後始末
後半に残酷描写らしき物があるのでご注意を。
眠い目を擦りながら書いたので、少し展開が急かもしれませんが悪しからず。違和感を感じたら優しく指摘してください。
次の話でひと段落が着きます。と言うか着けたい。
誤字脱字の可能性大です。
何か、視線を感じる。
「ニヤニヤ」
「ニヤニヤ」
「……」
俺目掛けて放たれる、二つの視線。
「ニヤニヤ」
「ニヤニヤ」
「……」
絡みつくような視線は、ただひたすらに不快だ。
「……何だよ…」
耐え切れなくなって問い質せば、視線の主、俺の親友達は嫌らしい笑みを浮かべていた。
「べっつにー? 何か雲雀らしく無い事やってんなー、なんて思って無いよ?」
「ついに性格まで主人公らしくなったなー、なんて思って無いぞ?」
腹立つ。ただ純粋に腹立つ。何だよこの二人。
「……何が言いたい…」
「「超絶似合わねー」」
「……張っ倒すぞ」
「顔真っ赤だよー雲雀」
「うっさいわ!」
翔吾に指摘される事で、余計に顔が熱くなる。
俺だってキャラじゃないって思ってんだよ! 小っ恥ずかしい事やったって思ってんだよ! でもしょうがないだろが!? 恥の一つぐらい掻いてやろうと思っちゃったんだから!
「家族サービスの出血大サービスじゃい! 悪いかこの野郎!?」
「ツンデレ?」
「違う。これはシスコンって言うんだ翔吾」
「やかわしいんだよこのボケナス共!!」
「おーおー? ほれ、掛かってこいよ。クラリス放り出して良いなら掛かってこいや」
「ぐっ……!」
今直ぐにでも二人を殴り飛ばしたいのだが、流石に抱き付いているクラリスを放置する事は出来無い。……と言うか、この娘少し船漕いでないか?
「……おーい、まだ寝るなよクラリス」
「……ぅ…」
軽く肩を揺すってみるが、既に半分程眠っていた。泣き疲れたのだろうか?
「正しく激動の一日だったからな。そりゃ、ヘトヘトにもなるか」
「雲雀、起こさないでそのまま寝かせてあげたら?」
翔吾がそう提案してくるが、残念ながらそれは出来無い。
「無理。俺にはまだやる事があるから、クラリスには離れて貰わないと」
「やる事って?」
「主にお前の後始末。後はインセラートの始末」
「あれ? 僕何かしたっけ?」
コテンと、首を捻る翔吾。分かって無いようなので、自分が何をしでかしたのかを教えてやろう。
「お前のその剣は宝具。雄一のアルテミスと同じ、概念を強制させる最終兵器みたいな代物なんだよ」
宝具とは、世界の概念が具現化した道具、宿った道具の事を言う。切る、貫く、燃やす、凍らすなど、込められた権利を対象に強制出来るトンデモ道具。
「神話なんかで登場する道具の元ネタで、元となった概念によっては、マジで世界征服だって出来るんだ。そんなの放っておけるかよ」
「ありゃりゃ。薄々感じてたけど、やっぱりヤバイ代物だったんだねー」
「だねー、じゃねえよ」
やははと笑う翔吾に呆れながら、剣の処理へと取り掛かる。だがその前に、未だ船を漕いでいるクラリスを起こさなくては。
「おーい、クラリス、そう言う訳だから起きろー」
「……んむぅ…」
「態々起こさなくても良いんじゃない? 雲雀から離れれば良いんでしょ?」
「いや、ガッツリ身体掴まれてんだよ。抜け出すのは無理そうでな」
起こすのを忍びないと感じているのは、俺も同じなのだ。起こさないと動けないので、仕方なく起こそうとしているだけで。
「ほら、起きなさいクラリス」
「何か本当にお兄ちゃんって感じだねー」
「うっさいよ」
ニヤニヤ笑う翔吾を睨んでから、再びクラリスの身体を揺する。すると、薄っすら目が開いてきた。
「お、起きたか?」
「……お、兄様…? あれ……私は、一体…ふぇっ!?」
目を覚ましたクラリスは、キョロキョロと辺りを見回した後、素っ頓狂な声を上げた。どうやら、俺に抱き付いてる事に驚いたらしい。
「あの、あのっ、お兄様、違うんです…えと、これは、その……っ!?!」
「……何が違うかは知らんが、少し落ち着け。ほら、ヒッヒッフー」
「それこそ違うから」
セクハラだよと訴える翔吾を無視し、クラリスの目の前で柏手を打つ。
「あうっ!?」
「落ち着いたか?」
「……はぃ」
消え入りそうな声で、クラリスは頷いた。顔は真っ赤で、滅茶苦茶恥ずかしがっているっぽい。
「んじゃ少し離れて」
「はうわっ!?」
俺が要求を言うと、思い出したかのようにクラリスは慌てて飛び退いた。……その名残惜しそうな目は止めなさい。
「ニヤニヤ」
「ニヤニヤ」
「ニヤニヤすんなっ! つーか、お前達さっきから口でニヤニヤ言ってるだろ!?」
「……あぅぅ…」
「ほら見ろクラリス恥ずかしがってんじゃねえか!!」
家の娘は人見知りなんですからね!!
「オカンかお前は」
「シスコンのお兄ちゃんですが何か?」
「うわぁ…自分から認めたよ」
ドン引きする翔吾と雄一。はっ、もう開き直ってんだよバーカ。
「……はぅぅ……!!」
そして、クラリスは余計に悶えていた。
「…アンタ達、平常運転過ぎでしょ……」
俺達のやり取りを見ていた梨花さんが、呆れたと頭を抱えながら近いてきた。京介や爺さん達も、言葉には出さないが同じ気持ちらしく、全員が微妙そうな顔をしている。
「さっきまで三人ともカッコ良かったのに、何で直ぐに巫山戯始めちゃうのかしら……」
「え、マジで? 俺もカッコ良かったの?」
フツメンの俺も雄一や翔吾と同じステージに立てたのか!?
「行動だけはね」
「だけって言うなコンチクショー!!」
はい、上げて落とす頂きましたー。詩織さんが毒舌キャラになってる件。
「よし、ちょっとそこでのの字書いてくる」
「せめて凹めよ嬉々として行くなよ」
駆け出そうとしたら、雄一に襟首を掴まれた。
「もう少し緊張感を持ってください……」
コントをしてたら花音さんから苦情が入った。なら止めるか。
「花音さんに言われたちゃ仕方ないか」
「何で花音の言う事は聞くのよ……」
「俺のメンタルはこの小動物の要求を突っ撥ねられる程強く無いの」
「ああ」
「何で納得しちゃうんですか!?」
花音さんが抗議してくるが皆スルーした。全員が納得の説得力だった訳だ。
「さて、と。そんじゃあ先ずはーー」
「雲雀よ」
「んにゃ?」
翔吾の諸々の件の処理へと入ろうとしたら、爺さんに呼び止められた。何やら神妙な顔をしている。
「何じゃらほい?」
「なに、礼を言いたいだけじゃよ。息子夫婦に続いて、孫娘を、クラリスを助けてくれてありがとう」
「俺からも頭を下げさせてくれ。ありがとうヒバリ」
「本当にありがとう」
爺さん続いて、義父さんと義母さんも頭を下げてきた。
一瞬、『崇め奉れ!』と叫ぼうと思ったが、真面目な雰囲気だったので自重しておく。と言うか、巫山戯られる感じじゃない。
「……えーと、そもそもの話、クラリスがヤバくなった原因って俺なんですけど…」
「いや、お主はアドバイスしただけなのだろう? ならば関係無い。お主がクラリスを助けたんじゃ」
俺が何を言おうとも、爺さん達は考えを曲げない感じである。んー、此処は素直に礼を受け取っておくべきか。
「礼はしかと受け取りました。……けどさ、さっきクラリスにも言ったけど、義理だが俺は貴方達の家族だ。これぐらいは当然だよ」
家族を助けるなんて当然の事だ。
「……無理矢理引き込んだと言っても良いのに、お主はそう言ってくれるのか」
「いやー、それも俺の自業自得って面が無きにしも非ずだからなぁ」
基本的に俺の自爆なので、特に言う事も無いと言うのが本音である。
「まあ、何を言ってもお礼や謝罪の堂々巡りになりそうだし、この件はこれでお終いって事にしてくれ」
まだやる事も結構有るし。
「うむ。お主がそう言うなら、そうするかの」
俺がそう提案したら、爺さんは頷いてくれた。
さて、爺さん達の了解も得られた事だし、今度こそ後処理を始めようか。
「まず手始めに坊々を治すか」
「え、治すの? 折角達磨にしたのに」
「さらっと怖い事言うんじゃありません」
ほら、皆ドン引きしてるじゃないか。と言うか、やっぱり意図的かよ。
「あのな、流石にこれは可哀想だろ。この坊々、さっきまで蟲にされてたんだぞ? せめて隻腕隻脚にしてやれ」
「いやちゃんと治してあげなさいよ!?」
「どっちにしろ不便だろそれ!」
京介と梨花さんからツッコミが入る。いや、冗談だから。
「まあ、兎も角だ。これじゃあ殺してやった方がマシだろ。ちゃんと生活出来るぐらいにはしてやらんと」
「え、勇者や王族襲ったんだから、どっちにしろ処刑でしょ?」
「阿保。今回は情状酌量の余地有りって判断されるに決まってんだろ」
ちらっとルーデウス王に視線を向けると、鷹揚に頷かれた。
「うむ。ワーグルの息子はマトモな状態では無かった。それにあの魔王の言葉を信じる限り、手引きした訳でも無く、ただ騙されただけのようだしな。後でワーグル本人にも確認を取るが、処刑という判決にはならんだろう」
最高権力者のお墨付きを頂いたところで、翔吾の方へと向き直る。
「そう言う事だ。処分としては降格が精々だし、それも公にした場合。俺は内密に処理するつもりだし、お咎め無しって事になる筈だ」
「あ、やっぱり隠すの?」
「当然だろが。勇者出立前日に魔王襲来とかスキャンダルにも程がある。そうなりゃ京介達の出立は延期、国民は無駄に混乱するし、周辺諸国からはどう言われるか分からん。しかも、もし俺達まで辿り着かれた場合、三人揃って神輿だぞ」
「うわぁ……」
今言った未来を想像したのか、翔吾が嫌そうな声を上げる。雄一も顔を顰めている。
「と言う訳で、今夜は何も無かったって事にする。あーゆーオーケー?」
「了解」
「ああ」
二人の了解も得られたので、再びルーデウス王へと向き直る。
「皆さんもそれでよろし?」
「ああ、お主達がそれで良いなら」
「むしろ願ったりだ。無用な混乱を招くよりは、諸共無かった事にした方が都合が良い。幸いな事に、君が張ってくれた結界のお陰で目撃者は居ないようだしな」
異論は無いようなので、そう言う方向で話を進めて貰う。
「まあ、そう言う訳だ。だから治すんだよ」
今日と明日で差異が有ったら誤魔化せないからな。今回はしっかりと治した方が良い。
「ちぇー。折角抵抗出来ないようにしたのに。骨折り損だよ」
「そうでも無いぞ。さっきルーデウス王も言ってたけど、この件を隠蔽するにしても関係者には確認がいく。坊々の親父も関係者だし、息子を魔王の魔の手から解放した+四肢欠損を治療したとなれば、十分な恩が売れる」
そう考えれば、むしろハンスを治した方がメリットが有る。俺達の願いによって隠蔽した事を伝えれば、更に恩を上乗せ出来る。上級貴族を利用出来れば、何かと便利な事もあろう。
「馬鹿と鋏は使いようって事か」
「なるほどねー」
雄一と翔吾が納得の声を上げた。分かってくれてなによりだ。
「でも、この馬鹿が状況を理解してなかったらどうするんだ?」
「大丈夫だよ。治す時にちょろっと精神弄くるから」
「と言うと?」
「俺達に楯突こうとすると、今夜の出来事がフラッシュバックするようする。後は、フラッシュバックの際に恐怖心を煽る感じで」
ズタズタのボロボロにされた記憶が何度も蘇れば、反抗心など簡単に折れるだろ。
「……黒い…」
俺達のやり取りを聞いていた京介達が、何か異質な物を見るような目で見てくる。
「なんと言うか……アンタ達、本当に私達と同い年……?」
「発想が、その……とても外道っぽいわよ?」
「……と、とても、怖いです…」
京介の一言から、口々に女性陣から辛辣な評価が飛び出してくる。はっはっはっ、言うじゃないか。
「まあ、こちとら修羅場を潜り慣れてるし? 朱に交われば赤くなるって諺も有るしな。今回の場合は黒だけど」
まあ、この程度は大した事でも無いのだが。エグい奴はもっと外道だし。
「京介達も慣れた方が良いぞ。この世界で生きるなら、絶対に避けて通れないんだから。非道になる時はならないと、後で後悔しても遅いんだから」
最近まで高校生だった奴に言う台詞でも無いが、これが事実で現実だ。この世界は、地球に比べれば遙かに優しく無いのだから。
「今直ぐに慣れろとは言わないが、出来るだけ早めに慣れろよ。人殺しとかは躊躇うな。命の価値は皆平等なんて、理想ですら無い世迷言だ」
世の中には、死んだ方が良い人種は確かに居るのだから。
「良くマンガなんかで『殺しを躊躇うな、だが慣れるな』なんて台詞が有るけど、あんなのは嘘っぱちだ。慣れろ。悪党を見かけたら嬉々として首を狩りに行けるぐらい慣れろ。じゃないと心が壊れるぞ」
慣れは身体や精神を最適化し、負担を減らす行為だ。それを自ら拒否してたら、何時か必ずガタが来る。人間の心は脆いのだ。
「まあ、別にまだ理解しなくても良いさ。どうせ嫌でも分かるだろうし。取り敢えず、今は汚れ役に通じた仲間でも集めとけ」
生兵法は怪我の元。慣れてない内は、専門の奴に任せた方が確実だ。
「……なんか、重いな」
「経験者は語るんだよ。知識だけの奴の言葉なんて、軽くて聞く気にならないからな」
「やっぱり……雲雀は経験が有るのか?」
「俺は躊躇して破滅した奴を何人も見てきたし、逆に躊躇無しに破滅させた事も有るぞ」
因みに四桁は超えます。……何がって? そりゃ、破滅させた人数ですけど?
「まあ、じっくり考えろや」
黙り込む京介達を放置し、ハンスの治療を開始する。
「[過去の栄華は砕れた。栄光は全て追憶の果て。かつてを懐かしむ者よ、今一度その姿を見せよ。世界と言う名の鏡の中に、かつての姿を映し出せ]【追憶の姿見】」
魔法の発動と共に、ハンスの近くに一枚の鏡が現れた。その鏡の中には、現実と違って無傷のハンスが映っている。やがて、現実世界のハンスに異変が起きる。ハンスの身体をビリビリとノイズが走ったのだ。そして、ノイズが消えた後には、無傷のハンスが横たわっていた。
投影魔法【追憶の姿見】。過去の映像を現在へと上書きする魔法。この魔法によって、ハンスの四肢は復活したのだ。
「こんなあっさり手足が治りました!?」
「それに、なんて魔力量……!?」
花音さんとシャルロット王女が驚愕の声を上げた。二人とも治療系の魔法を使う為に、魔法の凄まじさを悟ったらしい。
まあ良いや。ツッコミが入る前に次を済ませよ。
「[刻めよ恐怖。描けよ嘆き。心は闇で彩られ、理性は暗く染められた。蠢く悪意の装飾に、静かにその身を震わせよ]【恐怖の模様】」
精神干渉の魔法を使い、ハンスに恐怖を刻み込む。
「良し、これで終了」
ふうとひと段落ついたところで、ハンスの方から呻き声が聞こえてきた。どうやら目覚めたようだ。
「……うっ……此処は、いったーー」
「ほいさっ」
「ガァッ!?」
ハンスが頭を振りながら起き上がろうとした瞬間を狙い、ドムッと土手っ腹を蹴り抜いた。いや、ちゃんと手加減はしたぞ? 兎も角、再びハンスは気絶する。
「うん、これで当分は起きないだろ」
「いや何やってんのよ!?」
「怪我人相手に何してるんですか!?」
「見られたら厄介やん?」
「「「……」」」
全員からの視線が痛い。それでも何も言わない辺り、理由としては納得してるっぽいな。
「よーし、次だ次」
微妙な視線は全てスルーして、次にやるべき事をやろう。
「翔吾、取り敢えずその剣貸して」
「良いけど、具体的には何するの?」
「下手な使い方をしないように、インテリジェンスアイテムに変えるんだ。後は出力に上限を付ける。まあ、自我の方は時間が掛かるから、今は取り敢えずリミッターだけ付けるがな」
翔吾に説明をしながら、魔力を使って剣に陣を描いていく。これは刻印魔法と呼ばれる魔法だ。
「ほい、これでリミッターは終了。自我の刻印が終わるまでは預かっておく。完成したら返すな」
「分かったよ」
翔吾の了解も取れたので、魔窟の中に剣を突っ込んだ。その途中で、ふと聞きたい事が出来る。
「そう言えば、この剣の名前って何?」
「『擬似神剣・エア』だけど」
「……金ピカの人?」
何か聞いた事有るんだがその名前。
「あー、違う違う。引っ張られてる感じも無きにしも非ずだけど、ちゃんと考えたんだよ?」
「その割には、どマイナーな神話が元ネタだぞ?」
「いやさ、最初はクラウソラスとかエクスカリバーとかで迷ったんだけどさ、何かイメージに合わなくてね。ほら、どっちの剣も何でも切れるってイメージは有っても、二つに分けたりってイメージじゃないじゃん?」
「それで天地を分けたエアの剣か。でも、だったら普通に『エアの剣』で良くね?」
『〜の剣』ぐらい入れても良いだろうに。
「うーん、何て言うんだろう? 神話の名前そのままってのも芸が無いかなって。ほら、雄一の弓も『魔弓アルテミス』でしょ? だったら僕も真似して、神様の名前をそのまま付けちゃおうかなって思ってね」
「ふーん」
何か妙に後付けくさい理由だし、何者かの意図を感じずにはいられないが、それでも一応は納得しておこう。……深くは考えてはいけない気がする。
まあ、兎も角。これで翔吾の後始末は全部終わったし、本題に入ろうかな。
「雄一、インセラート貰うぞ」
「ん? ああ」
倒した本人に断りを入れてから、インセラートの死体に近いていく。
「何をするんだ雲雀?」
興味深そうに京介が聞いてきたので、俺は笑顔を浮かべながら答えた。
「報復さ」
その瞬間、雄一と翔吾を除いた全員が後退った。
「…あ、や…え、そ、んな……」
皆の顔は蒼白で、カチカチと歯の鳴る音が誰かから聞こえてきた。
「まあ、世の中は知らない方が良い事も有るって事だ」
怯えている皆を眺めながら、俺は魔窟を開けた。
「私はこれから色々とヤるので……決して覗かないでください!!」
「何処の鶴だお前は」
雄一のツッコミが入ったところで、俺はその場から姿を消した。
「な? アイツが怒ると怖えだろ?」
俺が姿を消した後、雄一が皆にそんな事を言ってたとか。
場面変わって魔窟の中。辺り一面は広大な荒野。此処は魔窟の中でも何も無いエリアだ。
出鱈目な広さを誇る荒野に、インセラートの死体を放る。
「【物質回帰】」
死体に魔力が染み渡り、一秒後には傷一つ無いインセラートの死体が有った。
この魔法は意思のある生物に使う事は出来無いのだが、死体は物と判定される。お陰で、インセラートを完全な姿で再現出来た。
「【死者の帰還】」
完全な死体が出来たところで、今度は蘇生魔法を掛ける。
「……ぐっ、私は……一体…?」
インセラートが意識を取り戻すが、構わず魔法を掛け続ける。
「【回帰の円環】【依り代の檻】【血意の楔】」
起点とする状態を決め、どんなに変化しても起点とした状態へと戻る【回帰の円環】。
一欠片の肉片でも残っていれば、どれ程肉体が損傷していても、魂が抜ける事の無いようにする【依り代の檻】。
如何なる状態となっても、意識を保ち続け、精神が崩壊しないようにする【血意の楔】。
この三つの魔法を、俺はインセラートへと掛けた。
当の本人?は、未だに状況が理解出来ていないようであるが。
「此処は、一体……? 先程まで私は人間の城に居た筈…そこで確か私は……はっ!?」
やっと思考が追い付いてきたのか、複眼で周囲を見回すインセラート。そして、直ぐ近くに佇む俺を発見すると、
「貴様はっ!? っちぃ!」
飛び起きたインセラートは直ぐさま俺から距離を取る。
「うん、元気そうでなによりだ」
完璧な処理が出来ている事を確認した後、
「死ね」
インセラートの背後へと転移し、全力で頭を地面に叩きつけた。
「ギュギャ!?」
グシャリと果物が潰れたような音を立てて、インセラートの頭部が四散した。
脳髄と思われる物体が頬に付着するが、直ぐに【回帰の円環】の効果によって復元されていく。
「もう一度」
潰す。
復元される。
「もう一度」
潰す。
復元される。
「もう一度」
潰す。
復元される。
これを六回程繰り返したところで、インセラートの頭から手を離す。
「……ぎ、ぎざ、ま……ぃっだい、何を…した…!?」
掠れた声でインセラートが聞いてきた。可笑しいな? ちゃんと復元される筈なのだが、不具合か?
確認の為にもう一度潰す。
「…な、なにを……!?」
「まだ掠れてるな」
潰す。
「ほら、ちゃんと喋れよ?」
「……一体…ど、ういう、つもりだ…」
弱々しい声だったが、はっきりと聞こえたので潰すのは止めにした。だって話が進まないし。
「どういうつもりだと聞かれれば、普通に報復だけど?」
「……報、復…だと…?」
「そう。俺さ、こう見えて結構腸が煮えくり返ってんのよ。人の妹を狙うわ、変な蟲を埋め込んであるわでさ。いやー、もう本当、マジで頭にキてるんだわ」
インセラートに説明をするにつれて、クラリス達の前では我慢していた感情が溢れ出してくる。
「だから報復するんだよ。やられっぱなしもキャラじゃないしな」
「アァァッッ?!!」
喋りながら腕を引き千切ってやれば、インセラートが悲鳴を上げた。
「おいおい、情けない声を上げるなよ。俺の魔法で今のお前は不死身なんだぜ? どんなにダメージを負っても即座に治るし、致命傷を受けても死なない。想像絶する激痛が襲ってこようが、意識を手放す事も無く、狂う事も無い。良かったなー、これでまた強くなれたぞ? ほら、腕ももう治ってる」
「あグァッ!?」
復元された腕を踏み潰しながら、俺はニコニコと笑みを浮かべた。
「安心しろよ。殺す気は無いから。ただ、それ以上の苦しみで、お前の根幹を叩き壊すだけだ」
魔王としてのプライドも、強さに対する自負も、頭に根付く常識も、傲慢なその性格も、全てをグチャグチャに壊してやる。
「あ、そうそう。お前にとっての朗報だが、俺は今回は魔法を使わない。この報復は俺のストレス発散の意味も有るから、使うのはこの身体だけだ」
身体に満ちる全ての魔力を強化に回しながら、インセラートの肩を叩く。
「だから抵抗しても良いぞ? 俺は魔法使いだし、運が良ければ倒せるかもだ。…まあ、それでもお前の数千倍は強いけど」
倒れ伏すインセラートを持ち上げ、そのまま離れた場所に放り投げる。
「ぐはっ!」
「三秒やる。俺を迎え撃つか、希望を胸に逃げ出すか。どっちにするか考えな?」
いーち、にー、と大きな声で数えるが、インセラートは動かない。何度も死ぬレベルのダメージを負った事により、既に力が入らないらしい。
「なんだよー。だらしないなぁ。決断出来ず終いかよ」
選択を迫った意味が無いじゃないか。……まあ、良いや。
「さて、と。人の身内に手ェ出したんだ。覚悟は良いな?」
「……ま、待ってくーー」
「待ちません」
何か言おうとしたインセラートを無視して、全力で土手っ腹を殴り付ける。
轟音と共に甲殻は砕け、下半身と上半身が千切れ飛ぶ。衝撃はそのまま後ろへと突き抜け、荒野を抉りながら進んでいった。
「いやー、やっぱ魔窟の中にしといて正解だわ。全力なんて外だとやっぱ出せないからなー。王都なんて直ぐに滅んじゃうだろうし。それに、此処から先はクラリス達には見せられ無いしなー」
「……ぅっ………」
相槌を期待して話すのだが、呻き声だけで返事は返ってこなかった。なんだよ、寂しいじゃないの。
「なあなあ、お前素数って分かる?」
「………ゔぐぁ……」
「呻いてばっかいないで返事しろよー」
「アガゥァァァッ!?!!?」
腕を身体の中に突き刺し、そのまま中身を掻き回す。
「もう一度聞くよ? 素数って分かりますか?」
「……わ、わがり、ます……」
俺から聞いといてアレだが、何で魔王が素数なんて知ってんだ? ……まあ良いや。
「わぁ優秀だねー。それじゃあ今から数えていこうか」
「…ゔぅ…な、なぜ……?」
「ちょっとした雑学さ。俺は数える事をお勧めするぞ? 多分、数字に縋るようになるから」
実際は千から七を引いていくんだけどな。
「それじゃあ、始めるよー。にーい」
「アァァッ!?!」
羽を片方捥ぐ。
「ほら、にーいだって!」
もう片方も捥ぐ。
「……ぎ、ぃーい…」
「さーん」
内蔵の一つを握り潰す。
「ギャぁぁ…ざぁん…」
「ごー」
複眼の片方を抉り取る。
「ァァァッ!?! ……ごぉおっ…!」
「次から一人で言っていこうー。さん、はい!」
足先を団子のように丸める。
「ウギぅぁぁぁ! ざぁーなっ、…」
11。
13。
17。
19。
処刑は、まだ続く。
前回とは打って変わり、外道モードの雲雀君。結構エグい事してる気がする。
ところで話が変わりますが、詠唱の[]これって要るのかな? 意見が欲しいです。
素数の描写で何故か1が入ってました。普通に書き間違えただけです。決して私は馬鹿じゃない




