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混蟲王 インセラート

なんかどんどんブックマークが増えていき、凄く嬉しいみづどりです。


読んでくれて本当にありがとうございます。


今回ちょっと長めです。


誤字脱字の可能性大です。




なんか、良く分からない行が有ったので消しました。

「どうも初めまして。私の名はインセラート。カオスインセクトの魔王で御座います」


空に浮かぶ人型は、自らを『魔王』と称した。


「ま、魔王だと……!?」


京介が信じられないと声を上げる。他の皆も声は出さないが、思っている事は同じ筈だ。


だが、


「ええ。信じられないでしょうが、私は貴方がたの敵であり、人類の敵です」


インセラートの言葉と共に放たれた威圧が、勘違いを許さない。許してくれない。


「なっ……?!!」


上昇したインセラートの存在感は、大気すらも震わし、大地に亀裂を生じさせる。強烈なまでの圧迫感が周囲を襲い、未だに未熟な京介達の膝を着をつかせる。


「ぐっ……! 何だこの圧力は……!?」


「く、苦しい……!」


未経験の重圧をその身に受けた京介達は、胸を押さえて苦しそうに呻いている。


「ふむ……やはり、予想よりも弱いですね。まあ、楽が出来ると思いましょうか」


苦悶の声を上げる京介達を眺めながら、インセラートは地面へと降りてきた。


「何だ? アンタ自ら京介達と戦うつもりか?」


「それが何か?」


「いや、高みの見物でもしてるのかと思ってたからな。アンタ、必要の無い事はやらない性格だろ」


インセラートの性格上、今の京介達を相手にするなど考え難い。相手にするまでも無いと判断し、空に浮かんだままハンスなどをけしかけると思ったのだが。


「……間違っては無いですが、良く分かりましたね。先程も私の行動を読んでいたようですし、一体どうやって?」


インセラートは訝しげに此方を見つめてくる。性格を当てられたのが疑問なのだろう。


「そんなの決まってんだろ。こう言う回りくどい事をする奴は、自分の手を煩わす事を嫌うんだよ。それが『お約束』だ」


付け加えると、相手を抵抗出来ない状況に追い込んで、それを眺めて優越感に浸る屑だったりする。


「アンタは必要な事しかしない。始めに物事を計算して、それに沿った行動をするタイプだ。他の行動をする時もあるだろうが、それは結果をより良くすると判断したから。無駄な事はまずやらない」


まあ、あくまでそれは自分の判断での最善手な訳だが。不足な事態とかには弱いんだよね、こう言うタイプって。現に俺の前にノコノコ出てきたし。


「気に入りませんね」


「何が?」


「まるでその『お約束』とやらが全て決めているみたいな言い草がです。どんな物かは知りませんが、私がそんな物の影響を受けるとでも?」


不快そうにインセラートは語る。恐らく、自分に絶対的な自信があるからこその言葉なのだろう。どんなモノであろうと、自分に影響を与える事など出来ないと言う。


「っく……は…………は」


「何ですか?」


「っく、アッハッハッハ!」


笑った。それも盛大に。だって、インセラートの自信が余りにも的外れだったから。個人の意思でどうこう出来る程、『お約束』は甘くない。


「何が可笑しい?」


「馬鹿だなアンタ。自分の実力に自信があるのは分かるけど、張り合う対象は選んだ方が良いぞ」


インセラートからの重圧が増大するが、俺には一切通じない。格下からの威圧が通用する道理など無い。因みに翔吾と雄一も、多少息苦しそうにしているだけで効いていない。


「『お約束』は意思ある存在の総意。それ即ち世界の意思だ。たかだか魔物の上位互換風情が、世界に歯向かえると思うなよ?」


『お約束』はただの個人でどうこう出来る物じゃない。世界の意思を無視出来るのは、世界を壊せる物だけだ。


「……貴様、何者だ?」


インセラートの雰囲気が変わる。恐らく、俺の事を取るに足らない存在から、警戒すべき敵へと認識を変えた。口調も慇懃な物では無くなり、上位者の余裕が漂う傲慢な物へと変わっていた。これがインセラートの地なのだろう。


「そこの二人もそうだ。私が直々に誂えた人形を軽くあしらい、私の威圧すら受け流す。ただの人間風情がそんな事出来る訳が無い。まさか、貴様達も勇者か?」


「んな訳あるか。何処からどう見ても一般人だろ」


「「「「そんな訳あるかっ!!」」」


「勇者サイドからだと!?」


仲間からの裏切りに涙がちょちょぎれそうですよ。


とまあ、悪ノリは置いといて。


「別に何だろうが関係無いだろ。それとも何か? 勇者達より、俺達の方を始末する気か?」


どうせ、時期に脅威になるであろう敵を、未熟な内に倒してしまおうとでも考えてるんだろうよ。


「まさか。確かに貴様達は強い。だが私には届かない。優先度は勇者の方が高いさ」


「一応、俺達は勇者達より強いんですけど」


「それは現時点でだろう。だが勇者達も成長する。今は脅威で無くとも、勇者の天職が持つ『魔王や魔物に対する絶対的な優位性』は必ず脅威になる」


え? 勇者ってそんなの有んの?


「マジか京介?」


聞いてみたら頷かれた。まじなのか。


後に聞いた話では、勇者の天職を持っていると、魔王やそれに準ずる存在に対する耐性みたいなのが生まれるらしい。与えるダメージは増加し、受けたダメージは軽減される。正に対魔物の最終兵器。因みに呪いなどにも効果があるとか。


「あー、そりゃ魔王も出てくるわ。ご愁傷様」


「見捨てられた!?」


いや、だってねえ? 天敵放置しておく程、この蟲甘くないぞ。そこそこに頭も回るだろうし、実力でもどっかの脳筋畜産物より強いよコイツ。


ハンスの件もあるし、面倒な搦め手も使ってくるだろうし。


「て、そうだそうだ。忘れてた」


ハンスの件で思い出した。コイツには聞いておきたい事が有ったんだ。


「おいインセラート。あの坊々をあんな姿にしたのはお前だな?」


さっきも人形とか言ってたし、ほぼ間違い無いだろう。


「ああ、そうだ。勇者達を襲う為の手駒として活用する為に、私が生み出した蟲をあの小僧には埋め込んだ。人に化けるのは苦労したぞ」


「飯にでも紛れ込ませたのか?」


「似たような物だ。幻惑の香を使って感覚を騙し、怪我をしていた小僧に薬と称して飲ましたのさ」


「……」


ああ、つまり原因の一部は翔吾に有ると。ちらっと翔吾の方を見ると、滝のような汗を流していた。


「そこんとこーー」


「黙秘します」


さいで。


俺達の間に気不味い空気が流れる中、京介達はインセラートの所業に怒りを覚えていた。


「ふざけるな! そんな勝手な都合で、関係無い人を巻き込んだのか!?」


「人の命を何だと思ってんのよ!」


ゴミ屑じゃない?


「ふっ、人間の命など塵芥に等しいわ」


だよね。そもそも種族?とか決定的に違うし。人間も普通に虫とか殺すし。インセラートは蟲だけど。兎も角、魔王サイドからすれば、それと同じなんだと思うぞ。


まあ、やられる側からすればたまったもんじゃないが。


「流石に憐れかねえ」


「何だ? 貴様も私の所業を糾弾するか?」


くつくつと笑うインセラートに肩を竦め、ちらりとハンスに視線を向ける。


ハンスの姿は、見るに堪えない物へと変貌していた。身体からは蟲の脚やら触手やらが生え、四肢は蟷螂、蜘蛛、蚯蚓、蠍の一部へと変化し、片目は複眼となり、口からは毒液が滴り落ちる。かつては人であったとは思えぬ、醜悪な姿だ。


「そりゃ可哀想だとは思うさ。あんな姿にさせられたんだから」


アレを見て、憐憫の情を抱かない者などいるのだろうか。


「ほう、一体何故だ? あの小僧は本能的に力を欲していた。私はそれを与えてやったに過ぎん」


「ふざけるな! あんなのは力じゃない! 何が与えてやっただ! あんなの騙しただけじゃないか!」


京介が激昂し、インセラートを糾弾する。俺も言いたい事が有ったので、京介へと便乗した。


「そうだ! あんなの理不尽だろ! 何でもっと外見に拘ってやらなかった!? お前の見た目はスマートなんだから、同じような感じにしてやれよ!」


「「「「そっち!?」」」」


いや、だってそうだろ? インセラートの見た目、同じ蟲であるハンスとはえらい違いなんだぞ。


全身は漆黒の甲殻に覆われているが、全体はとてもスマート。背中の羽は黒アゲハの羽を鋭角的にした感じで、大きさは伸縮自在。そして顔は黒い雀蜂。ぶっちゃけ、仮面◯イダーみたい。


「頑張れよ! お前なら出来るって! ほら、もっとディテールに拘ってさ! もっと熱くなれよ!」


「「「「喧しい!!!」」」


インセラートに激励を送ったら、勇者達から非難の声が届きました。


「……他に言いたい事は無いのか?」


「無い。さっきも言ったやん、坊々はクソ野郎って」


クソ野郎がどうなろうと知ったこっちゃ無いんですよ。


そう断言してやると、インセラートは意外そうな顔をする。表情は良く分からんが。


「人間は同族を大切にすると部下から聞いたが?」


何処の誰だそんなデマ流した奴。


「んな訳無えだろ。人間程に同族殺しが大好きな種族なんて存在しねえよ。進んで守ろうとするのは身内と友人ぐらいだろ。後は利益の問題から死なれちゃ困る相手」


文明レベルが上がればまた違うだろうが、大まかに人が人を助ける理由はこんな感じじゃないか?


「人は自分の為にしか動かないんだよ。同族を大切にするんじゃなくて、自分を大切にしてるんだ」


人間は自分が優先だ。親しい相手が死んで欲しく無いから助けるし、自分に利益や損失があるのなら助ける。ボランティアだって、善意云々とか言ってるが実際のところは自己満足だ。極稀に、自然と人助けをするお人好しも居るが、これは例外。


「やはり人間は醜いな。なまじ知能を身に付けた為に、本能に従う事を良しとしない。かと思えば、獣や我ら魔物よりも恐ろしい事を考える。中途半端で吐き気がする」


嫌悪感を露わにするインセラート。内心で俺も同意した。激しくね。


欲に駆られた人間程に醜いモノは無いからな。特に中途半端な奴等は酷い。美学もルールも持たない奴等は、欲に忠実な癖に覚悟が無い。見ているだけで反吐が出る。


っと、ちょっと話がズレたな。


「インセラート。お前が散々こき下ろしてくれた人間だが、俺もその中に入ってんだ。自分本意の人間のカテゴリーにな」


能力的には怪しいけどな。


「そんで勇者達は俺の友人だから、死んで欲しく無いのよ」


「ほう? つまり戦うという事か?」


インセラートの声には明らかな嘲笑が籠っていた。どうせ叶わないって思っているのがありありと伝わってくるな。


「ザッツライト。引かないならば、俺が相手になってやる」


「面白い。手慰み程度に遊んでやる」


不敵に笑い返してやれば、見事にインセラートはノってきた。遊んでやるのはコッチだっての。


「駄目だ雲雀! 幾ら君でも勝てない!」


「そうよ! 一人で戦うなんて無茶よ! 皆で足止めして、援軍を呼んだ方が良いわ!」


俺がインセラートと戦うと分かったら、京介達が騒ぎ出した。心配してくれるのは嬉しいけど、君達色々と間違ってます。


「梨花さん。インセラート相手じゃ、皆の力を合わせても足止めなんて出来ない。雄一と翔吾以外は二・三回の打ち合いで死ぬ。援軍なんて呼んだとしても、無駄に死体を増やすだけだよ」


「で、でも!」


「でもじゃない。そもそも、この周辺には人払いと認識阻害の結界が張ってある。結界の外の人間は近づく事も出来ないし、結界の中で何が起きてるのかすら気付いて無い」


「何ですって!? 一体何時そんな物が?」


「いや、京介達が来る前に俺が張っておいた」


「それ雲雀さんが原因ですよね!?」


いや、そらそうだろう。他の貴族やその関係者に、勇者達と殴り合ってんのを見られてみろ。絶対に変な難癖付けられるだろ。人払いとかは当然の処置だって。


「まあ、そういう訳だから。援軍なんて呼べないよ。此処は俺が一人で寂しく、インセラートと戦います」


「だったら、せめて雄一や翔吾と一緒にーー」


おっと。二人の事を忘れとった。危ない危ないを


「翔吾はハンスの警戒お願い。雄一は京介達が飛び出してこないように見張っといて。後は爺さん達の方も頼む。その距離だとツライだろうが」


爺さん達と勇者パーティの距離は、先程までの模擬戦の所為で微妙に離れてんだよな。そして、双方がインセラートの威圧によってマトモに動けそうに無いし。勇者パーティは兎も角、爺さん達の方には非戦闘員も居る。魔王の威圧喰らって、腰抜かさない方がどうかしてる。


「流石に完璧には守れないぞ」


「大丈夫だ。ヤバそうなのは俺がなんとかする。雄一は流れ弾とかを注意してくれ」


「了解」


打ち合わせも終了したので、インセラートへと向き直る。


「もう良いのか?」


「律儀に待ってくれてどうも。別に攻撃してきてくれて良かったのに」


そしたら容赦無く吹き飛ばしたけど。


「抜かせ。貴様程の実力があれば、罠ぐらいは張っておくだろう」


「そら高評価をどうも」


過小評価も甚だしいが、実力は隠してるから無理無いか。それに、周囲を出来るだけ壊したく無いからな。油断してくれているのは好都合だ。


まずは手始めとばかりに、インセラートの足元を爆破した。


「む?」


爆炎がインセラートに直撃する。いきなりの魔法、それも発動の予兆が一切無いときたら、流石の魔王様でも反応出来ないみたいだ。


「……いきなりだな。それにしても、面白い魔法を使う」


煙が晴れれば、そこには無傷のインセラートが。流石は魔王、この程度の攻撃じゃビクともしないな。


「だが威力が全然足りん。この程度じゃ痛痒にも感じないぞ!」


「だろうね。その硬そうな甲殻も伊達じゃ無さそうだ」


恐らくだが、インセラートの甲殻は単純な硬度だけで【金剛鉄アダマンタイト】に匹敵する。かなりの重量もありそうだ。目算で二トン。それを甲殻の厚みにまで圧縮されているとしたら、硬度は更に跳ね上がる。


「だったらこれはどうかね」


マトモに取り合うのも面倒なので、インセラートの頭上から雷を落とす。これなら甲殻を無視して、内部に直接ダメージを喰らわせられるだろう。


だが、


「効かん。私はかなり頑丈なんだよ」


どうやらダメージは無いみたいだ。


「身体に絶縁体でも入ってんのか?」


何やら他にと色々ありそうなので、インセラートの情報の整理を開始する。


「次はこっちから行くぞ!」


思考に没頭しようとしたら、インセラートが踏み込んできた。しかも結構速い。音の壁を突き破ろうかと言う速度で、インセラートは剣の如き爪を振るってきた。


「考え中なんですけどー」


文句を言うが、インセラートは止まらない。しょうがないので、魔力を身体に纏って応戦する。


如何に魔力を纏ったとしても、マトモに受け止める事はしない。爪だけ避ければ良いと言う訳でも無いのだから。相当な硬度がある甲殻に覆われた腕が、音速に匹敵する速度で振るわれるのだ。その破壊力は計り知れない。


振るわれた爪にそっと腕を添え、円の動きで受け流す。すると、インセラートの姿勢が僅かに崩れたので、その隙を突いて魔力を込めた当身を放つ。


(やっぱり硬っ)


予想は出来ていたが、やはり甲殻はかなりの硬さを誇るようだ。分かっていた事とは言え、ついつい眉を顰めてしまう。


当身によって距離が開き、お互いに動きを止めて睨み合う。


(さて、どうするかねえ? 本気でやれば即終了だけど、そうすると城とか街への被害が凄いしなあ……。それに勿体無い。最近は少し運動不足気味だし、少し身体を動かしたいと言うか。遠慮する必要が無い相手ってのも貴重だし)


クラックに居た頃は、師天のメンバーで模擬戦などをやっていたので問題無かったのだが、最近はマトモに身体を動かして無いのだ。周囲のレベルが低過ぎて、満足に力を出せないのである。別に運動不足で鈍ったりはしないが、それでも退屈とは感じる訳で。


手加減した状態でどう攻めるかを考えていると、インセラートからの圧力が更に増加した。


「ふむ……予想よりも遥かにやるな。これは少し本気を出そうか」


先程の攻防で大まかな性能が判明したが、インセラートはまだ上がるようだ。


それを踏まえて考えると、


(本来のステータスだと、多分インセラートは耐久だけ俺を超えてる。他は良くて半分ぐらいか。だが手加減した場合だと、大体同じぐらいだろうな)


やはりインセラートは強い。単純な身体性能も高く、筋力以外の項目ならガルマンよりも上だろう。厄介な能力も隠してる筈なので、油断してると不覚を取りそうだ。また、あの脳筋と違って頭も回る。目的の為なら手段を選ばない相手程、戦って面倒な奴もいない。


嘗めプをして不覚を取ってもカッコ悪いので、インセラートの一挙一動を観察する。


するとインセラートは顎を開く。僅かに覗く口内から、乳白色の煙が見えた。


「っち、目くらましか」


吐き出された煙の意図を即座に見抜く。毒霧の可能性が高かったので、周囲の空気ごと圧縮して成層圏まで打ち上げる。


「ふっ。上手い対処だ、なっ!」


未だに距離が開いてるのにも関わらず、インセラートが腕を振るう。すると、腕の甲殻の一つがズレ、中から無数の棘の生えた触手が飛び出してきた。


「うわキモッ」


鞭のようにしなる触手を、しっかりと距離を取って回避する。初見の、しかも如何にも普通じゃない攻撃。どんな不思議ギミックが有っても可笑しく無い。


そして案の上、その予感は当たる。触手の棘が刺さった地面から、僅かに煙が上がったのだ。


「うわあ、酸かよ」


しかも結構な強酸である。耐久を突き破るぐらいの威力はあると見た。


別に当たっても問題無いし、身体が溶けたところで即行で治せるのだが、溶けたいかと言われれば否だ。


なので、全力で避ける。


「ええい! ちょこまかと!」


インセラートが更に四本の触手を振るう。


「っと、はっ、しゃっ、とうっ、えい、そい、シュワッチ!」


バク転、宙返り、ベリーロール、側転、前転、後転、そしてムーンウォーク。様々な技を加えながら、触手の鞭を避けていく。


「っならば!」


一本の触手を避ける為に空へと跳んだ瞬間、インセラートが突風の魔法を放ってきた。威力自体は大した事無いが、空中で突風を喰らうと体勢が保てない。インセラートの狙いもそれだろう。


だが、


「残念でした」


魔導師相手に魔法が通じる訳が無い。魔法の発動に使用されている魔力を操り、魔法そのものを無効化する。


「何だと!?」


「【ジャミング】は魔導師オレタチの十八番だよ」


驚愕の声を上げるインセラートだが、直ぐさま驚愕から立ち直り、より一層雰囲気を鋭くする。


「どうやら私は勘違いしてたらしい。貴様は危険だ。今の勇者達よりもな。だから、全力で潰しにいく!」


その宣言と共に、インセラートが両腕を振るう。ズレた甲殻の隙間から無数の触手が出現し、一本一本に意識があるかのように全方位から襲ってきた。更に、意識を隙間を突くように毒針も飛んでくる。


「っち、面倒くさっ!」


即座に全ての触手の軌道を予測し、現在位置からの到達順位を割り出す。更に触手の速度、毒針の射線を計算し、最適な回避行動を取っていく。


(っち、地面から振動。数は七!)


まるで割り込むように地面からも触手が飛び出してくるようになる。インセラートも学習しているようで、より避け難いタイミングを狙ってくる。有名な某シューティングゲームをやっているみたいで、内心少し楽しくなっているのは内緒である。


(地面、更に追加で六! 最初は二秒後で二本)


足首に巻きつこうとした触手を一歩進む事で回避。直ぐさま真横から襲ってくるが軸をぶらして躱す。体勢が崩れたと同時に地面から一本、更に時間差で二本。それを半歩下がって躱すと、一本の触手が地面を叩いて軌道を変え、顎下を狙ってくるが、それも首を逸らす事で回避する。


地中からの触手を全部回避し、また計算を行おうとしたところで、ふと違和感に気付く。


(今ので六……いや違う五だ! ……なら残りの一本は……!)


「っちぃ!」


地中の触手の狙いを看破するが、周囲は触手で塞がれている。これでは直ぐに移動出来ない。インセラートがほくそ笑む気配がしたが、時間が無いので無視。即座に転移で移動する。


触手は爺さん達を、クラリスを狙っていた。


地中から触手が飛び出し、クラリスを貫く寸前で、俺は触手を掴み取り、強引に引き千切った。


「なっ、ヒバリ!?」


「お兄様!?」


俺が突然目の前に現れた事に爺さん達は驚くが、残念ながらそれに応える余裕が俺には無かった。インセラートの蛮行が、相当に頭にきていたのだ。


「テメエ、随分と嘗めた事しやがったな……! 折角楽しんでたところに水差しやがって。しかも人の妹狙うなんて、どういうつもりだ羽虫野郎」


爺さん達に気を遣い、怒りで魔力が溢れださないように注意しながら、インセラートを睨みつける。


俺の殺意が空間を軋ませる中、インセラートは悪びれもせずに言い切った。


「言っただろう? 全力で潰させて貰うと」


「それで動揺を誘う為にクラリス達を狙ったのか? そんなお粗末の作戦が、俺に通じるとでも思ってんのか?」


インセラートがその気ならば、此方もお遊びは止めだ。クラリス達に刃を向けた以上、全力で叩き潰す。


「インセラート、俺はさっき言ったよな? 俺は自分本意の人間だって。その人間の大切なモノに手を出したんだ。タダで済むと思うなよ……!!」


魔力を静かに練り込み、インセラート目掛け駆け出す



ーードスッ。



「……は?」


「私は全力で潰すと言ったんだ。二手、三手先まで想定するのは当然だろう。まさか空間魔法を使うとは想定外だったが、結果的には成功だ。あの小僧と同じように、蟲を埋め込んだ人間を他にも放っておいて良かった」


インセラートが何やら語っているが、俺はそれどころでは無かった。


「……え、…嘘………こんな……そんな………!?」


俺の視線の先には、自分でも何が起こったのか良く分かって無いクラリスが居た。


ハンスのよりも禍々しい刃を腕から生やし、俺の胸へと突き立てるクラリスが居た。


「っ、流石に、コレは、冗談キツイぞ………!」


マグマを流し込まれたような熱さが胸を焼き、その反面で身体の先から冷たくなっていく。


身体がふらつき、意識が僅かに霞む。


霞む視界で最後に見たのは、クラリスの胸元にある、純白の宝玉の付いたネックレスだった。


怪しく揺れる宝玉が、嫌に目に焼き付いた。

嘗めプした挙句、予想外の攻撃によってしくじる主人公。これがヒバリクオリティ。


まあ、どんなに強くてもミスする時はしますし、普通の主人公みたいに機転とかはそんなに持って無いんですよね。だってバカだし。


クラリスのネックレスに関しては、パーティ準備って話で軽く触れてます。

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