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対決、勇者御一行その2

受験もひと段落したので、色々と書いていきたいと思います。

最初の目標は30万越えです

事実上の訓練と化した模擬戦で、相対する勇者パーティは驚愕と緊張の混ざった視線を向けてくる。


「……おーい、早く動かないと攻撃するぞー」


返事が無い。ただの屍の様だ。


一向に動かない勇者パーティを見て、こりゃ駄目だと諦める。そして前衛の翔吾と中衛の雄一に一言。


「やれ。出来るだけ威圧重視で。当てるなよ」


「了解」


「はいはい」


俺の意図を汲み取った二人は、矢をつがえ、剣に魔力を纏わした。そして盛大な殺気の込められた攻撃が、勇者パーティに迫る。


「っ!」


「ハァッ!」


とは言えそこは腐っても勇者と宮仕えの人間。団長は翔吾の飛ぶ斬撃、【斬波】を逆に叩っ斬り、京介は後衛を狙う矢を切り払った。


「ったく、いきなりかよ!」


「問答無用だな」


殺す気まんまんの攻撃を防ぎ、ほっと一息付いて団長と京介。


「【ペインショット】」


油断した所で勇者パーティ全員に向け、ゴルフボールぐらいの大きさの魔法を放つ。不意を突いた攻撃、しかも警戒していたとしても反応出来ない速度で放たれた魔法は、全員に見事に着弾した。


「いってぇぇぇ!?」


「っ、ぐぅっ……!?」


「あ、足がっ!?」


「いっつ……!」


「ちょ、これ痛いっ!?」


「あうあうあうっ」


団長はあまりの痛みに転がり回り、京介は痛みで蹲る。そして女性陣は全員爪先を抑えていた。


「……おーい、ヒバリよ。お主今度は何した?」


尋常じゃない勇者パーティの状況に、観戦にまわっていた爺さんが恐る恐る聞いてきた。


「【ペインショット】。精神に直接痛みを与える魔法を打ち込んだ。男二人には○的と同じ痛みを、女性陣にはタンスの角に小指をぶつけた痛みを与えた」


お陰で全員あの有様である。この魔法の厄介な部分は、精神を直接刺激するので耐久とかの物理要素が全く意味を成さない事だ。ついでに透過効果とホーミング機能搭載。ほぼ必中だったりする。


「「「「うわぁ………」」」」


観戦していたメンバードン引きした。特に男性陣が酷い。全員が股間を押さえて竦み上がっている。そうだよなぁ。あれは男にしか理解出来ない激痛だ。


「その割に平然とやったよな?」


「敵が嫌がる事をするのが戦いの常識」


小指をぶつけた痛みについても同じく。人間って不思議なもんで、ある程度までならデカイ痛みでも耐えられるけど、逆にこういう地味な痛みだと耐えられないんだよね。


さてと、それじゃあ恨みがましそうな目をする勇者パーティに一言。


「ねえねえ、今どんな気持ち? ぷぎゃー!!」


「「「ぶっ飛ばす!!」」」


煽ったら団長、京介、梨花さんが釣れた。煽り耐性無いなオイ。


「ふ、【フィジカル・ブースト】!」


痛みに悶えながらも、突っ込んでくる三人に、花音さんが身体強化の魔法を掛けた。


剣を持った団長と京介、槍を持った梨花さんが俺目掛けて襲い掛かってくる。因みに勇者パーティの構成は、団長と京介が剣で前衛、梨花さんが槍で前衛に近い中衛、詩織さんとセリアさんが魔法を使う後衛、そして花音さんが補助と回復だ。付け加えると、大人組である団長は基本的に盾を使ったタンク、セリアさんは弓と魔法を半々で使うそうだ。


「残念だけど通しません」


「模擬戦だからな」


俺をぶっ飛ばそうと迫る三人だが、そうは問屋が卸さない。翔吾は団長と京介を剣一本で押し返し、雄一は梨花さんに向けて矢を射る事で牽制する。


「っち、やっぱそう上手くはいかねえか」


「想像以上に速い。予想してたけどやっぱり格上か」


一旦距離を取った団長と京介だが、逃がさないとばかりに翔吾は追撃を掛ける。


「ほら! どんどんいくよ!」


翔吾が最初に狙いを定めたのは京介だった。上段から振り下ろされた鉄剣は、片手剣とは思えぬ衝撃を発生させる。


「くっ、なんて力だっ!?」


打ち合わされた鉄剣は、互いに歪な音を上げた。金属の軋む音が響き、受け止めた京介の脚が僅かに沈む。


翔吾は自分の武器が壊れるのも厭わず、そのまま鉄剣を振り抜こうとする。あくまで刃の潰された練習用だ。魔力や業を使えば剣としても使えるが、それよりも鈍器として扱った方が利口という判断だろう。……あ、勿論武器は俺がこっそりと魔法で手を加えてある。普通の鉄だった既に壊れてるからな。


とは言え、翔吾が相手をしているのは京介だけでは無い。死角から回り込んだ団長が、翔吾目掛けて剣を振るう。


「っと」


まるでそう来るのを予知していたかの如く翔吾は振るわれた剣を躱す。しかも動きは最小限に、まるで舞踏を舞うかの様な優美な回避だ。


「ええい、ちょこまかとっ!」


「あらよっ、と」


悪態を吐く団長の剣に合わせ、翔吾が跳んだ。しかも着地地点は団長の剣の先。漫画のワンシーンの様な光景を、翔吾は微笑を浮かべて再現して見せた。


「おいおい、流石に冗談キツイぞ……!」


その嘘みたいな光景には、流石の団長も唖然とする。周囲の反応も同じだ。特に団長の実力を知る前衛陣の衝撃は凄まじく、京介も梨花さんも動きを止めた。


逆に俺達側の反応だと、まあ当然かなって感じだ。何も団長が弱いんじゃなく、純粋なステータスの差が出ただけだ。見た所、剣の腕は同等だ。ただステータスが二倍ぐらい違う筈。この世界だと、例えば筋力値が100違うだけで簡単に押し負ける。勿論、スキルレベルなどの要素で逆転も出来るが、それは今回は置いておく。諸々のステータスが1000ぐらい違う二人だと、幾ら技量が同じでも反応速度などが全然違う為に勝負にならないのだ。


とは言え、そんな事勇者パーティが知った事ではない。反応に差が出るのも当然か。


「今っ! 【アクア・バースト】!!!」


硬直を切り裂いたのは、詩織さんの魔法だった。収束した一条の水流が、翔吾を穿つべく迫る。


「おっと」


しかし遅い。翔吾は剣から降りる事で軽々と魔法を躱す。だが相手もそれは折り込み済みらしく、セリアさんが空中にいる翔吾に向けて矢を放つ。


魔法は囮で、コレが本命。流石の翔吾も空中での回避はツライ。いや、やれば出来るだろうが、今回はそれをやる必要も無い。


翔吾を射抜こうと迫る矢が、真反対の方向から放たれた矢によって弾かれる。梨花さんを牽制していた雄一が、見兼ねて手助けをしたのだ。


「なっ!?」


放たれた矢を矢で弾く。そんな絶技を見せられ、驚愕の声を上げるのはセリアさん。それをやった本人は、涼しい顔で翔吾を叱る。


「ったく、油断すんな翔吾」


「えへへ。ゴメンね」


バツが悪そうに頭に謝る翔吾。回避する事も出来たとは言え、危険な行為だったのは違いないのだ。


だが、この一連の流れによって実力差は歴然とした。


「ああクソっ! 何で攻め切れない!?」


「落ち着けキョウスケ。実力差があるのは分かってたろ。まだ後ろの馬鹿が出てこなぐほぉっ?!?」


「誰が馬鹿だこの野郎」


失礼な事を抜かす団長の土手っ腹に石礫 (大きさ約一メートル)をぶつける。


「……大丈夫ですか?」


「そ、そう、見える、か…………」


そして生き絶える団長。勿論この場合は気絶。


「ほら起きろ」


「ガフっ!?」


「ダンクさんっ!?」


気絶した団長の上に先程の石礫を落とす。哀れなので回復も施してやる。


「……ガハッ…ハッ…はあ……い、良いかキョウスケ……これが奴だ。一欠片の情けも無く……ハァ…気にいらない相手を痛めつける暴君……それがあの男だ……!!」


「アンタは何処ぞの映画の俳優か」


何だよその、弟子を憎き相手から自分の命を掛けて守った師匠、みたいなノリは。


俺が団長のノリに呆れていると、後ろのセリアさんが溜め息を吐いて話し始めた。


「はいはい、巫山戯るのは程々にね。けど、ヒバリ君が強いって事は本当ね。真面目な話だけど、今の魔法を誰か察知出来たかしら? 最初のは不意打ちだけど、次は皆の注目の中で起こったのよ? 先に言っておくけど、私には一切感知出来なかったわ」


「……言われてみれば確かに」


「詠唱をした訳でも無さそうだし、発動も一瞬だった」


「それじゃ最初の動きは憶えてる? ユウイチ君もショウゴ君も凄かったけど、彼はキョウスケの後ろに一瞬で回り込んだのよ? つまり身体能力も二人と同等かそれ以上と見積もるべき。ショウゴ君と同じぐらい戦えて、魔法では私の遙か上。多分、というか絶対、あの三人の中で彼が最強」


セリアさんの説明によって、京介達が化け物を見る目になった。オイ何だその目は。


「まあ、自称魔王を倒した男だ。それぐらい出鱈目でも可笑しく無い」


復活した団長がそう付け加える。小さな声で、多分本当だろうが、と呟いていたが気にしない。


「兎も角、まだ一番厄介な相手が出てきて無いんだ。ここで焦ったら勝ち目は無い」


「そうそう。まだこっちは正攻法で攻めてるんだ。寧ろ此処から先が本番だぞー」


団長の言葉を、俺はその通りだと肯定した。俺達は本来の戦い方をしていない。


「まだ先があるのか……」


「当たり前だ。そもそも俺らの場合、こんな正面からの戦闘なんて殆どしない。今は京介達に合わせてるだけだ」


翔吾は本来ならば、縦横無尽に動き回り相手を翻弄する剣士だ。特に障害物などを利用した立体機動を得意とする。言わば遊撃タイプの剣士であり、今みたいに相手を抑えるタンクの真似事なんて基本はしない。そもそも俺達の場合だと、後衛も異様に強かったりするので抑える事自体が無意味だ。


雄一は遠距離からの正確無比の狙撃が本分だ。相手を牽制するのでは無く、一撃の下に仕留めるのが本来のスタイル。それにこの距離ならば普通は必中。今は戦いにならないので牽制だけに留めているが、殺し合いなら勇者パーティは既に針鼠だろう。


それに二人は魔剣も魔弓も使っていない。魔法を混える事によって凶悪さを増した二つの絶技こそ、二人の鬼札だ。


因みに俺の場合だと、理不尽なまでの手数と圧倒的な威力によって消失させるスタイルだ。殲滅でも蹂躙でも無く消失なのがポイント。


「さて、それじゃあラウンド2だ。此処から先は俺達の本来のスタイルで戦わせ貰う。まあ、俺は基本的に最初しかちょっかい出さないし、後はサポートに回るから実質は二人の本気だが」


流石に俺まで出張ったらただのイジメになってしまう。時折魔法を飛ばすくらいが丁度良い。


「そんじゃあ、再開だ」


言葉と共に魔法を放つ。魔法はこの世界にある下級魔法【ウィンド・ボール】。それを勇者パーティの人数分。途中で男組に防がれたりしない様に、前衛を迂回する感じで軌道を弄った以外は普通の魔法だ。


「ッチ、各自で避けろ! アイツの魔法だ油断するな!」


団長は魔法の軌道から防げないと判断し、仲間達に注意を呼び掛ける。そんな警戒しなくても良いのに。


当然、ただの下級魔法なので全員避ける。まあ、ただの嫌がらせだし当てる気も無い。強いて言うなら、意識を分散させるのが目的だ。


「雲雀、足場お願い」


「俺もだ」


「ほいさ」


雄一と翔吾に言われた通りに、訓練場の地面を隆起させる。そして出来上がるのは、大小様々な柱の森。


「っ、本当に出鱈目だな……!」


「ってオイ! 此処明日も使うんだぞ!?」


団長が何か言ってるけど気にしない。てか、余所見してて良いのか?


翔吾は既に一本の柱を駆け上がっており、そのまま他の柱へと跳び移って縦横無尽に跳び回る。


雄一は一番高い柱の上に立ち、高所から勇者パーティを狙っている。


「っ、危ないです京介さん!」


「っ!」


「ほら、ぼーっとしてると怪我するよ!」


花音さんの警告により、なんとか翔吾の一撃を防いだ京介。すかさず団長が翔吾を狙うが、既にそこには翔吾はいない。常軌を逸した三次元的な動きには、流石の団長ですら翻弄される。


「なら足場を壊すまーー」


「避けてシオリ!」


詩織さんが柱へと魔法を撃とうとするが、雄一の狙撃が彼女を襲う。頭上から迫る矢は、セリアさんが詩織さんを突き飛ばす事でギリギリ回避した。


「助かりましたセリアさん」


「お礼は後! まだまだ来るから避けなさい!」


「ふえぇぇっ!?」


後衛に向けて大量の矢が降り注ぐ。高所から雨霰とばかりに迫る矢に、セリアさん達は避けるだけで精一杯だ。


「んー……前衛は翔吾に抑えられ、後衛は回避に必死でそれ所じゃないと……こりゃ詰みかね」


京介と団長は翔吾で手一杯。セリアさんと詩織さんと花音さんは、雄一からの大量な射撃にてんやわんやだ。そして残りの梨花さんだが、


「にしても二人は鬼畜だねぇ。翔吾は死角か意識の薄い場所しか攻撃しないし、攻撃の後はすぐに剣の届かない高さまで逃げるヒット&アウェイ。雄一はもっと酷いわ。セリアさん達がギリギリ避け続けられるぐらいの弾幕に留めてる。当たらない、けど止まったら当たる。動き続けなきゃならないから、結果的に何も出来ない。ありゃ完全に生殺しだ」


「ああもう! 解説なんて良いからさっさと当たれ!」


俺相手に槍をずっと振り回してます。


「何で当たらないのよ! ちょこまか動くな馬鹿!」


何でこうなってるのかと言えば、翔吾は男組を相手にして、雄一は上で後衛を狙っている。お陰で俺の前には誰もいなくなり、そこを同じくフリーの梨花さんが狙ってきたのだ。


「ふむ……模擬戦とは言え、戦闘中にそんな事言われたの初めてだわ。そして敢えて言おう。悔しいなら当ててみろwwww」


「っんと腹立つわねアンタ!!!」


挑発したら一層攻撃が激しくなった。なので紙一重で回避する事にします。はい、これも挑発です。


「あーもう! 避けてるだけなら攻撃しなさいよ!」


「自分から攻撃してくれって言われたのも初めてだわ。梨花さんってマゾ?」


「んな訳無いでしょうがっ!」


「じゃあ良いじゃん。それに攻撃したら一撃で終わっちゃうだろうし、このままのんびりしていようよ」


「これでどうのんびりしろって言うのよ!?」


「じゃあ恋話する?」


「するかっ!!!」


息を荒げながら、梨花さんは俺へと槍を振るう。だが当たらない。攻撃も単調だし、致命的に遅すぎる。


「ならっ、【ファイヤー・エンチャント】!!」


梨花さんが魔法を発動すると、炎が槍へと纏わりつく。火属性の付与魔法か。これは魔剣術や魔弓術の下位互換に当たる。


「そんな大振り当たらんて」


炎の槍自体は良いが、疲れからか槍がかなり単調になっている。恐らく梨花さんの切り札なのだろうが、これでは活かし切れていない。


「ハァ…ハァ……」


「札を切るのが遅そいな。もうちょい早く切るべきだ………ん?」


何か今、妙な気配がした。無視しても良い程度の物だが、それでも胸騒ぎがする。ふと見れば、雄一と翔吾も感じたのか動きが止まっている。


京介達は何も感じて無いみたいだが、俺達が止まったのを見て訝し気にしている。


「ハァ…ハァ……五月蝿いわね。……なら、これならどうよ……!!」


唯一梨花さんだけが槍を構えたままだ。その表情は険しい。纏わりつく炎も相変わらず、いや、徐々に温度が上がっていっている。


「梨花っ!?」


何かその様子に只ならぬ物を感じたのか、詩織さんが梨花さんに声を掛ける。


「っち! 雄一、翔吾!」


違和感が確信に変わった俺は、急いで梨花さんに接近する。そして軽く手首を叩いて槍を落とし、襟首を掴んで思い切り放り投げた。


「っきゃ!?」


突然の事に梨花さんが悲鳴を上げるが、俺はそれを気にせずに、槍が落ちた地点からとび退いた。


そして未だに炎を纏う槍に、特大の炎球が叩きつけられる。


「ちっ、見誤ったか」


刹那にも満たない時間の中で、炎球の威力が予想以上と言う事に気付く。


一瞬の内に炎球は膨張し、溜め込んだ熱量を放出せんと炸裂する。その威力はやはり予想以上であり、とび退いたとは言えど最も近くにいた俺を爆炎が飲み込んだ。


「お兄様!?」


炎に身を焼かれる共に、魔法によって体感時間を引き延ばす。引き延ばされた時間の中で、魔法の威力を見誤った事について考察を開始した。クラリスの悲鳴が聞こえてきたが、今はそれどころじゃ無いのでシャットアウトだ。


そして暫くの黙考の末に、梨花さんの槍が原因だと思い当たる。当初の予想では、巻き込まれない距離まで後退していた。しかし、着弾と同時に炎球の熱量が上昇したのだ。恐らくだが、梨花さんの魔力が追加の燃料になったのだろう。丁度燃えてたし。


さて、結論が出たので体感時間を元に戻す。それと同時に、腕を振るって炎を掻き消した。


「……それで何のつもりだ? 返答次第では殺すぞクソ坊々」


嘗めたマネをしくさってくれた下手人。ハンス・ドルク・シグムントに向け、俺はそう問いただした。

すごーく長いんですよね、この話。

この章というか、展開というか。兎も角、これが過ぎたら、もう少しテンポ良くいきたいものです。

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