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対決、勇者御一行 その一

連載を再開したいと思います

「訓練場で待て、ねえ」


夜空の月を眺めながら、俺は先ほど言われた言葉を呟いた。


パーティーは既に終了した。特筆するべき事も無かったので、詳細は省かせてもらう。


ざっと説明すると、クラリスと踊ったり、あの変わり者の令嬢達とも踊った。後は色々と食った。以上。一応言うが、パーティーの途中で勇者達とは話していない。


何度も言うが、俺達三人は建前上は田舎者。知っている人間も結構いるが、やはり無視する訳にもいかない訳で。目立たない様にという理由から、四人と話す事は無かったのだ。


そんな大人の事情により、現在俺達は誰もいない訓練場でぽつんと突っ立っていた。


「どう思うよ翔吾さん」


「考えてる通りだと思うよ雲雀さん」


「何で訓練場なんだろうね雄一さん」


「予想通りだと思うぞ雲雀さん」


考えている事は皆同じ。それが確認出来たので、夜空を見上げて溜息一つ。


「「「はぁ……面倒くさ」」」


これから予想出来る展開が、只ひたすらに面倒クサイ。


「溜息なんぞ吐くもんじゃないぞい」


呆れた様な声が聞こえた。この口調は爺さんだ。


「あのなぁ爺さん………やけに大所帯じゃないか」


文句の一つでも言おうとしたが、爺さんの後ろからぞろぞろと人が続いてるのを見て止めた。


「保護者一同に+αで子供達か」


後見人となった一家が大集合である。爺さんに義父に義母にクラリス。モルト公爵夫妻と娘さんのアリアちゃん。ルイス侯爵夫妻とライトと姉のシャナさん。


「こりゃまた、豪華メンバーが揃い踏みだな」


改めて自己紹介を交わした後、集まったメンバーを見渡して呟く。


「そりゃのう。自分の家族が勇者相手に立ち会うんじゃ。見てみたいと思うのも人情じゃて」


爺さんの言葉に大人全員が頷いた。てかやっぱ戦うのか。


「面倒なんだが。てか何で?」


「そりゃ本人達に聞けい」


ごもっともで。


「ふむ、集まっておる様じゃな」


噂をすれば影とは良く言った物で、ルーデウス王とシャルロット王女、団長とセリアさん、そして勇者達がやって来た。


「よう京介。さっきぶり」


「ああ、雲雀達も変わりないみたいだな」


京介達と軽く挨拶。そして四人を眺めた後


「進展なさそうだね梨花さん」


「いきなりだし余計なお世話よ!!」


未だに鈍感系で苦労してそうなので労った。


「他の二人はどうですか? 出来れば二人のエピソード所望」


「色々な意味で相変わらずね」


「雲雀さん達も相変わらずですね……」


苦笑いを浮かべる詩織さんに、疲れた感じの花音さん。


「団長にセリアさんもお久」


「やけに軽いなオイ!」


「久しぶりねヒバリ君。噂は色々と届いてるわよ」


ツッコミを入れる団長と、朗らかに笑うセリアさん。


「陛下もどもです。後は王女さんも」


「うむ。君達も元気そうでなによりだ」


「……お、お久ぶりです皆様」


鷹揚に頷くルーデウス王に、気不味そうなシャルロット王女。そう言えばこの娘とも確執あったな。


「んな気不味そうにしなくても良いっすよ。気にしてないし」


「……はい。御心配ありがとうございます」


駄目だこりゃ。


そんな感じで一頻り雑談を交わした後、俺は本題について話始めた。


「さーてと。お集まりさせられた我々ですが、一体何やらされるのですかね? オイコラ説明しろ団長」


「何で俺なんだよ!?」


こん中で一番立場低いからに決まってんだろ。次点は爺さん。


「何か今馬鹿にされたような……?」


「引っ込めジジイ」


やけに感の良い老いぼれは兎も角。俺の台詞にアール一家と幼馴染み以外が引き攣ってるが、それでも兎も角。


「わざわざ制服にまで着替えさせられた挙句、こんな場所に集合させられた訳だが。何故? ねえ何故?」


そう。俺達は今制服である。パーティーに行く前に爺さんから持っていけと言われ、訓練場に来る前にわざわざ着替えさせられたのだ。


「何か雲雀が怖い……」


「ねえ、アイツ何故か機嫌悪そうだけど……」


「眠いんじゃない?」


「子供か!?」


「五月蝿いのですよ」


外野が喧しい。そして翔吾微妙に正解。


「所でこの学園の制服。下手な革鎧よりも頑丈らしいね。これにわざわざ、わざわざ着替えさせられたんですよ。この訳、何か鉄剣とか色々担いでる団長さん、ご説明願いませんかね? ついでに勇者達の服装が武装形態な理由も添えろ」


練習用の鉄剣とかが入ってた気がする、見覚えのある木箱を担いだ団長に聞く。勿論、ここまでピースが揃ってるのだ。勘付いてはいるぞ? それでも追い詰める為に聞いてるんです。


「………」


黙る団長。俺はそれを追撃する為、カクンと首を横にして問い詰め始める。


「ねえ何故? ねえ何故? ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故ねえ何故アガアガガガガガガガガガガガガガピーーーー」


「バグってるじゃねえかっ!!」


雄一に魔闘状態で回し蹴りされ吹っ飛んだ。五メートル程。


「ツッコミありがと雄一君」


むくり起き上がってみると、クラリスと翔吾と雄一以外が盛大に引き攣っていた。けど気にしない。


「さて、それでどういう訳よ」


「(ねえ何でアイツ無事なのっ!? てか何であんな機嫌悪いのっ!? 何であんなに怖いのっ!?」


「眠いんじゃない?」


「何でアンタ達もそんな平然としてんのよ!?」


「「慣れ」」


「外野五月蝿い」


一言釘を刺した後、首謀者と思われる京介へと向き直った。


「冗談抜きで聞くぞ。何で俺達と戦おうとする?」


「やっぱり分かった?」


「もち。ついでに言うと戦うのは吝かじゃないぞ? それでも先ずは理由を言おうか」


ちゃんと理由を言ってくれれば、俺も手加減した全力で応えてやるつもりだ。


京介は俺の心を見透かしたのかは知らないが、京介が真剣な顔で理由を語り始めた。


「俺達はさ、色々あって強くなったんだよ。この世界に召喚されてさ、勇者をやる事にして訓練して、レベルを上げる為にダンジョンに潜ったりもした。辛い事も沢山有ったし、死にかけた事も何度もあった。……人も殺したりもした。盗賊だったけど」


どうやら殺人童貞キリング・チェリーやキ殺人処女キリング・バージンは卒業したらしい。お疲れ様。けど辛そうに言うのはお門違いね。


「でもそれはお前達の選択だろ? 勇者の道を選んだのはお前達四人だ」


俺達みたいに学園に入る手も有った。故郷が恋しいと本気で叫ぶなら、俺は直ぐにでも日本へと帰してやった。


「ああ。俺も勇者なんて立場に憧れてたのは否定しない。この世界で生きる為の力や功績を欲したのも否定しない。少なくとも、俺はこの世界に骨を埋めるつもりだ。例え帰れたとしてもな」


辛そうな顔から一転して、少年の様にキラキラとした顔になった京介。勇者という立場に酔ってる訳でも無く、今この時を全力で楽しんでいる。


「ほうほうほう。つまり辛い事も全て含めて、この世界で生きたいと?」


「ああそうだ。だからこそ俺は強くなった。この世界で生きる為に。不自由なく暮らす為に」


「なるほど。京介は分かった。じゃあ他の三人は?」


「私も同じ。京介と一緒に、何処までも付いて行く」


「私もそうね。二人の結末、直ぐ隣で見てたいし」


「友達ですから」


迷い無く、愛する人の為と言った。友の為と言い切った。


「京介、お前の仲間凄いね。凄い皆良い女だし、冗談抜きで惚れそうだわ」


「それは個人間の問題だから。後で勝手にやってくれ」


「だって梨花さん」


「何で私!?」


「何となく?」


「雲雀……流石に何となくは駄目だろ。不誠実は許さないぞ」


僅かに怒気が混ざった声で、京介に注意された。およ? これはまさかの?


俺はその反応にニヤリと笑う。詩織さんがこっそり親指を立てたので、俺も親指を立てておく。


「……何よニヤニヤして」


「別に〜」


「腹立つわねアンタ! 詩織も隠れて笑ってんじゃないわよ!」


「だって、ねえ?」


「あはは……」


詩織さんが梨花さんを揶揄ってるのを尻目に見ながら、再び話題を元に戻す。


「お前の考えは分かった。それで、何で俺達と戦いたいんだ?」


「俺達は強くなったんだ。それこそダンクさんにだって勝てるぐらいに。だからこそ分かるんだ、あの時の雲雀達がどれ程強かったのかが。あの模擬戦以来、三人は俺の目標だった。同じ日本出身なのに、俺達なんかよりも全然強くて。俺達に巻き込まれただけなのに、俺達以上にこの世界を楽しんでて」


力強く、それでいて伸び伸びとした生き様に憧れたと。自由な姿に焦がれたのだと、京介は語る。


「だからこそ越えたいんだ! 君達に勝てなきゃ、魔王は到底倒せないだろうから」


その言葉に込められた思いはしかと受け止めた。意思の強さは確認した。ならば、やる事は一つ。全力で応えるのみ。


「……分かった。俺も京介の気持ちに応えよう。雄一と翔吾も良いな?」


「ああ」


「勿論だよ」


二人が頷くのを確認してから、京介達に向き直った。


「それでルールは?」


「個人戦だ。本当だったらパーティ戦もやりたいけど、数が合わないからな」


「ふうん」


一対一での戦いか。因みに花音さんは不参加。理由は人数の都合と、彼女は回復などのサポート役で戦闘能力が低いから。


「武器はどうする? それに怪我した場合も」


「武器は練習用の鉄剣を使う。勝利条件は気絶か戦闘不能と判断されるか、降参するかだな」


「ああ、一応言っておくが、怪我に関しては気にしなくて構わない。大怪我じゃなければ直ぐに治療する」


ルーデウス王がそう付け加えた。そう言えばシャルロット王女も治癒術師だったな。とは言え、京介達は明日晴れ舞台だ。あまり怪我させる物じゃないか。酷かったら俺が治すが。


「雄一、翔吾。最低でも骨折までな」


「分かってる。ちゃんと手加減はするさ」


「怪我させる気は無いから」


やり過ぎるなと二人に注意する。とは言え、幾ら手加減が下手とは言え、ハンスと違って京介達は十分に強い。そこまで酷い事にもならないとは思う。まあ一応だな。


「手加減か……随分と大きく出るじゃないか」


「あらら」


どうやら注意が聞こえてた様で、京介達からの気迫が増大した。


「確かに召喚当初を知ってる雲雀達なら、そう思うのは当然だろう。だけどな、あの時の俺達とは違うぞ?」


「余裕こいていると痛いメ合うわよ?」


「あんまり嘗めないで欲しいわね」


不敵な笑み浮かべる三人に、俺達は顔を見合わせる。


「ふむ……どうしたモンかね?」


「さてな。それで、何処までやる気だ?」


「勿論全力。寧ろそれ以外だと失礼だろ」


「良いの?」


「バレて良いのか? と聞いてるなら問題無い。多分アイツらそんな事言わないだろうから」


「へー。結構な好評価だね」


「ああ言うのは嫌いじゃない」


軽く相談して、更に一つ提案する。それが纏まった所で、京介達に向き直る。


「OK。そっちがその気なら、俺達も全力でやらせて貰う」


「寧ろやってくれなきゃ困る」


「だろうな。俺達もあそこまで言われたんだ。目標となった以上、そう簡単に超えさせてやる気は無い訳だ」


「望む所だ」


「それを踏まえて言わせて貰う。今から俺達はカウントして三秒後に京介達に襲い掛かる。勿論寸止めだ。だから油断するなよ?」


「……は? え、それどう言う意味だよ?」


いきなりの提案に困惑する京介達だが、俺達はニヤリと笑うだけ。


「お前達の言葉を借りるなら、嘗めるなって事だ。慢心してると足下掬われるぞ?」


「いや、だからどう言う意味よーー」


「ほら構えろ。いくぞー。三」


「二」


「一」


「「「零」」」


カウントすると同時に、俺は京介に、翔吾はは梨花さんに、雄一は詩織さんへと接近する。


「「「「「っ!??」」」」」


その光景には、勇者も、爺さん達も絶句した。


雄一は詩織さんの目の前に立ち、親指と人さし指のみ伸ばす、いわゆるピストルの形にして額へと突きつけていた。


翔吾は梨花さんの真横に立って、首元に手刀を添えていた。


俺は京介の真後ろに立ち、後頭部に手を翳していた。


「さて、この結果を三人はどう考える?」


一瞬で敗北した勇者達に質問するが、返ってくるのは息を呑む気配のみ。


「っ……」


確かに勇者達は困惑していた。だが前もって言われていたので、油断自体はしていなかった。ただ反応が出来なかったのだ。


「反応無し。なら、俺達が幾つか訂正してやろう。先ずはその一。京介達は勘違いしてるみたいだが、あの模擬戦で俺達は本気を出してない。思い込みは止めておきな。何時か酷い目に遭うから」


「なっ!?」


俺の告白に驚愕する京介君。


「訂正その二。京介達が強くなったのと同じで、俺達だって強くなってる。自分達だけしか成長しないなんて思わない事だな」


「ぐっ……」


雄一の忠告に言葉を詰まらせる詩織さん。


「訂正その三。彼我の戦力差も理解せずに、個人戦なんて挑まない。そもそも君達はパーティとして訓練した筈なんだから、違う土俵で態々戦ってどうするの?」


「うっ……」


翔吾の指摘にグウの音も出ない梨花さん。


「結論。全体的にアンタ等俺達を嘗めすぎ。強くなって慢心してたんだろうけど、この世の中には上には上がいるもんだ。目標をそんな簡単に超えられれば、誰も苦労なんてしないのよ」


「……」


俺の出した結論に言葉も無い花音さん。


「さて、この事実を踏まえてもう一度聞こう。形式はどうする? 一対一の個人戦? フルメンバーでのパーティ戦? ………それとも、俺一人を相手に全員で掛かってくるか?」


最後の方で威圧を掛けると、京介達はビクリと肩を震わせた。


「……パーティ戦で……」


「OK」


形式が決まった所で、俺は観客でいる二人に声を掛けた。


「セリアさんと団長って、結局勇者達に付いて行くんですか?」


「……何故ここで話を振る?」


「分かってる癖に」


「……一応、世話役として同伴する事になってる」


「良しじゃあ参加」


「「マジか……」」


肩を落とす大人二人。それでも大人しくしているのは、既に無駄だと諦めているからか。


「いや雲雀、出来れば俺達だけでーー」


「駄目。俺はフルメンバーって言ったし、実力差があるのは明白だ。ベテラン入れた方が良いし、出発した後の連携の訓練にもなるだろ」


そんな感じで京介の文句を封殺した。


そして全員の準備出来たのを確認する。


「さてと。それじゃあ俺達が稽古付けてやるから、全員全力で掛かって来いよ?」


「何で俺達まで……」


「戦闘狂いが文句言うな。この前の模擬戦の仕返しだ」


団長の文句をバッサリと切り捨てながら、俺は雄一と翔吾を見やる。翔吾は剣を、雄一は弓を構え、俺も全身に魔力を纏う。


そこでふと思った。


「あ、そうそう。最後の訂正だ。これで俺達に勝てたら、魔王も余裕で倒せるぞ。魔王殺しの俺が保証してやるよ」


「「「「はあっ!?」」」」


驚愕の声を上げる勇者達を見ながら、俺は笑って開始を告げた。


「んじゃ、始めるぞー」

久しぶりの更新です。ぶっちゃけ書くことが無い。取り敢えず、ここからが長いのですよ。

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