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帰り道

少しシリアス。後は久々のクラリスさんメインの回。


誤字脱字の可能性大です。

決闘が終わり、俺とクラリスは現在学園から帰宅中。残念ながらと言うか、案の定と言うか、研究会を回る時間は残ってなかった。お陰で後日に持ち越しである。


「ショウゴさん、本当に凄かったですね!」


決闘が終了してからと言うもの、クラリスはずっとこんな感じだ。キラキラした瞳で翔吾の事を興奮気味に語っている。まあ、あの決闘は学園ではまず見れないレベルの戦闘だった為、興奮するのも分からなくもない。出来ればこのまま翔吾の方に興味を持って、そのまま翔吾ルートに入ってくれればお兄ちゃんは安心だ。


「流石はお兄様の親友ですね」


誇らし気に微笑むクラリス。訂正。この信頼度だと多分無理。


俺の親友だから、それで納得してしまうクラリスには苦笑するしかない。そして間違って無いのが悲しい所だ。


「まあ、俺の親友だからとかは兎も角。本気の翔吾はもっと凄いぞ。あれは遊びみたいなもんだし。やろうとすれば誰でも出来る」


殺しも大怪我も御法度な決闘は、言わば学生用の特別ルール。そのルール通りに行えば、本気の戦闘に比べて数段見劣りするのは必然だ。翔吾は手加減が苦手な分、全く実力は出せていなかった。【冬の剣】だってあんな威力じゃない。本来の威力でやれば、魔人や竜種にだって通用するのだ。


元々人通りの少ない貴族街に入り、時間も夕暮れなので周囲には殆ど人気が無い。それを確認してから、クラリスに軽く説明する。


「……上級魔法を斬ったのも驚きでしたが、それ程の威力だったなんて」


「信じられないなら実際に見てみる? 予定が無い日にでも、翔吾達と一緒に俺たちの狩場に行ってさ」


実際に目で見る事が一番の説明だからな。口で説明するよりも手っ取り早い。


「あの、お誘いは嬉しいのですけど……。何処を狩場にしているのですか? この近くにそんな危険な魔物はいませんよ」


「え? ああ。【王魔の樹海】って場所」


「へ?」


言葉の意味を理解出来なかったのか、ポカンとした表情を見せるクラリス。そして徐々に顔が青くなっていった。ようやく理解出来たらしい。


「【王魔の樹海】ってあの場所ですか!? 」


「あれと同じ名前の場所って複数あるの?」


「な、無いですけど……」


「じゃあそれ」


だよね。世界有数の危険地帯と同じ名前とか縁起悪いし。


「し、信じられません。……あ! いえ、別にお兄様の言葉が信じられないと言う訳ではないですよ? そこは勘違いしないでくださいね?」


「君のその俺への好感度なんなの」


そう慌てて何度も念押しする事じゃないでしょうに。なんか色んな意味でお兄ちゃん不安になってくるよ。


「別に大丈夫だから。意味は理解してるから落ち着きなさい」


どうどうとクラリスを宥める。この娘普段は凄え大人しいのに、何で俺の事になるとこんなに我を忘れるの? ブラコンになるの早すぎない? 幸いに恋愛フラグでは無い……と思いたい。ちょっと将来心配よお兄ちゃんは。


「それにしても、世界有数の危険地帯を狩場にするなんて流石はお兄様です!」


憧憬の篭った瞳を向けてくるクラリス。ヤメテ! そんなキラキラした瞳で見ないで!


「しかし、あそこは王都からかなり離れた場所にあると記憶してますが……。一体どうやって向かうのですかお兄様?」


一転して不思議そうな顔をするクラリス。表情コロコロ変わるね君。


「それはこう、転移でパパっと」


俺の使う転移魔法は知っている場所ならば何処にでも行ける。マンガとかで良くある、一度行った場所に限るという訳でも無く、目視だろうが伝聞だろうが、知識として知っていればOKという便利な魔法だ。最近だと世界間を移動出来るという事実も発覚した。


「転移……空間魔法ですか! 流石はお兄様です。そんな魔法まで使えるのですね!」


今度は尊敬の表情になった。そろそろ百面相も出来るかもしれない。


「……あれ? そう言えばさっき、一緒に狩場に行こうと誘われた気が………っ!? 」


今度は何かに気付いた様で慌てている。


「お兄様!【王魔の樹海】は流石に私には無理です! 」


「ねえ実は凄い表情豊かでしょ君!?」


爺さん君の事不器用な娘だって言ってたよ!? 他人に気持ちを伝えるのが苦手って聞いてたけどさ、凄い表情豊かで喋らなくても伝わるよ?


「……そんなに表情豊かですか私?」


「自覚無し!?」


「いえ、周囲からは物静かという評価を頂いているので。少し新鮮な感じが」


「……いや、何時もはそんな感じだよ? ただ、何と言うか………自惚れてるみたいで悪いが、クラリスって俺の事になると性格変わらね?」


あまり自分から言う事では無いだろうが、ここは一つ自覚して欲しい。じゃないとクラリスの人気と言うか世間体と言うか、兎も角そんな感じの奴が怪しまれてしまう。別にクラリスの接し方が嫌な訳じゃないが、俺が原因でクラリスの評価が落ちるのは嫌なのだ。


「……えっと、確かにそうですが。それが何か?」


「自覚有るの!?」


表情コロコロ変わるのには無自覚だったのに?


ツッコミを入れてみれば、クラリスは少しだけ逡巡してから話し出した。


「あまり褒められた事ではありませんが……私は外に出る時に、自分の性格を偽る癖があるんです」


「性格を偽る?」


「はい。家の中や親しい人といる時は大丈夫なのですが、学園やパーティーのみたいな不特定多数の人が集まる場所だと……その、あまり人と話せなくなるのです。事務的な会話は出来るのですが、素直に笑ったりする事が出来無いんです」


恥ずかしそうに告白するクラリスを眺めながら、俺は思った。


「それただの人見知りじゃね?」


「え?」


あ、思わず本音が。まあいいや。続けちゃえ。


「別に恥ずかしがる事じゃない。人見知りなんて個人の性格だ。全く他人と会話出来ないなら致命傷だけど、事務的な会話は出来るんでしょ? だったら問題無いよ。それでも不安なら、笑顔でも習得しな」


「笑顔ですか?」


不思議そうな顔をするクラリスに、俺は笑顔の効果を教える。


「そそ。笑顔ってのはね、表情の中でも一番便利で怖いんだ。内心で何を思ってるのかが察せないから。その反面で、愛想笑いや苦笑いで感情を伝える事も出来る。結構便利だよ」


直ぐに怒る人間よりも、どんな時でも笑っている人間の方が万倍怖い。これは俺の持論だ。クイーンが爆笑しながら人の生皮を剥いでた時に確信した。ずっと笑ってる奴に碌なのはいないと。


「……あの、それでも自分を偽る事には変わりないのでは?」


「自分を偽って何が悪いのさ。他人から良く見られたいって考えてカッコつける人間もいるし、俺みたいに目立ちたくないから実力を隠してる人間もいる」


「……あの、隠してるのですか?」


「ゴメンそこは突っ込まないで」


純粋な疑問って胸に刺さるよね。


「人の内心なんて綺麗なもんでも無いし、誰にも分からないんだ。分かるのは自分だけ。だったら偽って無いと言えば、それは真実なんだよ」


「あの、それって屁理屈では?」


気まずそうに指摘してくるクラリスに、俺は大きく頷いた。


「屁理屈結構。人生の五割ぐらいは詭弁と屁理屈でなんとかなるよ」


そうじゃなかったら詐欺師なんて職業は存在しない。


「そんなものですか?」


「そんなものなんです」


俺が断言すれば、クラリスは笑った。うん、やっぱり君は表情豊かだ。


「ほら、案外俺だって内面が違うかもよ? 例えば、本当は凄い臆病だとか?」


「無いですね」


「断言するのね君……」


お兄ちゃんちょっとshockだ。


「じゃあ凄いチャラいとか? 妹みたいに扱うって言っといて、実はクラリスに色々とイタズラしたいって内心思ってるかも」


仕返しのつもりでからかってみる。印象的に、クラリスはこの手の話に免疫が無い筈だ。


「イタズラですか……例えば?」


「へ?」


まさかの返しに面食らうも、咄嗟に思いついた事を言ってしまった。良く考えれば迂闊だったのかもしれないが、反射的に出てしまったのだ。


「例えば?……うーん……キス、とか?」


恋愛事に免疫が無い。そう思ってたからこそ、


「構いませんよ?」


俺は近づいてくる顔に、一瞬反応出来なかった。


「っ!?」


不意打ちだった。クラリスは俺の顔を覗き込み、踵を上げたのだ。


仄かに赤くなった顔。決意の光を帯びた瞳。鼻腔をくすぐる甘い香り。


お互いの吐息がかかりそうな至近距離。そして唇と唇がゼロになる瞬間、


「クス。冗談で……え?」


俺は十メートル以上離れた距離で胸を抑えていた。


「ハァッ、ハッ、ァァッ……!」


俺自身、一瞬だが何が起きたのか分からなかった。クラリスの顔が直ぐそこまで来た瞬間に、自分の身体が勝手に動いた。脳裏によぎったあの光景が、俺の身体を動かした。


全身から嫌な汗が流れる。フラッシュバックしたあの出来事が、身体の機能を麻痺させる。心臓や肺を、有刺鉄線で縛られたかの如き痛みが襲う。


「あぁ……ハッ……クソっ……!」


咄嗟に転移を使ってしまった。俺の拒絶とも取れる行動にクラリスが悲しんでないか気になるが、それ以上に胸が苦しい。


苦しみながらも顔を上げれば、俺の尋常では無い状態にクラリスは直ぐ駆け寄ってきた。


「お兄様、大丈夫ですか!?」


その姿に申し訳なく思う。ああ、余計な心配をさせてしまった。


「ゴメンなさいゴメンなさい!私が余計な事をしたばっかりに! ほんのちょっとした悪戯のつもりだったんです! こんな事になるなんて思わなかったんです……!」


涙を浮かべて謝罪するクラリスに、俺は頭を振った。違う、そうじゃないんだ。原因は全部俺なんだ。


「……頼むから、泣かないでくれ。クラリスが、悪い訳じゃないんだ…」


未だに痛む胸を抑えながら、掠れる声で言葉を続ける。


「…ハァ……これは、俺のトラウマ。クラリスの……ハッ……落ち度は一つも、無い…」


「ですが! 私の浅慮な行動がーー」


クラリスが続けるのも制して、ゆっくりと呼吸を落ち着かせる。徐々に痛みも引いてくる。


「君が何であの行動に出たのか、分からないけど、それが悪い訳じゃない。それだけは言える。悪いのは、俺の弱い心だ」


万能な魔法を持ってしても、未だに過去を引きずっている俺の心。それが全部悪いんだ。


「驚かそうとしただけなら、気にしないで欲しい。この発作は、全部俺の過去が原因だ」


今の俺が出来る精一杯の笑顔を浮かべ、俺は告げる。


「君が嫌いな訳じゃない。だけど、出来ればまだ、踏み込まないでくれ。これは嫌悪とかとは全く別種の、ただの癒えない傷なんだ」


拒絶にも取れる言葉しか吐けない自分が嫌になる。下手な慰めしか言えない自分が憎い。クラリスをこんな形で傷付けた、俺自身を軽蔑する。


「どうしても駄目なんだ。クラリスが悪いとかじゃない。過去の出来事の所為で、俺は権力に近しい人間に、心の中に踏み込まれる事を拒絶してしまう」


弱い所を見せてしまった。こんな情け無い俺に失望しただろうか。ただそれだけが不安で、言い訳がましく言葉を続ける。


「権力者には君や爺さん達みたいな良い人がいるのも分かってる。全員が全員、悪人じゃないのは分かってる。分かってるけど、心がそれを受け入れないんだ」


権力者を信頼する事は出来る。信用する事も出来る。友人になる事も出来る。身内の様に扱う事も出来る。でも恋人や親友みたいな、真に近しい関係にはなれない。


クラリスの兄になろうとしたのも。フィアの想いに気付かないふりをしたのも。ワザと馬鹿な事をして、変な注目を浴びたのも。


全部が全部、俺への好意を誤魔化す為。心の中に踏み込ませない為だ。


「普段は抑えてるから問題無いんだ。それにちゃんと意識すれば、踏み込まれるのも我慢は出来る。けど、今みたいな不意打ちだと、あんな感じで発作が出る」


「やはり私の所ーー」


「ううん」


また自分を責めようとしたクラリスの頭に手を置いて、くしゃりと少し強めに撫でた。


「言っただろ? これは全部俺が悪い」


こんな形で露見するとは思ってもみなかったが、周囲を偽っていたのは俺の方なのだ。悩みとは無縁みたいな演技をし、こんな致命的な爆弾を抱えている事を隠していた。自分の全てを打ち明けないといけない訳じゃないが、今回の事でクラリスを責める事など出来ない。


「だから泣きそうな顔はしないでくれ。それにもう大丈夫だから。な?」


顔の汗を拭ってから、クラリスに向けて笑いかける。未だに震えている手を握り、ゆっくりと歩き出す。


「少し遅くなっちゃったし、早く帰ろう。爺さん達も心配してるかもだからさ」


「……はい」


消え入りそうな小さな声で、クラリスは応えた。


「行こうか」


笑って俺は手を引いた。夕暮れの中、手を繋いで俺とクラリスは歩く。


「……心を隠すのには、笑顔が良いって本当なんですね。貴方の本心が、私には全く分からない……」


小さな声で呟かれたその言葉を、俺は聞こえないふりをした。

恋愛タグがついてるのに、ヒロインが殆ど出てないこの作品。なのでクラリスさんを出してみました。


ついでに、ヒバリが何でその手の事を避けてたのかも。今まで薄っすらとだけ書いてあった、ヒバリの闇を書いてみました。


フィアがいつ出るのかが分からない作者です。

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