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三人の強者達 雲雀

現在、某有名泣きゲー会社の、不思議な事が起こる世界で野球をやろうとする高校生達が出てくる某ゲームをプレイ中です。めっちゃ泣けます。お陰で投稿時間がこんな事に。


それはさておき、今回は雲雀の話です。この手のシリアスはとても苦手なので、上手く出来てるか心配です。特に、クラリスの扱いが酷いと少し前に言われたばかりですので、上手い感じに纏まってるかが戦々恐々と。


変な風に感じたら、優しく指摘してね。じゃないと別の意味で泣いてしまいます。


誤字脱字の可能性大です。


「……さてと、それじゃあ俺も行きますか」


二人を見送った後、俺もクラリスの方へと進んで行った。これからの苦労を考えると、大変に気乗りしないのだが……。まあ、原因が俺に有るんだし、仕方が無いと割り切ろう。放っておける訳も無いしな。


「……やあ、クラリス。お疲れみたいだな」


「お兄様……」


返事に力が無い。一目見て分かる程に、クラリスは憔悴していた。この原因が俺なのだから、本当に胃が痛くなる。


「……本当に、大丈夫なのですか…? お兄様は、ご無事なのですか……!?」


「ご覧の通り、ピンピンしてるよ。ほれ」


悲壮感の混じった問い掛けに、刺された箇所を見せる事で答えた。制服に開いた穴から見える肌には、擦り傷一つ見当たらない。


「…って、コレ制服だわ……」


今気付いたが、俺が現在着ているのは学園の制服だ。普通に学園に着ていく物なので、穴が開いている状態はヨロシクない。


「直さな」


取り敢えず、魔法で修復。傷口は既に見せたので、直しちゃっても良いだろう。


確認の為にクラリスを見てみれば、


「…良かった……! 本当に、良かった……!!」


「……」


号泣していた。


「……いや、何もそこまで泣かなくても……」


「……だってっ…! 私は、お兄様を傷付けました! お兄様は私の大切な家族です! 家族をこの手で殺めていたかもと思うと、私はっ!」


クラリスの悲痛な叫び声は、見事に俺の心を穿った。


気が付けば、俺は無意識の内に土下座をしていた。


「本当にゴメン」


「……え?」


唐突な俺の土下座にクラリスが呆気に取られるが、俺はそれを気にせずに頭を下げ続けた。


「俺が遊んでいたから、クラリスに辛い思いをさせた。暇潰しなんかしてないで、さっさとインセラートを倒すべきだった。そうすれば、クラリスが傷付かないで済んだ。だから、ゴメンなさい」


結果的には、クラリスに蟲が埋め込まれている事を知る事が出来た。魔法的な物ならば、俺も簡単に感知する事が出来る。だが、クラリスに埋め込まれていたのは寄生虫だ。地球にも針金虫なんて寄生虫が居たように、寄生虫は宿主を支配するのに魔力は用いない。そういう構造をしているからだ。


魔力を用いない場合、俺は異変を感知出来無い。探査の魔法を使えば別だが、そんな物は異変を察知してから使う物だ。本人が気付いていなかったのだから、俺が気付ける訳が無い。常時探査の魔法を掛けていた場合、それは変態以外の何者でも無い訳だし。


だから結果的には、今回の出来事は棚ぼたと言える。取り替えしの付かない事態になる前に気付けたのだから、僥倖と言っても差し支え無い。


だが、その代償としてクラリスは傷付いた。俺が真面目にやっていれば、もう少し違う結果になっていたかもしれないのに。


「頭を上げて下さいお兄様! 悪いのは私です! 私がお兄様を傷付けたからっ!!」


別に取り替えしのつかない失敗では無い。俺は無傷みたいな物だし、現段階ならクラリスも簡単に助ける事が出来る。普通に考えれば、被害らしい被害は無い。けど、結果論と感情論は、やはりそう簡単には割り切る事が出来ない訳で。


「いや、俺が悪いんだ。だから、そんなに自分を責めないでくれ。さっきの出来事は、俺の自業自得なんだから」


例えそれで傷付いたとしても、俺はその結果をしっかりと受け入れるつもりだ。それに今回はほぼ無傷で済んだのだ。文句なんて言える訳が無い。


「そもそも、クラリスは操られていたんだ。クラリスが望んでやった事じゃ無いんだろ? じゃあ、別に良いじゃないか」


「良い訳無いですっ! 私が操られる事が無かったら、お兄様が傷付く事は無かった!」


「それこそ違う。クラリスが操られる事になった原因は俺に有る」


俺がお守りを買えなんてアドバイスをしなければ、クラリスに蟲が埋め込まれる事態にはなっていなかったのだ。


「俺があんな適当なアドバイスをしなければ、そんな姿になる事なんて無かったんだ」


今のクラリスの姿は、とても痛々しい。憔悴仕切った顔。鎌が突き出て、血が滴り落ちる右腕。立っているのがやっとな、震える足。


「待ってろ。今治してやる」


何を血迷っていたのだろう。説得なんて後回しだ。今はクラリスを助ける事が、最優先事項の筈だ。


「近づかないで下さいっ!!」


悲鳴にも似た叫びが、俺の一歩を止めた。


「……今の私は、なんとか意識を保っている状態です。少しでも気を抜けば、またお兄様を攻撃してしまう。そんなの、私は絶対に嫌です。……だから、どうか……どうかこのまま、私を殺して下さい」


目には涙を浮かべ、今にも消えそうな笑みで、クラリスは言った。どうか殺して欲しいと、このまま楽にして欲しいと。


「いや、ゴメン無理」


だが、俺はその願いを無視して、クラリスの元へと歩き出す。


「そんな、如何してですか!?」


「如何しても何も、助ける事が出来る身内を見捨てるなんて、そんなの俺の主義に反する」


愕然とするクラリスに肩を竦めながら、一歩一歩クラリスへと近づいていく。


「来ないでっ! 私はお兄様を傷付けたく無いんです! あんな化け物になんてなりたく無いんです!!」


「……」


あんな化け物とは、十中八九坊々の事だ。蟲を埋め込まれた者の末路を知ってしまったからこそ、クラリスはこうも頑なに拒絶するのか。


「いや…まあ確かに、あの姿になるのは人として最大限に遠慮するよな。うん」


ハンスの姿になると言われたら、流石の俺だって絶望するわな。……そして何やら、翔吾がとんでも無い物を造り出した模様。後で封印処理せな。


「分かってるなら、如何して殺してくれないんですか!? 私は人として、お兄様の妹として最後まで在りたいんです! お兄様を傷付ける前に、人で在る内に死にたいんです!!」


「……」


クラリスの叫びは、切実だった。そのあまりにも悲しい叫びば、その場に居た人の心を打った。アール一家が、モルト一家が、ルイス一家が、ルーデウス王が、シャルロット王女が、今日初めて会ったばかりの京介達が、皆が己の無力を悔いた。


「……」


人として死にたい。それは誰もが思う事だ。人として生を受けたなら、誰もが最後に受け取る当然の権利だ。その権利を、一人の心優しい少女が奪われそうになっている。ああ、それを嘆くのは当然だ。少女が何をしたと言うんだと、理不尽な世界に涙するのは当然だ。


当然だがな、


「分かって無いのはそっちだろうがっ!!!」


怒声一喝。蔓延していた悲哀の空気を、跡形も無く吹き飛ばす。


実を言うとさっきから、茶番のような悲劇を目の前で演じられ、軽くイライラしていたのだ。


「あのな、クラリス。俺はさっき治すと言ったんだ。助ける事が出来ると言ったんだ。なのに、勝手に死ぬ気なってんじゃねえよ。何一人で諦めてんだよ」


ジロリとクラリスを睨めば、彼女は怯えたように一歩後退った。


「ああ、確かに常識で考えれば諦める事なんだろうよ。助けるなんて普通は無理だな。夢も希望も有りゃしないぐらい、絶望的な状況だよ」


「ならっ!!」


「でもな、俺は魔導師だ。常識なんて糞食らえ。普通なんて吐き捨てる。夢も希望も放り捨て、絶望なんて笑い飛ばす。ルールなんて無視して、舞台諸共ひっくり返すのが魔導師オレなんだよ!」


ゆっくりとクラリスに近いていく。もう距離は殆ど無い。四歩程進めば、手が届く。


「……来ないで…!」


一歩。


「……来ないで下さい…!」


一歩。


「……もう、抑える事が出来無いんです…! …だから、来ないで下さいお兄様!!」


一歩。ついに目の前に来た。それはつまり、クラリスの間合いに入ると言う事。


「避けてお兄様っ!!!」


クラリスの意識に反して、腕の鎌が振るわれる。狙いは首だ。回避しなければ必殺。躊躇なんて何処にも無い、殺意に溢れた一撃。


だが、


ギィィィン!!!


鋼を打ったような音が響き、鎌は首に刃を突き立てただけで止まった。


「嘘っ!?」


ただの素肌が、刃物を、それも高位の魔物の一部である刃を受け止めた。そんな冗談みたいな光景を前にして、クラリスは驚愕の声を上げた。


「何を驚いてるんだよ? さっき言ったろうが。もう二度と喰らう事は無いって」


驚くクラリスに呆れ気味に呟くが、蟲の方が聞く耳持たなかった。肌が効かないと分かるや否や、即座に狙いを変更。クラリスの身体を操って、柔らかな眼球目掛けての突きを放ってきた。


「っ!?」


だが、その攻撃も無意味だ。鎌は俺の眼球を傷付ける事が出来なかった。眼球に突き立てられた鎌からカタカタと音が鳴るが、一ミクロンも刃が進む事は無い。


「クラリス、俺にこの程度の攻撃が効くとでも思ったか?」


突き立てられる鎌を掴み、そのまま強制的に降ろさせる。


「さっきマトモに攻撃が入ったのは、俺の油断によって発生した数億分の一って確率のマグレ当たりだ。もう二度と、クラリスが俺を傷付ける事なんて出来やしない」


「あ……」


目を丸くするクラリスを無視し、俺はそのまま彼女の胸元へと手を添える。


「【強欲の魔手】」


空間転移の魔法を発動し、クラリスに埋め込まれた蟲を引き抜き、握り潰す。


「【慈悲の輝き】」


そのまま回復魔法を掛け、蟲によって弄り回されたクラリスの身体を治療させる。


「ほら、これで終わりだ。勝手に絶望してたところ悪いけど、俺はこの程度なら幾らでも治せるんだよ」


呆然としているクラリスの頭を乱暴に撫でて、目端に浮かぶ涙を拭う。


「あまり俺の事を嘗めるな。普段は何かと適当だが、これでも世界最強だ」


苦笑混じりに笑い掛けると、クラリスの瞳からまたもや涙が溢れてくる。


「……お、お兄、さま…っ、ひぐっ、うっ、うっ、お兄様っ!!」


泣き出しながら、クラリスが俺へと抱き付こうとする。が、


「……っ、申し訳御座いません! ま、また私は、お兄様を苦しめそうにっ!?」


俺のトラウマを思い出したのか、直前で踏み止まった。余計に泣き出しそうになっている姿を見ると、凄い罪悪感が湧いてくる。


「はぁ……。流石にそこは空気読むぞ」


クラリスの行動に苦笑しながら、その身体を胸へと引き寄せる。


「っえ、お兄様、大丈夫なのですか……!?」


「ちゃんと心構えが出来てれば大丈夫なんだよ。それに今は俺の心配よりも、自分の心配をしてくれ」


不意打ちさえされなければ、発作が出る事は無いのだ。じゃなければ、身体を密着させるダンスなんて踊れない。


「クラリスはアレだな、もっと俺を信頼してくれ」


「そんなっ!? 私はお兄様の事を信頼してまあうっ!?」


俺の頼みに勢い良く顔を上げるクラリスだが、その額を指で弾く。


「してないだろが。それか足りてない。本当にしてたら、あんなに取り乱したりはしないし、小っ恥ずかしい茶番なんてやらん。俺の親友達を見てみろ」


本当に信頼しているのであれば、雄一や翔吾みたいな反応になる筈なのだ。雄一ならば、俺を刺した後に『ザマァ』なんてせせら嗤う。翔吾だったら、蟲に寄生されたら『さっさと治せ』と文句を言う。腹立たしいが、これが一番の信頼とも言える。


「……あう…」


「まあ、まだ長い付き合いって訳でも無いし、そこまでは要求しないけどさ。それでも、もうちょっと俺の力を信じ欲しい」


クラリスがコクンと頷くのを確認したら、ヨシヨシと今度は優しく頭を撫でる。


「それともう一つ。俺の事を傷付けたく無いってのは禁止な」


「えっ!?」


「えっ!?じゃないよ」


驚くクラリスの額をもう一度弾き、しっかりと言い聞かせる。


「そりゃ、あんな風になれば取り乱すのも分からなくは無いけどさ。俺に何か有った時、自分の所為にするのは止めような。今回なんて、完全に俺の自業自得な訳だし」


「ですがっ!」


「ですがっ!じゃないから。さっきクラリスも言ったろう? 俺達は兄妹だ。だったら、自分一人が悪いって背負い込むんじゃ無くて、ちゃんと意見を言うべきだ。悪い事は悪い、善い事は善いってな。それで喧嘩になる事も有るだろうけど、そっちの方が兄妹らしいだろ?」


意見の対立しない兄妹なんて、そんなのは歪過ぎる。ある地獄の小鬼も言っていた。兄と妹は何だかんだで仲は良い。兄と弟は部下の先輩後輩。姉と妹は女友達。姉と弟はボスと舎弟だと。


「義理とは言え家族だし、俺はクラリスの兄なんだ。妹の我儘や癇癪を受け止める度量は有る。だからどんどん文句を言え。俺が全部受け止めてやる」


忘れられているだろうが、俺の実年齢は二十五歳である。心は十代のつもりだが、クラリスよりは歳を食ってるのは事実なのだ。子供の想いを受け止められないような、浅い人生なんて送っていない。


「まあ、今回は結構特殊なのは認める。トラウマになっちゃうかもしれないし、立ち直るのにも時間が掛かる筈だ」


幾ら俺が悪いと言っても、家族を刺し貫くなんて出来事は、そう簡単に克服出来る物じゃないだろう。と言うより、即行で克服されたら俺が凹む。


「この後、俺とはまた気不味くなるかもしれない。けど、焦られなくて良い。どんなに時間が掛かっても、俺は気にしないから。クラリスが乗り越えるその時まで、ずっと待ってるから」


瞳に大量の涙を浮かべるクラリスに、優しく笑い掛ける。そのままもう一度頭を撫でる。


「取り敢えず、今は泣きなさい。辛い事も、怖かった事も、全部吐き出しちゃいなさい。大丈夫。俺が全部受け止める。俺はクラリスのお兄ちゃんだからな」


「……っ、ひく……。


胸元から嗚咽が聞こえてくる。


「……っ、ひくっ……私、怖かったんです…あんな、姿になっちゃう…うっ、なんて思うとっ……お兄、様を…殺し、ちゃったのかと……ひく……それが……凄く、怖くてっ、辛くてっ……!」


次第に嗚咽は大きくなり、その後泣き声へと変わっていった。


「う、うわぁぁぁぁんっ!!!」


俺はただ、静かにクラリスの背中をさすっていた。

書いてて思った。雲雀ってこんな奴だったかと。


可笑しい、もっと残念な奴だった筈なのに。

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