだ。翔吾は堅実に、雄一は素手で、雲雀に至ってダンクさん相手に互角に戦った。俺だって幾つかの武道を齧っていたが、それとは次元の違う強さだった。


結局、実力の違いから、三人とは訓練が別となった。それ以降はあまり関わる事が無かったが、セリアさんからこの世界の学園に通っていると聞いた。……どうやら、相当にハッチャケてるらしい。主に雲雀が。教えてくれたセリアさんが、頭を抱えている姿がとても印象的だった。


その後は、まあ色々と経験した。現実の厳しさを知ったと言っても良い。戦に対する怯え、近づいてくる権力者への憂鬱、殺すという行為への忌避。華々しい英雄譚の裏側、決して語られる事の無い現実が、そこには有った。


それ等を乗り越えて、俺達は困難を跳ね除ける力を手に入れた。だからこそ、俺達は此処に立っている。


けど、そんな自信は昨日の夜に打ち砕かれた。雲雀達に、俺達はまだまだだと言う事を気付かされた。


「ーーほら、京介! さっさと馬車に乗るわよ!」


梨花に肩を叩かれて、俺はハッとなった。色々と考えている間に、陛下の演説は終わっていたらしい。


「っ、ああ。悪い梨花」


慌てて俺は馬車に乗り込んだ。馬車の中には、梨花達とセリアさんが居た。ダンクさん達が御者のようだ。


「ぼーっとしてたみたいだけど、どうかしたの?」


「いや、少し昨日の事を思い出してたんだ」


「……あー。まあ、確かに色々と衝撃的だったわよね」


梨花は納得した頷いた。他の皆も苦笑いしてるから、全員が同じ気持ちなのだろう。


俺達は揃って御者席の方、壁の向こう側に座るもう一人・・・に視線を向けた後、各々が持つアクセサリーに視線を落とした。





場面は昨日の夜に遡る。





「な? アイツが怒ると怖えだろ?」


雲雀が姿を消した後、雄一が俺達に向けてそう言ってきた。


「……ああ」


確かに怖い。さっき雲雀が浮かべた笑みには、言葉で言い表せない何かが有った。


「……それにしても、何だったんだ今のは…?」


冷や水を浴びせられたとか、そんな次元じゃなかった。身体の骨と言う骨が氷になったかのような、そんな感覚。


「そりゃ怒気だよ。雲雀から僅かに漏れた、ただの怒気だ」


「…ドキ? ……えっと、土の?」


「そりゃ土器だ」


「え、じゃあ、やっぱり怒る方の? 殺気じゃなくて?」


雄一が頷くのを見て、梨花が信じられないと言う顔をする。俺も全く同感だ。あんな冷気にも似た圧力が、ただの怒りで出せる訳が無い。殺気と言われた方がまだ納得出来る。


と言うか、本当に雲雀は怒ってたのか? あの寒気のする笑み以外は、特に変わった様子は見られなかったのだが。


「雲雀が本当に怒ってたのか?って顔してるな」


いきなり雄一が俺の考えを当ててくる。顔に出てたのだろうか?


「いや、それ程あからさまって訳でも無かったぞ」


「……心読んだ?」


「ううん。違うよ。単に僕と雄一が慣れてるだけ。雲雀と付き合い長いから、色々な場面に出くわす事が多くてさ。その所為で、色々と変な技術持ってるんだ。特に雄一の場合、観察系が凄くて」


……三人の話の中に稀に混じる経験談は一体何なんだろか? 同じ国の出身なのに、時々三人が違う世界の住人に思えてくるのだが。


「人の過去は詮索する物じゃないぞ。だから、そんなに興味を持つな梨花さん」


「はうわっ!? い、いやっ、き、興味なんて、もも持って無いし!」


「慌て過ぎよ梨花。全く誤魔化せて無いから」


慌てふためく梨花を詩織が宥める。俺はその光景に苦笑してしまう。


「はは、本当に梨花は分かり易いな」


「「「「……」」」」


「……え、何この空気…?」


何故だか一斉にジト目を送られたんだが……。


「俺、何か変な事言ったか?」


「黙れ鈍感馬鹿京介!」


「何で怒られてんの俺!?」


「アンタが変な事言うからよ!」


「俺何か梨花を怒らすような事言ったっけ!?」


他の皆に助けを求めるが、全員が首を横に振った。何故だ。


「まあ、全部京介が悪いから、取り敢えずお説教されときな」


「その鈍さは治した方が良いぞ」


「鈍いって何が!?」


今の会話で何か察する要素有ったのか!?


「気付いて無い時点でアウトよ」


「と言うか、それ以前の問題のような……」


「詩織と花音もか!?」


まさかこの二人にまで言われるとは……。


「聞いてるの京介!?」


そして、何故だか分からないが俺は説教された。



「おーい、その辺にしとけよ二人共」


五分程経ってから、雄一が俺と梨花の間に入ってきた。


「二人だけの空間作ってるとこ悪いが、説教ってのは当事者以外は退屈なんだ」


「誰が二人の空間なんかっ!?」


「まあまあ」


雄一へ噛み付こうとした梨花だが、翔吾がそこに割って入る。


「これじゃあ何時まで経っても話が進まないよ。ほら、戻して戻して」


パンパンと手を叩いて、翔吾が話題修正を図った。


「えーと、何処まで話したっけな? ………ああ、雲雀が怒ってるように見えないってところか」


雄一が話の内容を思い出し、続きを話し始めた。


「ほら、温厚な奴が怒った場合、大体が笑って無い笑顔を浮かべるだろ? アイツもその類だ」


笑って無い笑顔と言うのも変な表現だが、言わんとしている事は分かる。パッと見だと判断し辛いタイプと言う事だろう。


「あんな感じで巫山戯てるが、さっきのアレはマジギレしてたんだぞ。連れ去られたインセラートが憐れでならんよ俺は」


雲雀が消えた場所を見ながら、雄一は肩を竦めた。……いや、ちょっと待て。何かツッコミどころ無かったか今?


「あの魔王は雄一が倒しただろ」


既に死んでる相手を憐れむなんて、一体どういう事だ?


「あの出鱈目が死体に鞭打つ以上の事をしでかさないとでも?」


「「「「………」」」」


………説得力が有り過ぎる! 本気で否定出来ないじゃないか!


俺達にとって、雲雀はもう常識外と言う存在と言える。少なくとも、俺の中では何でも有りと言う認識だ。それに加えてあの性格。俺にはもう、雲雀が死体で何をするつもりかが想像出来ない。


「アイツ、普段はおちゃらけてる癖に過激だからなぁ。インセラートにはご冥福を祈りますとしか言えん」


「普段は優しい人が怒ると怖いって、本当に良く言った物だよねぇ」


出鱈目な存在の親友がしみじみと呟いた。……いや、今何か見過ごせ無い表現無かったか?


「……雲雀って優しいのか?」


「うん。少なくとも僕ら三人の中だと一番」


「翔吾が一番じゃなくて?」


「僕が優しく見える?」


ニコニコと笑いながら聞いてくる翔吾は、はっきり言って可愛らしい。いや、愛らしいと言うべきか。男女問わず引き込まれそうな外見は、優しいと言う評価がとても似合うと思う。


「いや、お前ら忘れるな。さっき翔吾、助けるつもりが有ったのにも関わらず、ハンスの四肢を嬉々として狩りに行ってたからな」


「「「「……」」」」


「もう雄一! 別に喜んで切り落とした訳じゃ無いから! 単にハンスが嫌な奴だから、ちょっと懲らしめようと思っただけだよ! ただ、今後の生活に苦労すれば良いなーって思っただけで」


「嬉々としてやってんじゃねえか」


「「「「……」」」」


……人は見掛けによらない物だなぁ。うん、そう言う事にしておこう。じゃないと軽く人間不信になりそうだ。


頭を抑える俺を無視して、雄一が話を続けた。


「逆に雲雀の場合だと、同じように操られていたクラリスを助けた訳だ」


「でも、それって雲雀君の愛情故じゃないの?」


「愛情て」


詩織のストレートな表現に、二人は揃って苦笑していた。当事者の一人であるクラリスさんは、詩織の言葉で真っ赤になってるし。


「まあ、雲雀が義妹を相手にシスコン拗らせ気味なのも、理由の一つでは有るだろうけどな」


「それでも、何だかんだでハンスも助けたしね。多分、他の人が相手でも助けたんじゃない? 情やメリットに訴えでもして、それで雲雀が納得すればは勝手に動くし。後は煽てるか」


「煽てても動くのかよ……」


単純過ぎだろそれは。


「基本的にノリで生きてる人種だからね。上手い具合に煽れば動くよ」


ちゃんと限度は有るだろうけど、と付け加える翔吾だが、アイツが動く時点で安泰な気がする。


「まあ、こんな感じで適当に生きてる雲雀だが、ちゃんと優しさも有るんだよ」


「と言うか、人が死ぬ威力でツッコミ入れられてるのに、普通に笑って流してる時点で十分に優しさに溢れてるでしょ」


「確かに……」


幾らツッコミなんて言葉で飾っても、人が死ぬ威力で放たれれば攻撃と同じだ。例え異様に頑丈なのだとしても、普通ならば不信感が募る筈。それを平気で受け止めているのだから、度量が相当に深いと言えるだろう。


「だからこそ、今の俺達は密かに戦々恐々としてる訳。さっきも言ったが、優しい人間程怒ると怖いからな」


「当の本人は微妙に自覚して無いんだけどねー。未だに僕の方が怒ると怖いと思ってるし」


いや、翔吾も十分怖いと思う。


「そりゃ、単純な迫力だけなら翔吾の方が怖いだろうが、アイツの場合は止められる奴が居ないからな。あまりに懸け離れた力を持ってて、敵相手には容赦しない。そんな人間が怒りに任せて暴れてみろ。こっちの予想を遥かに上回る何かをやらかしかねないぞ」


ゴクリと、誰かが喉を鳴らした。雄一の予想は曖昧な物だったが、それと同時に具体的な物だった。


雲雀が怒れば、何かが起こる。俺達では予想が出来ない、そんな何かが。


「……んな事起こすかアホ。お前達は人を何だと思ってんだ」


「「「「っ!!?」」」」


突如として聞こえた声に、雄一と翔吾を除いた全員が飛び上がった。


視線を向ければ、そこには呆れ顏をした雲雀が立っていた。


「何時から居た!?」


「今さっきだよ。雄一の根拠の無い予想辺りからだ」


どうやら本当にさっきのようなので、ホッと息を吐く。いや、別に聞かれてマズイ話をしていた訳では無いのだけど。


「ったく、俺がトラブルメーカーみたいな言い方止めろよな」


「実際そうだろうが」


「自分から引き起こした事なんか四割ぐらいしか無えよ」


「ほぼ半々だよねそれ」


「……大体な、雄一の予想なんて、明日空が落ちてくるって予言してるような物だぞ。当たらないわそんな予言。空は絶対に落ちません」


別に空がどうこうって話はして無いのだが。


「なら明日は天地がひっくり返るな」


「どう言う意味だオイ」


雄一の余計な一言に雲雀が食って掛かる。


「まあまあ。……それで、雲雀は一体何してきた訳? インセラートはどうしたの?」


流石に長年の親友と言うのは伊達では無いようで、翔吾が即座に二人の間に割って入った。話の矛先をズラすと同時に、話題の修正を図る手腕は見事と言うしか無い。


「別に大した事はして無いぞ。ただインセラートをひたすら殴っただけだ」


雲雀がほらと言って放り投げたのは、無傷となった魔王が………無傷?


「……なあ、俺の見間違えじゃなければ、魔王なんか治ってないか……?」


「……ゴメン、私にもそう見えるわ」


「……と言うか、何か微妙に生気を感じるんだけど。死体らしさが無くなってると言うか………」


「………まさか……生きてる?」


「うん」


ああ、やっぱりか。そうだよなぁ。ここまで見事に治ってたら、生きていても可笑しく無いよな………


「「「「はあっ!?」」」」


そんな訳有るか!!!


「死んでたよなっ!? この魔王確かに死んでたよな!?」


「うん」


「だったら何で生きてるのよ!?」


「蘇生した」


「出来るのそんな事!?」


「余裕」


「て言うか、何で魔王なんか生き返らせちゃうんですか!?」


「死体殴っても楽しく無いじゃん」


「「「「楽しさを求めるような事じゃないでしょう(だろ)!!!」」」


淡々と答える雲雀に全員でツッコンだ。あの大人しい花音までが怒鳴った事から、俺達の怒りの大きさを察して欲しい。


だが、雲雀と付き合いの長い二人は冷静だった。


「で、本当のところはどうなの?」


「目的無しでお前がそんな事するとは思……えるな」


「思えるのか」


「日頃の行いだよ」


雲雀は無言で肩を竦める。そして、目的とやらを話し始めた。


「さっきも言ったが、目的はただの報復だ。俺はコイツにムカついた。だから、全てをぶっ壊してやろうと思ったんだよ。取り敢えず、さっき肉体とか自信とかを壊してきた」


「どうやって?」


「殺してから蘇生をエンドレス。ついでに拷問」


「「「「……」」」」


気軽に答える内容じゃない……。


「あれ? でもまだ三十分も経ってなくない? そんなに早く壊れたの?」


「いや、魔窟の中だと時間の流れが違うんだよ。もう一週間は経ってんじゃないか? 殺すの飽きたから帰ってきたんだよな」


「ふうん。精神崩壊とかして無いの?」


「ちゃんと保護の魔法を掛けといたから狂っては無いだろ。今は魔法を解除した反動で気絶してるけど」


どうやら魔王は気絶しているだけらしい。ピクリとも動かないのだが、気絶してるだけらしい。


「それで、インセラートはどうするの?」


「うーん……どっかのクソ貴族に使用人として送り込もうかな? 魔王としてのプライドを壊す意味で」


魔王を送り込むとか正気かコイツ!?


「は、ちょ、それって大丈夫なのかっ!?もし暴れでもしたらっ」


「ちゃんと隷属の魔法を何重にも掛けてあるから安心しろ」


「安心出来るか!」


「えー」


駄目だ。この馬鹿じゃ話が通じない。無茶苦茶な事を言う雲雀を止める為に、この国の最高権力者である陛下に縋る。


「……ううむ、流石にそれは許可出来ん。魔王を国内に放す訳にはいかない。幾ら君の魔法で隷属させたとしても、万が一と言う事もある。国民を危険に晒す訳にはいかん。それに、魔王を野放しにしていたと発覚したら、この国の存続すらも危うい」


「あー、そう言えばそうっすね」


陛下の言葉によって、雲雀はあっさりと引き下がった。


「うーん、良い案だと思ったんだけどなぁ。無能な人間に命令されるなんて、インセラートにとってはストレス以外の何物でも無い訳だし。それでキレて暴れたとしても、無能が一人消えるだけで、インセラートは領内に出る前に始末すれば良いだけだし」


「それをするなら、お主が表舞台に立つ覚悟が要るぞ。そうなれば、そのまま神輿一直線じゃ」


「だよなぁ。それに良く考えたら、インセラートを奪還しようと魔人が攻めてくる可能性も有るし。やっぱり没かな」


目の前で何やら話し合いが始まった。参加者は大人達+雲雀。標的とされる貴族について言及しない辺り、全員が政治家なのだなと思った。……一人は違うが。


「やっぱりそのまま始末で良いのでは?」


「いや、屈辱を与えるのは絶対です。そこは譲れません」


「しかしなぁ……」


「皆さんが不安になるのは分かりますけど、利用するとしたらこの上なく使えますよ? 知らない人間からすれば不安要素しか無くても、此処にいる全員が俺の力は知ってる訳ですし。もしもなんて起きないのは想像出来るでしょう?」


「それは…まあな。魔王を戦力として数えられるなら、もの凄いメリットだと言える」


「お主が居ればそれも問題無さそうじゃがの」


「黙れ爺さん」


雲雀の暴言によって一瞬空気が固まるが、比較的若い貴族の男性、確か雄一の後見人の方が咳払いをした。


「……おほん。問題はそれが発覚した時だ。魔王を抑え込める戦力が無いとマズイ。隷属魔法じゃ弱い」


「そんな事が出来るのは三人しか居ないぞ」


「それはパス。それじゃあ意味が無い。爺さんも、クラリスを追い込んだ奴を手元に置いておきたいか?」


「無いな」


「分かっていただけたようで何より。………それに、違う意味で俺がやだ」


「何が嫌なんじゃ?」


「言わん」


「「「「……」」」」


………。


「まあ、兎も角だ。野放しにする事は出来ない。かと言って始末は俺が嫌。けど、駒にするには対外的に魔王を討てると判断される戦力が必要。それで国のメリットになれば尚良し。………さて、そんな人物、または場所が存在するのでしょうか? あ、俺達の場所は無しで」


雲雀が話し合いで出た条件を纏める。改めて見ると無茶だと思う。こんなのクリア出来る人間なんて、それこそ英雄や勇者と呼ばれ………あ。


「あ」


雲雀が声を上げた。そして、そのまま俺の方を凝視する。大人達も、雲雀に釣られてこっちを見てきた。


「「「「あ」」」」


どうやら陛下達も気付いたらしい。


「決定」


「「「「「「異議あり!!!」」」」」」


勇者パーティ全員の心が一致した瞬間だった。





そして現在へと場面は戻る。





「……本当、何で丸め込まれちゃうのよ京介…」


「無茶言うなよ……。政治家に言葉で勝てる訳無いって…」


「雲雀は違うでしょうが!」


「似たようなモノだと思うわよ」


あの後はまあ、予想通りと言うか、魔王インセラートは俺達預かりとなった。因みに見た目は人間状態だ。名前はイセトで、元々人に化けてる時に使ってた名前のようだ。


一応、魔王と言う事は隠している。陛下達が色々と隠蔽工作や情報操作を一晩でやってくれたらしい。お陰で、今のイセトは斥候役として俺達のパーティに所属している。


それで、そうなった理由だが、


『勇者が隷属させたとなれば、対外的にもギリで通るだろ。それに、魔王すらも従える勇者の第二の故郷となれば、国の良いアピールにもなる。後は、単純に勇者パーティの強化になる。今回の件で分かったと思うが、お前達はまだ未熟だ。幾ら魔物に対する有利補正が有っても、魔人や魔王が相手だとまだキツイ。保険として魔王クラスが居れば心強いだろ。そこそこに性格悪いし、策略とかの対策にもなる。……インセラートは同族殺しとかで苦しめられるしな』


と言う事らしい。


「強ち間違って無いんだから、どうしようも無いだろ……」


そう。インセラートが仲間になるのは、俺達にとってはメリットしかない。唯一の不安要素は裏切りだが、それも雲雀によって解決している。


「裏切りの心配が無い以上、大人しく割り切るしか無い」


「でも、昨日までは敵だったのよ!?」


「梨花。これは政治とか戦争とかの話になるけど、敵って言うのは状況によってコロコロ変わる物よ。そして、その逆も然り。これから先も似たような事が有るかもしれないし、裏切られないと分かっている以上は予行だと思いなさい」


「うっ……」


セリアさんに窘められて、梨花が言葉を詰まらせる。セリアさんは勇者パーティの姉のような立ち位置の為に、俺達全員がこの人には頭が上がらないのだ。


「まあ、私も人類の仇敵、それもその親玉の一角と旅する事になるとは思ってもみなかったけどね」


そう言って苦笑を浮かべる事で、セリアさんは微妙に固くなった空気を和らげた。そしてその後、とても微妙そうな顔をする。


「……それに、アレが実は演技で、私達の寝首を掻こうと狙っていたら、それはもう素直に首を上げても良いと思ってる私が居るのよね」


「「「「……」」」」


全員がアレを思い浮かべたらしく、なんとも言え無い空気が馬車の中に流れた。


「あそこまで捨て身になられたら、どう反応して良いか分からないわよね……」


「確かに……」


「うぅ……だから嫌なのよ…」


どうやら、梨花が反対している理由はこの件らしい。恐らくだが、戦力アップについては文句は無いのだろう。敵が仲間になるのも、言いたい事は有るがそこまで反対する理由でも無いのだろう。ただ……


「何であんなへーー」


「なにやら、私が話題に挙がっているみたいですね。どうかしましたか皆様?」


「ふわいっ!?」


梨花のセリフを遮るように、インセラート、いや違った。イセトが御者席から首を出してきた。お陰で梨花は変な声を上げた。


「な、何でも無いわよ!?」


「そうですか。何やら罵倒されそうな空気を感じたのですが」


「「「「………」」」」


「では、私はダンク殿と一緒に御者をやっているので、何か有れば連絡します。あ、私を罵倒するのでしたら呼んでくださって結構ですよ。むしろ呼んでください」


「「「「………」」」」


「それでは。至高の魔導師であり、我が主。雲雀様の命令です。御用が有れば即座にお申し付けください」


「「「「………」」」」


俺達が何も言えないでいると、イセトは首を引っ込めた。


そして、梨花が爆発する。


「何であんな性格変わってるのよ!? 昨日まではすっごい傲慢だったのに、今では何処の執事よって言いたいぐらいに従順じゃない!」


そう。インセラートは性格が変わっていたのだ。


昨夜の偉ぶった態度は既に無く、今では使用人の如く頭が低い。


そして、人間全てを見下したような態度から、


「何で罵倒を喜ぶようになってるのよっ!?」


ドMに変貌していた。


「……どうしてこうなった」


本当にどうしてこうなった……。

今回は京介サイドのお話。あんまり登場してなかったので、これでキャラが固まった気がします。


次回、魔王がドMになった理由と、京介達の仲間となった真の理由が明らかに!

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