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お兄ちゃんからのアドバイス

誤字脱字の可能性大です。

さて、あの色々起こった日から二日が経った。あの日、俺は爺さん達に出来る限り早くクラリスと仲直りする、と言った訳だが


「あ、はよクラリス」


「……おはようございます、お兄様」


コレが現状である。


はっきり言って進展してない。俺に関しては持ち前の適当さで普段通りに接しているのだが、残念ながらクラリスの方がガッツリ引きずっているのである。普通に話し掛けても、今みたいに一瞬口ごもったりする事がしばしばで、此方も微妙な気分になる。


とは言え、彼女の性格から考えればある意味当然な反応な気がするので、あまり強く言えないのが悲しい所だ。


「……」


「……」


微妙な沈黙のまま食堂へと向かう。食堂までが無駄に遠いのでかなり気まずい。


「…………」


「…………無理」


沈黙に耐えられなかった俺の一言に、体がビクッとなるクラリス。そのまま恐る恐るこっちを見てきた。その不安気な目ヤメテ。


「……やっぱり怒ってーー」


「無いから。全然気にして無いから」


またもや自己嫌悪に陥りそうになったクラリスに、俺は全力で否定を返す。


この娘、俺が微妙な空気出すと直ぐに自己嫌悪に陥るんだよ。余程ショックだったのだろう。いやまあ、大概の人が慌てるレベルの発作だった自覚は有るんだけどさ。


とは言え、こうもウジウジされていると調子が狂うと言うか、ぶっちゃけ鬱陶しく感じるのも事実な訳で。……コレ言ったらクラリス首括りそうだから言わないけどさ。


「……まあ、アレだよ。本当に俺は気にして無いし、もう既にどうでも良くなってる訳よ」


ガシガシと頭を掻きながら、俺は思っている事を口にする。


「トラウマだって、そんな大層な事が原因じゃない。何処にでもある様な少し不幸な出来事だ。それを未だに引きずってる俺が悪いし、誰にも話そうとしなかった事が原因だ」


発作が酷かったらから誤解しても可笑しく無いが、俺のトラウマなんて些細ない事だ。悪辣な権力者によっての不幸など、何処の世界でも起きてる事なのだから。むしろ、権力なんて歯牙にもかけない能力があるのに、権力者がトラウマなんてお笑い種だろ。呆れられても文句は言えない。


「……とは言えさ、クラリス的にはそれで納得、って訳にはいかないんだろうし、アレが地雷を踏み抜いたのは事実だ」


あの発作が起こったのは、クラリスの寸止めキスが直接の原因だ。それは決して変わらない事実であり、だからこそクラリスは自分を責めている。元々の性格が他人を傷付けるのを良しとしないクラリスは、俺を苦しめた事を後悔している。それが故意かどうか、悪意があったかなどは関係無い。俺が許して、はいそうですか、って訳にはいかないんだよねコレ。いや、簡単に納得されても微妙な気分になるんだけどさ。


「見た感じだと、君は自分を許せないんでしょ。俺がどうこうというより、やってしまったと言う事実に後悔してる」


だからこその自己嫌悪。自分で自分を許せないのだから、他人である俺が何か言っても効果は無い。慰めになるかは微妙な所。


だから、俺から言う事は一つ。


「悩め若人」


俺の突拍子の無い一言に、クラリスは目を丸くした。その表情に苦笑しながら、俺は更に言葉を続ける。


「自分が許せないなら、自分を許せるまで悩みなさいな」


「……え?」


「だってそうだろう? 自分自信の問題なら、他人が口出すのは違うでしょ。特に心の問題なら、自分で決着つけなさい」


幼子に語り掛ける様に、俺はゆっくりとクラリスに言い聞かせる。


実際、クラリスはまだ子供だ。こういう風に悩むのも、割り切りが出来ない子供ならではだろう。面倒な事で悩んでるなとか、結構頑固だなと思わなくも無いが、それも子供の成長と考えれば良い。年上の俺は黙って見守り、偶に導いてやれば良いのだ。……別に丸投げしたくなった訳じゃないよ? 面倒だなって思ってないよ?


「悩んで悩んで悩み抜いて、自分が納得するまで悩み続けろ。納得出来たら、前みたいに接して欲しい。俺は気にして無いんだから、遠慮なんてするんじゃないぞ」


そう言って、少し強めにクラリスの頭を撫でる。まさか撫でられるなんて思ってなかったようで、クラリスはちょっと慌てていた。微妙に顔も赤い。


「……ぁぅ………」


「可愛い反応するねぇ」


「……か、かわっ……!?」


益々顔が赤くなるクラリス。うん。面白い反応だ。もっとからかいたくなるね。


「ま、そんな訳だ。爺さん達には俺から言っておくから、十二分に悩むべし。……あ、でも暗い空気は出さない様に。自分が悩むのは構わんが、他の人を心配させるのはダメだから」


「……う、はい」


流石にその自覚は有ったのか、気まずそうに目を逸らすクラリス。


その姿に苦笑しながら、俺は廊下の窓を開けた。


「……お兄様……?」


「あ、そうそう。一人で悩むのはあまりオススメしないよ。友達とかに相談するなり、ゲン担ぎ的なお守り買ったりとか。何でも良いから、後押し出来る要素があったら楽だ。これ、お兄ちゃんの経験則ね」


「……あ、あの、お気持ちは有難いのですが……窓に足掛けて何するつもりですか? ここ二階ですよ?」


かなり困惑した様子のクラリスに、俺はニヤリと笑みを浮かべる。


「いやさ、クラリスの為とは言え、清々しいまでにクサイ台詞を言った訳で。なんかお上品な物より、ジャンクな物が食いたくなった」


「……あ、いや、えっと、はぁ……?」


未だに状況を飲み込めてないクラリス。俺はそんな彼女を置いて、勢い良く窓から飛び出した。


「っ、お兄様!?」


「ニシシ。安心してな! サクッと魔物狩って食ってくるだけだ。ちゃんと学園には行くさ!」


慌てて窓から顔を出したクラリスにそう言って、俺は狩場である【王魔の樹海】へと転移した。









「……成る程。そんな理由で遅刻ギリギリだった訳か」


「馬鹿じゃないの?」


場面が変わって我らが教室。手製の扇子で自分を扇いでいる俺と、半眼を向ける翔吾と雄一が。ギリギリで登校してきた俺に、二人は何かしらやらかしたのか問い詰めてきた訳だ。そんで、事の起こりを説明した次第でござい。


「良いんだよ。あの時は勢いで色々と誤魔化したんだ。一緒に居たらまた気不味くなっちまう」


ピシャリと扇子を閉じて、俺は自分の行動の正当性を主張した。


「口八丁でなんとか普通に話せる様に言いくるめて、やっと多少は前進させたんだぞ。それが振り出しに戻ったら意味が無い」


「口八丁って……」


翔吾が軽く引いているが、事実だからしょうがない。


別に好き好んであんなクッサイ台詞を吐いた訳じゃないのだ。アレにはちゃんと俺なりの意味があった。


「理由の定義付け。解決方法の提示。一時的な心のリセット。そういう風に色々思い込ませて、自己完結する方向に誘導・・した。コレを口八丁って言わないで何て言う?」


クラリスはずっと自己嫌悪に陥っていた。それも出口が見えない堂々巡りみたいに、何をどうすれば良いのかも分かっていなかった。それを感じ取った俺は、何が自己嫌悪の原因かなのかを教え、そしてその原因を取り払う為の方法を提案した。


これらは正解である必要が無い。と言うか、多分間違ってる。そもそも他人の心の問題に正解なんて無いのだから。だからこそ、本人にコレが正解だと思い込ませれば良いのだ。そうやって解を与えてあげれば、時間は不明だが自ずとそこに辿り着く。


「そんな上手くいくかな?」


「普通にやったら多分無理じゃね? そもそも俺、話術なんて習ってないし。魔法使った方が手っ取り早い」


「……ダメじゃんそれ。魔法使ってないんでしょ?」


「ああ。だからこその転移だ。衝撃的な光景を見して、あの娘の頭を真っ白にした」


魔法を使うと言う選択肢は存在しない。かと言って、俺の付け焼き刃以下の話術でマトモな効果が出るとも思っていない。ならばどうすれか? 答えは簡単だ。普通じゃない手段を使えば良い。今回だと転移までの流れがそれに当たる。


態々クラリスの頭を撫でたのも、歯に浮く様な台詞を吐いたのも、全ては動揺を誘う為。そこに駄目押しとばかりに、二階から飛び出して転移した。普段ならばまず目にする事の無い出来事の数々に、彼女の頭は真っ白になった筈だ。


「一度思考をリセットされると、その前後の言葉はやけに印象に残るもんだ。そうなれば、思い込ませるのもかなり楽になる。それに、リセットされる前と同じ感情を抱くってのは、簡単そうで結構ムズイ。アレもそんなに長く続かなでしょ」


悩んで二日。それが俺の見立てだ。人間はずっと同じ感情を抱いている事は出来ない。ましてや一度断ち切られた感情は、長く続く物でも無い。


あの時の行動は、全て俺なりの意味が有ったのだ。


「……うわー、屑い……」


「下衆だなお前」


理解はしてくれない様だが。


「自分を兄と慕ってる娘によくそんな事出来るな。一周回って関心するわ」


「最低だよねー。そもそも雲雀が全部悪いのに、詐欺紛いの手口使って恥ずかしくないの?」


「言いたい放題だなお前ら」


終いにゃ泣くぞ。


「だってしょうがないだろが。四六時中ダウナー系の空気出されてみろよ。こっちまで萎えてくるんだぞ。別に悪辣な手段って訳でもねーし、少し大目に見てくれ」


「タチ悪いけどね」


「五月蝿いやい」


あんま長引かせたくなかったんだよ。爺さん達にも言われてたし、ましてや俺が耐えられそうになかったし。


俺がそんな意味を視線に込めれば、二人は揃って肩を竦めた。


「……で、それは成功しそうなのか?」


「そうだなぁ……取り敢えずは上手くいったとーー」


「まあどうでも良いんだが」


「オイコラ」


聞いといて興味無しかい。


「まあ、何にせよ上手く立ち回りなよ。クラリスちゃん泣かしたら許さないからね?」


「あのなぁ……俺だって悲しませたくないからこんな遠回りな事やってんだぞ」


「それは分かってるけどね。それでも僕は、クラリスちゃんみたいな娘や、恋する女の子の味方だし」


パッと聞いたらクサイ野郎だとしか思えないが、そこは見た目が美少女な翔吾である。完全に恋愛系が大好きな女性にしか見えない。本人自体も、邪な考えとは無縁だから尚更だ。


「例え相手が雲雀のトラウマを刺激しようとも、女の子を泣かしたら僕が雲雀を泣かす」


「鬼だー」


最近、親友の優先順位がちょっとおかしいんだが。……昔からか。


友情って何なんだろうと遠い目をしていると、雄一がポンと手を叩いた。何か思い出したらしい。


「そう言えば聞いたか? 今度のパーティー、俺らも出席するらしいぞ?」


ん?


「あー、そうらしいね。嫌だなぁ、僕ダンスとか踊れないんだけど」


んん?


「……え? ちょ、何その話聞いてないんだけど?」


「「はあ?」」


いや、そんな顔されても困るんだが。え、パーティーって何?


「勇者出立を祝してのパーティーだ。確か三日後に王城で行われるらしい」


「その翌日にはパレードもやるみたいだよ。大勢の人が見送る、大々的なパレードみたい」


「ああ、道理で王都全体がそわそわしてる訳だ。勇者御一行の出立なら、そら大事だわ」


勇者は今の時代の希望だ。少なからず一般人にとってはそうだ。そんな彼らが旅立つのだから、大々的に送り出されるのも納得である。


「にしてもアイツらがねぇ。どんぐらい強くなったんだか」


思い出すのは召喚当初。騎士相手に苦戦してたあの四人は、今では一体どれほどになったのだろうか。


「あー、聞いた話だと結構強くなったらしいよ? それに旅には、騎士と宮廷魔導師も付いて行くみたい。噂だと団長とセリアさん」


「そうなのか? あの二人って結構な立場だろ。ほいほい国外に行って良いのかよ」


団長は文字通り騎士団長だし、セリアさんも宮廷魔導師の筆頭だった筈だ。


「既存の上位戦力を放り出すって、国としてどうなんだ?」


「さあ? それにあくまで噂だし。僕らには関係無いでしょ」


いやまあ、そらそうなんだが。それで空いた穴に、俺達をアテにされても困るしなぁ。


後で確認しておこうと思った所で、大分話題がズレていた事に気付く。


「……て、そうじゃねーよ。え、俺達もそのパーティーに参加すんの?」


「らしいよ。僕も聞いてびっくりした」


「おいおい……俺達建前上は平民だぞ。正気かよそれ」


ルーデウス王から国賓相当として扱われているが、俺達の身分は対外的には平民だ。王城で行われるパーティーに招かれる身分じゃない。


「あれ? でも雲雀って、アール公爵家のパーティーに参加したんでしょ?」


「あれは参加したって言わねーよ。忍び込んだって言うんだ。それに例え参加したとしても、あれは後見人であるアール公爵家が主催のパーティーだ。王家主催とは訳が違う」


王家の主催というのは特別だ。その場に出席するという事は、王と顔を合わせても問題が無いと判断される。言い方を変えれば、王が顔を覚えるにたる価値が、その人物にあるという事である。


「それを貴族が許すと思うか? 少なくとも、坊々の類は絶対に何処かで難癖付けてくるぞ」


大半の貴族は、血統と伝統を重んじる。身も蓋も無く言うならばプライドが高い。そんな連中からしてみれば、何処の馬の骨とも知れない平民風情が、王に顔を覚える価値があるなんて我慢ならないのだ。


俺の説明でなんとなく想像出来たのか、翔吾は思い切り顔を顰めた。


「うわぁ……凄く僕遠慮したい」


「同感だ。これって辞退出来るかな」


「無理だろ」


だよねー。そもそも王家主催のパーティーを、ダルいって理由で休める訳が無いか。普通に不敬罪になるわ。


「あーもう、絶対ダルいわ。そもそもパーティー自体が格式ばってて七面倒だって言うのによ」


俺がダルそうに扇子で顔を扇いでいると、雄一が何やら気になる情報を言ってきた。


「どうも勇者達が呼んでるらしいんだよな」


「……へ? 勇者ってつまり京介達だよな? 何で?」


「いや知らねーよ。俺もガイルさんから聞いただけだし。そのガイルさんも、良く分かって無いみたいだったしな」


「あー、そう言えばそれ僕も聞いたな。用事があるとか何とか」


翔吾の方も多少は聞いていたらしい。うーん、どういう事なんだ?


「もうちょい詳しい事知らないの二人共?」


「知らないって言ってるだろ。てか、そもそもお前はパーティーの詳細自体を知らないだろが」


「そうそう。今日帰って詳しい事聞いときなよ。まずはそれからでしょ」


「ごもっとも」


うーん、こりゃ朝飯抜け出したのマズったかもな。


《キーンコーン》


おっと。色々と話してる内に、休み時間が終わってしまった。気がつけば、結構な長話をしていた様だ。


「じゃまた」


「おう」


「ちゃん授業受けなよ雲雀」


話を切り上げ、俺達は自分の席へと散ってゆく。


「あ、おはよヒバリ」


「おー、はよアルト」


席に戻るとアルトが居たので挨拶を交わす。登校したのがマジでギリギリだったし、その後に直ぐ二人に連行されたので、挨拶がちゃんと出来ていなかったのだ。


「何か連行されてたけど、どうしたのさ?」


「いやー、遅刻ギリの理由を問い詰められた」


「ふうん。それで何で遅れたの?」


「ん? ああ、朝少しジャンクな物食いたくなってな。ちょっと登校前に一狩りしてきた。お陰で暑い」


理由を話したら頭を抑えられた。何だよその反応。


「……馬鹿が此処にいる……」


「言う様になったじゃないか」


「五月蝿い。僕だって順応したくなかったよ。……納得出来ちゃう時点で手遅れだろうけどさ」


「ようこそ此方側へ」


「ぶん殴るよ?」


青筋浮かべた猫が一匹。からかい過ぎたかね。


「……で、結局何を食べてきたのさ?」


「ヒュドラ」


「竜食ったのかお前はっ!?」


蒲焼きにしたよ。

ヒュドラは竜種に分類されるので、ワイバーンとかよりもヤバい魔物です。説明省いた冒険者ギルドだと、Aランク冒険者とかが戦う敵。決して朝飯になる魔物でも、朝の短時間でも狩れる魔物じゃないのです。


あ、冒険者ギルドとかは、その内ちゃんと出てきます。



ついでに。雲雀の持ってた手製の扇子。名前をプチ芭蕉扇。嵐の魔法が織り込まれており、魔力を結構な量を込めて扇ぐと竜巻が出る。全力で使えば王都ぐらい吹き飛ぶ威力の竜巻も。決して納涼用の道具では無い戦略兵器。




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