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三人の強者達 翔吾

どうも、みづどりです。


ちょっと指摘されたのですが、私の作者名とユーザーネームが違うせいで、ユーザー検索に引っかからないと事態があったそうで。


そんな弊害があったとはつゆ知らずに過ごしてきた訳で、そんな事態に直面してた方には申し訳ないです。ごめんなさい。


因みユーザーネームは「渡り鳥」です。



今回も少し長めです。


誤字脱字の可能性大です。

「嘘…です……こんな、私………なんてことを………!!」


クラリスから悲痛と絶望の声が溢れる。顔色は蒼白で、今にも倒れてしまいそうな程に弱々しい。だがその姿とは裏腹に、クラリスは刃が刺さっているのを気にせずに腕を振るった。


当然、そうなると身体は刃からすっぽ抜け、数メートル先へと落下する。


「雲雀っ!?」


「嘘……そんなっ!?」


京介達が悲鳴を上げる。


「シャルロット! 早く彼を治療しろ!」


「は、はい!」


ルーデウス王が叫び、シャルロット王女が慌てて近寄ってくる。


「貴様ぁ! クラリスに一体何をした!?」


爺さんがインセラートを睨み付ける。


「簡単だ。その娘にも小僧と同じく蟲を埋め込んだ。既に身体の殆どを蟲が侵食している。不意を突く為に敢えて意識は残しているが、さっき蟲を完全に目覚めさせたお陰で、意識もその内消滅するだろう。ああ、後は治療などしても無駄だ。その刃には何種類もの劇毒が含まれている。掠っただけでも致命傷だ。胸を貫かれては即死だろう」


インセラートは勝利を確信したのか、何やら饒舌に語り始めた。


そして雄一と翔吾は、


「「おお雲雀よ、死んでしまうとは情けない」」


「いや待てコラ」


何でネタに走ってんだよ。


「「「「っ!?」」」」


周囲から驚愕の気配を感じるが、ちょっとそれどころじゃない。


「おい親友。仮にも親友が胸刺されたんだから心配しろよ」


「心配するだけ無駄だろ」


「僕達は信頼してるんだよ」


「その信頼が重いと言いたいんだよ」


いや、実際大丈夫だったけども。それでももっとこう、何かないの?


親友達の冷たさに涙を流していると、外野から声が掛かった。声音からしてインセラートだろう。


「おい! 貴様、何故生きているのだ!?」


「いや、そもそも死んでないんだが」


勝手に殺さないで欲しい。


「そんな訳があるか! 貴様は胸を貫かれたのだぞ!? それに貫いたのはデットリーポイズンマンティスの鎌だ! アレは鉄すらも溶かす腐蝕毒を始めとした無数の劇毒の塊。そんな物を喰らって何故死なない!?」


ああ、それで刺された時に胸が熱かったのか。傷口から溶かされてたんじゃねえか。末端が冷たく感じたのは神経毒みたいだし、他にもヤバそうなのが結構あった。どうりで解毒に何秒か掛かった訳だ。……つーか、なんつー物騒な代物を人の妹に埋め込んでんだコイツは。


「……っち、はぁ……」


インセラートの疑問になど答える気すら無かったが、京介達も理由を聞きたそうにしていた。ったく、しょうがないな。


「胸に穴開けられた程度じゃ死なん。毒は即行で無効化した。以上」


「説明になって無い!!」


「けど事実」


外野からツッコミが入ったが、これ以外にどう言えと。


「そんな柔な身体して無いんだよ。俺の頑丈さは折り紙付きな訳。魔法だろうが物理だろうが、大抵の事では傷付かない」


これは【怠惰】の大罪刻印の効果である。【怠惰】は肉体的・精神的な耐久性を引き上げる効果がある。これによって肉体は異常に頑丈となり、精神は生半可な事では折れ無いぐらいに不屈となった。


開発エピソードは、戦争してるど真ん中でアニメを観たいと言い出した馬鹿の為に作った。そいつは剣で斬られながら、聖徳太子が法隆寺を造る話で爆笑し、大爆発に巻き込まれながら、見えない女の子との隠れんぼで号泣していた。因みに俺は横で熟睡してました。目が覚めたら服に矢が大量に刺さっててビックリしたわ。針鼠みたいになってんだもん。


「さっき貫かれたのだって、刃の鋭さとかよりは腐蝕毒が原因。一瞬意識が飛び掛けたのは麻痺系の毒の所為だ。それも直ぐに分解したし、二度目を喰らう事は無い。毒はもう効かん」


毒は【暴食】によって、成分全てをエネルギーへと分解した。いきなりな事態に多少手間取ったものの、次からは即座に分解可能だ。


「これで分かったか? お前程度の策じゃ俺は殺せない。不意を突いて動揺させるのが精々だって。もし俺を殺すつもりなら、世界を壊すに値する一撃を持ってきな」


そんな事は不可能だ。一介の魔王如きでは、世界なんか壊せない。だからこそ、言外に告げた。


『お前如きでは届かない』と。


「ふ…け…な」


隠された意味を理解したか、それともただ不快だったのか。理由は知らないが、


「巫山戯るな人間風情が!!」


インセラートがキレた。


「ああ、認めよう。貴様は確かに強い。 ならばこそ、私が直接貴様を殺す! 私はカオスインセクト。全てを喰らい、己が糧とする蟲の王! 貴様を喰らい、その力を取り込んでくれる!」


叫びと共に、インセラートの姿が変わる。両腕からデットリーポイズンマンティスの鎌が生え、無数の触手は巨大な百足へと変化する。漆黒の甲殻はより重厚な物となり、背中からは龍翼が生える。


「刮目せよ。これぞ私の王道の証。数多の敵を喰らい、築き上げた骸の山の頂だ。そこに新たな頂として、貴様の屍を飾ってやろう!」


インセラートの宣言と同時に、無数の百足達が迫ってきた。その速度は先程の比では無く、全ての百足が音速へと届いているだろう。更に軌道も複雑だ。どうやら一体一体に自我があるらしく、規則性など皆無に等しい。百足達は全方位から、貪り喰おうと襲ってきた。


普通ならば回避は不可能。その光景は正しく地獄絵図。不可避の死を運ぶ、絶望の軍勢。


俺目掛けて殺到する百足達は、


ーー止まれ。


一体残らず停止した。


「……は…?」


突然の事態に、呆然とするインセラート。俺はそれに構わず、更に自らの意思を伝えた。


ーー散れ。


無数の百足が崩れ去る。百足は全て塵となり、風と共に散っていく。


「なっ!? 一体どういうーー」


ーー這い蹲れ。


「ガッ?!!」


何か言おうとしたインセラートを無視し、強制的に地面とキスさせた。


「雄一、翔吾」


立ち上がろうと足掻いているインセラートを冷たく見下ろした後、親友達へと向き直る。


「俺はクラリスのフォローするから、後は頼むわ。インセラートもぶち殺したいけど、今はクラリスの方が優先だし」


「……あー、うん」


「……了解」


「どった?」


何やら二人の態度が可笑しい。だけど、聞いた途端に二人は慌てて首を横に振った。


「な、何でも無いよ!」


「お、おう。気の所為だ」


「……まあ良いや」


明らかに何か有るが、気の所為と言い張るならそうしておこう。


「あ、二人とも全力でやって大丈夫だぞ。後始末は俺がする。翔吾はハンスを、アルテミスがある雄一はインセラートを頼む」


雄一とインセラートでは実力が違い過ぎるが、アルテミスがあれば問題無いだろう。


『魔弓アルテミス』。幾多の神々を屠った神殺しの武器。狩猟の女神の名を冠する、最強の武具の一角。使い方によっては、世界すらも破壊する。


今は力の大半を俺によって封印されているが、それでも魔王程度に遅れを取る事も無いだろう。


「……あ、そうだ。ねえ雲雀」


「何かね?」


「ハンスってどうするの? 殺す? 出来れば試したい事が有るんだけど」


「坊々は好きにして。インセラートもだ。倒せないなら、別に倒さなくても良い。どっちにしろ俺が殺る」


「……り、了解」


「ひ、雲雀も頑張れよ。あの娘の事、助けてやれ」


「当然だ」


あの娘にお守りを買わせたのは俺だ。原因の一端が有る以上、絶対に助けだす。


「いくぞ」


「「おう!」」


そして、俺達はそれぞれの相手へと向き直る。




〈翔吾side〉


雲雀にハンスの相手を頼まれた僕は、京介達の元へと向かって行った。別に京介達を守ろうと思った訳じゃない。単に位置取りの問題だ。勿論、危なそうだったら助けるけど、そうなる事はもう無い筈。


「翔吾、雲雀は本当に大丈夫なのか!?」


京介が話し掛けてきた。インセラートの威圧の所為で、まだ満足に動けないみたいだけど、それでも雲雀を心配している。やっぱり京介は良い奴だ。雲雀なんて、心配するだけ無駄なのに。


「ピンピンしてるよ」


「けど、胸刺されてたじゃない!」


「プラナリアだとでも思ってくれれば大丈夫」


因みにプラナリアは、身体を百に分断されても再生する超生物だ。そして多分だけど、雲雀は千の肉片にされても復活する。アレは意味不明だし。


「じゃあ雄一は? アイツも魔王と戦うんだろ?」


「あー、あっちも多分大丈夫じゃない? 雄一も強いし、何より武器がチート」


必中貫通の遠距離攻撃とか洒落にならないし。そこに雄一の未来予知が加わったら、魔王相手でも戦えるよ。多分、きっと、メイビー。


「……翔吾は?」


「僕は雲雀みたいに滅茶苦茶じゃないし、雄一みたいに特殊な武器は持って無いよ。けど、相手はハンスだから大丈夫じゃない? 試したい事もあるから」


もし予想が当たっていれば、僕もチート組の仲間入りすると思う。いやまあ、既にチートっぽいんだけどさ。


「本当に強いんだな。俺達なんかよりもずっと……」


京介が複雑そうな顔で呟いた。やっぱり、巻き込まれた相手の方が強いのは、京介達からすれば複雑な事なんだろうね。


「大丈夫。京介達も強いよ。今もだけど、まだまだもっと強くなる。僕や雄一は、雲雀が原因で君達よりも早くその段階に辿り着いただけ。出鱈目なのは雲雀だけだから」


複雑な心境とかは、全部アイツの所為にしちゃえ。理不尽なんだろうけど、理不尽な存在に理不尽を押し付けて何が悪いのさ。


「……じゃあ、俺達も雲雀に頼めば、もっと強くなるのか?」


「絶対に止めときなさい」


アレは常識人が耐えられるモノじゃないから。トラウマになって戦えなくなるのがオチ。花音さんとか絶対にそうなる。色々と慣れた僕や雄一だって怖かったんだ。耐性が無い人は絶対に止めた方が良い。


「良い? 今回は相手が悪かっただけ。まだ訓練しか経験してない京介達には、時期早尚なだけだから。だから血迷っちゃいけない。もし雲雀にアレを頼むと言うなら、僕と雄一が殴ってでも止める」


「……一体何をやらされるんだ……?」


本気の意思が伝わったのか、京介達の頬が引き攣った。それで良い。無駄な犠牲者は増やしちゃ駄目だ。


「ところで、皆は動ける? 出来れば離れて欲しいんだ。そっちの方がやり易いから」


さっき雲雀がインセラートに何かしたし、威圧は弱まってると思うんだけど。


確かめるように京介達は身体を動かす。やはりまだぎこちないけど、移動ぐらいは出来そうだね。


「……身体がまだ重いが、動けなくは無い」


「うん、なら良かった。僕が時間を稼ぐから、ライトの、いや、王様のところまで移動して」


「分かった。今の俺達じゃ足手まといだからな」


京介達が近くに居ると全力が出せないからね。しっかり離れてて貰わなきゃ。ライト達のところまで行けば、雲雀が何とかしてくれる筈。


あ、そうそう。


「言い忘れるところだったけど、今雲雀が怒ってるから。その辺り気を付けて」


別に実害がある訳じゃないけど、下手するとインセラート以上の威圧が飛び出すかもしれないし。注意喚起ぐらいは必要だよね。


そう思って忠告したんだけど、皆何故かキョトンとしてる。


「え? アレって怒ってるの?」


梨花さんの指の先には、クラリスちゃんをフォローしようと……土下座してる雲雀の姿が。……何やってんの雲雀?


「……だらしない亭主が必死に謝ってる姿にし見えないわよ?」


「あー、まあ間違って無いんじゃない?」


雲雀が遊んだ所為で、クラリスちゃんに深い傷を負わせた訳だし……。


「というより、あの娘は大丈夫なんですか? 凄く傷付いてるみたいですし。それに……あの娘もあの化け物と同じになっちゃうんですよね……?」


花音さん辛そうに聞いてくる。確かに、クラリスちゃんの悲痛な顔は、見てるこっちも悲しくなってしまう。それに化け物とは、間違い無くハンスの事だ。あんな顔をしている娘が、ハンスと同じ蟲人間になってしまう。同性だからこそ、その辛さを想像してしまうのだろう。


でも、


「大丈夫。雲雀が絶対にクラリスちゃんを助ける」


そんな未来は絶対にこない。


「あの雲雀が、そんな結末を許すはずが無い」


自分が嫌な事は全力を持って回避する。その点に関しては、絶対的な信頼がある。何かと厄介事を引き寄せる雲雀だけど、それと同時に最悪の結末は絶対に迎えさせない。持てる全ての手段を、それこそ合法非合法問わず、あらゆる手練手管を持って、雲雀は嫌な事を回避する。


「だから大丈夫。クラリスちゃんは助かるし、インセラートがタダで済むとは思えない」


見た目こそ普段と同じだけど、今の雲雀は怒っている。それも途轍も無いぐらいに。


「まあ、だから気を付けてね。巻き添え喰らう事は無いだろうけど、覚悟しておかないと腰ぐらいは抜けるだろうから」


「……そんなになの?」


「めっちゃ怖いよ。怒った雲雀は」


慣れている僕や雄一でさえ、さっき雲雀を前にした時は冷や汗掻いたし。お陰で、少しどもっちゃったよ。


「さて、それじゃあ行った行った。そろそろハンスも動き出したから」


城壁の方を見ると、ハンスが丁度動き出したところだった。傷は粗方治っている。どうやら今まで動かなかったのは、回復に専念していたからかな。


「キシャシャシャシャシャ」


「うーん…さっきより蟲っぽくなってるね」


見てられないってのが正直な感想だ。これが元人間だなんて、一体誰が想像出来ようか。


「うん、直ぐに終わらそう」


それがお互いの為だと思う。


「虫には炎だよね」


鋒をハンスへと向け、刀身に炎を纏わせる。ハンスも蟲となった故か、僅かに後退る。本能的に恐怖でも感じたのかな?


「まずは弱らせないと」


試したい事もあるけど、その前にある程度削っておかないと。じゃないと失敗した時が怖い。


「ふー…………」


長く息を吐いて、全身の力を抜く。そして、力が完全に抜け切ったところで、


「ハァっ!」


全速力で駆け出した。


脱力状態からの急加速。全身の筋肉を使った移動により、現在出せる最高速度を叩き出す。


「キシャシャシャッ!」


だが、やはりハンスも強い。かなりの速度で迫っている筈なのに、腕の鎌で迎撃する構えを取った。


(あの鎌は猛毒だって言ってた。だったら……こうだ)


鎌の射程まで残り十歩の距離となった瞬間、風の魔法によって更に加速。急に間合いを崩された事により、ハンスの反応が僅かに遅れた。


「今っ!」


ハンスの鎌の生えた腕目掛け、炎の剣を振り上げる。


紅蓮の線が闇夜に引かれ、蟲の片腕が宙を舞った。


「キギャァァァ!?」


腕を飛ばされた事により、ハンスが絶叫を上げた。がむしゃらに残った腕を振るって暴れ、口からは触手が飛び出してる。


取り敢えず、一旦距離を取ろう。刀身の炎によって傷口を焼いたので、回復するかを確認したい。


「……変化無し。うん、直ぐには回復しないみたい」


流石の回復力でも、傷口を焼かれたらどうしようも無いみたい。


「キシシュァァァ!!」


怒りの叫びを上げながら、ハンスがこっちに突撃してくる。残った片腕には鋭い三本の爪。鎌までとはいかないが、それでも十分に脅威だ。当たればただじゃ済まない。


足に風を纏わせて、高速で回避する。風によって砂が舞い、その所為で視界が悪くなるが問題無い。砂煙を上げるのも目的だ。幸いにして、雲雀の我○羅のモノマネのお陰で砂は大量にある。何度か地面を風で扇げば、直ぐに辺りが砂に包まれる。


これで両者共に視界が効かなくなった。


一応、ピット器官のような物も警戒し、火魔法で周囲の温度を上げておく。


「キキキギギ?」


ハンスから困惑の鳴き声が聞こえてくる。やはり、僕の事を見失ったようだ。


(今の鳴き声で、ある程度の居場所は分かった。けど、そこに更に駄目押しで)


魔力操作で魔力の球を形成する。少し離れた場所へと放り投げる。後は気配を消して、球が破裂するのを待つだけだ。


これは雲雀に教えて貰った調査の術。球を破裂させ、魔力の波を周囲に飛ばす。その魔力の波によって、辺り一面を調べる技だ。ソナーと言えば分かり易いか。


メリットとしては、生き物の他に地形を調べる事も出来る事。デメリットは、魔力の波を飛ばすので、魔力を感知出来る相手に居場所がバレる事。


折角視界を潰したのに、自分から居場所を教えるのは馬鹿のする事だろう。けど、雲雀からすれば違うらしい。


『デメリットこそ利用しろ』


デメリットが明確ならば、それをハメ技に使わない手は無いと言っていた。明確な弱点が有れば、敵は必ずそこを突いてくるのだ。分かっているなら、逆手に取れば良いだけだ。


今回ならば簡単だ。魔力球を餌にする。


パァァァン。


魔力球が弾けた。魔力の波が放出され、周囲に独特な音が響く。これがデメリット。魔力が震える事により、実際には存在しない音が鳴るのだ。これは魔力を感知出来る者にしか聞こえないが、少しでも感知出来る者には方角が、高い感知能力を持つ者には居場所まで特定されてしまう。


「キシシシシシッ!」


当然だが、ハンスは魔力を感知出来る。だからこそ、魔力球の破裂した場所へと一目散にやって来た。そこにいるであろう僕目掛け、凶悪な爪を振るっているのだ。


「……キ?」


だが、残念な事にその爪は空を切る。当たり前だ。だって僕は魔力球を投げたのだ。魔力球のあった場所に、僕が居る訳が無い。


これが雲雀の言った使い方。魔力球によって誤った居場所を教え、敵が奇襲を仕掛けて来たところを逆に奇襲を掛ける罠。


一見すると、誰でも考え付きそうな罠であり、少し考えれば簡単に回避出来そうな罠だ。だが、この技を使う者はそう居ないし、看破出来る者も居ない。


理由は単純だ。実はこの調査術、【ソナーボール】と言うのだが、かなり難しい。魔力を球状の状態で広い範囲に放射する事は困難を極め、それを更に探知するとなると、相当な魔力操作と情報処理能力が必要になってくる訳だ。これだけでも難易度が高いのに、自分から離れた場所で操作するとなると、難易度は更に上がる。


結果として、まず【ソナーボール】の使用者が少ない。よって【ソナーボール】の対処法が取られる事も少なくなる。そこに、普通は使わない使用法で使えば、相手からしたら想定外も良いところって訳。


まあ、そもそもこれは雲雀が前に居た異世界の技なので、こっちの世界の住人だと完全に初見だろうけど。


そう考えれば、飛んで火に入る夏の虫ばかりに突っ込んできたハンスを、一体誰が責められるのだろう。無防備な格好で首を傾げているのを、一体誰が注意してやれるのだろう。


「雲仙闘剣流……」


「キ……ッ!?」


僅かに漏れた闘気によって、ハンスが僕に気付いた。だけどもう遅い。既に僕は、ハンスを仕留める技へと入っている。


これは昔、雲雀の伝で会った達人のお爺さん達に教えて貰った技。何かと危険な目に遭う僕達の為に教えてくれた、困難を跳ね除ける技術。


「【獅子狩り】!」


三つの剣閃が、ハンスの腕と両足を捉える。本来ならば相手の四肢を落とす為の四連撃を放つ技だけど、もう既に一つ落としているので三連撃だ。


「キギャァァァッッッ?!!?」


四肢を失った痛みは相当な物らしく、ハンスはこの世の物とは思えない絶叫を上げた。


四肢を全て失ったハンスは、不恰好な達磨のようだった。当然ながら傷口は焼いてあるので、四肢が生えてくる事は無い。少なくとも当分は。


「さて、これでやっと試せるね」


抵抗出来る手段を奪った事で、ようやく準備が完了した。安全確認も出来た事だし、これで心置きなく実験出来る。


「さてと、何をイメージしようかな?」


今から試す事。それは僕のユニークスキル『魔改造』の実験だ。


この『魔改造』だけど、レベリングの時には使えなかった。どんな効果があるのか分からなかったんだ。始めて使ったのは、ルイス侯爵家に引き取られた時て暫くした時だ。色々と試行錯誤を繰り返し、何とか発動条件を割り出した。



発動条件その一、改造する為に元となる道具を用意する。これは固体に限る。


その二、改造するに辺り、詳細なイメージと方向性を決める。イメージと方向性が不十分な場合、失敗となり元の道具も崩壊する。


その三、改造後が元となった道具の能力、及び質量を大幅に上回る場合、追加で素材が必要となる。尚、素材の内容は問わない。素材が足りない場合、やはり失敗となり道具は崩壊する。


その四、元となった道具の質によっては、一度だけ使用した後に崩壊する。



大きく分けてこの四つが発動条件だった。


これを確認する為に、ただの紙飛行機を『長時間飛び続ける紙飛行機』へと改造したりもした。結果は、ただの紙を使った物は二分程飛び続けた後に崩壊。雲雀から貰った謎の素材で出来た紙を使った物は、今も僕の部屋でくるくると飛び続けている。


とまあ、こんな感じで『魔改造』もある程度全貌が見えた訳で。


それを踏まえて、今回はその発展と言った形の実験をしたい。


「イメージ……形はこのまま………けど性能は……断ち切る……」


まずはゆっくりと方向性を固めていく。これは効果が複雑だと時間が掛かり、単純だと直ぐに終わる。今回の物は比較的単純な効果だけど、それでも数十秒ぐらいは掛かった。


この時点で、ハンスの四肢を落としておいて良かったと思う。流石に、戦闘中に数十秒も考え事なんてしてられないからね。


次は追加の素材だ。元が訓練用の剣なので、かなりの追加素材が必要とされる筈。これは僕の魔力と、雲雀の魔法によって生み出された砂を使う。


冗談抜きの魔改造となるけれど、今回は雲雀の砂がある。あの出鱈目が生み出した物質である以上、素材としての質は申し分ないのだ。コレが無ければ、相当量の追加素材が必要になった。


具体的に言うと、同じ土を素材としたら、王城が10センチぐらい沈む。僕の魔力も枯渇した筈。今回ばかりは雲雀様様だと思う。


「……天と地を分かつ剣……全てを切り開く剣……即ち乖離を求める剣……」


雲雀の砂が、僕の魔力が、刃引きの剣が光輝く。これで準備は整った。


「『擬似神剣・エア』」


最後に新たな『名』を刻み込んだ瞬間、刃引きの剣は新生した。


ーーリィン。


剣が鳴いた。まるで産声を上げるかのように、世界に音が響いたんだ。


「……っ、……自分で作っておいてアレだけど…この剣、ヤバいかも……」


地球の神話の中でもトップクラスの剣をイメージしたからなのか、それとも雲雀の砂が変な影響を与えたのか。原因は分からないが、それでも一つだけ断言出来る。


この剣は、世界すらも断ち切れる。


多分、雄一の持つアルテミスと同格だ。アレを初めて見た時は、腰が抜けそうになった。


何と言うか、雰囲気が違うのだ。ただそこに有るだけで、何か巨大な意思を感じる。大自然を前にしたような、本能的な畏れを抱いてしまうんだ。


「キシ……シャシャ……」


それはハンスも同じらしく、エアを見て怯えている。いや、寧ろ野生に近ずいた分、僕よりも圧倒されていた。


「……うん、今はこっちを終わらそう。エアは、後で雲雀に相談すれば良い」


今のところ、実験は成功している。と言うより、予想を360度回転してから斜め上へとぶっちぎってる。


だからこそ、確信があった。


「この剣なら出来る筈」


確信の下に、ハンス目掛けてエアを振るった。


「¥€$<÷4〆€\☆4〆!?!!」


名状しがたい音がなる。身体を斬られたハンスの悲鳴では無い。これはハンスに宿る蟲の悲鳴だ。


「¥€$<〒÷9$・♪6>9*5??!!?」


空気を軋ませる不快な叫びが響く中、徐々にハンスの身体から蟲の部分が崩れていく。


「やっぱり出来た。成功だね」


エアは乖離を求める剣。全てを切り裂く事も出来るし、逆に一部のみを切り裂く事も出来る。今回はハンスの身体を切らずに、埋め込まれている蟲だけを切った。


「……う…ぐぅ………」


その結果、蟲のみが命を落とす事となったのだ。更に、蟲の部分がエアによって分子レベルまで刻まれたみたいで、ハンスは元の人間の姿に戻っていた。


「まあ、原因の一端が僕にあるみたいだし、それで蟲になられるのも後味悪いしね」


ハンスは確実に嫌な奴だし、嫌いな人種だ。それでも、今回は助けてあげようと思えるぐらいには悲惨だった。実際、ハンスはムカつく奴だったけど、現段階では特に実害らしい実害が無かったのも大きい。死んでも別に良いんじゃないかとは思ってたけど、死ぬよりも酷い目に遭ってしまえ、とは思えなかったと言うか。


そんな感じで、今回ばかりは助けようと思った次第です。


だから、


「ふふ、助けてあげたんだから、達磨になっちゃったのは勘弁してね?」


四肢を落としたのは、しょうがないと割り切って欲しい。本当だったら失ってた命だったんだから、生きてるだけで儲け物でしょ?……いい気味だ、なんて思って無いよ?

作中で出てきた、地球での三人の師匠の一人。雲仙爺さん。


途轍も無い剣の達人で、第二次世界大戦中は敵兵士達に恐れられた化け物ジジイ。


逸話として、現地での作戦中に雲仙爺さんの部隊が敵の部隊と遭遇。奇襲を受けて潰走する時、雲仙爺さんが殿を務める。そのまま軍刀一本と小銃一丁で敵部隊へと単騎で突っ込み、逆に敵部隊を壊滅させた怪物。


雲雀曰く、地球のリアルチート。


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